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2003年3月25日

法務委員会
根抵当権付債権譲渡円滑化法案

  • 健全金融機関からRCCなどに根抵当権付債権を売却する場合は、債務者の承諾を必要とする民法原則を守るべきことを指摘。まじめな債務者の取り引きをも断ち切っていく不良債権の譲渡円滑化法の時限期間延長を厳しく批判。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 二〇〇一年のこの本法案の時限措置の延長の審議のときに、当時も提案者でありました杉浦議員は、金融機関がばたばた破綻している、その破綻した金融機関から不良債権を譲り受けて大量に処理しなければならない、ですから緊急の臨時措置を定めたと、こういう趣旨の答弁をされております。しかし、当時から見ますと、二年がたちまして、いわゆる金融機関の破綻というのは二〇〇二年の三月十五日以降起きていないというふうに状況はかなり変わっております。こういう状況がかなり変わった下でこの本法を更に二年間延長する、その目的、改めてお願いをいたします。

衆議院議員(江崎洋一郎君)

 先ほど御答弁申し上げましたとおり、この延長という問題につきましては、「改革と展望」二〇〇二年版の一年程度、集中調整期間を延期するということに基づいているわけでございます。デフレ克服というのがこの集中調整期間の主眼ではございますが、同時にこの不良債権処理というものも行っていくと、こういった観点から、先ほど申しましたとおり RCC あるいはサービサーに対する不良債権の譲渡を円滑に推進するという観点から、平成十七年三月三十一日までの延長をお願いしている次第でございます。

井上哲士君

 二年前は金融機関が破綻をしていると、これだから緊急だと言われましたけれども、不良債権の早期処理のためなんだという、私は言わば目的が変化をしてきていると思うんですね。問題は、無理やり早期処理を、不良債権をするという今のやり方が新たな倒産や失業を生み出して新たな不良債権を生み出すという悪循環に陥っていることです。産業再生法、再生機構法ができまして、九九年の四月から RCC も破綻金融機関からだけではなくて健全金融機関からの債権の買取りができるようになったと、これがこの二年間で非常に大きな変化だと思いますが、このことがこの法律の運用に与えた影響、これはどういうふうに把握をされているでしょうか。

衆議院議員(山本幸三君)

 この法律は、先ほどもお答え申し上げましたけれども、元々平成十年の金融再生トータルプランを受けましてできたわけでございまして、不良債権処理を促進するためということで始まりました。したがいまして、RCC が、その後、健全金融機関からの破綻懸念先以下の債権を譲渡できるということが始まったことによって、特にそれで影響を受けて何か変わる、運用が変わるというようなことはないと思っております。

 いずれにしても、金融機関の不良債権処理を加速する、政府の方針としても平成十六年度には終えるという方針を立てておりますので、それに向かって是非延長をさせていただいて、活用させていただきたいと思っている次第でございます。

井上哲士君

 少なくとも二年前の審議のときには、とにかく民法も予想していなかったような金融機関の破綻がばたばた起きているから臨時なんだということを何度も答弁されているわけですから、私はこの運用の状況について把握をされていないというのはこれいささか無責任だと思うんですね。

 金融庁に聞きますけれども、二〇〇一年度から二〇〇二年度に掛けて、健全行からの根抵当権付債権の RCC 向けの売却における本法の利用実績はどのようになっているでしょうか。

政府参考人(西原政雄君)

 お答え申し上げます。

 健全金融機関から RCC へ債権売却した際、それがこの債権譲渡円滑化法に基づいて、これを利用したケースがどれだけあるかということでございますが、主要行に対してこれをヒアリングをさせていただきました。その結果によりますところでは、二〇〇一年度、これでは債務者数で七十三先、それから債権額で約五百二十四億円でございます。一方、二〇〇二年度、これは十四年の十二月まででございますが、債務者数で七百二十五先、それから債権額で約三千六百七十二億円というふうになっております。

井上哲士君

 二〇〇二年度は年度途中の数でありましたけれども、今ありましたように、債務者数でいいますと約十倍、債権額でいいますと約七倍に健全行からの利用が急増しているというのが運用の実態なわけですね。

 先ほど引用した答弁にありましたように、金融機関の破綻という民法がそもそも予定していなかったような事態の下で、あくまでも緊急の臨時措置だということを二年前に言われたのがこの法律なんです。健全行の不良債権の処理のためということであれば、元々の民法の原則、抵当権確定原則を変えることが果たして必要なんだろうかと。民法の三百九十八条ノ二十の第一項二号から五号まで債権確定事由というのはきちんと決められているわけですから、健全な金融機関ならばむしろこの原則をきちっと実践をすると、こういうことでよいかと思うんですが、その点はいかがでしょうか。

衆議院議員(杉浦正健君)

 この法律は根抵当権の確定原則について臨時的に修正を加えたというものなんですが、この法律をそもそも審議したあの金融国会のときに、私ども議員提案の関係者は、今の民法の確定原則の中に修正すべきものがあるじゃないかという議論を相当いたしました。

