- 井上哲士君
日本共産党の井上哲士です。
裁判官の増員は国民の求める適正迅速な裁判の実現のためにも大事であります。また、人間らしい当然の生活を裁判官に保障していくということは国民の常識にかなった判決を下す点でも大事だと思います。
そこで、昨年の裁判官育児休業法の審議の際に伺った、男性で初めて育休を取った裁判官についてお聞きをいたします。
報道によりますと、この裁判官は今年度末で退官をするということです。その中で、上司に育休を取ると伝えると、難しいと思うとだけ言われたと。上申書を書かされた、迷惑を掛けて申し訳ないという内容だったと、こうされております。
最高裁にお聞きしますけれども、実際、やはり男性の裁判官が育児休業を取りにくいという状況に置かれているんではないでしょうか。
- 最高裁判所長官代理者(金築誠志君)
お尋ねの判事補の育休の問題でございますが、新聞報道につきましては、現地に確かめましたところ、事実関係は必ずしも正確でないようでございます。例えば、上申書を書かせようとしたというふうな事実につきまして書いてあるわけでございますが、上申書が提出されたことは事実でございますけれども、その提出の経緯につきましては、この判事補の育休取得について、法令の定める育児休業承認の除外事由に該当するか否かの検討を要する事案であったために、所属部におきまして検討の機会を持った上、更に上申書をという形で事情の説明を受けたものというふうに聞いております。したがいまして、同人の育休取得に難色を示した上司が嫌がらせ的に上申書の提出を求めたというふうな事実関係ではないというふうに認識しております。
それはそれといたしまして、育休が取得しにくいのではないかというお尋ねでございますが、裁判官に対する育児休業制度の啓蒙といたしまして、任官直後の新任判事補集中特別研修というのがございますが、そこで裁判官の育児休業に関する法律及び規則を配付いたしまして制度の内容を説明いたしました上、これまでの申請はすべて承認されているということ、それから休業となった場合にも可能な限り人員の手当てをすることなども説明いたしまして、制度を有効に利用するように勧めております。また、若手判事補に対する研修の中でも、育児休業制度、その問題点に言及する講演なども設けまして啓蒙に努めております。
これまでのところ育児休業の承認申請につきましては全件承認されておりまして、一般に裁判所において子供を持った裁判官が、男性であれ女性であれ育児休業を取りにくい環境にあるというふうには考えておりません。
今後とも、男性、女性の区別なく、子供を持った裁判官が育児休業を取得しやすい環境作りに努めてまいりたいと思っております。
- 井上哲士君
これは初めてのケースですので大変注目をされているわけですね。男性からのみ上申書を出してもらうとか、そういう取扱いの差は一切やらないということで確認できますね。
- 最高裁判所長官代理者(金築誠志君)
先ほど申し上げましたように、上申書を書いてもらった事情はその必要性があったからということで、これは男性、女性ということは問わず、そういう必要があれば出してもらう、必要がなければ出してもらわない。これは男女の別ということではございません。
- 井上哲士君
この裁判官の方は、記事の中で、夫の育児参加という当たり前のことを異端視する価値観が嫌になった、人権保障のとりでのはずの裁判所なのに残念でしたと、こういうふうに述べられております。研修での徹底などは当然だと思いますが、やはり多忙な中で非常に取りにくいという雰囲気があるということの中でこういう思いを持たれたと思うんです。
今回、裁判官の増員がされるわけですが、司法制度改革への国民的な期待にこたえながら、やはり男女を問わず、育休の取得を希望した方がしっかり取れるような代替の体制など取れるのか、一層の私は抜本的な増員も必要だと思うんですが、その点いかがでしょうか。
- 最高裁判所長官代理者(金築誠志君)
育児休業取得に対する体制でございますが、裁判官の場合は、これは元々だれでもなれるというわけではなくて、資格が限られておりますし、実際に給源といいますか、なる人たちのグループも限られている。それから、任期が法律で、法定されておりまして身分保障がある。そういうことで、育児休業の期間に限定した代替要員といったものの措置を取ることが、これは制度上できない仕組みになっております。
したがいまして、裁判官の異動でありますとか、所属している裁判所の中での配置替えあるいは事件の配てんの変更、係属事件の配てん替え、そういった措置を講じることで育児休業で職務を離れた裁判官の担当事務の後を埋める、こういうやり方をせざるを得ないことになるわけでございます。
