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2003年3月27日

法務委員会
刑務所問題集中審議

  • 全国の刑務所「不審死」事案二百件余と四刑務所の保護房死亡事案などの徹底究明を求め、法相の責任を追及。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 千六百名分の死亡帳が提出をされた。これに基づきまして、やはり刑務所内におけるいろんな問題をメスを入れて解決をしていくというのが、資料を求めた私たち国会の責務だと思っております。

 先ほど千葉委員からありましたように、この死亡帳の中から不審な点がある事例二百余りを一覧表として出させていただいておりますので、関係する資料の提出、併せて積極的な対応をまず求めます。

 その上で、既にこの間も指摘もしましたし、また洗い出しも法務省としてされていると思いますので、この中にある幾つかの点について具体的に聞きますが、まず、これは先日指摘もありました名古屋の平成八年十番の例でありますが、肝腫瘍破裂による腹腔内出血というものであります。右側胸部から側腹部にかけて強度の疼痛を訴えたと。これ、急死事案でありますけれども、死亡帳には検察への通報の記載もありませんし、所長検視も総務部長が代行しているものであります。腹腔内出血ということで、保護房・革手錠事案、事件ではないかという疑いを我々持つわけでありますけれども、この点、その後調査で明らかになっているでしょうか。

政府参考人(中井憲治君)

 御指摘の案件につきまして、取り急ぎ死亡帳等の関係記録により調査した結果を御説明させていただきたいと思います。

 当該事案でございますが、名古屋刑務所の病舎に収容中の五十歳代の受刑者が、平成八年十月四日午後四時ころ、右側胸部から側腹部にかけて強度の疼痛を訴えました。そこで、直ちに腹部超音波検査を実施いたしましたところ、委員御指摘のとおり、肝腫瘍破裂による腹腔内出血が認められたため、同日午後四時四十五分に重症の指定をいたしまして、輸血や止血剤の点滴等を実施するなどいたしましたが、このような治療のかいなく、同年十月六日午前三時十四分、心肺停止して死亡が確認されたというものであります。

 死亡帳に記載しております、に記載がありますように、同日午前三時四十分から名古屋刑務所の総務部長による行政検視を実施しております。その後に、名古屋地方検察庁岡崎支部と聞いておりますが、同支部に対し通報したという報告を受けております。

 また、お尋ねの保護房収容、革手錠使用の有無についてでございますけれども、保護房収容や革手錠使用はないという報告を受けております。

 この事件の詳細につきましてはなお調査中でございます。

井上哲士君

 通報はしたが、検視、検察による検視は行われなかったと、こういうことでいいんでしょうか。

政府参考人(樋渡利秋君)

 現時点までの調査を前提にお答えいたしますと、お尋ねの事案につきましては、名古屋地方検察庁から司法検視に関する書類が存在する旨の報告は受けておりません。このことからしますと、お尋ねの事案につきましては司法検視を行っていない可能性が高いと思われますが、念のため、報告漏れがないかどうか再度、司法検視の有無について再確認を指示しているところでございます。

井上哲士君

 それから、名古屋の平成九年四番の例でありますが、これも脳血管障害で急死をした事案です。急死の場合は検視をするということのはずでありますが、これも死亡帳には検視の記載がありませんが、この点はどうだったんでしょうか。

政府参考人(樋渡利秋君)

 司法検視のお尋ねでございますね。

 同じように現時点までの調査を前提にお答えいたしますと、お尋ねの事案につきましては、名古屋地方検察庁から司法検視に関する書類が存在する旨の報告は受けておりません。このことからしますと、お尋ねの事案、この事案につきましても司法検視は行っていない可能性が高いと思われますが、念のため、報告漏れがないかどうか再指示をしているところでございます。

井上哲士君

 通報はされていたんですか。

政府参考人(中井憲治君)

 この事案につきまして取り急ぎ関係記録によって調査したところでございますけれども、八月九日午後五時十五分から、死亡帳に記載がありますように、総務部長により行政検視を実施した後、名古屋地方検察庁に通報したという報告を受けております。

 若干付け加えさせていただきますと、保護房収容や革手錠使用については、これはないという報告も併せて受けておりますけれども、事案の詳細につきましてはなお調査中でございます。

井上哲士君

 この際、こうしたいろんな不審な点がある問題については徹底した調査を重ねて求めますし、また名古屋や府中、横須賀の保護房の死亡事案についても徹底した真相の究明を求めます。

