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井上哲士ONLINE
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2003年7月15 日

法務委員会
司法制度改革関連一括法案 参考人質疑

  • 公的弁護制度の運営主体に関する問題、外国人弁護士による単独雇用に関する問題、非常勤裁判官制度などについて質問。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 まず、簡易裁判所の事物管轄の引上げについてお尋ねをします。

 これ、通告していないんですが、参考人の意見に基づいてまず一点お聞きするんですが、土屋参考人からも軍司参考人からも少し疑問の声が出ておりました。

 その中で、例えば土屋参考人は、やはり簡裁の特質を生かす場合に重くなり過ぎないようにする必要があると。事件の総件数の三分の一ぐらいで制度設計されているものと承知していると、こういうことも言われました。

 軍司参考人からは、昭和二十九年以降の簡裁と地裁の事件比率の推移が出されまして、一番簡裁の事件の取扱いが少なかったのが昭和四十四年の三一・三%、その翌年の昭和四十五年にこの事物引上げの法改正が行われたと。そういうグラフをいただきますと、実は、平成十三年というのは、簡裁の扱いは六六・五%で、昭和二十九年以降最も多い状況になっているわけですね。

 そういう事態の下で、なぜこの百四十万なのかと、こういう参考人の御意見が二つ出ました。この点、まずいかがでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 この点、端的に申し上げれば、国民のアクセスの利便も考えなければならないという点がポイントだろうと思います。

 物価等経済情勢が変わりますと、それまで簡易裁判所でできていた事件が、結局、同じ程度のものが、単位が上がりますから、地方裁判所で行うということになってくるわけでございます。そうなった場合に、近くの住民の方が地方裁判所まで行かなければならないか簡易裁判所で裁判ができるかということになるわけでございます。そういう観点から順次見直しをしているわけでございます。

 今回も、そういう観点から、まずいろいろな経済指標がございますが、その経済指標を参考にしながら、その分、上がっている分、その範囲内でどういうような位置付けをするかというふうに考えたわけでございます。この点は、じゃ、その経済指標の範囲内ならどこでもいいのかということでございますけれども、そうはならないわけでございまして、今度、逆に、それによって簡易に迅速に裁判を行うという簡易裁判所の特質が失われては困ると、こういう要素もあるわけでございます。

 この二つの要素を勘案いたしまして、今回、百四十万にいたしますと七〇%ちょっとを超える形になるかと思いますけれども、全体の金銭債権の比率とか、そういうものを考えた場合に、この百四十万円ならばその性格を変えないでやっていけるだろう、こういう判断をして百四十万という数字にしたわけでございます。

井上哲士君

 事件の内容にむしろ着目をしているということなんだと思うんですが、しかし簡裁の特質は生かしていかなくてはならないということでありました。

 そうしますと、現行制度では不動産を目的とする訴訟については、この訴額算定の基準になる固定資産の評価額が時価と相当隔たっているということもあります。不動産の実質的な価額が相当高額で、内容的にも複雑な事件もある。これらの事件はなかなか簡裁になじまないものも少なくないと思うんですが、これは運用上どういう配慮がされていくんでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 現在でも法がございまして、不動産については簡易裁判所でも地方裁判所でもどちらでも競合管轄を持つという建前になっております。現実の動向を見ておりますと、不動産の事件の大体七割は地方裁判所に訴えが提起されているという実態でございます。

 今後につきましても、いろいろ周知徹底をいたしまして、やはり複雑な要素を持つ不動産事件、こういうものについてはなるべく地方裁判所の方で提起をされるような周知徹底、それからもう一つは訴えられた後、その移送の規定、これの活用等、こういうことで支障のないようにやっていただきたいと、そういうことを考えております。

井上哲士君

 簡易裁判所は、現在でも二〇〇〇年に導入されました特定調停で増加の一途をたどる事件処理に忙殺をされているという現状があります。この事物管轄の引上げに伴って地裁から事件がシフトしてくる、それに合わせて人の体制もシフトをすると、こういう答弁が衆議院でもされておりますが、やはりそれだけでは不十分だと思うんですね。簡裁が使いやすくなることによって事件数の増大が予想されるのが一点。それから、少額訴訟の上限引上げなどもありました。本人訴訟なども増えていくということになりますと、非常に窓口業務というのが重要になってくると思います。そういう事件数の増大、窓口業務の重要性の増大と、こういうことにも対応した増員についても考えられているんでしょうか。

最高裁判所長官代理者(中山隆夫君)

