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2003年6月2 日

法務委員会
心神喪失者に関する医療・観察法案 質疑

  • 重大犯罪の精神障害者を受け入れる「指定入院医療機関」の医療水準の抜本的引き上げを要求。坂口厚労相から「意思の確保を急がなければならない」との答弁を引き出す。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 今、朝日委員から、二十四条通報に関連して冒頭、質問がありました。この警察庁の資料を見せていただきますと、百七十八の通報数のうち、全件送致のはずが十六件が不送致になっていると。これはおかしなことではないんだという答弁でありましたけれども、約一割が不送致だと。私どものところにはいろんな医療関係者から、実際には現場で警察官の様々な判断でこれが不適当に不送致になっているんじゃないかという意見をよくお聞きをいたします。そういう点でここでまず一割近い人がこぼれている。

 さらに、じゃ、送致をされた以降に検察官が二十五条通報をした場合にどうなっているかという問題があります。

 法務省の資料によりますと、平成十二年の場合に検察官通報された千七十五件のうち、措置入院となったのは五百九十人、約五割強ですけれども、診察もされない、通報されても、これが千四十一件の中で三百六件、約三割、診察すらしないということがあります。通報を受けても診察もしないと。こういう判断はだれがどういう基準でしているんでしょうか。

政府参考人(上田茂君)

 精神保健福祉法第二十五条に基づきまして、検察官から都道府県知事あるいは指定都市の首長に通報がなされた場合は、保健所や精神保健福祉主管課等の職員が通報された者の症状の程度、治療歴等を調査しまして、その結果に基づき都道府県知事等が措置診察の必要性について判断していると承知しております。

井上哲士君

 今、症状の程度も判断をするということがありますが、私、これ厚生労働省が作っておられる逐条解説を見ますと、指定医に診察させることは都道府県知事に付与される権限であるとともに都道府県知事の義務であると、こういうふうに書かれております。そして、ここで言う調査には、精神障害の有無に関する医学的診断に関する事項は含まれないと、こう書いているわけですね。特に、一般からの通報の場合はいろんなことがあると。しかし、警察官等の職務にある者からの通報については、少なくとも症状の程度を調査すれば足りるものと考えられると、こういうことを書いておるわけですね。

 こういうことからいいますと、やはり基本的に通報があった者についてはやっぱり診察のルートに乗せるということが必要なんじゃないでしょうか、いかがでしょう。

政府参考人(上田茂君)

 先ほども申し上げましたように、保健所等を通じて行う事前調査の上、都道府県知事等において判断するわけでございますが、その幾つかの例を御紹介させていただきますと、例えば検察官通報は精神障害者又はその疑いのある被疑者あるいは被告人について行われるものでありまして、その中には、自傷他害のおそれがあると認められない者も含まれているというふうに考えられること、あるいは現在、医療機関に入院あるいは通院し、又は家族の協力が得られるために継続的な医療を受けられる状況にあること、こういう理由によりまして措置診察に至らない場合もございます。

 この点につきましては、今申し上げましたように、通院治療中、入院治療中あるいは家族の援助、措置症状がない例ということで、こういった状況についての調査研究の結果、今申し上げましたような事例、例がございます。

井上哲士君

 自傷他害のおそれがない場合、それから現に医療機関に掛かっている場合など例を挙げられましたけれども、この診察すら受けない三百六件がどういう内訳になっているかというのは統計を取っていらっしゃるでしょうか。

政府参考人(上田茂君)

 今、私、申し上げましたのは、あくまでも事例的な研究と申しましょうか、至らなかった事例について御説明申し上げているところでございます。すなわち、先ほど申し上げましたが、現に治療を受けておられるケースについて、そして家族の援助もあって、あえて措置入院に至らずもこういった治療を行われているというような例などが一つの例というふうに御理解いただきたいと思っております。

井上哲士君

 二十五条通報をされても診察すら行わないということになりますと、結局、司法からも医療からも抜けて落ちていくということになるわけですね。大体ちゃんとやっているはずだというような幾つか例を挙げられましたけれども、しかし、例えば先ほどの二十四条通報の件でも、全件送致すると言っていたけれども、実際には十六件不送致がある。この場合も、この三百六件の通報を受けても診察していないという中にどんな例があるかというのは、全く問題が見えてこないんです。

 法務委員会の参考人の質疑の中で蟻塚先生が、今の体制というのは穴の空いたバケツのようなものだと、そこからいろんな人がこぼれ落ちていく、それをまた穴の空いたバケツで受けるのが今回の法案だという表現をされました。

