私は、日本共産党を代表して、人権擁護法案について森山大臣に質問いたします。
法案に入る前に、大阪高検前公安部長の逮捕にかかわってただすものであります。
高検幹部が暴力団と癒着し、恐喝まがいのことまでやっていたこと自体、前代未聞の不祥事であります。加えて重大なことは、この逮捕が、前公安部長が検察の機密費とも言うべき調査活動費について、その不正流用を暴露する予定であったときに合わせるかのようにして行われたことであります。
なぜこの時期の逮捕だったのか。調査活動費とは無関係なのか。また、この際、調査活動費の実態を公表すべきではないのか。法務大臣の答弁を求めます。
人権侵害を迅速、簡易に救済する新たな人権救済機関は、市民団体や日弁連等多くの人々から求められてきました。それは、我が国憲法が世界でも最も幅広い人権規定を持っているにもかかわらず、長年の自民党政治の下で、国民の人権が憲法の規定から大きく立ち後れてきたからであります。
国際社会では、人権保障の条約が作られるとともに、九三年の国連総会決議によるパリ原則に基づいて、政府から独立して独自の権限を持つ人権救済機関の設置が進められてきました。ところが、本法案による人権委員会はこれらからほど遠いものとなっております。今日求められているのは、国際的な水準に立ち、憲法の人権条項を実効あるものとする人権救済機関であります。
法案の問題点は、まず、政府からの独立性の欠如です。
今日、最も重大で救済が困難なものは公権力による人権侵害です。また、基本的人権は、権力による人権侵害への対抗の中で確立してきた歴史があります。国際規約人権委員会も、我が国に対し、警察や入管職員による虐待を調査し、救済のため活動できる独立した機関を遅滞なく設置することを勧告しています。
ところが、本法案では、人権委員会は法務省の外局として置かれ、その事務局には法務省人権擁護局が横滑りし、法務省との人事交流も行われます。地方事務所では法務局の職員が兼務します。五人の人権委員以外はすべて法務省と一体ではありませんか。どうしてこれで独立した機関と言えるのか、明確な答弁を求めます。
昨年、収容中の中国人が逃走した事実を隠すために、東京入国管理局が関係公文書の廃棄や偽造を行うという事件が起きました。ところが、法務省は、報告を受けながら半年間も事実上放置し、マスコミに報道されてからやっと再調査して関係者を処分しました。身内の不祥事を隠すこの事件一つを見ても、法務省の外局の機関では、法務省管轄の刑務所や入国管理施設内での人権侵害を救済できないことは明らかではありませんか。
法務省の外局である公安調査庁は、日本共産党や市民団体などに日常的なスパイ活動を行っています。九九年には、日本ペンクラブや日本ジャーナリスト会議もその調査対象としていることが内部文書で明らかになりました。関係団体からの人権救済の申立てを受けた日弁連は、今年一月、公安調査庁長官あてに、団体参加者の思想、信条の自由、更にはプライバシーの権利までを不当に侵害するものだとした厳しい警告書を発しました。こうした人権侵害こそ直ちに中止すべきであります。
人権委員会は公安調査庁による人権侵害も救済の対象とするのですか。また、法案では、国の他の行政機関に嘱託調査ができるとしていますが、公安調査庁に嘱託することはあり得るのですか。あってはならないと考えますが、はっきりお答えください。
大問題なのはメディア規制の問題です。
法案は、メディアによる過剰取材、プライバシーの侵害などの報道被害もその対象としていますが、こうした被害は、メディア自らが自主的な対応を一層強化して解決すべきものであります。メディアの粘り強い取材は、政治家の汚職や権力犯罪を暴露し、真実を究明するなど、国民の知る権利と人権を守る上で大きな役割を果たしてきました。このような報道機関を差別や虐待と同列に置いて規制の対象とすること自体が妥当性を欠くのではありませんか。
表現の自由を保障するとは、何より公権力によってこれを制限することを禁止する意味だ、これが憲法学の常識です。とりわけ、政治家や公権力への取材規制はあってはなりません。ところが本法案では、「みだりに」や「著しく」など極めてあいまいな規定で過剰取材やプライバシー侵害の判断を委員会にゆだね、報道機関からの異議申立ても認められません。これは、憲法二十一条に規定された表現の自由への行政の介入となり、国民の知る権利を奪い、ひいては民主主義の基盤を危うくするものではありませんか。お答えください。