 お答え申し上げます。

 基本的には、今、委員御指摘のとおり、地裁から簡裁へ事件がシフトするわけでございますから、そこの部分で機動的配置をすればまずは足りるというふうに考えておりますし、また少額訴訟につきましては、今回、六十万円ということにもう既に法改正あったわけでございますけれども、実は裁判所の方では市民型の紛争はできる限り少額訴訟と同じような手続でやっていこうということで、ここ数年やってきております。そういう意味では、準少額訴訟手続というふうに勝手に名前を付けまして運用をしてきており、もうある程度そこの部分は先取りをしているというところもございます。

  〔委員長退席、理事荒木清寛君着席〕

 したがって、その辺り考えていけば、まず対応できるかなと思いますけれども、今御指摘いただいたように、制度の趣旨というものが徹底するに従って事件の掘り起こしも進みましょうし、そういうような中で、今現在、簡裁の平均審理期間、二か月でございますけれども、これが延びてきてミニ地裁化するというようなことになればこれは大問題であると、こういうふうに思っておりますので、そこのところはきちんと検証しながら、更なる人的体制の充実に努めてまいりたいと考えております。

井上哲士君

 今回の法改正全体として、この司法アクセスの拡充ということが大きな柱になっておりますが、そのためにはこの制度面の整備とともに、今も簡裁で申し上げましたけれども、人的・物的体制の拡充ということは不可欠だと思います。特に、司法過疎の解決というのは非常に重要だと思うんですが、まず弁護士の問題についてお聞きをします。

 都市部に集中をする一方で、いわゆる弁護士が、地裁がありながらゼロないし一名というゼロワン地域が全国で六十か所ある。いわゆる悪徳商法とかやみ金融、この被害というのはこのゼロワン地域で非常に多いという話もあるんですね。

 日弁連は、この問題でいわゆるひまわり基金による公的事務所を十数か所設置をして、この過疎の解決の努力もされているわけですが、やはり日弁連だけの努力では限界があります。一人一万二千円の拠出をされているそうでありますが、一つの事件を同じ事務所でやるのはやはり具合が悪い。そうしますと、二か所以上の事務所が必要になってくるわけで、今後、数十か所の事務所設置ということも必要になってくる。こうなりますと、やはり国の責任で司法アクセスの拡充という観点から解決をすべきことだと思います。

 こういう全体の司法アクセスの拡充、このことへの国の責務と、そしてその中での弁護士過疎の対策というのはどういうふうに位置付けられているでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 ただいま御指摘の点、大変重要な問題だろうというふうに私ども認識しております。

 過日、私どもの本部にございます、で行いました有識者懇談会でこの司法ネットの問題を議論いたしました。これにつきましては過疎地域の公設事務所に勤められた方あるいはその県の知事等、四人の地方の方、お呼びいたしまして、お伺いしました。その中でやはりショッキングだったのは、本当に弁護士が一人もいないところは、本当にアウトローの草刈り場になっているという御指摘でございまして、これは私も本当にショックを感じました。それからもう一点は、ニーズは掘り起こせばあるんだと、掘り起こすというよりも、もうあるんだけれども、現実に弁護士がいないということから眠っちゃっていると、こういう認識でございます。

 これを、事は大変重要な問題でございまして、日弁連も公設事務所を設けて御努力されている、それも私ども評価したいと思いますが、やはり限度はあるだろうということでございまして、そういうことから現在、私ども、本部において、国民が気軽に全国のどこの町でも法律上のトラブルの解決に必要な情報あるいはサービスですね、この提供が受けられるような司法ネットの整備ということを今鋭意検討中でございまして、まだ具体的にどのような姿でということを、新聞記事等にはいろいろ上がっておりますけれども、まだそこまで具体的に固まっているわけではございませんけれども、今鋭意検討して、可能であれば来年の通常国会には御承認を得たいというようなことを考えております。

井上哲士君

 報道によりますと、そういう司法ネットの大きな位置を占めるリーガルサービスセンター構想などというものも報道がされております。こういう新たな何らかの組織ができるということになると思うんですが、その運営について基本的な考え方をただしておきたいんです。

 推進本部の公的弁護制度検討会が新たな公的弁護制度の運営主体を独立行政法人にすることで一致をしたと、こういう報道がされました。そして、この立行政法人が、公的弁護のほか、犯罪被害者の支援や民事事件を含む法律相談業務を扱う、そして刑事、民事一体型の総合的な司法サービスを展開すべきだとの意見も多かったと、こういう報道がされました。