 現状でもこうやって医療と司法の間からこぼれ落ちていく人がいる、結局、適切な医療も受けられない人がいる。こういうものをしっかり押さえていくということなしに、入院の仕組みだけが、その手続だけが決められていくというやり方は、これは問題の解決にならないということを指摘をしておきます。

 その上で、いわゆる指定医療機関における医療の問題についてお聞きをいたします。

 最初に、この間の法務委員会で修正案提出者の塩崎衆議院議員が、この指定入院医療機関にこの法律による処遇対象者以外に重い症状の患者なども入れることも可能だ、こういう答弁がありましたけれども、一体どういう患者をだれが判断をしてどういう手続で入院をさせるということをお考えなんでしょうか。

政府参考人(上田茂君)

 本制度における指定入院医療機関につきましては、まず本制度の対象者に対して継続的かつ適切な医療を行うために計画的に整備することが重要でありまして、原則として対象者以外の者を入院させることは考えておりません。急性期や重度の精神障害者に対して必要かつ適切な医療を提供するということにつきましては、まずは修正案の附則第三条第二項に規定されていますように、病床の機能分化、具体的にはこういった方々に対応した病床整備を検討するなど、こういったことで対応を図ることとしたいと考えております。

 しかしながら、本法案による医療の実施状況を踏まえた上で、将来、指定入院医療機関に仮に空床が生じた場合に何らかの有効な活用方策がないかにつきましては、検討してまいりたいというふうに考えております。

井上哲士君

 まるで具体的なことは分からないわけでありますが、いずれにしても、これは手続を透明にしてしっかりした人権保障の下に行われることが必要だということを指摘をしておきます。

 この指定入院医療機関では、医師や看護師等の手厚い配置を前提に重厚な医療を行うということが繰り返し言われておりますが、この手厚い専門的な医療に見合う人員配置、診療内容がどういうものかというのがいまだに見えてきません。昨年の審議でも検討中ということでありますが、人員基準というのは、他の国立精神病院等と比べまして具体的にどの程度の水準をするのか、具体化が進んでいるんでしょうか。

政府参考人(上田茂君)

 指定入院医療機関における具体的な人員配置基準につきましては現在検討を行っているところでございますが、司法精神医学が確立し手厚い医療を実施しております諸外国の例も参考としつつ、平成十五年中には適切な配置基準を定めることとしております。

 なお、外国の例といたしまして、例えばイギリスの地域保安病棟におきましては、入院患者二十五名に対し医師が四名、看護職員については日勤、準夜勤、それぞれ八名、深夜勤六名、精神保健福祉士二名、臨床心理技術者二名、作業療法士二名が配置されているというふうに聞いております。こういった例を参考にしつつ、今後これから検討してまいりたいというふうに考えております。

井上哲士君

 じゃ、現在の精神科病棟の法的な基準というのはどういうふうになっているでしょうか。

政府参考人(上田茂君)

 失礼いたしました。

 現在の基準につきましては、大学病院、総合病院を除くにつきましては、医師が四十八対一、看護師については六対一でございます。それから、大学等いわゆる総合病院につきましては、医師が十六対一、看護師が四対一、これが現在の基準でございます。

井上哲士君

 ですから、法案に基づくこの新たな指定入院医療機関が諸外国の水準を目指すならば、現在と比べますとかなりの水準が必要だということになります。

 しかも、この重厚な医療を本当に行うということになりますと、熟練した多数のスタッフも必要になります。

 そこで、この我が国精神科医療のセンター病院である国立精神・神経センター武蔵についてお聞きをいたします。現状の常勤の医師の数は何人になっているでしょうか。

政府参考人(冨岡悟君)

 お尋ねの武蔵病院の精神科の医師の数は、本年六月一日現在におきまして二十一名でございます。医師全体では四十一名でございます。なお、このほかに研修医十一名、それからレジデント三十四名、専門修練医五名がおります。

井上哲士君

 厚生労働省からお聞きをしますと、昨年の十月一日現在では常勤医師は二十ワ人だったということなんですね。六月一日では二十一と言われましたけれども、五月末時点では二十人ですから非常に激減をしております。三月末に六人退職したというお話も聞くわけですけれども、こういうことの補充ができていないんではないかと思うんです。

 こういう退職が大量にあったというのは事実でしょうか。そうであれば、その理由は何でしょうか。

政府参考人(冨岡悟君)

 お答えいたします。

 今年の三月におきまして三名退職したというふうに私ども報告を受けておりますが、その理由は定年一名、それから自己都合による転身と申しましょうか、転職が二名と、そのように聞いております。