報道被害の対象を容疑者の家族や被害者とその家族などに限定しているといいます。しかし、政治家の金権・汚職で家族を隠れみのにしてきたものは少なくありません。また、桶川ストーカー事件では、被害者の再三の要請にもかかわらず警察が対応せず、尊い命が失われました。このことを警察は隠していましたが、メディアによる被害者家族への粘り強い取材を通じて明らかになりました。こうした取材を規制するならば、政治家の金権事件や公権力の人権侵害を覆い隠すことになるのではありませんか。報道機関については特別救済から外すべきであります。答弁を求めます。
さらに法案は、メディアのみならず、広く国民の言論・表現活動も規制の対象としています。しかし、諸外国で厳しく規制されているのは行為としての差別的扱いであり、言論・表現活動を対象とする例はほとんどありません。法案では、不当な差別的言動等や差別助長行為も制裁を伴う調査や停止勧告、差止め請求訴訟の対象とし、何を差別的と判断するかは委員会に任されています。これでは、国民の言論、表現の自由や内心の自由にまで行政が介入することになるのではありませんか。
もう一つの大問題は、労働分野での差別的取扱いを特例として委員会の対象から外していることです。
国民の大多数が勤労者である我が国で、雇用の場での人権侵害は極めて重大です。とりわけ、大企業における女性差別や思想信条による差別は深刻で、職場に憲法なしとも言われ、多くは泣き寝入りをしています。裁判に訴えても、関西電力の思想差別事件は最高裁で労働者が勝利するまでに実に二十八年、芝信用金庫における女性差別は十五年近く掛かってもまだ最高裁で審理中であり、裁判の長期化自体が著しい人権侵害になっています。
厚生労働省の調停委員会や都道府県労働局長によるあっせんなどの仕組みは、全体として会社側の言い分に沿った内容が多く、実効が上がっていません。雇用の平等の分野こそ、独立した人権委員会が、企業に対して文書提出命令、立入調査などを行い、迅速、簡易に労働者の人権救済をすることが必要です。
なぜ、あえて特例を設けたのですか。先進諸国の人権救済機関は、雇用の場での人権救済をその中心的課題とし、実効ある措置を取っています。こうした例にも学び、労働分野での特例をやめるべきです。答弁を求めます。
結局、公権力による人権侵害の救済にはつながらない、形ばかりの人権委員会を作って国際的な批判などをかわし、人権の名の下に、政府・自民党の長年の願望であった報道、表現の自由への介入の道を開くというのがこの法案の本質であります。このような法案は撤回をし、抜本的に見直しすべきだと強く指摘して、質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣森山眞弓君登壇、拍手〕
まず、大阪高検幹部の逮捕の問題でございます。
なぜこの時期の逮捕だったのか、調査活動費と無関係なのかというお尋ねがございました。
本件につきましては、暴力団を取り締まる責任者の立場にある高等検察庁の現職幹部が暴力団関係者と親密な交際をした上で本件違法行為に及んでいたという悪質、重大な事件であることから、検察当局において捜査を行ったところ、相当な嫌疑が認められたこと、事案の内容から逮捕の必要性が強く認められたこと等を考慮いたしまして厳正に対処したものであり、御指摘の調査活動費の問題とは無関係であると承知しております。
調査活動費の実態について公表すべきではないかというお尋ねがありました。
検察の調査活動費については、経費の性質上明らかにできない部分もございますが、検察当局においては、今後の捜査の過程で、三井検事本人の弁解や主張も十分聴取した上で、犯罪事実に該当するものがあれば厳正に対処するものと承知しております。
次に、人権委員会の組織の独立性についてお尋ねがございました。
