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井上哲士ONLINE
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2001年11月20日

法務委員会
議員立法「商法」で質問

  • 薬害ヤコブ病訴訟で、森山大臣に和解受入れと被害者や家族への謝罪を強くもとめる。
  • ストック・オプションの規制緩和は、資本充実の商法原則に反する改悪だと批判。またパートにまで付与することは厚生労働省が禁止している賃金性を強めるものだとして早急な実態把握をもとめる。計算書類公開は零細企業の負担にならない運用の必要性を指摘。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 法案への質問に先立ちまして、薬害ヤコブの訴訟についてお尋ねをいたします。

 東京、大津の地裁は、十一月十四日に被告企業と国の責任を認めて、和解を求める所見を出しました。私も一年ほど前に滋賀の谷たか子さんのお見舞いに行きまして、御家族の本当に必死の看病の姿も見てまいりましたが、残念ながら亡くなられました。大津訴訟の次回の和解の期日はあさっての二十二日ということでありますが、国として、所見を受け入れて加害者としての責任を認め謝罪をすること、そして被害者の全員の早期全面救済と再発の防止を図る、そのためにも原告団の皆さんと会って、その御苦労を聞いていただきたい。もうあさってのことですので、ぜひ御決断をお願いしたいと思いますが、大臣、いかがでしょうか。

国務大臣(森山眞弓君)

 この問題は主として厚生労働省の所管のことにかかわることでございまして、厚生労働大臣ともよく御相談を申し上げなければいけないと検討協議しているところでございますが、ヤコブ病に関する今までのいきさつ、被害者、家族の皆様の現状、そして裁判所の御所見などをよく考えまして検討してまいりたいというふうに思っております。

井上哲士君

 千葉の山村さんは所見の知らせを聞くことなく今月の初めに亡くなられたわけで、御家族にとっては本当に待ったなしということでありますので、一刻も早い政府としての決断を求めたいと思います。

 今回の法案の問題ですが、日本共産党は、ヨーロッパなどと比べて日本には大企業の横暴などを規制して暮らしを守るルールというのが余りにも少ないじゃないかということを指摘してきましたが、今回のこの法案というのは一層その問題を広げると私は思うんです。来年の通常国会に提出が予定されている商法の全面見直しのうち、株式制度の見直しと会社関係書類の電子化等の部分だけを前倒しで提出されているわけですが、今回、ストックオプションの大幅な規制緩和が図られるわけです。

 九七年に、当時の与党の議員立法でこれが導入されるまで、自己株式の取得というのはかなり限定的なものとされていたと思うんですが、その理由はどういうことだったんでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 もともと、これが余り多くなれば、株式発行していても自己で持つということになりますと、その分資本がないという状況と同じということから規制がされていたというふうに理解をしております。

井上哲士君

 資本充実の原則や株主平等の原則にかかわるものとして非常に限定的にやられていたと思うんです。けさからの議論でも、このストックオプションによりましていわゆる株式の希釈化とか、それからインサイダー取引などの不正の利用などいろんな弊害ということも指摘をされておりました。

 この九七年の議員立法は、法制審議会にも諮らずに二週間余りで可決成立させるという非常に拙速のやり方だったと思うんですが、当時、著名な商法学者が連名で、開かれた商法改正手続を求める声明を発表されております。ここでストックオプション制度そのものについての多くの問題を指摘すると同時に、制度導入の大前提として公正な証券市場と株式会社法による経営監視制度の充実が不可欠だと、こういう指摘をされております。

 私は、この指摘というのは妥当なものだと考えるんですが、いかがお考えでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 平成九年に、主に学者のグループの方々からの問題点の指摘、今、委員が御指摘された点以外にも何点か含んでいるところがあろうかと思いますけれども、この点につきましては、私どもとしてもやっぱりストックオプション制度を有効に機能させるためにこのような指摘は傾聴に値はするというふうに考えております。

井上哲士君

 そうしますと、当時指摘をされた公正な証券市場、経営監視制度の充実ということですが、この公正な証券市場といういわば前提と言われた条件を今日満たしていると、こういう前提でこの法案が出されているということなんでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 私、今申し上げたのは、その当時の議論としてそういういろいろ御指摘があったということは一つの考え方であるということでございますけれども、その後に導入して、現在運営を行っているわけでございます。まだそれほど長い年月がたっているわけではございませんけれども、そういう中でいろいろな心配等があるかということ等ございまして実務の運営を見ているわけでございますけれども、いろんな不祥事があったとか、そういう指摘がないという状況でございます。