 これがこのリーガルサービスセンターというものにつながっていくのかなと思うわけでありますが、やはり組織として国からの独立ということが保障される必要があります。公的弁護の場合、相手が国になるということもあるわけでありますから、そういう、今後、組織形態としてはいろいろ考えられるといたしましても、そういう国からの運営上の独立ということについてはどのような検討がされているでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 私どもの検討会の議論、いろいろ報道にも載っておりますけれども、そういう議論がされたということで、決まったということではございません。

 ただ、その考え方として、どういう法人になるかは別として、やはりその法人の問題と個々の事件の問題、これは分けなければならないところでございまして、個々の事件にいろいろな影響を与えるというふうなことは避けるべきでありまして、これはやっぱり独立にやっていただくと、こういうような構成にしていかなければならないということは十分に意識をしております。

井上哲士君

 例えば、独立行政法人になりますと、法人役員の人事とか中期目標の設定という形で国が関与するということになります。ですから、例えば長の任命を、これは主務大臣の任命になるわけでありますけれども、公正中立な第三者機関に人選を任すであるとか、それから評価委員会の制定に、選定も弁護士会とか消費者団体の代表を含めるであるとか、こういういろんな形をして、組織の運営の独立、それから個々の弁護士の裁判活動についても独立が確保されるということがこれは絶対不可欠だと思いますので、改めてそれを求めておきます。

 その上で、弁護士過疎の問題以上に深刻とも言えるのが裁判官、それから検察官の過疎という問題です。裁判官が常駐しない地裁支部、家裁支部、出張所、簡裁、月一、二回しか裁判官が来ないというところも例外ではありません。裁判官が常駐しないので弁論期日がなかなか入らないと、場合によっては二、三か月後しか入らない、こういうところもあります。

 北海道を見ますと、裁判官もゼロ、弁護士もゼロ、検事もゼロ、この三重苦のところが函館の地裁の江差支部、旭川地裁の名寄支部、旭川地裁の留萌支部、それから釧路地裁の根室支部、四つあります。

 こういう状況というのを最高裁としてはどのように認識をされているでしょうか。

最高裁判所長官代理者(中山隆夫君)

 非常駐支部、今お話があったとおりでございますけれども、例えば今出ましたところですと、名寄支部辺りですと、裁判官一人当たりの件数の五分の一程度しか事件がないというような状況であります。そうしますると、そこに裁判官を常駐しているということで、あとは一体、例えば月曜から金曜までの間、月曜仕事すれば火曜から金曜がなくなってしまうと、こういうようなことでございまして、やはり裁判所が税金で賄われているという公的機関である以上は、その辺、効率性というものも考えなければならないだろうと思います。

 さはさりながら、今御指摘のような問題点が本当に出てまいりまして、例えば審理期間が非常に長くなってきたというようなこと、そういった病理現象が出てくれば、またそれはきちんと対応しなければならないと思っております。

 そういう意味で、全国的規模のところで恐縮でございますが、例えば地裁の平均審理期間、民事ですと八・五か月、刑事ですと三・三か月でありますが、これが非常駐支部の場合には、民事で九・四か月、刑事ではむしろ平均審理期間、より短くて二・九か月というようなところになっており、いずれもそれほどの問題が生じているというふうには考えておりません。

 今後とも、その辺り、各庁ごとに状況がどうかということを見守りつつ、適正な対処をしてまいりたいと思っております。

井上哲士君

 先ほどもありましたように、実際にはニーズがある、そしてアウトローと言われましたけれども、いろんなやみ金などの草刈り場になっているということもあるわけでありまして、今現状がそうだからということではなくて、やはり国民の司法サービスにどうこたえるかということでの検討が要るかと思うんです。

 日弁連はこの「裁判官増員マップ」というのと、それから検察、「検事増員マップ」というのを作られて、それぞれの支部ごとにどんだけ増やすかということもかなり具体的に出されております。これを見ましても、検察官のいないところが非常にもう大変深刻でありまして、検事の常駐しない検察庁の支部、副検事の常駐しない区検というのもたくさんあります。交通事故による業務上過失致死事件が一年以上遅延するという事態があるとか、これは徳島では、副検事が行ってもない事情聴取を行ったかのように装って検察官調書を捏造したという事件がありましたが、これなどの背景にはやはり検察官不足ということも指摘をされております。

 こういう現状についての法務省としての認識。そして、このマップの中では、例えば島根県でいいますと、簡裁判事の兼任の解消とともに、これは益田か浜田のどちらかに一人、検事を置いてください、まあささやかな要求だと思うんですね。こういう司法過疎の解消という見地から、現状をどう考え、どう改善をされようとしているのか、その点をお願いします。

政府参考人(樋渡利秋君)