特に、規模が余り大きくない地方の庁で育児休業の取得希望が出ました場合には、人員の補充をする必要性が高くなりますので、そういう場合に備えまして、あらかじめ東京とか大阪とか、こういった非常に規模の大きい裁判所に一定数の補充要員をプールしておきまして、年度途中でも異動計画を組んで補充して、事務に支障がないように配慮しております。これまでのところ、育児休業の取得は毎年十五名程度でございますので、裁判などの事務に支障を来すことなく対処してきたところでございます。
昨年の法改正によりまして、育児休業の対象となる子供の年齢が満一歳未満から三歳未満に延長されたわけでございますが、今後、育児休業を取得した裁判官の事務を処理するための措置としてどういったものが考えられるか、更に十分検討いたしまして、裁判運営等に支障がないように、遺漏がないように期していきたいと思っております。
- 井上哲士君
次に、三年前に超党派の議員立法で成立しました児童買春、児童ポルノ禁止法に関連してお尋ねをします。
日本人男性が大挙して東南アジア等に行って児童買春やポルノの作成をするという国際的な批判の中でこれは作られました。大臣も当時、大変、法案策定の中心になられたとお伺いをしております。これが施行されました九九年には国内での児童買春の検挙が二十件、二十人でしたが、二〇〇一年には千五百六十二件、千二十六人に上っております。先ほども話題になりましたけれども、裁判官や警官、教員なども検挙されたということは大変驚きでもありました。
一方、当初非常に重視をされた国外犯の問題についてお聞きをしますが、昨年末、初めて児童買春での逮捕者が出ましたけれども、これまでの検挙件数は、児童買春、児童ポルノでそれぞれどうなっているでしょうか。
- 政府参考人(古田佑紀君)
御指摘の児童買春、児童ポルノ処罰法の国外犯が適用された事件としては、これまで児童買春罪について一件、児童ポルノ製造罪について二件と承知しております。
- 井上哲士君
ゼロから三になったということは前進ですが、しかし全体の実際の実態からいいますとやはり大変少ないと言わざるを得ないと思うんです。
去年の十二月に第二回子供の商業的性的搾取に反対する世界会議が開かれております。大臣も基調講演をされているわけですが、この法律について触れながら、ようやく国際社会に大きな後れを取った状況から一歩抜け出すことができたと、こういう講演をされております。正に緒に付いたばかりで、この一歩から更にどう踏み出していくかということが今求められていると思います。
三年前のこの法案の審議のときに、当時、大臣が質問に立たれておりますが、気になる点として、国際協力をどのような内容、手順で進めるのかということを質問をされております。これに対し、当時の松尾刑事局長が、逃亡犯罪人の引渡条約なども例に挙げながら、こうした二国間の条約で、捜査内容を相互情報交換を求めて高度化していくこともこの法案の実施に当たっては有効なことだと、こう答弁をされております。
法務省にお伺いしますが、東南アジア諸国とのこういう犯罪人引渡条約、国際捜査共助条約について、この後、どういうふうな検討がされているでしょうか。
- 政府参考人(古田佑紀君)
おっしゃるとおり、国外犯等につきましては国際協力というのは大変重要でございまして、そういう観点から、いわゆる児童ポルノとかそういうことに限らず、薬物犯罪等々でいろんな形で国際協力というのは推進しているところでございます。
そこで、条約があればよりやりやすくなるのではないかということも、それは一つの御意見としてあるわけでございますけれども、一方で、例えば捜査の協力とか証拠の収集につきましては、各国とも条約ということを必ずしも要件とせず、それぞれ求めがあった場合に応ずるという体制がほぼでき上がっておりまして、日本も同様でございます。
また、引渡しにつきましても、これは問題になるとすると、例えば日本人がどこかの東南アジアの国で何かそういうことをして、しかもそういうところにいるというような場合かと思いますけれども、こういう場合には、基本的にはそちらの国の方で対応がされるということになろうかと思います。日本に戻ってまいりました場合には、当然引渡しとかそういう問題にはならないわけでございます。
そういうことで、引渡しにつきましては今申し上げたような事情がございますが、いずれにしても引渡しも、これも必ずしも条約ということは日本の場合必要としておりませんし、またこれを必要としていない国も少なくない。そういうことで、実質的に、柔軟に証拠の収集及び引渡しを含めて、いろんな共助体制の進展ということを折に触れて東南アジアの各国とも努めているところでございます。