 そういう中で、法制審議会でも議論をしていただいたわけでございますけれども、これは全会一致で今回拡大をするということについて御理解をいただいたということでございまして、当時いろいろ心配はされた、しかしやってみて、その心配がそれほど大きなものではないということで、この拡大をしていっても大丈夫だということと理解をして今回拡大をさせていただく、こういうことでございます。

井上哲士君

 その公正な証券市場という条件、前提と言われたそういうことについての認識、評価はいかがなんでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 この点につきましては、例えばストックオプション等が付与されました取締役が行うおそれがある株価操作とか、こういうものがもしあるとすれば、その行為に関しては証券取引法などの規制によって適切に対応しているというふうに私ども理解をしておるわけでございます。

井上哲士君

 我が国のインサイダー取引の告発の状況を見ておりますと、平成四年にこの委員会が創設されましてから合計十三件ということで、監視の件数でいいますと九百二件ということをお聞きいたしました。アメリカと比べますと、体制が、SEC が三千二百八十五人、日本の証券取引等監視委員会が二百六十五人と。東京証券取引所の上場企業数だけでも二千七十二社あるわけですから、実際の告発の数からいいますと、実際は目が届いていないというのが私は現状ではないかと思うんです。

 ストックオプションの活用がはるかに進んでいるアメリカなどでは、今申し上げた SEC の体制もそうですし、ディスクロージャーの内容などもいずれも日本と比べますと比較にならない規模で行われて、インサイダー取引の規制にも当たっているわけですし、経営者の報酬の開示も一貫して進めております。

 新しい規則では、株主が報酬水準や報酬と業績との関係を測定したり区別することを容易にするということにもなっています。これに対して、今度の法案では逆に、このストックオプションを付与される者の氏名を公表しなくてもよいということが盛り込まれています。そうすると、今度はだれのいかなる業績を期待して付与するかということは、この制度自体の意義にもかかわりますし、株主の利益の根幹にかかわる問題だと思うんですね。情報開示という流れと全く逆行する規定になるかと思うんですが、その点どうでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 ただいま御指摘の点につきましては、例えば情報開示、二つの方法で行うことを予定しております。

 一つは、新株予約権全体の問題でございますけれども、この原簿を備え置くわけでございます。そこの原簿に付与された者の氏名、それから付与された新株予約権の内容等を記載するということにいたしております。したがいまして、株主等に閲覧請求権を認めるということでオープンにできるという問題が一つございます。

 それからもう一つは、会社役員に付与されましたストックオプションの状況についてでございますけれども、法務省令におきまして新株予約権の取締役等への付与について営業報告書の記載事項とするということで、株主等に開示をするということを検討しております。

井上哲士君

 いわば事後の問題なんですね。付与する際にこれを明らかにする必要がないというのは、やはり私は逆行する方向だと思うんです。

 それで、衆議院の答弁では、付与する対象として監査役や取引銀行の幹部、または政治家も含めて法的には制限がないということの答弁があったわけです。今、政治家個人への政治献金というのは政治腐敗の関係からも禁止をされました。それでもさまざまな抜け道が今問題になっているわけですが、この付与に当たっての必要な理由というのは幾らでもつけられるものでありまして、きょうの午前中もありましたけれども、元手は要らない、損はないというものですから、形を変えた政治献金として企業献金として使われるようなことも法的にはあり得るのではないかと私は思うんですね。これは非常にやはり国民の不信を招くことにもなると。

 少なくとも、こういう政治家に対する付与というのはこれは好ましくないものだと私は思うんですが、大臣、政治家としてその辺いかがでしょうか。

国務大臣(森山眞弓君)

 今度の改正におきましてはストックオプションの付与対象者は限定されていませんので、政治家に対してストックオプションを付与するということが商法上禁止されているというわけではございません。

 しかし、政治家がストックオプションの付与を受けるということが適切かどうかということは、やはりそれが個別の規制法規に抵触したり、あるいは政治家としての公正を疑われるという可能性があるというような場合にはこれを受けることは好ましくないと私も思います。