 検察当局におきましては、検察官の常駐しない支部や区検の運営に腐心しているところでございます。例えば、警察からの事件相談も日常これ受けるというようなことも大事なことでございますし、また関係諸機関との連絡を協調することも事件処理の円滑処理に資するばかりか、治安対策そのものにとっても必要だと、必要なところがあるんだろうというふうに思うわけなんでございますが、ただ、いかんせん、今の現状で見ますと、本庁の事件数と比較しましても、本庁から人を削るわけにもいかないというような事情もこれございます。

 しかしながら、そういうふうに腐心はしておるところでございますけれども、事件処理という観点から見ますと、そのような事情があっても事件処理が滞ることが許されるわけではございませんで、そういうことがないように、各支部、区検の実情を考慮して、本庁所属の検事等から担当者を選び、各支部、区検の受理事件数等の業務量を勘案して、適宜の頻度で検察官を各支部、区検に赴かせて執務させるなど、所要の体制を組んで適正に対処をしているものと承知しております。

 今後、いろいろな事件数のあんばい等を見ながら、また適切な人事の配置ができるように努力をしてまいりたいというふうに考えておるところでございます。

井上哲士君

 終わります。


井上哲士君

 私は、日本共産党を代表して、司法制度改革のための裁判所法等改正案に対し、反対の討論を行います。

 反対の第一の理由は、本改正案の弁護士資格特例の要件緩和は、現行法曹養成制度の根幹である司法試験合格、司法修習終了という資格条件の例外を安易に拡大するものであり、多様化の名の下に国会議員、特任検事、企業法務担当者らに弁護士資格を付与することは、司法修習の形骸化を進めるばかりか、これから立ち上がろうとしている法科大学院によるプロセスによる法曹養成の理念にも真っ向から矛盾するものだからです。

 国会議員等に形だけの研修を課すという修正も、法案の本質を変えるものではなく、お手盛りという国民からの批判を免れるものではありません。

 中でも、特任検事に司法試験、司法修習抜きで弁護士資格を与えることは重大です。合理的理由が全くないばかりか、民事について十分な知識があるとは言えず、また刑事についても検察側の視点でしか職務を行ってきておりません。幅広い人権意識を身に付ける訓練を行っていない者に弁護士資格を付与することは到底認められるものではありません。

 反対の第二の理由は、外国法事務弁護士に対して日本法弁護士を雇用できるように改めることにより、日本の法廷にアメリカの営利第一主義の法理を持ち込み、日本弁護士の自立をも脅かし、弁護士法の理念にも影響を及ぼしかねないからであります。

 日本の弁護士のみに与えられた法律事務に関しては、雇用主たる外国法事務弁護士といえども干渉してはならないとしていますが、現行の共同関係と違って、雇用関係になった場合に不干渉が守られる保障はありません。

 日本弁護士を雇用しようとしている外国法事務弁護士は、アメリカの数百人、数千人という弁護士を抱えた巨大ローファームであり、アメリカの多国籍企業の海外での収奪を支える仕事を専らにする巨大法律会計企業であり、これらの本格的な日本への進出に道を開くものであり、到底認められません。

 なお、非常勤裁判官制度の創設、弁護士の綱紀・懲戒手続の整備は、司法の国民的基盤の強化につながるものであり、賛成です。

 また、簡裁事物管轄の百四十万円への拡大は簡裁の人的基盤の充実が、さらに弁護士の営利業務従事制限の緩和は弁護士の社会的使命の強化などがそれぞれ欠くべからざる前提であることを付言しておきます。

 以上、本法案は、若干の改善点はあるものの、弁護士資格の要件緩和と外弁法改正により、日本の裁判制度と弁護士制度を基本的人権の擁護と社会正義の実現から営利追求第一に変質させかねない改悪部分が顕著であり、全体としては反対の態度を表明をし、討論を終わります。


井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。今日は、まず、性同一性障害の特例法に関して質問をいたします。

 先日、当委員会の全会一致で、そして委員長提案という形で性同一性障害者の性別の取扱いに関する特例法が提出をされ、全会一致で衆参両院で可決をし、成立をいたしました。当事者にとっても第一歩でありますし、今後の様々な施策の向上につなげていきたいと思っております。約一年後にこの法が施行されるわけですが、この法律が一人でも多くの当事者に適用されていくように、運用について幾つか今日はただしたいと思います。

