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2003年7月8 日

法務委員会
裁判迅速化法案・民事訴訟法案・人事訴訟法案

  • 「民訴・人訴」――家裁調査官を従来どおり専門を生かして「子の監護」の職務に配置するよう要求。文書提出命令の内容を、稟議書や人事考課の拡大するよう要求。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 今日は三人の参考人の皆さん、ありがとうございます。

 最初に、竹下参考人にお伺いをいたします。

 この迅速化法案は、推進本部の検討会も経ずに出された非常に異例な法案提出になりました。先ほども言われましたように、審議会意見書が、全体として裁判の迅速、充実ということを言っておりますし、具体的な方策も随分提起をしております。先生自身も、こうした課題が成果を現すには一定の時間を要すると先ほど陳述もされました。

 そういたしますと、むしろそうした審議会意見書が提起をした課題の具体化、実践とその成果をまず求めるというのが順序ではないかと思いまして、検討会も経ずにこういう法案が出てきたという経緯は非常に私どもは奇異に感じておるんですけれども、その点について御意見をお願いいたします。

参考人(竹下守夫君)

 確かに、司法制度改革審議会の過程では、私ども、一般事件の充実・迅速化を図る方策といたしましては、計画審理というものを導入するということと、早期の審理計画の策定を可能にするような訴え提起前の証拠収集手段の拡充ということを提案いたしました。しかし、それは、また意見書の中にございますように、現在、長期化していると考えられている訴訟をおおむね半分の期間で済ませることを目標として提案をするということであったわけでございます。

 当時、その長期化している訴訟といいますと、代表的なものは医療関係訴訟でございましたけれども、たしか記憶では、当時、平成十一年当時でございますけれども、概数で三十四か月ぐらい掛かっていたというふうに考えております。したがって、その半分といいますと二年弱ということになるわけで、一応それを目標にして、先ほど申しましたような具体的な充実・迅速化の方策を提案したわけでございます。

 それからまた、刑事裁判につきましては、新しい準備手続を設ける、あるいは争点整理をする、あるいは証拠開示をルール化するというような方策を提案しており、審理期間については追って検討するということになっていたわけでございます。

 したがいまして、確かに、司法制度改革審議会の意見書それ自体の中では、今回の迅速化法案のように、二年以内を目標としてというような数値目標は示されていなかったわけでございますけれども、決してそれは司法制度改革審議会の意図した充実・迅速化に矛盾するというものではございません。したがいまして、他方では国民一般の期待としてやはり裁判の迅速・充実化ということがある以上、推進本部の方でこのような法案をお出しになるということについては、私として十分理解をし、賛成をしたいと考えているところでございます。

井上哲士君

 次に、中野参考人にお伺いをいたします。

 自らのいろんな裁判の具体例も出していただきまして大変参考になったわけでありますが、その中で、やはり長期化している事件は国相手の裁判が少なくないということがございました。そして、その原因は、やはり国の応訴態度に大変問題があるということも言われておりました。

 具体的にどういうようなことになっているのか、御自身の体験などで具体例がありましたら、是非お願いをいたしたいと思います。

参考人(中野直樹君)

 参議院議員でもございます緒方靖夫さんの御自宅の電話が盗聴された事件の裁判を私自身が担当することがありました。それは資料の中に書いて、入れてあります。

 この事件の場合は、最初の訴状に、こちらの訴状に対する認否の、国側の認否の段階で、個人被告、個人警察官が神奈川県警の警備部公安第一課に所属するかどうかということについての認否をしなかったのでございます。認めるとも認めないとも、認否をしないという態度を取ったわけであります。

 それから、この件は刑事手続としては不起訴処分になったわけでございますが、その不起訴処分をするに当たって神奈川県警から東京地検に、最高検から法務省に出された文書があります。二つの文書があります。その文書自体は大変重要な文書だというふうに私たちは考えまして、国側にその文書を提出するように求めましたが、任意に提出してくれない。その関係で文書提出命令を掛けて、その手続で最高裁まで行ってこなければならなかったということがありました。その手続に約一年を要しました。そして、結果として認められなかったんですが、記録が高裁に移ったり、最高裁に移ったりするために一審の手続自体がその間中断をしてしまうということを強いられました。