井上哲士君

 そういうこともありますから、本当に監視の体制と公開ということが重要だと思うんです。

 ストックオプションが導入をされたときの議論でも、この委員会で、いわゆる会社支配が助長されるんじゃないかという指摘に対しまして、株主総会で付与する対象者ごとに明らかにする、それから取得することができる株式の総数を一〇%以内に制限している、この二点を挙げてそういう会社支配の助長という問題について可及的に防止する措置が講じられていると、こういう答弁でありましたけれども、これは両方とも今回なくなるということですから、この点でも私は前提が崩れていると思うんですが、いかがでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 確かに、現行法はいろいろ限定しているわけでございます。これに関しましては、例えば十分の一の規制の問題でございますけれども、これは会社支配の公正性の確保という点もいろいろ言われていることは言われておりますけれども、それもさることながら、やはり自己株式の取得及び保有が原則として禁止されていたということの影響があったということで、それを大量に付与、持ってもいいということにするとその原則に抵触をすると、こういうことからかなりいろいろ規制が設けられたというふうに理解をしております。

 さきの通常国会におきまして、改正前の商法のもとではそういうことで制限をされておりましたけれども、これが通常国会におきまして、いわゆる金庫株法でございますけれども、その関係で自己株式の保有が自由に認められるというふうに発想が転換されたわけでございまして、そういう関係から、今まで規制していた理由がなくなるということから、その数量的な制限等は撤廃をするというふうにしたわけでございます。

井上哲士君

 金庫株の保有についてはさまざまな反対意見もありました。私は改悪だったと思うし、当時の野党からもそういう反対の声が出たわけです。それに合わせて一層悪くするというのは、これは理屈に合わないと思うんですね。

 いずれにしましても、先ほど紹介しました商法学者の声明でも、監査役の独立性の強化といった課題が解決されていない、経営監視機能の強化がされていないというもとでこのストックオプションを緊急に導入しなければならない状況にあるかは疑問だという指摘もありました。

 衆議院での我が党議員の質問に対して、こういう株式会社の経営監督機能の強化などが九七年以来どう図られたのかと、こういう質問に対しまして、現在その監督機能というところはなされていないというのが答弁でありました。私は、やっぱり九七年以来指摘をされていた問題を、前提と言われていた問題を解決することなく一層の規制緩和だけを前倒しにすると。やっぱり順序が逆であるし、余りにも政策的な整合性に欠けると思うんですが、大臣、いかがでしょうか。

副大臣(横内正明君)

 私から御答弁をさせていただきます。

 ストックオプションは、会社のために忠実に職務を執行する立場にある取締役等に対しまして、株価の上昇による利益を得させることを目的とするものでありますから、場合によってはいわゆる利益相反関係をもたらすおそれがあると、そういうことで、委員がおっしゃいますように、経営監視制度の充実が必要であるという御指摘があることは承知をしております。ただいま御指摘がありましたように、平成九年にこのストックオプション制度が議員立法で導入された際にも、学界の一部からそういう御指摘があったことは御指摘のとおりであります。

 しかしながら、平成九年の商法改正以降、ストックオプションについてはかなり多くの会社で採用をされ、着実に実務に根づいてきております。現在時点まで、この三年間に七百八十三社がストックオプション制度を採用しているという状況でございまして、そういう実務の中で今申し上げたような利益相反関係を原因として経営がゆがめられるような問題事例というものは発生したということは聞いておりません。したがいまして、今回のストックオプション制度の見直しについて法制審議会の会社法部会で議論をされたわけでありますけれども、会社法部会においては学者委員の方々も含めて全会一致で要綱案を決議したというふうに聞いているところでございます。

 もっとも、委員が御指摘されるような現在問題が生じていないとはいっても、御指摘のような点も傾聴に値するところでございまして、法制審議会の会社法部会においては来春の通常国会への法案提出を目途として企業統治、いわゆるコーポレートガバナンスですが、会社の経営監視のあり方について実効性を高めるための諸方策について審議を続けていただいておりまして、現在その答申内容を期待して見守っているところでございます。

井上哲士君

 早くから広がっているアメリカなどでも、ストックオプションの運用やインサイダー取引の調査というのは大変困難をきわめておりまして、最近の報道など見ておりますと、SEC に対する報告も、一般会計基準に従った決算書とは別にストックオプションの費用などを勝手に除いた決算書をつくるなど、いろんな監視の目を逃れようという動きも広がっているということも報道をされておりました。これと比べても大変体制が弱い日本のわけですから、私はやはりこの監視の問題ということを先送りにして今回これを前倒しで緩和をするということについては一層の問題を広げる、弊害を広げるということを指摘しておきたいと思います。

 次に、その中で働く皆さんの権利がどうなるかということなんですが、旧労働省は九七年にストックオプションの賃金性にかかわって通達を出されていると思うんですが、簡潔にその趣旨をお願いします。