 まず、法務省にお尋ねをします。

 この法律の第三条一項で、性別の取扱いの変更の申立てをできる当事者の要件が記されておりますが、第三号、「現に子がいないこと。」という要件があります。民法上、子がいないことということになるわけでありますが、これは一般的にはどういうふうに解釈をされることになるんでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 民法上の子には、実子と、それから養子も含まれるわけでありますが、この「現に子がいないこと。」というのは、実子、民法上の実子あるいは養子、そのいずれもがいないということを意味するという具合に考えております。

井上哲士君

 例えば婚姻外で生まれた子で認知をしていない場合とかいろんなケースがあると思うんですが、もう少し詳しくお願いします。

政府参考人(房村精一君)

 婚姻外で生まれた子供との父子関係は認知によって生じますので、認知以前、認知をしていないものについては親子関係は民法上ありませんので、そういう場合には子があるとは法律上は言えません。

井上哲士君

 例えば過去に出産をした子が不幸にも死亡している場合、こういうことはどうなりますか。

政府参考人(房村精一君)

 現に子がいないということでございますので、過去に子がいても、その審判を申請をする時点において死亡等で既に存在しなくなっている場合には子がいないという場合に該当いたします。

井上哲士君

 子供がいないことというのを要件としている法律は他国には例がないということで、関係者からも是非この項は外してほしいという要望も随分ございました。施行三年後の見直しということになるわけで、この点で、そのときに是非、必ず削除をしてほしいという声も随分強いものがあります。国際水準の法律にしていくという点で、この点は議員立法であるという経緯からも、私ども国会議員に大きな責任があるということを確認をしておきたいと思います。

 今後、戸籍法の施行規則が作られるわけですが、この法律に基づく審判によって戸籍の性別変更がなされた場合に、当事者は新戸籍を編さんするということになります。新戸籍と旧戸籍との関連、それから身分事項への記載などについて、一目瞭然で性同一性障害で性別を変えたとかそういうことが分かるような形になりますと、当事者のプライバシー上も随分問題があると思いますが、その辺の観点からの慎重な対応が必要かと思うんですが、そこはどうされるんでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 御指摘のように、戸籍の記載方法についても、プライバシー等にも配慮した記載方法が必要だろうと思います。

 そこで、原則として、この審判を受けて性別の変更をする方については、新戸籍を編製する、そして従前の戸籍から除籍をする際に、身分事項欄の記載の仕方としては、性別変更であるとか性同一性障害という表記は用いずに、法律第何号の第三条による裁判確定というような抽象的な記載にするということを考えております。

井上哲士君

 この法律は、当事者がメディアを通じて立法の必要性を訴えたり、またそれを受けて非常に短期間で議員立法で作られたということから、大変話題にもなり、可決、成立の際にもメディアで大きく取り上げられました。その点では、短期間のうちにこういう問題があるんだということが国民の中にある程度認識になったということは大変大きいことだと思いますが、実際には地方自治体の担当者の方などが携わるわけで、やはり法施行に向けて、スムーズに運用されるような、そういう戸籍事務担当者への周知徹底が重要かと思いますけれども、その点はいかがでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 御指摘のように従来ない扱いでございますので、適切な対応ができるように十分周知徹底を図ってまいりたいと考えております。

井上哲士君

 それは具体的にはどこがやることになるんでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 この問題について所掌しておりますのは、法務省民事局の民事第一課というところが所掌しておりますので、そこで各法務局に通達等を出して、各法務局から市町村に連絡をして、その事務処理を適切に行っていただくようにする、こういうことになります。

井上哲士君

 次に、最高裁にお聞きをいたします。

 この審判手続で性別変更が認められた場合に、戸籍変更というのはどういう手順で行われることになるんでしょうか。

最高裁判所長官代理者(山崎恒君)

 この法律におきましては、当事者の負担などを考えまして、当事者に対して届出義務が定められなかったというふうに認識しておりますので、家庭裁判所が性別の取扱いの変更の審判をした場合には、速やかに戸籍事務を管掌する者へお知らせできるように考えていきたいと思います。

井上哲士君

 当事者が、こういう審判が受けましたということでそれぞれに自治体の窓口に行ったりする、そういう必要はないような仕組みになると、こういうことでよろしいでしょうか。

最高裁判所長官代理者(山崎恒君)

 具体的には、恐らく今後の手続は最高裁規則で具体的なものを定められると思うんですが、裁判所書記官が直接、戸籍事務を管掌する者に戸籍記載の嘱託手続をするというような方向で検討されるものと思います。

井上哲士君

 是非、当事者の負担にならないような形での対応を求めたいと思います。

 次に、厚生労働省にお聞きをいたします。

 この法の第三条の二項で、性別変更の請求をする際は、性同一性障害に係る第二条の結果並びに治療の経過及び結果その他の厚生労働省令で定める事項が記載された医師の診断書を提出しなければならないと、こうされておりますが、この厚生労働省令に盛り込むべき内容の検討はどのようになっているでしょうか。