 つまり、先ほど山本議員が、提案者が申し上げたんですけれども、この民法ができたころは、このように、あの当時は金融機関がばたばたいったわけですけれども、それから不良債権が大量に発生をして、処理をしなきゃいけないというような事態は予測していなかったんではないだろうかと。だから、根抵当権の確定について、確定事由、三百九十八条ノ二十というのがあるんですが、その一号、一項に、「担保スベキ債権ノ範囲ノ変更、取引ノ終了其他ノ事由ニ因リ担保スベキ元本ノ生ゼザルコトト為リタルトキ」、あと二号以降は具体的なんですが、こういう抽象的な規定がありまして、実質破綻が起こった場合に、この一項一号で解釈をしてずっと処理してきたということでございます。

 お互い話合いで合意する、確定しましょうと、債務者と債権者が、そういう場合には問題ないわけですが、じゃ片っ方がもう取引をやめたいと言った場合にこの事由に当たるのかどうかということも問題になりました。それから、不渡手形を二回出して実質上倒産、こういうケースが多いんですが、そして債務者がいなくなっちゃったと、極端な場合ですね、それは二号以降の事由には当たらないわけですが、この根抵当権、確定しないと、それじゃ不都合じゃないかとかいうようなこともございました。

 ですから、私どもそもそものときには、この民法の原則そのものを少し、確定の原則を直すべきではないかというところからスタートしたと記憶しております。

 民法にはこの根抵当権の譲渡について、三百九十八条ノ十二ですけれども、「元本ノ確定前ニ於テハ根抵当権者ハ」「設定者ノ承諾ヲ得テ其根抵当権ヲ譲渡スコトヲ得」とありまして、確定していれば根抵当権、譲渡できるけれども、確定していないときには承諾を得て譲渡しなきゃならない。しかも、その根抵当権の被担保債権の実行については、三百九十八条ノ七ですが、「元本ノ確定前ニ根抵当権者ヨリ債権ヲ取得シタル者ハ其債権ニ付キ根抵当権ヲ行フコトヲ得ズ」と、こうありまして、根抵当権というのはいつも変動する権利ですから、確定前に根抵当権で担保された債権を譲渡する、譲り受けるといっても実行できなければ意味ないわけですね。

 ですから、確定させなきゃいかぬ。話合いをして承諾を得るとか、確定事由があったから確定させるとか、そういうことをやらなきゃいけないわけですが、ここのところ不備でございまして、もし承諾が得られない場合は裁判を起こす、確定の。半年ぐらい掛かります。債務者がいない場合は公示催告手続で訴状を送達する。手間が掛かる、手間と時間が掛かります。登記にもやはり承諾を要求する、裁判をして登記するということで手間暇が掛かるということで、元々民法の確定原則については問題があるんじゃないかと、これを直すべきだということから始まったんですが、民法本法の改定については、法務省の方から、法制審議会の議を経なきゃいけない、本法ですから、それはもうすごく時間が掛かるわけです。

 やっと、法制審議会で四年間掛かって検討されまして、この二月に出ました。この担保執行法で今度出てまいりますが、この法律そのままの内容が本体に盛り込まれた改正案が出てまいります、出てまいります。今度の改正が通りますとこの法律は廃止になります。やっとと申しますか、四年間掛かって出てきたわけでして、当時、緊急事態じゃ間に合わないからこの特例措置を設けようということにしたわけでございまして、健全であろうと健全でなかろうと、不良債権処理のために確定原則を、これは金融機関、健全のあるいは非健全の、破綻のも含めてですが、法律を作ったんですけれども、そもそも民法の確定についての原則が時代に合わなくなっている、ニーズに、そういうところから出発したんだということは御理解いただきたいと思います。

井上哲士君

 民法の問題は出てきたときにまた大いに議論をしたいと思うんですが、今もありましたように、結局、合意なしに一方的金融機関の側からできるという、やっぱりその立場に立った議論だと思うんですね。

 前回やはり審議のときに、当時の法務大臣が、この法律に基づく元本の確定でそれ自体、債務者である中小企業に法的な不利益被ることがないという趣旨を言われていますが、そういうことで確認できますか。

政府参考人(房村精一君)

 御指摘のように、この法律によりまして根抵当権の元本が確定したからといって、法律的にそのことによって抵当権設定者あるいは債務者に不利益が及ぶことはないということでございます。

井上哲士君

 法的にはそうだということが前提なわけですが、現実はこの経済の実態なわけですね。今、やはり金融機関というのは債務者に対して非常に優越的な地位を持っておりますし、それが、今この不良債権早期処理という方針の下で、大変な貸し渋りや貸しはがしが深刻な実態があります。そういうときだからこそ、そういう優越的な地位に一定の歯止めを加えてこの実質的な平等を実現をするということが求められていると思うんですね。