 さらに、これは、まあ国というか、ここで言う警察ということになりますけれども、私たち原告側に立証責任がありますので、私たちとしてはどうしても犯人とされている警察官に裁判に出頭してもらう、ところが警察官は裁判所の呼び出しに一度ならず二度ならず出頭しないという態度を続けたと、そのことで半年以上裁判が空転してしまったという、こういうことがございました。

 結局、そのことが原告側の立証のところで影響し、立証責任が尽くされていないという形で効果が表れるとするならば、まあ私たちにしては大変その辺りは、そういうことは許容できないことなので、粘り強く間接事実、間接証拠を積み上げて立証をしていくということを強いられたわけです。そのために五年という年月を要してしまったということがありました。

 以上です。

井上哲士君

 次に、藤井参考人にお伺いをいたします。

 検証の方式としての福岡方式というのを私もいろいろ勉強させていただきまして、生の事件を題材としつつ、裁判の独立に影響を及ぼさないように判決後にいろんな検証もしていく、大変工夫をされた方式かと思います。

 先ほどの陳述の中で、結果としては証人調べも充実をしたというようなことも言われておりますが、その辺の具体的な経過と中身、そして一方で、参加をされた弁護士や、また直接この福岡方式に参加をされていないような方々の中には、この方式で結果としては少し拙速のようなことが起きたとか、そんなお声はなかったんでしょうか。その辺の全体の評価についてもう少し詳しくお伺いいたしたいと思います。

参考人(藤井克已君)

 この福岡方式というのは、先ほど概略御説明しましたが、平成二年にこういう、進行を早めるための方式として、地元会、弁護士会と裁判所が合意したものであります。しかし、それが具体的にどのような効果を生じているのかというのが、何となく分かるんだけれども数値的に分からないという、そういう状況が続いたわけであります。

 それで、じゃ検証を具体的にしようということになって、平成五年になって検証することになったということでありますから、まずその検証の目的が限定されていることは確かであろうと思います。

 その結果、既に平成二年から五年まで福岡方式を行っていたことから、結果的に、審理の充実を行っていった方が結果的には当事者の納得は得られて早く終わるという、そういう実体験がかなり弁護士会と裁判所の中に醸成されていたんだと思います。いたずらに証人調べを拒否して空転させるよりも、まずは聞いてやるという、まずは言わせるという、この基本的な姿勢ですね、これが検証によって明らかにプラスに働いているということが言えたんだというふうに思っております。

 それから、拙速という面では、いわゆる最初に主張を限定しまして、こういう主張でやっていくんだということでやり始めたところ、証人調べやっていたら変わってきてしまったという、時々そういう例がございます。その場合に、もう一度証人調べをやるのかというようなことが出てきまして、この点では少しマイナス面があったことも否めないと思います。つまり、現在の民訴法改正で言われる計画審理という、主張を先に出していくということがすべての事件で可能であるかどうか、そこの点が問題になろうかと思っています。

 おおむね、確かに原被告、弁護士それぞれが合意した中で行っている検証でありますから、何も上からの統制で行っておりませんので、目的として充実して迅速にという、こういう共通意識を持った検証をやっていった。だから、検証そのものは更に迅速にプラスしていったというふうに思っております。

井上哲士君

 もう一度、中野参考人に、検証と裁判官の独立の問題についてお伺いをいたします。

 この間の審議の中で、人事権を持つ最高裁が検証することによって裁判官の独立が侵されるのではないか、これが人事に使われるのではないかということを繰り返しただしましても、最高裁は、そういうことはございませんと、こう答弁をするだけなわけですが、現実のいろんな裁判の現場で、そうした言わば官僚手法といいましょうか、人事権などを持つことによるそういう裁判官の萎縮のようなことを実感をされるようなことがありましたら、是非お願いをしたいと思います。

参考人(中野直樹君)

 ちょっと、時間を掛ければ思い出すかもしれませんけれども、申し訳ございませんが、ここで分かりやすくちょっと御説明できるような経験は、申し訳ございませんが、ちょっと披露できませんね。申し訳ございません。