政府参考人(上田茂君)

 お答えいたします。

 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律第三条第二項においては、性別の取扱いの変更の審判を請求するに当たっては「厚生労働省令で定める事項が記載された医師の診断書を提出しなければならない。」こととされております。この厚生労働省令で定めることとされていますこの事項については、性同一性障害に関する診断結果や、治療経過及びその結果のほか、患者の生育歴や性染色体検査、ホルモン検査等の項目を想定しておりまして、今後、専門家からの意見をも参考にしつつ検討してまいりたいというふうに考えております。

井上哲士君

 この法三条の一項の第五号、「他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。」、こういう条文になっておりますが、当初、自民党内で検討されていた骨子案などを見させていただきますと、その身体の一部として、外見上、他の性別に係る性器に近似するものであることと、こういうような記述でありました。ですから、法律になった段階では非常に大きく解釈をして対象者を幅広くできるような書きぶりになっております。

 女性から男性へ性別適合手術を行った当事者の中には、第二段階の手術後に外性器が壊死をして第一段階の手術時の外性器のみという人も少なくないというふうにお聞きをしています。しかし、こういう人も性適合手術については行っているわけでありまして、この性器に係る部分に近似する外観を備えるというところがどう判断されるのかということがこの審判に大きくかかわってくるわけです。

 裁判官がその点の判断がしっかりできるように、治療の経過及び結果等については、こういう手術のいろんな経過についてもたくさんのやはり情報が盛り込まれるべきだと思うんですが、その点の配慮はいかがでしょうか。

政府参考人(上田茂君)

 この法律に規定します「他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観」につきましては、厚生労働省令におきましては、診断書に記載すべき事項の一つとして、治療歴、治療の経過及びその結果、この項目を記載させることを想定しておりまして、現時点では、先ほど申し上げました「他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観」、このことにつきましては、その詳細を規定することについては考えておりません。

井上哲士君

 詳細にというのは、そういう経過について、よく裁判官が判断できるような経過がしっかり記述をされるような配慮をしてほしいということですので、この点、改めて求めておきます。

 現在、性別適合手術を行っているのは埼玉医大と岡山大学の二か所です。カウンセリングだけなら他の精神科医も対応しているということですが、それにしても、この性同一性障害の問題を的確に扱うことができる専門医が非常に限定的だということをお聞きをしています。そのために、例えばカウンセリングのために北海道から月一回飛行機で埼玉医大に通うとか、そういう当事者もいらっしゃると。せめて対応できる医療機関が、北海道に一か所、東北に一か所とか、ブロックごとに一か所ぐらい設置をできないものかと、こういう強い要望もあるんですけれども、この点、厚生労働省としての対応はいかがでしょうか。

政府参考人(上田茂君)

 今回の法律につきましては、この問題に造詣の深い国会議員の先生方が関係各方面の御意見を伺いつつ立法作業を行ったものというふうに認識しております。私ども厚生労働省といたしましては、このような立法背景や関係者の御要望を踏まえつつ、まずはこの法律の円滑な施行を図っていきたいというふうに考えております。

 この法律の施行を受けて、今後、性同一性障害をめぐる状況は随時変化していくものというふうに考えられます。そうした中で、ただいま先生御指摘の点も含めましたそういった実態把握の必要性が生じた場合には、関係学会等通じながら適宜そのような情報収集を図ってまいりたいというふうに考えております。

井上哲士君

 今、情報収集のことも御答弁があったんですが、この障害を持つ当事者につきましては、専門家の論文などを見ますと最大七千人くらいではないか、という症例もあるのではないかと、こういう指摘もございます。その中では、ホルモン治療だけ希望する方もいらっしゃるでしょうし、性別適合手術まで行った、そういう当事者もいらっしゃると。

 問題は、そういう症例の当事者がどのくらいいて、治療へのアクセスがどうなっているのか、その問題はないのか、治療の期間や費用がどれくらいか、こういう実情をだれもやはり現状ではつかんでいないことです。先ほど述べたような遠方からのカウンセリングに通う当事者もいるわけで、非常に交通費だけでもかさむわけですね。そういう点で、この法律が成立したという新しい事態にかんがみて様々な実態を是非厚生労働省として把握をしていただきたいんです。例えば、医療機関の協力を得まして、そこで受診をしたり現に受診している当事者の了解を得るような形で、もちろんプライバシーにしっかり配慮をしながら調査をするという方法もあると思うんですね。