 一連の問題を解決する上で、身内だけの調査では駄目だと。第三者の視点、意見、これを取り入れることが不可欠です。今朝、二つの新聞がこの問題で社説を書いておりましたけれども、いずれもそういう第三者の関与ということを非常に強調をしております。

 そこで、人権擁護局から出されました意見具申と行刑改革会議の問題についてお聞きをしますが、一月三十日に人権擁護局から大臣に対しまして、「受刑者の人権擁護について」という意見具申が出されております。この名古屋の事件を受けまして、人権侵害に関する受刑者からの申告の取扱いの改善、それから革手錠の使用抑制を検討するべきという中身であります。

 当時の報道を見ますと、法務省の幹部が、極めて重大な人権侵害であるため実効性のある再発防止策につながる目的があるというふうに述べております。ただ、当時から既に報道の中ではこの意見具申が、革手錠の廃止、それから情願の問題、これが法務大臣に届いていないことに踏み込まなかったという指摘がありました。その指摘から一か月たちますと、正にこういう指摘が正しかったということが明らかになったわけで、今はもう大臣が全部情願を読む、それから六か月以内に革手錠を廃止をするということが決まっております。

 本来、この人権問題でリードをすべき人権擁護局が、逆に一月末の時点では、この革手錠廃止にも踏み込めない、情願が、言わば受刑者の人権の命綱であるのにもかかわらず、機能していなかったということについて指摘をできなかったということは、むしろリードすべきなのに立ち後れた状況だったわけですね。

 この点、人権擁護局長はどういうふうに認識をされているでしょうか。

政府参考人(吉戒修一君)

 今、委員御指摘の一月三十日付けの意見具申でございますけれども、これは、いわゆる名古屋刑務所の五月事件とそれから九月事件につきまして私どもの方で調査を遂げまして、その結果に基づいて矯正行政上の検討課題を指摘したというものでございます。

 今御指摘の革手錠の問題でございますが、これは意見具申の中におきまして、これは委員のお手元にもあると思いますけれども、記の 2 の(2)というところで、「「暴行のおそれ」を理由とする革手錠使用の抑制について」という見出しの下に書いてございます。つまり、革手錠の使用の抑制を図る諸方策の検討を求めたところでございまして、その諸方策の一つとして代替措置を講ずることも検討課題として明示いたしております。この趣旨は、正に革手錠の廃止をも視野に入れた検討を求めたものでございます。

 その結果、御案内のとおり、行刑運営に関する調査検討委員会、これは今年の三月五日に開催された第三回のものでございますけれども、その際、法務大臣から革手錠については廃止する方向で速やかに代替品の開発を進めるよう検討の指示がございまして、その日の委員会で六月以内に革手錠を廃止し、開発された代替品に移行することが決定されたという経緯がございます。

 それからもう一点、情願制度の問題でございますけれども、これは調査の対象にいたしました五月事件及び九月事件におきましては情願の在り方そのものが問題になっていないということから、意見具申の中では触れておりませんけれども、ただ人権擁護機関といたしましては、受刑者からの人権相談、それから人権侵害に関する申告等、これについて大いに関心がございまして、この相談と申告を容易にし、かつ、その実効性を高めるための方策の検討を、これは意見具申の中の記の 1 の(2)におきましてまた明示して指摘をしておるところでございます。

井上哲士君

 当時の報道を見ましても、これが革手錠の廃止に踏み込むものだという受け止めはおよそされておりませんし、実際には二月、内部告発で二月になってこの消防ホース事件が出てからそういうことに踏み込まざるを得なくなったというのが経過だと思うんですね。

 かつ、情願の問題でいいますと、私は、今のは全く理由になっていないと思います。十一月の二十八日の時点で、衆議院の法務委員会でもこれは問題になっておりまして、そのときに大臣が、最近初めて見た気がすると、こういう答弁をされました。法律に違反した運用がその時点でもう明らかになっているわけですね。この審議のときに、名古屋で情願が年間三十件あると、制度が機能していないんじゃないかという指摘に対しまして、矯正局長からは十分機能しているという答弁がありました。しかし、これが全く機能していなかった、間違った認識だったということは、その後の国会の審議の中でも浮き彫りになっているわけであります。