人権委員会は、国家行政組織法第三条第二項に基づく独立の行政委員会として設置され、委員長及び委員の任命方法、身分保障、職権行使の独立性の保障等により、その職権の行使に当たって内閣や所轄の大臣等から影響を受けることがないよう高度の独立性を確保することとしております。
また、中央の事務局及び地方事務所の職員はもちろん、委任を受けた地方法務局の職員は、高度に独立性を確保された人権委員会の委員長の指揮監督を受け、かつ、特に独立性が要求される公権力やマスメディアによる人権侵害事件の調査については、人権委員会の指揮監督の下で、中央事務局又は地方事務所が行うことなどを予定しているところであり、人権委員会の独立性は十分確保されるものと考えております。
次に、法務省の機関における人権侵害についての救済手続の実効性についてお尋ねがありました。
人権委員会は、国家行政組織法第三条第二項に基づく独立の行政委員会として設置され、委員長及び委員の任命方法、身分保障、職権行使の独立性の保障等により、その職権の行使に当たっては所轄の大臣から影響を受けることがないよう高度の独立性を確保することとされております。したがって、人権委員会が法務省の機関における人権侵害の調査、処理をするに当たって、法務大臣から影響を受けることは一切なく、実効的な救済を行うことができると考えております。
次に、公安調査庁による人権侵害についてお尋ねがありました。
新しい人権救済制度は、人権侵害一般を対象とする一般救済手続と特定の人権侵害を対象とする特別救済手続とから成りますが、公安調査庁によるものも含めて公権力による人権侵害が認められれば、その内容に応じ、人権委員会により一般救済、特別救済のいずれかが図られることとなります。
次に、公安調査庁への調査嘱託の可能性についてお尋ねがありました。
本法案第四十条に定める国の他の行政機関への調査嘱託は、当該行政機関の所掌事務に応じて人権委員会が適切な嘱託先を選定して行うものです。
公安調査庁の行う調査は、破壊活動防止法及び無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律に基づく規制を目的とする調査に限られておりまして、人権侵害の救済を目的として調査を行うことができませんので、報道機関等によるものも含めて、人権侵害事件について公安調査庁に調査嘱託することはあり得ないものと考えております。
次に、報道機関等による人権侵害と差別、虐待を同列に扱うのは不当ではないかとのお尋ねがありました。
しかしながら、本法案では、差別、虐待については、我が国の実情に照らして、特に救済の必要性が高い人権侵害の典型的な類型であるとの認識に基づき、特にその違法性を明確にするための具体的な禁止規範第三条を設けた上で、特別救済の対象として位置付け、かつ過料の制裁を伴う調査も行うことができるようにしております。
これに対し、報道機関等による人権侵害については、禁止規範を設けず、特別救済の対象となる報道機関による人権侵害を限定するための明確な規定を置いており、かつ調査も任意のものに限るとともに、報道機関等の自主的な取組の尊重を特に明記するなど、表現、報道の自由に十分に配慮した位置付けをしているものであり、決して報道機関による人権侵害を差別、虐待と同列に扱うものではございません。
次に、報道機関等による人権侵害への特別救済手続の導入は、表現の自由への介入であり、国民の知る権利を奪うことになるのではないかとのお尋ねがありました。
報道機関による報道及びそのための取材活動は、議員御指摘のとおり、国民の知る権利の保障に重要な役割を果たしております。しかし、本法案は、報道機関による報道、取材について何ら新たな規制を設けるものではなく、現行法の下で既に違法と評価される報道機関による一定の人権侵害について、その範囲を明示した上、それが行われた場合の事後的な救済手続を整備するものであり、かつ調査も任意のものに限るとともに、報道機関等の自主的な取組の尊重を特に明記するなど、表現、報道の自由に十分に配慮した内容となっております。したがって、御指摘のように、表現の自由に不当に介入し、国民の知る権利を奪うことになることはあり得ないと考えております。
次に、政治家の犯罪の取材などに規制が掛けられることになるのではないかとのお尋ねがありました。