井上哲士君

 いずれにしても、昨年の十月と比べて非常に医師が減っております。

 私、この平成十三年の武蔵病院の年報の組織図というのを今持っておるんですけれども、外来からリハビリなどずっと各体制が出ておりますが、例えば外来で見ますと、内科医長、精神科医長、神経科医長、小児科医長、外科医長、全部欠員マークになっております。それから、病棟を見ますと、第一病棟、第十精神科医長、第十一精神科医長、第二病棟の外科医長、脳神経科医長も欠員。それから、リハビリテーション部は作業療法医長、理学療法主任、第一作業療法主任等々軒並み欠員マークということになっているわけですね。

 こういう現状は今も同様でしょうか。

政府参考人(冨岡悟君)

 お尋ねの組織図についての点でございますが、この武蔵病院が作っております年報の組織図によりますと、例えば内科医長欠といったふうに出ておりますが、実は組織定員上の話で申しますと、ここで欠となっておるようでございますが、これ、併任の医長をもって充てるということになっておるものでございます。

 ただいま御指摘の点につきまして、そのかなりの人につきまして併任でもってその職を充てるということになっておりまして、医長の数、ちなみに十六現在ございますが、現員十三ということで欠になっているのは三でございます。この点につきましては、現在、公募といったことで鋭意、武蔵病院におきまして努力いたしておるところでございます。やはり、こういった病院の、専門の病院の医長といったことになりますとそれなりの技量と見識のあるお医者さんが必要でございますものですから、そういった手続を踏んでいるところでございます。

 それからもう一点、作業療法主任といった方についても言及がございましたが、こういった方につきましては、やはりその主任という職務を全うするためには経歴、そういったことが必要でございまして、たまたまそういう人がいないものですからその発令をしていないと、そういったこともございまして、ここに欠になっているからといってそういった者を、業務を担当する者がいないということでは必ずしもございません。

 以上でございます。

井上哲士君

 この組織図を見ますと、しかし、例えば脳神経外科医長のところは併任の併という字が入っておりますし、何人かそういうことがあります。先ほどの説明のように、併任であるということであればこういう印が付くということになるんじゃないですか。

政府参考人(冨岡悟君)

 この先生御指摘の組織図は、組織定員法上の組織ではないようでございまして、現場におきまして作成した資料のようでございまして、その意味では必ずしもそういった点で適正さを欠いている部分もあるようでございます。

井上哲士君

 やはり、必要な体制が、さっき医長のうち十六のうち十三しか満たしていないというお話がありましたけれども、この国立のセンター病院としてこういうことでいいのかどうかということが問われていると思うんですね。

 これは医師の体制だけじゃありませんで、例えば看護職員の夜勤体制がどうなっているのか。いただきました資料でいいますと、十の病棟のうち三つの病棟では配置人員の十六人のうち十人以上が月九日以内の夜勤ということになっていますね。なぜこんな状況になっているんでしょうか。

政府参考人(冨岡悟君)

 御指摘の看護職員についてでございますが、私ども看護職員の充実、こういったものにつきましては最近の大変定員事情が厳しい中で、その増員につきましては最優先の課題として取り組んできたところでございます。そうでございますが、全国的には夜勤回数が月に八回を超えないといった状況になってまいりましたが、この武蔵病院につきましては、御指摘のように、必ずしもまだその実現に至っておりませんものですから、看護職員の充実につきましては、この病院の性格、そ、いったことを十分勘案しまして、今後とも重点的に取り組んでまいりたいと考えております。

井上哲士君

 複数で月八日以内の夜勤という人事院の判定が出て四十年近いわけですが、にもかかわらず、この国立のセンター病院でこういう事態というのは本当に驚くべき実態だと思います。

 当該の全医労、労働組合のニュースをいただきましたけれども、こういうふうに書いています。あちこちの病棟で精神科医師が欠員です。外科と病棟の掛け持ちはもちろんのこと、病棟に一人しか医師がいない、複数の病棟を掛け持っている、いたとしても指定医がいない、こんな状態をセンター病院と言うのでしょうか、一日も早く精神科医師の確保を急いでくださいと、こういう悲痛な訴えが載せられておりました。

 こういう下で、一体どんなことになっているかと。女子急性期閉鎖病棟、男子急性期閉鎖病棟は研修医はいるけれども常勤医師は掛け持ち、社会復帰病棟は常勤医一名で四十五人から四十八名を診ていると。これは以前は二人いた、医師がいたそうでありますけれども、こういう状態であります。

 我が国の精神医療のセンター病院と言われる国立武蔵病院がこういう状況でいいんだろうか。これ、厚生労働大臣、その認識、いかがでしょうか。

国務大臣(坂口力君)

 現場はどういうふうになっているのかということを私、存じませんが、もし先生がおっしゃるようなことが仮にそれが現実であるという前提でいえば、それは憂うべき事態だと思います。もう少し医師の確保等を早く積極的にやらないといけないというふうに思います。