 そういう当事者の実情、抱えている困難、要望などの調査をまず私は着手をしていただきたいと思うんですけれども、改めていかがでしょうか。

政府参考人(上田茂君)

 先ほども申し上げましたが、まず円滑な施行を図ってまいるとともに、ただいま先生御指摘ございましたいろんな課題につきまして、関係学会等、専門家等、あるいはこういった医療の関係者の御意見なども伺いながら、適宜その情報収集を今後とも図ってまいりたいというふうに考えております。

井上哲士君

 三年後にしっかりとした見直しをするという点からいっても、それからやはり円滑な施行をするという点からいっても、これは是非着手をしていただきたいと思います。

 次に、この治療費への保険適用の問題ですが、ホルモン療法は手術するしないにかかわらず一生続ける必要があります。当事者から聞きますと、この費用は自由診療ですので五千円ぐらいから万単位まで言わば医者の言い値になるとお聞きをいたしましたし、きちっとしたクリニックも余りないということがあります。これは非常に手術をしない多くの当事者にもかかわるものでありまして、是非保険適用が望まれるものです。

 昨年の十一月の当委員会でも同僚委員からの質問があったわけでありますが、その際、薬事法上、ホルモン剤が性同一性障害に対する治療薬として効能を有しないということなので保険適用は認められないと、こういう答弁がされておりますが、こういう法律が新しくできたという時点でこれは是非再検討していただきたいんですけれども、現在でもこういうお考えでしょうか。

政府参考人(阿曽沼慎司君)

 お答えをいたします。

 性同一障害に対する治療でございますけれども、現在、日本精神神経学会の性同一障害に関する診断と治療のガイドラインというものがございまして、それに基づきまして実施をされているというふうに承知をいたしております。このガイドラインでございますが、精神療法を第一段階といたしまして、第二段階にホルモン療法、手術療法が第三段階ということでございます。

 精神療法につきましては、医師が一定の治療計画の下に危機の介入あるいは社会適応能力の向上を図るために指示とか助言などを継続的に行った場合には保険適用が認められているというところでございます。

 第二段階でございますホルモン療法につきましては、今、先生御指摘ございましたけれども、現在のところ、ホルモン剤が性同一障害に対する効能について薬事法における承認を受けておりません。そういうことでございますので、ホルモン療法の保険適用は今のところ認められていないというところでございます。

井上哲士君

 保険適用は申請主義ででして、製薬会社の申請によるものなんだという説明もこの間受けたわけでありますが、この種治療で使われているホルモン剤は既に他の治療の疾患の治療には広く使われている薬剤でありますし、現にこのホルモン治療のみで症状の安定をする患者もいらっしゃるわけですから、是非これは適用ができるように御尽力をいただきたいと思います。

 手術についてもお聞きをするんですが、これも当事者に聞きますと、女性から男性への手術で大体五百万、男性から女性への手術で約二百万と、こんな金額もお聞きをいたしました。この点も、法律ができたという、こういう新しい状況の下で保険適用を検討すべきかと思いますが、その点いかがでしょうか。

政府参考人(阿曽沼慎司君)

 先ほど申し上げましたように、性同一障害に対する手術療法でございますけれども、ガイドラインにおきましても第三段階と位置付けられております。

 精神療法やホルモン療法など、ほかの療法による治療が十分にも行われたにもかかわらず、治療効果に限界があるといった場合に実施されるものだという認識をいたしておりますが、これまでの治療経過も踏まえまして、例えば治療上やむを得ない症例かどうか、あるいは手術に用いる術式が適切であったかどうか、あるいは医療機関の倫理委員会の承認があったかどうかなどを総合的に勘案した上で、保険適用について個別に慎重に判断していく必要があるというふうに考えております。

井上哲士君

 いろんな努力で法律ができ、そして社会的なこの障害に対する認知も非常に広がっているという新しい状況の下で、是非一層前向きな対応をお願いをいたします。

 当事者の皆さんが非常に生活上に困難を強いられているのが医療機関への受診です。手術をしていなくてホルモン療法を受けていて外見上は別の性になっていると、しかし保険証の性別記載は従来のままだと。そうしますと、受診をしますと、窓口で男性か女性かをめぐって非常にトラブルになるわけですね。非常に嫌な扱いも受ける。こうしたことから病院に行きたくないということで、例えばこの間よくテレビにも登場されました当事者の虎井まさ衛さんは、風邪を引かないように常にビタミン C とマスクを欠かさないんだということも出ておりました。