 情願というのは、皆さん方が使っておられます「行刑法」という研修教材がありますけれども、「情願」というところを読みますと、「情願は被収容者の権利である。」と書いているわけですね。言わば、行政運営のあれこれの手続でありませんで、受刑者が権利として大臣に直接訴えると。これが全く届いていなかったという、正に受刑者の権利が重大な侵害を受けているという、そういう問題だという認識は、当時、人権擁護局としては持たなかったんでしょうか。その点どうでしょうか。

政府参考人(吉戒修一君)

 受刑者の不服申立ての方法といたしまして、情願という方法と、それから私どもが所管しております人権相談あるいは人権救済の申立てという方法があろうかと思います。

 委員のおっしゃるような意味での情願の問題点は、一般的に私も国会審議を拝聴しておりまして認識しておりましたけれども、ただ、この意見具申は、先ほど申し上げましたように、五月事件と九月事件につきましての個別的な対応として私どもで措置をいたしたということでございますので、その両事件の中では、情願そのものの在り方につきまして関係の方からの申立てというものはなかったわけでございます。

 したがいまして、その点には触れませんでしたけれども、先ほど申し上げましたように、人権の相談と人権救済の申立ての円滑な運用といいましょうか、適正な運用ができるように、矯正当局に、より一層の実効的な措置をお願いしたいという提言をいたしたわけでございます。

井上哲士君

 五月事件、九月事件というのがこの名古屋の刑務所の中で連続して起こっているというのは、単にその事件の個別的対処をどうすればいいのかという問題ではなかったということが今明らかになっているわけですね。刑務所内における様々な人権が一体どうなっているかという法務行政全体を揺るがすような問題になっているわけであります。

 やっぱり、人権擁護局として、現地に入って名古屋法務局と共同して調査をされたそうでありますが、こういう二つの事件の根本にある、こういう受刑者の権利がしっかり守れていないということは、本来、人権擁護局という最も人権については意識の高いはずの皆さんが現地に行かれているわけですから、私は、その大本にあるこの問題をえぐり出せなかったということは、やはりこれは問題だと思うんですね。

 やはり、身内の調査といったときに問題が見えてこなかったんではないかと。法務省の中ではそういう取扱いが当たり前のように行われていたかもしれませんけれども、これはやはり不適切な行政であったと。こういうことがやっぱり発見できなかったというのが実態だと思うんですね。

 私は、今度の人権擁護法案の中で人権委員会に人権擁護局が横滑りをするという仕組みになっているわけでありますけれども、このことを見ましても、やはり法務省の内部部局では身内のこうした不適切なやり方、法の精神もねじ曲げたような人権の命綱の問題すらやっぱり対応できなかったということは、やはり法務省の外局で作るような人権委員会では様々なこうした行刑施設内での人権侵害に対応できないということを私は示していると思いますが、この点、大臣、どうでしょうか。こういう状況でも外局で法務省内の人権侵害に対応できると今でもお考えでしょうか。大臣自身の私は人権感覚が問われていると思いますが、いかがでしょうか。

国務大臣(森山眞弓君)

 名古屋刑務所の事件、一連の事件を振り返りますと、大いに反省すべき点が多々あると思います。いろいろそれぞれのつかさつかさでどのようにこれを改善したらいいかということを今真剣に検討しておりますし、民間のお力をおかりして、お知恵を拝借して、是非抜本的な改革をしたいということで行刑改革会議と称するものをやろうということに今なりつつありますが、人権法に関しましては、今の人権に関する法律の下ではなかなか十分な手だてができませんけれども、その辺を改善して、よりきちんとした方法で対応ができるようにというふうになっている中身だと私は思っておりますので、現在お願いしております形で一刻も早く成立させていただきたいというふうに考えております。

井上哲士君

 これだけの問題が起きながら、やはり有効な指摘が今の人権擁護局の中でできなかったということは、私はやはりこの法案は廃案にして出直すしかないということを指摘をしておきます。

 大臣は、革手錠の問題につきましても、この一月三十一日の記者会見では、報道によりますと、革手錠そのものを要らないと言い切ることはなかなかできないと、廃止するとは簡単に言えないと、こういうことを言われたということであります。

 五月事件の報告を数日後に保護房内での死亡事件ということで聞いておきながら、九月事件の逮捕の直後、十一月の記者会見では、過去に例を見ない事態という、こういう発言もされておりますが、現実には過去にもあったようなことがあったわけですね。