井上哲士君

 国立のセンター病院は恐らく指定入院医療機関の有力候補の一つだと言われておりますが、そこでさえスタッフの現状はこの程度なわけですね。退職した医師の補充もままならないという状況がありますし、指定医の補充も研修医だというような状況も聞いております。

 私、今日、朝ちょうど手紙をいただきまして、このことの訴えもありましたし、ここだけじゃないと、国公立の精神科病院で医師の欠員が生じて、それがなかなか埋まりにくい傾向がここ数年顕著だという訴えの手紙でありました。

 こういうような状況のままで、本当にこの指定入院医療機関というのを作って重厚な医療を行うということができるんだろうかと、こういう不安の声も上げておられましたけれども、この点、大臣、もう一度所見いかがでしょうか。

国務大臣(坂口力君)

 精神科医療だけではなくて、公的な病院全体を見ましても、なかなかお勤めをいただく先生が少ないというのは現実問題としてあるわけですね。それで、それには様々な理由があると思うんです。ある年齢に達しました場合に開業されるということもございましょう。あるいはまた、他の病院からのいろいろのお誘いもあったりすることもございましょう。

 しかし、公的な病院というのはそれなりの社会的な責任を持ってやっているわけでありますし、やはりそれだけの誇りを持ってやっていただかなければなりません。したがいまして、そうした病院が誇りを持ってやっていただけるような状況になっているかどうかということが非常に大きな要素だと私は思います。それは、ただ単に人数だけの問題ではないというふうに思っております。その中で働いていただいている先生方全体のことも含めて、やはりよく考えなきゃならないときに来ているというふうに私は思っている次第でございます。

 精神科医療の場合には、今おっしゃいましたように、どういたしましても全体として非常に精神科の先生が少ないという、そういうことも私は影響しているというふうに思っております。最近とみにまたそういう傾向があって、ある特定の科目に集中をして、そして少ないところはだんだんと少なくなっていくというような傾向もあるものですから、大変我々も心配をしているわけでございますが、できる限り多くの医師がそれぞれの分野において積極的に働いていただけるような体制をどう作るかということも非常に大事でございまして、研修医制度の問題のときにも、精神科もやはり是非これは勉強をしていただいて、そしてその研修のときに、やはりそうしたことは、この精神科というものはいかに大事かということをよく分かっていただくようにしないといけないというふうに思っている次第でございます。

井上哲士君

 指定入院医療機関の医療の具体的な中身というのは質疑の中でも明確に示されておりませんし、今明らかになりましたように、そのスタッフの体制も、その確保のめども十分に付いていないという状況があります。

 そういう中で、果たして本当に重厚な医療が行われるのか、結局は閉じ込めだけの安上がり医療にな驍?ナはないか、逆に、そこに少ないスタッフが集められることによって他の様々な医療機関にしわ寄せが来るんではないか、こんないろんな懸念と不安が巻き起こっているわけでありまして、やはりこういう問題をしっかり示すことなしにこの法案を通すわけにいかないということを改めて申し上げておきます。

 その上、さらに、地域に帰った場合の救急医療ということが私は大変重要だと思います。いわゆる、この間、救急医療システムが作られてまいりましたけれども、警察に保護をされないと始動しないような、いわゆるハード救急と言われるものが作られてまいりましたけれども、実際には初期の治療が非常に大事なわけで、気軽に掛かれる一般の救急医療と同じようなソフト救急と呼ばれる初期救急が非常に大事だと思いますが、この辺が大変後れています。これはどういうふうに強化をするようにお考えでしょうか。

国務大臣(坂口力君)

 精神科全体についてでございますけれども、とりわけ地域におけるその精神科医療体制というのは非常に手薄と申しますか、とりわけ精神科の患者の皆さん方が地域に帰られる、いわゆる地域で受け入れるといったようなことにつきましても非常に現在手薄になっております。ここはこれから急を要する話でありますので、積極的に対応していきたいというふうに思っております。

  〔委員長退席、法務委員会理事荒木清寛君着席〕

 それぞれの地域でそういう皆さん方を受け入れるということになりますと、時には悪化することもあるわけでございますし、そういたしますと地域における救急医療というのも大切になってまいります。救急医療につきましては昨年、平成十四年ぐらいからぼつぼつと整備を始めておりまして、二十四時間体制のところも作り上げているわけでございますが、まだ全地域それが行き渡っているというほどでき上がっていないというふうに思っております。しかし、このところは早く体制を整えなければならないというふうに思っておりますので、各それぞれの地域の病院にも御協力をいただいていきながら、救急医療体制の確立をしていきたいと思っているところでございます。


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