- 井上哲士君
条約が有効だという答弁をかつてされながら、今の国内法でいけるんだと言われますと、本当にこの法律を生かす気があるんだろうかという私は姿勢が問われるなと思いながら今お聞きをしておりました。
それで、先ほど紹介をした世界会議でも、国際的なやっぱり捜査ということの問題点、条約の必要性ということが指摘をされております。日弁連のワークショップで子供買春被害弁護団が報告されております。九六年九月に起きた日本人の五十代の男性による十一歳のタイ人の少年に対する強制わいせつの事件です。
日本の警察は、タイ警察からこの男性が現地で逮捕されたときの捜査関係資料を外交ルートで取り寄せております。しかし、タイから写しが届くまでに数か月をまず要しているわけですね。しかも、届いた資料は日本の立証には不十分だと。再度、追加資料の存否を ICPO を通じて照会しますが、希望するような証拠が入手できません。こうやっているうちに二年ほど過ぎたわけですね。
そこで、弁護団が検討して、NGO から寄附を集めて、被害者の少年を日本に呼んで、警察、検察、そして再入国ができないことも考えまして裁判所での調書も作成をしています。この段階で警察が被疑者をやっと取り調べるわけですが、否認をするということで、検察の方は第三者の証言が必要だということを主張されまして、今度はタイの NGO を通じてタイ警察に働き掛けて、この一年後にその少年を被疑者に紹介をした仲買人が逮捕され実刑判決を受けると。これでもう事件から三年半たっているわけですね。この時点で検事が今度は交代してしまいます。そして、検事さんは、自分でタイに行って直接、被害者や仲買人の調書を作成する必要があるということになりましたので、今度は再び外交ルートでタイに要請をして、なかなか返事が来ないと。二か月後にやっと検事が現地に行って調書を作ります。この調書もまた外交ルートで返してもらうということになりまして、非常にやはり時間が掛かっているんですね。最終的には、強制わいせつの時効の五年のぎりぎりの段階の二〇〇一年の五月に不起訴になりました。
やはり、弁護団の皆さんは、余りにも時間が、連絡の時間が掛かり過ぎている。そして、結果として、それだけ時間掛けてもお互いの法制度への不理解から必要な証拠が集まらないということになっているんですね。
これでも国内法で十分に対処できているというふうに言えるんでしょうかね。どうでしょうか。
- 政府参考人(古田佑紀君)
確かに、国際共助になりますと、外交上の問題とかいろいろございまして、そういう意味で、手続は普通の国内捜査に比べると煩瑣になるとか、そういう問題があることは事実でございます。
ただ、先ほど申し上げましたとおり、それはどちらかといいますと、法制的な問題と申しますよりは、実際の共助を実施していく上での運用の問題が非常に大きいというふうに思っております。警察は、警察段階で検察官に送致する前にそれなりの証拠資料を入手されるということもございますし、検察官に送致された後、検察官としてそれが十分なものかどうかということを判断せざるを得ない場合もあるわけでございます。しかしながら、そういうことによりまして事件の処理が遅れるということは大変これは困ったことでございますので、迅速を要するような場合には、あらかじめ事件送致前でも検察官と警察との間で意見の調整をいたしまして、同時に共助について対応をするというふうなそういう手段を取りながら、迅速な共助の確立に努めているところでございます。
ただ、率直に申し上げまして、国際共助というのがある部分では進展はしてきておりますけれども、まだ日本の場合にいろんな事情からその運用が必ずしも的確に確立していない部分もありますことは私も感じているところでございまして、そういう問題を解決するために、いろんな形で共助が円滑にいきますよう、国内、国外との関係で相互理解を深めているという、そういうことでございます。
- 井上哲士君
条約を結ぶ過程で大変やっぱり運用の改善もされていくということがあると思うんですね。タイの事案のように四年半も掛けていますと、この児童買春、児童ポルノでは時効になってしまうわけで、本当に迅速性が必要だと思うんです。
一昨年に、国連アジア極東犯罪防止研究所などの共催で刑事政策の公開講演会というのが、これは法務省の中で開かれております。ここでアメリカの連邦司法省の刑事局のジョン・ハリス国際課長というのが、この二国間の国際捜査共助条約の優位性ということについて述べられております。四点言われていますね。第一に、相手国に明確かつ拘束力のある国際的な義務を課してそれに応じて共助を実施することを要求できる。第二、両国が相手を重要視していることを表す特別な関係が築かれてその国との共助を優先をすることになると。それから第三、個々の関係に見合った内容を盛り込むことができる。第四、これは私、大事だと思うんですが、相手国の法制度や伝統になじむことができるということで、やはり運用についてもこれで改善をされていくことができると思うんです。