井上哲士君

 もう一点、藤井参考人にお伺いをいたしますが、先ほどの福岡方式でありますけれども、主に民事でやられてきたかと思います。今回の全体の検証は刑事事件も含むわけでありますけれども、ああいう方式というのはY事事件についてもいろんな応用、具体化ができるものなのか、もしその場合何か工夫が必要なのか、もしお考えがあったらお願いいたします。

参考人(藤井克已君)

 まず、刑事事件の検証については、日弁連の内部でもまだ検討を始めたばかりですので、公式的な意見にはなりません。そこで、私個人の意見としてお聞きいただければと思います。

 刑事事件の検証は非常に困難性を伴うものであると思います。特に、検察プラス裁判所対弁護人という、こういう図式になってくる可能性があります。また、検証すべき対象は否認事件を基本的に行っていかなければ意味ある検証はできないというふうに思っております。そうなりますと、この時々の裁判の進行そのものが、非常にドラマチックに言えば権力対反権力のシビアな闘いの場面を続けていくわけでありますから、両当事者が合意するような場面というのは非常に少ない。その中でルール化し迅速化していくというのはかなり際どい話になってこようかと思います。

 それを更に客観的に検証する方法がどこにあるか。これは、やはり私の考えているところは、それぞれがその時々に思いのたけをメモしていくことしかありません。そして、検察から見た進行、裁判所から見た進行、そして弁護士から見た進行、それぞれが思いのたけをきちんとメモ化して、それを第三者が検証する、外に漏らさずそれを検討する、そのことしか検証の方法はないだろうと思います。

 後で裁判官がメモを取ったことを前提に幾ら検証しても、それは被告人の立場からの検証でもありませんし、被告人の立場からの事項のリストアップでもありません。弁護人側からの闘いの歴史でもありません。そういう意味では、その刑事事件の検証というのは、民事以上に、裁判所だけが行う検証は非常に不十分なものになっていくというふうに思っております。

井上哲士君

 終わります。


井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 法案に入ります前に、京都拘置所に拘置中で HIV 、エイズウイルスに感染している男性被告が、差別処遇とプライバシー侵害を受けたとして京都弁護士会に人権救済を申し立てたと、この問題についてお聞きをいたします。

 これ、七月五日付けの各紙で報道されておりますけれども、この男性は、HIV 用と書かれた洗面器を人目に触れる場で使用させられたり、それから食器についても、この男性だけは回収されずに自分の部屋で保管を指示をされてきたと、こういうことを訴えておられます。

 こういう取扱いが行われてきたというのは事実でしょうか。

政府参考人(横田尤孝君)

 お答え申し上げます。

 お尋ねの点につきまして、詳細を申し上げますことは、プライバシー等の問題もございますので差し控えさせていただきますけれども、差し支えのない範囲内でこの事実関係について申し上げます。

 まず、HIV と書かれた洗面器の問題ですけれども、これは散髪時、当該被告人の散髪時に HIV と書かれた専用の洗面器を使用させられたという報道でございました。

 これについて調査いたしましたところ、京都拘置所では、職員一名の立会いの下、理髪係の受刑者が被収容者の散髪を行っているわけですが、その際に使用したかみそりを水をくんだ洗面器で洗浄しているところ、当該被告人の散髪に際し、その側面に HIV とマジックで記入した洗面器を使用したという報告を受けております。

 なお、この散髪はほかから区画された拘置所内の理髪室で行われておりまして、この洗面器は本年三月中に二回行われた当該被告人の散髪時以外は理髪室内のロッカー、これは扉付きのロッカーですけれども、に収容しまして、不必要に他人の目に触れるようなことはなかったということであります。つまり、散髪時だけその洗面器をロッカーから取り出して、そしてその当該被告人の散髪のときにだけ使ったということであります。

 なお、本年三月末ころ、本人から、洗面器に HIV と書かれていることについて苦情の申出がございまして、そこで、京都拘置所では直ちにその洗面器の使用を取りやめまして、これを廃棄したというふうに聞いております。

 それから、食器の点でございますが、これは食事の際に専用の食器を使用させられ、使用後も回収されずに、この当該被告人自身に管理させていたという報道でございました。

 これも取り急ぎ調査いたしましたところ、この京都拘置所におきましては、この当該被告人が幾つかの病気を患っているということがございましたので、炊事場から送られてきた食事を本人の居房内に備え付けた食器に本人の面前で移し替えて給与、与えたと、そして食べた後もその食器を回収せずに本人に洗浄させていたということであります。