 こういう一連の発言を見ておりまして、本当にやはり人権を守る法務省の最高責任者としての私は当事者能力に欠く発言だと思います。改めて辞任という形で責任を取るべきだということを申し上げます。

 その上で、行刑改革会議について最後、お聞きをいたします。

 四月に発足するわけで、大変重要だと思うんですが、二〇〇〇年の六月から法務省の矯正局と日弁連が行刑問題についての定期的な勉強会をされております。二〇〇〇年の十一月には日弁連の代表と矯正局付け検事、矯正局の総務課長補佐も一緒になりましてイギリスやドイツの行刑施設の視察も行っておりまして、こういう大変立派な報告書も出ております。

 この勉強会が始まった経緯、それからこの間の取組など、そして今後の方向、これはどういうことになっているでしょうか。

政府参考人(中井憲治君)

 矯正局におきましては、平成十二年当時、法務省におきまして受刑者の移送制度について検討を進めていた状況にございますし、また、日本弁護士連合会との意見交換というものも久しく途絶えていたというような事情もございましたこと等々から、受刑者処遇について日弁連と意見交換の機会を設けるというのがそもそもの発端でございました。

 この勉強会の性格でございますけれども、過日来御議論になっております監獄法改正を直接の目的とするものではございません。受刑者処遇の在り方について、矯正局と日弁連との意思疎通と相互理解を深めるということを当面の目的といたしまして、平成十二年六月五日に全体会議を開きまして、同年七月十九日以降、ワーキンググループによる勉強会において、刑務作業、教育等の各議題について意見交換を行っております。現在までに十四回のワーキンググループを開催いたしまして、日弁連との間で当初、意見交換をすることを予定しておりました各議題についての意見交換、これは近々終了する見込みでございます。

 今後、この勉強会をどのように運営していくかにつきましては、種々の状況を勘案いたしまして、日弁連ともよく協議して決めていくことになろうかと、かように考えております。

井上哲士君

 この中でも述べられておりますけれども、とかく対立することが多かった日弁連と法務省がこの問題で海外調査を実施した非常に画期的なものだということで、私もこのワーキンググループの議事報告も全部読ましていただきましたけれども、大変いろんなことにわたって細かく議論もされております。

 当然、ここで行われてきた成果をこの行刑改革会議の中に生かしていくべきだというふうに思うわけですが、その点、大臣、いかがでしょうか。

国務大臣(森山眞弓君)

 今、局長がお話しいたしましたように、専門家のお集まりになった矯正局と日弁連との研究会は非常に有益であったと思いますし、それなりに専門的な立場から深く突っ込んでいただいたことであろうと思いますので、その報告書を十分参考にさしていただくということは大いにあると思いますが、行刑改革会議そのものは、その分野だけではなくて、更に広い様々な問題を国民の一般的な普通の常識の立場から見てどうすればいいかということを更に考えていただくということでありますので、おっしゃるように、この研究会の報告書を参考にさしていただくということは十分あると思いますし、また場合によっては、そのときに御参加なさった方の御意見をヒアリングさしていただくということもあろうかと思いますが、いろんな形でそのように参考にさしていただこうというふうに考えております。

井上哲士君

 ほぼ第一ラウンドの議論が進んで第二ラウンドに進むということに元々の流れとしてはなっているわけですから、これはこれで大いにこの勉強会を生かしつつ、本当の意味での改革ということをしていくことが必要であります。

 人的にも、先ほどもありましたけれども、こうした専門家を参加をさしていくことが必要だと思うんですけれども、その点での改めて御所見をお願いをしたいのと、代用監獄の存続を前提にした新法制定などの報道もあるわけでありますが、これは論外でありまして、一番必要なのは、本当にやっぱり受刑者の権利を明確にして、そして第三者の目がきちっと入ると、こういうシステムを作っていくことかと思います。そういうためにも、人選について改めて御所見を聞いて、質問を終わります。

委員長(魚住裕一郎君)

 森山法務大臣、簡潔にお願いします。

国務大臣(森山眞弓君)

 先ほど来お話ししておりますように、広い立場から民間の方をお願いして御意見を承るという趣旨の会議でございますので、先生御指摘の点もよく踏まえながら、最善の努力をしていきたいというふうに思います。


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