やっぱり、法務省の中で行われたこういうところでもこれだけメリットが指摘をされているんですが、今の御答弁聞きますと十分な取組がやはりされていないと思うんですね。やっぱり、国際的な批判の中でこの法律を作ったわけですので、これ生かすためにも日本の法務省自ら、アジア諸国との必要な法制度の理解のための会議であるとか、こういう条約締結のために積極的に私は対応する必要があると思うんですが、大臣の御所見をお伺いします。
- 国務大臣(森山眞弓君)
おっしゃるとおり、特に国際的な協力が更に求められる分野だと思います。
先生もおっしゃいました昨年十二月の横浜会議ですが、あれは政府としても、NGO の皆さんと一緒に大変力を入れて協力し開催いたしまして成功したわけでございますが、法務省といたしましても関係の省庁と連携しながらこの会議の開催などに協力したり、また児童買春、児童ポルノ防圧に向けた国際協力のために積極的に取り組んでおりますし、今後ともその方向でやっていきたいというふうに思います。
捜査共助とか逃亡犯罪人引渡しの実施及びこれらに関する情報の交換なんかにつきましても、児童買春・ポルノ禁止法の目的が達せられますように、特に東南アジア諸国との間で協力関係を一層強めていきたいというふうに思っております。
- 井上哲士君
もう一点、大臣のこの世界会議での講演でも、捜査、公判における児童への配慮について強調をされております。先ほどのタイの強制わいせつの事案では、タイの少年が日本に来て事情聴取を受けたわけですが、警察、検察、裁判所で同じことを何度も聞かれて大変つらい思いをしたということが報告をされておりました。
この点、タイの場合は、子供の事情聴取の精神的負担を軽くするために、アメリカ、オーストラリア、イギリスなどの外国の制度も研究をして、九九年に刑事訴訟法改正をしています。その中で、十八歳未満の子供に対しては事情聴取の際に警察官と検察官にソーシャルワーカーを加えてチームで聴取を行う、そしてその様子をビデオテープに記録をして裁判所の裁量で証拠としても採用すると、こういうような改正が行われています。
子供の受けた痛みが長期に残るものですから、それを少しでも和らげようという、こういう配慮なわけですが、我が国でも子供の事情聴取の場合に、こうしたタイの例も参考にして警察と検察がともに事情を聴いて回数を一回でも減らすなど、子供の捜査方法について一層の見直しが必要だと思うんですが、この点いかがでしょうか。
- 政府参考人(古田佑紀君)
おっしゃるとおり、幼年者等の取調べに当たりましては、その心情を傷付けないように様々な配慮が必要であると考えております。
例えば、何度もその事情を聴くというようなことを避けるということのためには、場合によりましては検察官が事件送致前でありましてもその児童から事情を聴くと、そういうふうなことも考慮されております。
ただ、一つ御理解いただきたいことは、一方で、被告人あるいは被疑者のその権利保障ということもございまして、やはり被疑者、被告人の供述、弁解等がある場合に、それについてそれが真実かどうかということを含めてよく確かめなければならないということもございます。
そういうような事情もございますので、できるだけその児童の心情に傷付けないような配慮をしながら、なおかつそういう面にも十分なものに、捜査ができるように努めているわけでございます。
- 井上哲士君
大臣は、昨年の会議の基調講演でも、児童の性的搾取について、「法整備のみによって簡単に解決されるような問題ではなく、今後も絶えず注意し、対策を立て、実行しなければなりません。」と、こう述べられているわけで、せっかく作ったこの児童買春、児童ポルノ禁止法がより実効あるものにするために大臣の御決意を最後にお伺いいたします。
- 国務大臣(森山眞弓君)
この法律は、そのような行為によって子供の人権が傷付けられるということをなくそうという趣旨でございまして、今まで余り、特に日本の社会においては法律上の問題とされなかったことを法律上に規定して違法とするという新しい考え方の表れでございます。
したがいまして、その講演で申しましたとおり、法律ができたからそれで片付いたというものではなくて、むしろその考え方を社会的に定着させるということが必要だと思いまして、これからもそのような面で努力を続けていかなければいけないと思っております。