しかしながら、本法案では、被疑者・被告人本人に対する取材は特別救済の対象としておりません。一方、その家族は特別救済の対象となりますが、取材の対象があくまで本人であり、特段その家族に対する付きまとい等を伴わない場合には、その取材は家族に対する取材とは言えず、特別救済の対象とはなりません。したがって、政治家の犯罪の取材などに規制が掛けられるという御批判は当たらないものと考えます。
次に、犯罪被害者への取材制限によって、警察の不祥事などを覆い隠すことになるのではないかとのお尋ねがありました。
本法案は、犯罪被害者等の生活の平穏を著しく侵害する取材を特別救済の対象としておりますが、それは、現行法の下でも既に違法と評価される行為について救済手続を整備するものであり、これにより正当な取材活動が何ら制限されるものではありませんから、御指摘のような懸念はないものと考えております。
次に、報道機関による人権侵害を特別救済の対象から外すべきではないかとのお尋ねがありました。
報道機関による人権侵害につきましては、まずは報道機関自身による自主規制が図られるべきでありますが、報道機関による人権侵害の実情と報道機関の自主規制の現状に照らしますと、犯罪被害者等の弱い立場にある者に対する一定の人権侵害については、人権救済制度の中で実効的な救済を図る必要があります。
そこで、本法案においては、特別救済の対象を犯罪被害者等に対する報道による著しいプライバシー侵害と生活の平穏を著しく害する過剰な取材という必要最小限のものに限定するとともに、調査を任意のものに限り、かつ報道、取材の自由への配慮と報道機関による自主的取組の尊重を明記するなど、表現の自由、報道の自由に最大限に配慮しつつ、報道機関による人権侵害についても実効的な救済を図ることとしたものです。
次に、言論、表現の分野の問題を差別的言動等、差別助長行為等として特別救済の対象とすることについてお尋ねがありました。
特別救済の対象となる差別的言動等は、侮辱、名誉毀損、性犯罪といった犯罪を構成し、あるいは民法上の不法行為が成立するなど、従来から違法とされてきたものであります。
また、特別救済の対象となる差別助長行為等の要件は極めて限定的なものとなっており、これに該当するのは放置すれば不特定多数の者に対する不当な差別的取扱いが行われる危険性が高いものに限られておりますし、その差止めは訴訟手続を経た上で裁判所の判断によって行われるもので、行政機関である人権委員会が自ら強制力を行使して実現を図るものではありません。したがって、これらの行為を特別救済の対象とすることは言論及び表現の自由の保障の観点からも問題はないものと考えております。
次に、労働分野の人権救済に関する特例についてお尋ねがありました。
平成十三年五月の人権擁護推進審議会の答申は、既に被害者の救済にかかわる専門の機関が置かれている分野においては、当該機関と人権委員会との適正な役割分担を図るべきであると指摘しております。
労働分野における差別的取扱い等については、従来から、厚生労働省等において被害者の救済にかかわる制度が整備され、実施されてきたところであります。労働分野における人権救済制度の適切な運用に当たっては、労働法制、労使慣行、労務管理実務等に関する知識が必要不可欠であり、そうした知識を有する職員等のいる厚生労働省等で救済を図ることが効率的かつ効果的であると考えております。平成十三年十二月に公労使三者構成の労働分野における人権救済制度検討会議で取りまとめられた報告にも同様の考え方が示されているところであります。
次に、人権擁護法案を抜本的に見直すべきではないかとのお尋ねがありました。
この法案は、パリ原則等の国内人権機構に関する国際的潮流を十分に踏まえたものであり、また、報道機関による人権侵害の取扱いについても、報道の自由、取材の自由に十分配慮した内容になっております。
この法案は、人権の世紀と言われる二十一世紀において、人権尊重社会を実現するために是非とも必要な人権救済制度の創設等を目的とするものでありますので、どうぞ慎重に御審議いただきまして、速やかに成立さしていただきますようお願い申し上げます。(拍手)