 しかしながら、これにつきましても、本人の心情も考慮し、本年七月一日以降、その取扱いを改めまして、本人の専用食器を施設において管理することとし、食事をあらかじめ本人の専用食器に盛り付けた上で本人に配食することにしているという報告でございます。

 以上です。

井上哲士君

 この男性は、地元紙の取材に、何度も改善を申し入れても聞き入れられなかった、最大のプライバシーである病歴が他人に知られ本当に悔しいと、こういうふうに語っておられまして、これ重大な人権侵害だと言わざるを得ません。

 平成七年に労働省は、労働基準局長と職業安定局長の連名で、職場におけるエイズ問題に関するガイドラインというのを出しております。この中で、HIV が日常の職場生活では感染しないことを周知徹底し、誤解、偏見による差別や混乱が生じることを防止することが必要だとして、事業者に対して、エイズ教育、それから HIV の感染の有無に関する労働者の健康情報の秘密の保持の徹底、HIV に感染しても健康状態が良好である労働者については他の健康な労働者と同様に扱うことなどを提起をしております。

 もちろん、職場と矯正施設では違いはありますけれども、この HIV が日常生活でも感染しないというのはもう社会的な常識のわけですね。なぜそれが拘置所内では通用しないのかと、こういうことが問われております。

 今日的な水準でのしっかりとした通達なども出すなど対応すべきだと思いますけれども、その点、どうでしょうか。

政府参考人(横田尤孝君)

 当局におきましては、これまでも文書による指示や通知を発出いたしまして、また各種の協議会で協議するなどいたしまして HIV にかかわる感染防止等に努めてまいりましたけれども、今回の事案にかんがみますと、現状においては HIV の二次感染防止や職員に対する啓蒙、指導の実施について必ずしも十分に施設に浸透していなかったおそれがありますことから、改めて HIV 感染、HIV を含めました感染症対策と、それから患者の人権への配慮につきまして指示の徹底を図りたいと考えております。

 以上です。

井上哲士君

 平成三年度に行われた連絡事項、エイズ対策についてというのを見させてもらいましたけれども、ここにありますのは感染防止対策なんですね、あくまでも。先ほど読み上げた労働省のものは、それと同時に、いかに感染者の人権を守るかという水準なんです。全然水準が違うわけですね。

 それで、人事院に来ていただいておりますけれども、先日、警視庁に採用された男性が無断で HIV の抗体検査をされまして、感染を理由に辞職を強要されたという問題で損害賠償の訴訟を起こしまして、東京地裁は警視庁に対し、違法性を認めて賠償命令を出しております。これに次いで今回のこういう法務省の問題が起きているわけですね。公の機関の中でなぜこの通常の常識が通用しないのかと、こういう声が今上がっているわけですね。

 人事院としても、労働省がかつてガイドラインを出しているわけですから、今日的な水準での対応が必要かと思いますけれども、その点、どうでしょうか。

政府参考人(小澤治文君)

 京都拘置所の問題、これについては詳細については承知していないわけですが、一般論として申し上げれば、HIV 感染を理由として差別的な取扱いを行うということはあってはならないことだろうというふうに思っております。

 この問題の重要な点というのは、やはり御指摘のとおり、正確な知識の普及というのが一番大事な点でありまして、人事院といたしましては、各府省の健康管理担当者に対する説明会等で、様々な機会を通しまして知識の普及に努めておるわけですけれども、今後とも HIV 感染を理由とした差別的な取扱いが行われないように徹底して行っていきたいというふうに考えております。

井上哲士君

 大臣に伺いますが、この間、刑務所や拘置所内での人権侵害というものがずっとこの委員会でも議論になっていました。それに次いでこの問題が起きているわけであります。一般社会で当たり前のこの人権感覚というものがこういう施設の中でない、人権保障がされてきていないと、こういう問題について改めて大臣の認識と対応について答弁をお願いします。

国務大臣(森山眞弓君)