 今いろんなところで私どももいろんな相談を聞くわけでありますけれども、回収が困難になった債権ということがこの第一条であるわけでありますが、実際にはこの客観的な判断基準が明確でなくて、基本的にはやはり金融機関側に任されていると。その債権は本当に回収困難になった債権なのかどうかということを担保する制度もないと。今、中小企業の皆さんが、利益はなかなか上がらないけれども、それこそ血のにじむような努力で、この金融機関に対する返済は何とか、せめて利子だけは払うとか、頑張っていらっしゃるわけですね。こういう事業者の方が金融機関に対して引き続き取引をしたいと思っているときに、この本法によりまして金融機関側が一方的に、もう不良債権ですので根抵当権を確定しますと通知をしますと、これで取引終了と。ぎりぎりのところで営業を守ってこられた中小企業の皆さんにとって余りにも不利益を与える結果に私はなっていると思うんですが、その点、提案者、いかがでしょうか。

衆議院議員(杉浦正健君)

 先生おっしゃったような事案、あるいは先ほど鈴木先生からも御指摘された事案は、破綻金融機関の場合ですね、引受け、その破綻債権を新たな金融機関が引き受けます。不良部分は RCC に譲渡するというような場合には、非常に多くケースが起こったようで、選挙区に帰っても随分言われました、あちこちで。

 通常の取引、金融機関の、破綻していない金融機関と債務者、設定者との取引ではそういうようなことは、普通、信頼関係が厚いですから、また借りている方もお客様ですので、そういう事態が比較的起こっていないんじゃないかと思うんです。もうケースによるんですけれども、金融機関は貸すのが仕事ですし、借り手はお客様ですから、基本的には融資するかしないか、融資を打ち切るかということは金融機関にとってもぎりぎりの判断になります、担保が十分あるかどうかとかを含めましてですね。

 ですから、この法案によって、御指摘のようなぎりぎりのところで営業を守っている中小企業の方々に、金融機関が破綻した場合は別にして、健全な場合には、おっしゃるような不利益があるというふうには私は思えません。

井上哲士君

 やっぱり認識が違うと思うんですね。今、先ほど言いましたように、健全行の利用が非常に急増しているということを申し上げましたけれども、例えば東京三菱などが七百件ぐらい RCC 送りにするというような話もありますけれども、健全行などが本当に安易に、中小企業を事実上の死刑宣告のような形で RCC 送りにするというような事態がたくさん生まれております。私、東京三菱の関係の取引の方のお話も聞きましたけれども、長い付き合いで、そして苦しい中でも利息だけはずっと払ってきた、その人がやはり RCC に今、送られようとしているということで、大変な窮状を訴えておられましたけれども、現にそういうことが起きているわけです。

 ですから、この法律が、大変金融機関の側には便利だけれども、意に反して取引の終了を迫られる債務者である中小企業などにとっては死活問題になる中身を持っていると思うんですね。金融機関側の一方的な判断で通知をするだけで元本を確定をさして、以降の取引を止めてしまえると。こうなりますと、中小企業の側は大変厳しい資金の調達の状況になるわけです。

 最初に言いましたように、金融機関の破綻がばたばたしているという状況も既に変わっている、それから債務者が不利益を被ることがないという前提も違うという以上、私は本法のこれ以上の延長はするべきでないということを申し上げまして、質問を終わります。

委員長(魚住裕一郎君)

 他に御発言もないようですから、本案に対する質疑は終局したものと認めます。

 これより討論に入ります。

 御意見のある方は賛否を明らかにしてお述べ願います。

井上哲士君

 私は、日本共産党を代表して、根抵当権付債権の譲渡円滑化法の一部改正案に反対の討論を行います。

 反対討論の第一は、本法案がまじめに取引の継続を願っている中小企業などの債務者を、金融機関の一方的判断で RCC などの特定債権回収機関に売却できてしまい、中小企業の整理、淘汰を一層促進することになるからであります。

 現行民法の原則は、根抵当権の確定期日到来前若しくは取引終了前の元本確定又は債権の譲渡をするときは債務者の承諾を必要としています。しかし、本法案は、債権者である金融機関の一方的判断により、たとえ経営が厳しくともまじめに返済をし、引き続きの取引を願っている正常な借り手までも取引終了通知によって元本の確定があったとみなし、RCC やサービサーなどの特定債権回収機関に簡便に譲渡できてしまうものであります。これは、金融機関にとっては非常に有利な法律ですが、借り手にとっては意に反して取引の終了を迫られるものとなり、認めるわけにはいきません。

 深刻な不況が長期に及び、不良債権処理の加速などによる中小企業への貸し渋り、貸しはがしが深刻な今だからこそ、金融機関の優越的地位に一定の制限を加え、法の下の実質的平等を実現することこそが求められているはずであります。

 反対の理由の第二は、本法案が根抵当権付債権の譲渡円滑化のために登記の真正さを犠牲にしていることであります。根抵当権の確定の登記について不動産登記法は共同申請主義を原則としています。しかし、本法案は、根抵当権の元本確定の登記をする場合に、根抵当権者による単独申請を認めています。これは、共同申請によって登記の真正さを担保する原則に対して明らかに例外を認めるものであり、許されません。

 以上、反対の理由を申し述べ、討論を終わります。


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