- 井上哲士君
日本共産党の井上哲士です。
三人の参考人の皆様、本当にありがとうございます。
最初に、起訴前鑑定の問題について伊賀参考人と岩井参考人にお聞きをいたします。
法案への態度は全く逆なわけですが、起訴前鑑定に問題ありという点では同じような御意見だったかと思います。
衆議院の参考人の議論の中でもこの問題は随分質疑でも出ましたが、例えば、重大な他害行為を起こした場合は必ず本鑑定にする、ないしは必ず裁判まで行く、こういうことも必要ではないかというような御意見もありました。こういう御意見に対して、それが果たして本人の利益になるんだろうかと、例えば本鑑定にしますと非常に長い時間が掛かるというようなことも含めて、ありました。
現状の起訴前鑑定の問題点と、こういう必ず本鑑定ないしは裁判にするという意見について、それぞれどのようにお考えか、お願いをいたします。
- 参考人(伊賀興一君)
起訴前鑑定でやっぱり問題になるのは、簡易鑑定がある意味で一般から見てルーズというふうな面があると、そういうところだろうと思います。その意味では、それを是正するためには、数時間でやっぱり初診に毛が生えた程度の判断で鑑定結果を得るというより、少なくとも二、三日、留置場、留置場所も医師が都合のいい場所に移るなどして鑑定をできるように、これは本鑑定でなければならないということではなくて、早期に、逮捕勾留期間中に判断を検察官ができるようにするということと、それを安易に、軽易にするということを避けるということと、この二つの側面からやるべきではないか。
最近でいいますと、我々も実務やっていますと、法務省の方で、検察庁、相当程度そういう努力をされていて、鑑定人も個別に絞っていたのが徐々にいろんな人に頼んでいくとか、そういう努力をされていますので、その点の是正は進んでくるのではないかと。しかし、もっと明確にそういう議論を国民的にも起こしていってやる必要があるのかなというふうに思っています。
- 参考人(岩井宜子君)
私、少しやった調査によりますと、かなり、殺人のような重大な行為が行われている場合には、現在でも本鑑定が依頼されているケースが多かったわけですね。
ただ、この前少し法務省の出された資料を見ますと、簡易鑑定のみで措置入院がされたケースというふうなものには、やはり親族間の殺害行為というふうなケースがあったようで、そういう場合にはやはりもう起訴をすることなく、病院での治療にゆだねた方がいいという判断がされやすいのかなという感じがいたしましたけれども、検察官がやはり、この法案ができましても検察官がこの審判を提起するかどうかということを判断するわけで、起訴するか、そしてこちらの審判にゆだねるかというふうなことの判断をするわけで、かなり責任能力判断にとって重大なわけですね。
ただ、簡易鑑定を行った段階で、かなり責任能力に問題があって病院治療が適当であるというふうに判断されるような場合には、今度の、審判というふうなものが手続がなされて、そこでの鑑定も期待されるということですと、それでもいいのではないか。ただ、一日、半日だけでの問診というふうなもので決定されるというようなものは少し安易過ぎるので、もう少し慎重な手続が必要ではないかというふうに考えております。
- 井上哲士君
次に、浦田参考人に医療の問題でお聞きをいたします。
この重大な法に触れる行為を行った対象者について、普通の患者と同じ病棟にいることが大変医療にとっては障害だというお話がございました。一方で、そういう行為を行った人を逆に一般の人から隔離をする医療を行うことは、その人の病状回復にとってはかえって良くないんだという議論もあります。
浦田参考人も、地域に戻るときには地域にある一般精神病院機関に大いに掛かっていくということの重要性も指摘をされているわけですが、こういう言わば重大な他害行為を行った人だけを隔離をした治療を行うということがその人の治療にとってどうなのかという、そういう御議論についてはどういうお考えでしょうか。
- 参考人(浦田重治郎君)
まず、この法律、一応読ませていただきましたが、これ、すべての方を、重大な犯罪行為があって、すべての方を入院治療するとは書いていないように私は思いました。通院もあると書いてありました。どのくらいその比率がどうなるのかは分かりません。ですので、まずもってそこは少し区分けしておいた方がいいだろうなと思います。
それから、私は、最初に意見陳述で申し上げましたように、一つは、大きな専門性の問題というか、重大な他害行為を行った方の場合のやっぱり心理・社会的問題というか、この辺はかなり重視しなければいけないだろうと。今までというのは、どうもそういうことは必ずしも、さらっと表面的にしかやってこなかったんじゃないかと、そういう点を私ども痛感しております、自分たちでも。ですので、やはりそういうところは少しもうちょっときちんと突っ込んでカバーしていかなきゃいけないと、それが一点です。
それから、もちろん、そういう人ばかり集めたらまた大変なことになりますよという話も決して私は無視いたしません。しかし、そのためには、じゃ、どういうようなセッティングをすればいいかということもこれから考えなければいけないと。