 京都におきます事案につきましては、今、矯正局長から御説明したとおりでございまして、確かに適切さを欠いていたというふうに私も思います。事実をよく調査いたしまして、今後は当該被収容者の置かれた立場や心情にも十分配慮いたしますよう、また知識も十分に徹底いたしますように、もちろん人権意識の向上にも努めまキように、矯正局を通じて指導してまいりたいと考えます。

井上哲士君

 この間の刑務所内での一連の事件も通じまして、また法務省の施設かと、こういう大変厳しいまなざしが国民からあるわけでありますから、この点、本当にしっかりとした対応をしていただきたいということを改めて申し上げておきます。

 次に、裁判の迅速化法案について質問をいたします。

 午前中の参考人質疑でも、世間の注目を集めた重大事件の中で長期化しているものは、国賠訴訟や行政訴訟における証拠の偏在、国や自治体の応訴態度に問題があると、こういう参考人の陳述もありました。

 そこでも出ましたけれども、我が党の緒方参議院議員の自宅が神奈川県警により盗聴されていたと。この事件の国賠訴訟で、東京地裁は国、神奈川県、個人警察官、すべての賠償責任を認めましたけれども、これ、判決までに六年を要しております。

 最大の理由は、この関係の警察官全部が不起訴処分にされまして、民事裁判に利用できる刑事事件の証拠が極めて限定をされました。それから、警察は組織を挙げて徹底して否認をしまして、例えば実行警察官四人は尋問呼出しに二度にわたって出頭拒否を繰り返す、二人の警察官は呼出しを受けた尋問期日についても二回も不出頭と。さらに、国はこの被告警察官が神奈川県警に所属するかどうかについての認否すら拒んだ。また、国は、採取した指紋の写真の提出はしたけれども指紋鑑定書の提出は拒んだと、こういういろんなことが出されておりました。

 迅速化と言うならばこういう国の応訴態度こそまず改めるべきだと、こういうことかと思いますが、今日は訟務の担当の方に来ていただいておりますけれども、この法案が成立すればこうした応訴態度がどのように変わるのか、その点いかがでしょうか。

政府参考人(都築弘君)

 迅速な裁判の実現というものは国民的な要請と承知しております。

 国の訴訟を担当いたします訟務組織といたしましては、体制を十分に整備いたしまして、また審理の充実を損なうことなく、二年以内の判決という目標の実現に向けて誠実に対処してまいりたいと、かように考えております。

井上哲士君

 今指摘をされましたように、例えば、被告警察官が神奈川県警に所属するかどうかについての認否すら拒んだとか、それからなかなか証拠を出してこないとか、そういう言わば国の応訴態度が今の裁判の長期化をさせている、この部分についてきちっと検証し、点検をして改められるのかどうかと、このことを聞いているんですけれども、再度お願いいたします。

政府参考人(都築弘君)

 個別事件の具体的な対応についてここで申し上げるのは差し控えたいと思いますけれども、一般的に申し上げますと、国の事件というものは複雑、困難なものが多く、あるいは多数当事者、さらには専門的知見を要するものが多いわけでございますので、その原因等を十分に検証しながら、今回の迅速化法案の中にも検証制度というものが予定されておりますので、それを踏まえながら慎重な対応をしてまいりたいと、かように思っております。

井上哲士君

 慎重な対応ということがございました。これでは一体この法案ができたからといって何が変わるのかという疑問を持たざるを得ません。

 検証するまでもなく明らかな様々な問題についての解決の手が具体的に打たれていないということが、様々な指摘がありましたけれども、長期化が言われるこの国にかかわる裁判についても、今のような答弁でいいますと、結局、実効性がないばかりか、二年以内のできるだけ早くという目標だけが独り歩きをしていくと、こういうことを感じざるを得ないということを指摘をしておきます。

 次に、民事訴訟法にかかわってお聞きをいたしますが、今回、提訴前の証拠収集手続が新設をされました。これで証拠の偏在が問題となっているような裁判についてどこまで解決をするのか。これまで出なかったような証拠が出てくるようになるんでしょうか。いかがでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 今回、訴え提起前においても証拠を収集できるようにということで、提訴予告通知をすることによりまして当事者照会が可能となっております。また、裁判所に申立てをして、送付嘱託であるとか調査嘱託をするということも可能になりましたので、従前、訴え提起後でなければ取り得なかった手段が取れるようになったという意味で、今回の措置によりまして訴え提起前に手に入る証拠も増えるということは言えるのではないかと思っております。

