先ほど裁判官に対する最高裁の統制が非常にきついということを申し上げましたが、具体的には、私どもで市民集会をことしの四月に催したんですが、そこで元裁判官であった安倍晴彦弁護士がその集会に参加されて発言されたこと、これは非常に端的に物語っているのではないかというふうに思います。
その点について若干御紹介したいと思うんですが、安倍裁判官という方は、和歌山の地方の簡裁におられたときに、公職選挙法の戸別訪問の規定について、これに違反したということで起訴された事件で、これが憲法に違反するということで無効という判決を書かれた方なんですが、この判決自体は当時はそれほどほかのいわゆる地方裁判所も出ていて極端な判断ではなかったわけですけれども、それが、それ以降、この安倍裁判官は最高裁の方からかなり厳しい処遇を受けたと。
例えば、給料の差別、これがされまして、同じ採用された裁判官と比較すると月給として十五万とか、十四、五万の差が開き、それがどんどんどんどん年を追うごとによって開いていくと。
あるいは、裁判官はいろいろ転任するわけですが、その転任に当たっても希望する場所に転任ができない、そういう転任における差別がされていると。例えば、東京に御家族がいて、そこに年老いた両親がいても、なかなかそこに帰ってこれないと。地方に飛ばされるとか。
それから、最もおっしゃられていたのは、仕事について差別をされたということで、要するに、民事事件あるいは刑事事件とか、それぞれ裁判官の扱う事件の分野というのはありますけれども、そういう事件について自分の希望が入れられないと。安倍さんは家庭裁判所の支部にずっと置かれて、家庭裁判所の家事事件をされたわけですが、それは安倍さんのお話によると、なぜかというと、合議事件がないということなんですね。
合議というのは、裁判官が複数、三人で合議体を形成して裁判を行う、こういうことですけれども、合議部があるとほかの裁判官にいろいろ合議の中で話をもちろんするわけですね。そういうところで影響がほかの裁判官に及んでは困るというような理由で、つまり合議のないところに回される。安倍さん自身は、もちろん修習生も来ないし、その裁判所の中でも合議から外されて、一人の孤立した状態に置かれると。これがやはり非常に厳しかったというふうにおっしゃっていました。
また、これも司法修習のことでも関係するんですけれども、今のは裁判官になってからのことですけれども、司法修習の段階においても、五十三期、四期の修習生の中で、この司法制度改革が議論されていることに触発されて、今研修所でどういうことが行われているのかということを告発する資料をつくっているんですけれども、研修所の中で一番問題なのは、やはり裁判官になる任官志望者が裁判教官の目にかなった人しか結局任官していけない。任官希望を持っていても、いわゆる逆肩たたきと言われて、君はもうだめだよとか、あるいはちょっと可能性がないよとか言って任官をあきらめさせていくと、そういうことが行われているということを告発しておりますし、また検察官に関しても、これは何か女性枠というのがあって、一定の数以上は女性の検察官の任官者を採らないということで、そういう枠を設けているという実態があるだとか、そういう告発がされております。
私が言いたいのは、そういう研修所の段階から判事補となる人たちがその教官によって選別されていく、その中で希望があってもなれない人がいる、そこでなった人たちはそういう研修所やあるいは最高裁の意向をやはり無視できない、従わざるを得ないという、もともとそういうような立場の中で任官をしていって、そして裁判官になった後も、さっき言ったような安倍裁判官のようなそういう統制の実態がある。
そういう中で、やはり国民の常識に触れるというか、国民の中でどういう問題があってそれを親身になって考える、そういう感覚がやはり持てない状態でどんどん裁判官のその階段を上っていく。それがやはり、さっき私が一例でお示ししましたが、ああいう裁判が生まれている。
そこの集会では安倍裁判官に来ていただいて、九百名集まりましたけれども、非常に大きな国民の中から驚きがありまして、何でそういうことがあったのかということで、裁判の実態はそういうことなのかと非常に驚きを持って受けとめられました。こういうことがやはり改善されないと、いろんな改革がされても、肝心の裁判自体が国民の常識に合致していないということであっては意味がない、その点を私としては一番強調したかったということです。