イギリスの例えばそういう地域保安病棟等を見させていただきましたが、かなり、一つの病棟を幾つものユニットに分けられた、細かいセッティングをされております。それから、そういう中でやはり病状に応じた対応をされております。例えば入院の評価、それから重症状態、重症な時期、それから、そこからある程度回復してきたとき、それから社会復帰直前というふうに、割に少人数でユニットを分けられております。これは、割にやっぱり、今言われたようなあつれきの問題から考えますと非常によろしいのではないかと、そのように考えております。そういう点では避けられるだろうなと思います。
- 井上哲士君
今のに続けてお聞きをするんですが、伊賀参考人の陳述の中でも、そういう人たちに対する医療はイギリスの場合でも特に変わらない、医療内容としては一緒なんだというお話もありました。
先ほど、先生の陳述では、心の傷、そういう重大な他害行為を行ったことに対する心の傷なんかに配慮するということは一つ言われたんですが、医療内容としては、そのほかにそういう特別な医療としてはどういうことをお考えなんでしょうか。
- 参考人(浦田重治郎君)
一つは、今、心の傷の問題を言われましたので申し上げますが、そういう心理社会的な問題から考えた精神療法的なものをきちんとこれから取り入れていかなければならないと。この間、この二年間ほど、この問題が出てきましてから、主に私は英国ですが、英国の司法精神医学の方々と意見を交換しましたが、やはり精神療法的なアプローチが非常に重要であるということを指摘されております。この辺は私は同意でございます。
それからもう一つ、私の経験から申しまして、先ほども申しましたが、御本人に対してもそうなんですが、もう一つは周囲に対する、特に御家族、関係者に対するアプローチも必要であろうと。これは、最近、心理社会的介入と呼ばれております。
例えば御家族、先ほど言われたように、非常に近親者のところで事件が起きたりしていますから、御家族の抵抗性というか、非常にいろんな心の葛藤があります。それから、もちろん病気ということに対する御家族の構えもございます。こういうものをどういうようにやはり改善していくかというような家族療法的なものを、我々、心理社会的介入と呼んでおりますが、そういうことをやはり取り入れていく必要もあろうと、そのように思っております。
私、正直言って、ただ、最初に申し上げましたように、一精神科の臨床医でございますのでこれが専門ではございませんが、そういう議論の中で様々な手法があると、そのように、今言ったようなのが一例でございます。
- 井上哲士君
次に、社会復帰調整官の問題で伊賀参考人にお聞きをいたします。
先ほどの質問の中で、浦田参考人は、保護観察所に置くことでも、問題は中身だというお話がありましたけれども、伊賀参考人の中では問題だということがございました。保護観察所に置くということがどういうような懸念をお持ちなのか、お願いをいたします。
- 参考人(伊賀興一君)
保護観察所は、我々も、弁護士としても大変親近感のある場所のように見受けられていると思いますが、実際には保護観察所に我々が行くことは一度もありません。少年事件で保護司さんが、全国で子供たちの更生のために頑張っておられるそういう保護司さんを通じて保護観察所を知るという程度で、実際には姿の見えないところです。
刑務所を仮釈放された方が社会復帰をする上で保護観察所が関与される、それから恩赦などの申請を保護観察所が受けてその人の家族状態や被害者への慰謝状態を調査をするとか、そういう業務をされているというふうに伺っていますが、それぞれの対象者の退院後の通院状態や家族の大変微妙な動きや、時として起こる治療に対する拒否から出てくる症状の悪化などを、調整官という名前が付された方が一県に多分お一人、もしくは大きなところでも数人しかできないのに、それで果たして浦田先生のおっしゃるような内容を伴うことが可能なのだろうかということが一点ですね。
もう一つは、現在でも精神病院に三十三万人という方が入院されていますが、その中で、厚生労働省がおっしゃるのでも七万人、他の統計によれば十万人もの患者さんは、退院の条件さえ整えば退院した方がいいという方が入院を継続されているというふうに伺っています。これは一体何なのか。これは社会復帰が、ある調整官という方が設置されたからといって、それでできるほど日本の社会、精神医療を取り巻く環境というのは簡単ではないということを示しているのではないだろうか。
私ども、患者さんが社会復帰できる、いわゆる退院をして社会生活を営むようになるということを大変重視をしますが、それができていない方が七万人も十万人も。これ、比較しますと、日本の刑務所で、入っている方の七万人と比較しても、事件を起こしていない患者さんがそれ以上に入院という拘束状態から抜けられない、この状態が一方であるのに、社会復帰調整官ができたからといって重大な事件を起こした人が社会復帰ができるというようなことは言えないと私は思っています。
- 井上哲士君
ありがとうございました。
終わります。