井上哲士君

 証拠収集でやはり最大の問題は文書提出命令の範囲が狭いことですが、この点、今回手が付けられておりません。

 例えば銀行の貸手責任を問うた変額保険の裁判がありますけれども、焦点は銀行がどういう意図を持って貸出しを行ったのか、これを証明する最大の証拠が稟議書でありますけれども、下級審では文書提出命令が認められたところもありますが、上告審でこれは自己使用文書だということで却下をされているという事態もありますし、雇用における女性の差別裁判でいいますと、立証に必要な人事考課の資料が出されないというのが大問題であります。

 原告の分の人事考課資料すら内部文書扱いになっておりまして、会社側はほかの人と比べて著しく劣っているから昇進しないと言うと。裁判所は原告が他の人と比べて優れていることを立証しろと言いますけれども、この比較対象者の人事考課についてはプライバシー、今後の労務管理に支障があるということで提出をされない。原告側にとっては立証不可能な悪魔の証明ということになっていくわけですね。

 九八年改正の際に参考にしましたアメリカのディスカバリー制度では、そもそも自己使用文書であるか否かで開示義務が左右されることはないわけです。国対個人とか、大企業対個人というような事件のように、攻撃防御方法が極端に偏っている、こういう当事者間で実質的な公平平等を確保するために文書開示義務の拡大こそ図るべきだと思うんですが、その点はいかがでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 現在、法制審議会の民事訴訟・民事執行法部会におきまして民事訴訟法及び民事執行法の見直しに関する議論をしているところでございますが、その部会の議論の中で、御指摘の文書提出命令、特に自己利用文書等に関する文書提出命令の在り方と、こういったものも現在議論が行われているところでございます。

 文書提出義務の範囲を更に拡大することが必要であるかどうかということにつきましては、これらの議論の結果を踏まえて検討する必要があると考えております。

井上哲士君

 前回改正のときの同じような議論をして結局広げなかったということになりますと、これは本当に公正で迅速な裁判という国民の期待とは全く反するわけでありますから、この点はやはり思い切った踏み込みが必要だということを改めて申し上げておきます。

 それから最後に、人事訴訟の法案についてお聞きをいたします。

 これまで地裁で行われていました人事訴訟の裁判が家裁に移管をするということであります。一万件ぐらい増えるんじゃないかというふうに言われておりまして、人的、物的な体制の整備を早急に行うことが必要だと思います。

 まず物的体制でありますが、これまでの家裁には審判廷はありますけれども、いわゆる原告、被告側が向き合う法廷はないということでありますが、各家裁に法廷を作ることが必要かと思います。全国調査を実施をしているとお聞きをしておりますけれども、その状況、どういう結果を出して、この点でどういう対策を講じる予定なのか、まずお願いいたします。

最高裁判所長官代理者(山崎恒君)

 人事訴訟事件の家裁への移管に伴いまして、現在、家庭裁判所には成人刑事事件を扱う法廷がどこでも最低一つは整備されておりますので、この既存の法廷、審判廷等を有効に活用するための方策を検討いたしますとともに、必要な庁におきまして法廷の改修等の整備を図るために、現在、必要な整備に関する調査及び検討を行っております。今後、秋ごろには恐らく予算の示達等を行うなどして、人事訴訟法の施行までの間に必要な整備を行いたいと考えております。

井上哲士君

 現場でいろいろお話を聞きますと、例えば東京家裁では、交通事故を起こした少年を対象とした交通講習室、これを転用するんではないかとか、それから家事事件に比べて少年事件用が減っているということで、こういうスペースをつぶすんではないか、こういう懸念の声も随分お聞きをいたします。

 家裁における少年事件の重要性ということを考えますと、こういうスペースの安易な転用は行うべきでない、新設などもして対応すべきかと思いますが、その点はいかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(山崎恒君)

 物的体制の整備につきましては、さきに述べましたような調査を行った上で必要な設備を準備したいと思いますが、その際には、やはり現在行われております少年事件や家庭事件の処理に支障を起こさないような形での整備を行うことが必要だと、そういう方向で考えていきたいと思っております。