政府参考人(鈴木直和君)

 今御指摘の通達の内容でございますが、ストックオプション制度につきましては、権利付与を受けた労働者が権利行使を行うか否か、それから権利行使をする場合にその時期や株式の売却時期、これをいつにするか、それを労働者が決定するものでございます。

 したがって、この制度から得られる売却益につきましては、それが発生する時期、額ともに労働者の判断にゆだねられているということから、労働の対償ではなく、賃金には当たらないという考えでございます。

井上哲士君

 先ほど紹介した学者声明でも、このストックオプションを付与する場合に定期昇給をストップしたり賞与の減額がなされる、そういうおそれがある、経済的には無価値になり得るものであることからすると会社による負担軽減の手段に利用されるおそれがあると、こういう指摘も出されました。

 通達は、これは賃金ではないんだということで出されたわけですが、その後、実際にこのストックオプションが行われたときに通達がどのように運用されているかということは把握をされているんでしょうか。

政府参考人(鈴木直和君)

 ストックオプションから得られる売却益、先ほど申し上げましたように、賃金には当たらないと解釈しておりまして、そういった観点からストックオプション制度について具体的にどうこうという統計はございません。

井上哲士君

 今やこれがパートの方にも広がっているというようなことも報道もされているわけです。パートの方などは、ストックオプションを付与されても大半賞与はないわけですね。ストックオプションを付与されインセンティブだけはかき立てられると。しかし、いつ、これはストックオプション自身がそれこそ紙切れになるという可能性、危険もあるもので、現にアメリカでは IT バブルの崩壊で株価の下落で無価値になったストックオプションを抱える企業が百社のうち八〇%と、このうち四八%が実質的な行使価格の引き下げを実施している、その九割強がこの行使価格を時価に引き下げたオプション追加設定をするというようなことも報道をされております。日本でも、いわゆる塩漬けになっているというようなことも幾つか報道があるわけですね。

 私は、今回一層規制緩和をするということですから、通達出しっ放しじゃなくて、実際それが本当に労働者の保護という点からどう運用されているかということは一層しっかり把握をして新たな対応の強化をすべきだと思うんですが、いかがでしょうか。

政府参考人(鈴木直和君)

 今回、改正案が出ているわけですが、こういった商法改正後、ストックオプションがどう普及するか、それからその運用状況がどうかという点については注視をしていきたいと考えております。また、現行制度のもとでは現行の通達について十分周知をしていきたいと考えております。

井上哲士君

 パートの方も含めてやはり働く皆さんの多くは株などに知識のない人々もあるわけで、多いわけで、リスクの問題などがどうきちっと説明をされているのかなど、いろんな問題がありますし、今後広がると思うんですね。やはり、そういう人々の権利をしっかり守っていくという点で対応を一層強化することが必要だと思います。

 次に、計算書類の公開の問題でありますが、今回、インターネット上の公開なども盛り込まれております。

 これまで公告制度がありながら非常に実施が低かったというのが、午前中、先ほどの答弁にもありましたけれども、なぜこういうふうな実態になっているのか、その理由についてはどうお考えでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 全部の企業に聞いたわけではございませんので推測にわたるところはあろうかと思いますけれども、まず一つは、計算書類を公告することの意義についてやはり理解が十分ではないという点が一つあろうかと思います。それと、実際上の理由といたしましては、日刊新聞等による公告、これはやはり費用が高額であるということ、これがネックだというふうに考えております。

井上哲士君

 日本経済の大部分を占める中小零細企業の皆さんのやはり実態がそこにあると思うんですね。大変費用自身が、負担がかかるということもそうですし、会社のいろんな体制のことも含めてそういう困難が今日まであったということが、なかなか実施をされてこなかったという状況があると思うんです。

 株式会社といいましても中小零細企業の多くは同族であって、事実上無限責任になっているというものが大変多いわけです。幅広く株式公開をして資金を集めている大会社とは、やはり書面公開、書類公開をしなければならない社会的な責任も大きさも全く違うと私は思うんですね。公開することによって親会社や取引先などから単価引き下げなどに悪用されるんじゃないかという心配の声もいろいろ聞くわけです。

 大きな事件のたびに問題になるような大企業の使途不明金が明確であるかとか公開などは商法改正のたびに議論になっていたわけですから、今急ぐべきはまさにこういうことであると。多くのやっぱり中小零細企業の皆さんの実態を見据えた運用を求めまして、質問を終わります。


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