井上哲士君

 安易な転用は絶対行わないということを強く求めておきます。

 人的問題でいいますと、移管に伴って一定の増強はされるようでありますけれども、一体どれだけ増えるんだろうかということが明確でないという下で、例えば年度途中であっても追加的な人的配置などが必要という場面も出てこようかと思いますけれども、こういうときの機動的な対応というものも当然検討されているかと思いますが、その点いかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(山崎恒君)

 人的体制の整備につきましては、まず今回の人事訴訟法により、新たに家庭裁判所で人事訴訟事件を扱うということでいろいろな整備が必要になるかと思います。そのうち、家庭裁判所調査官につきましては、家裁への人事訴訟の移管によって新たに関与するということになる点も踏まえまして、今国会において三十人の増員を家庭事件の処理の充実強化ということでお認めいただいたところでございます。

 また、裁判官及び裁判所書記官につきましても、これまで人事訴訟事件というのは地裁で行っておりましたので、この際、地裁から家裁へ機動的にシフトすることで基本的には体制整備を組めるのではないかと考えております。

 また、年度途中で事件数が急増した場合にどうするかということでございますが、年度当初に認めていただいた増員分に加えまして、既存の人的体制の中で内部努力も含めて機動的に対応していくことになると思いますが、いずれにしましても、地家裁における事件処理状況等も踏まえまして、家裁において適切に人事訴訟の審理に対応できる人的体制の整備に努めてまいりたいと考えております。

井上哲士君

 調査官の三十人増員というお話がありました。この家裁調査官は、裁判所の中でも家裁にだけ配置をされている職種で、人間関係諸科学の専門的知識を背景に幅広い職務を行っておられます。

 私もこの現職の調査官が書かれた、「わたしは家裁調査官」、それから、「「非行は」語る」家裁調査官の事件ファイルという、二冊ほど勉強させていただきましたけれども、この様々な生い立ちを持った少年たち、そしてその家族への長期の継続的な人間的交わりを通した調査で、少年事件の、起こした少年にとって最善の処遇を考える、非常に高度に専門的な仕事だということは非常によく分かりました。話を聞くにも本当に子供の目線までに下がる、一緒にお絵かきをしたり、何が訴えたいかというのを時間を掛けて向き合って尋ねていく、非常に専門性と同時に骨の折れる仕事かと思います。いろんなエピソードに非常に胸が打たれたわけでありますが、この調査官の専門性という点についてはどのように認識をされているんでしょうか。

最高裁判所長官代理者(山崎恒君)

 委員、今御指摘いただきましたように、家庭裁判所調査官、家裁におきまして家事事件、少年事件の両方に関与して、少年の更生を図るためにどのような処遇が適切か、あるいは家事事件の紛争解決のためにどのような援助、調整が必要かということを考えて調査等に当たっているわけでございます。

 そして、そういう家裁調査官になるためには、心理学、社会学、教育学、社会福祉学等を専攻して人間関係諸科学の専門家としての研さんを積んだ者がなっておりますので、その活躍というものは家裁にとってなくてはならないものでございますので、いろいろな事件においてその専門性を生かした働きができるように働いていただいていると認識しております。

井上哲士君

 今回の改正案では、この中で家庭裁判所調査官による事実の調査ということが新設で盛り込まれまして、財産分与に関する処分も調査を行うということになります。ただ、こういう事案の特質から見ますと、今申し上げましたような家裁調査官の職種、専門性職種とは異質なものとならざるを得ないんではないかと思うんですね。増員するとはいえ、非常に多忙が問題になっているわけでありますから、こういう専門性とは外れるような新たな職務を行わせるということは問題ではないかと思うんですね。

 家裁調査官については、やはり子の監護ということに関する調査を基本にされるべきだと思うわけですけれども、立法に当たっての法務省の見解、そして運用に当たっての最高裁の見解、それぞれお願いをいたします。

政府参考人(房村精一君)

 今回、人事訴訟を家庭裁判所に移管することに伴いまして、人事訴訟に付随いたします附帯の処分、それから親権者の指定と、こういったものについて事実の調査、これを家庭裁判所調査官に命ずることができるようにいたしたわけでございますが、財産分与につきましても、現在においても審判事項でございますので、財産分与の申立てが単独で家庭裁判所の方に参りますと、審判事項としてそれに関する事実の調査は家庭裁判所の調査官の職務の範囲に入っておりますので、今回特に新たに加えたということではございません。

 どの程度活用するかということは当該裁判体の判断なさることではありますが、それなりに家庭に関する知識、識見、そういうものを非常に高いものを持っている調査官でございますので、財産分与に関しても当然有効に活用できる道はあるのではないかと、こう考えて調査官の調査の対象としたわけでございます。

最高裁判所長官代理者(山崎恒君)

 今、法務当局から御説明がありましたように、現在も財産分与及び子の監護に関する処分等両方に家裁調査官関与をしているわけでございますが、やはり調査官の専門性が一番発揮できる分野というのは、委員御指摘のとおり、財産分与というような財産的な問題よりも、子の監護等の、子の福祉に関する事項だと思います。今後とも、人訴移管に伴いましての家裁調査官の関与もその方が中心になって運用されていくものと考えております。

井上哲士君

 家裁調査官の本当の専門性に沿った運用がされますことを強く求めておきますし、この人事訴訟が家裁でも行われることによりまして、調停が拙速に打ち切られて家裁の特質が失われるのではないか、こういう懸念の声も聞きますけれども、こういうことがないようにこの特性を生かした運用がされることを改めて強く求めまして、質問を終わります。


井上哲士君

 日本共産党を代表して、裁判迅速化法案、民事訴訟法等改正案に反対、人事訴訟法案に賛成の討論を行います。

 まず、裁判迅速化法案についてです。

 反対理由の第一は、裁判の長期化の克服のための具体的な方策を取ることなく裁判の審理期間の具体的数字目標を設定することになれば、迅速化の名の下に拙速な裁判を国民に押し付けることになり、裁判の命である真実の発見がないがしろにされ、裁判の公正、公平、適正を犠牲にしかねないからであります。これでは、刑事事件にあっては冤罪のおそれ、民事事件にあっては正当な権利の救済が害されるおそれが生じることになり、認められるものではありません。

 今求められていることは、裁判の人的・物的充実や証拠が偏在している事件の問題を解決するための挙証責任の転換、証拠収集手続の抜本的改善、検察官手持ち証拠の全面開示、取調べ過程の可視化などを進めることであります。

 反対理由の第二は、迅速化法案によって予定されている最高裁判所による検証が、憲法で保障されている裁判官の独立を侵害する危険があることです。現に、最高裁が、二年を超える刑事未済事件について、個々の裁判官、裁判体の認識にまで踏み込んだ調査を行っていることが審議の中で明らかになりました。これは、外形的、客観的な事実の調査にとどめるとしていた最高裁の説明を明らかに逸脱した調査であります。人事権を握っている最高裁事務総局が未済事件を対象としてこういった調査を行うことは、裁判官の独立を侵害するのみならず、個々の裁判官が萎縮してしまい、裁判迅速化のために必要な証拠調べを行わないなど、裁判の拙速化、粗雑化が進むことは明白であります。

 なお、衆議院において修正をされましたが、本案のこれらの問題を本質的に解決するものではありません。

 次に、民事訴訟法等改正案についてです。

 反対の理由の第一は、審理計画、攻撃防御方法の提出期間、時機に後れた攻撃防御方法の却下の制度を創設することで、迅速化ばかりが強調されてしまい、裁判の拙速化、粗雑化が進み、裁判の公平性、真実発見の要請を害するおそれがあることです。遅延している民事訴訟の多くは、労働事件、公害事件、薬害事件など、国や大企業などを被告とし、証拠が偏在をしている訴訟であります。この問題の根本的解決のためには、証拠収集手続の抜本的改善や挙証責任の転換などが必要です。

 反対の理由の第二は、本法案で創設される専門委員の中立公平性が保障されていないことであります。また、当事者が専門委員の意見を直接弾劾できないことも問題です。さらに、専門委員の選任をもって裁判所が鑑定の採用に消極的になるおそれも指摘されております。

 以上、反対の理由を申し述べまして、討論を終わります。


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