 この法律が通ったという新しい時点で、医療機関へのやっぱり周知徹底というのも待ったなしのことだと思うんですね。少なくとも、例えば厚生労働省が所管をするような国立病院などは、窓口に行ってもそういう嫌な思いはしなくても済むというぐらいの窓口への周知徹底は是非まずやっていただきたいと思うんですけれども、その点いかがでしょうか。

政府参考人(冨岡悟君)

 今回の法律制定の趣旨を勘案いたしまして、御指摘のような受付での対応を含めまして、国立病院の職員が性同一性障害について適切に理解し対応できるよう全国の現場に周知徹底してまいりたいと考えます。

井上哲士君

 よろしくお願いいたします。

 中には、窓口のトラブルが嫌で、がんにかかっていたのに受診が遅れて手後れで死亡したと、こういう事例もあるとお聞きをいたしまして、正に命にかかわる実態ですので、これはまずそういうところを率先をして、そして他の公立病院や民間病院などにも広げていくように重ねてお願いをいたします。

 最後に、この問題で総務省にお聞きをします。

 今回の法律で一定の要件に合致した当事者は性別変更を申し立てることができますが、まだまだハードルは高い。その要件を満たさない当事者は随分いると見られます。そういう皆さんが日常生活で非常に苦痛に感じていらっしゃるのが、地方自治体で提出する書類に性別を記載してあると、これが非常に多いという問題です。今、当事者や地方議員の皆さんの運動でこの性別記載にも自治体独自の見直しが始まっております。

 私は草加市の取組をちょっといただいたんですけれども、草加市の場合、様々な申請様式は全体で二千五百三十九あるそうでありますが、そのうち性別欄がある様式は六十一事務二百様式、これを一つ一つ見直しされているんですね。これ全部一覧表で、一つ一つこれが必要なのかどうか、果たして、見直しをされております。そうしますと、その結果、実に六八%に当たる百三十六の様式は性別記載は必要ないということで独自に性別欄を削除されております。残りの三二%、六十四様式は性別欄を残すと。その理由は、生活保護など法令に規定があるもの、それから派遣サービスの登録申請、住民異動届など、市における基本的な登録情報を変更するもの等々、きちっと理由を挙げて残すものは残すというふうにやられますと、実に七割は必要なかったということのわけですね。そのほか鳥取市とか小金井市などなどでも不必要な行政書類の性別欄を見直したということが報道されておりますし、これ以外にもいろんなことが進んでおります。

 総務省として、こういう新しい法律ができた時点でこういう自治体の取組を把握をされているかどうか、そして、やはり一番身近でやっておられるわけでありますから、こういう経験などを情報としていろんな自治体にも流していただきたいと思うんですけれども、その点いかがでしょうか。

政府参考人(畠中誠二郎君)

 お答えいたします。

 先生御指摘の自治体が取り扱う各種申請等につきましてはいろいろなものがございます。まず、国の法律や要領等に基づく事務に係る各種申請等がございまして、この性別欄につきましては、やはりその当該事務を所管する省庁が個別の事務の性質を勘案しまして、申請等の種類の様式とか記載事項を規定することによって性別欄を設けていること、設けることを義務付けること、又は準拠すべきものとして示している場合が多いというふうに承知しております。

 したがいまして、まずはそれぞれの所管省庁がそういう性別欄の記載の必要性を判断し、必要ないということなら削除するということを決めていただいて、その所管省庁がそれを必要なところ、自治体に通知するということが先決ではなかろうかというふうに考えております。

 また、国の法令に基づかない都道府県や市町村の独自事業に係る各種申請等も多うございまして、これらの申請等の性別欄が必要かどうかにつきましては、その当該自治体自らが適切に判断すべきものというふうに考えております。

 したがいまして、総務省が御指摘の自治体の取組を照会するということは、やはりまずは所管省庁で判断していただくことが先決じゃなかろうかということでございまして、性別欄の削除を奨励することにも、私どもが奨励していることにもなりかねないということで、そういう立場になく、私どもが一方的にそういうことをするのは適切ではないんじゃないかというふうに考えております。

 ただ、先生が御指摘のように、草加市等でそういう取組がなされておることは承知しておりまして、もし自治体等からそういう御照会、どういうところでどういう取組がなされているかという御照会があれば、適宜私どもが承知する範囲でそれをお示しするということはあり得るかというふうに考えております。

井上哲士君

 草加市などの取組も、先ほども言いましたように法令上必要なものは残しているんですね。自治体の判断でこれは不必要だというものについては、それはなくすという対応がされているわけでありまして、今の地方分権の時代に総務省からこうやりなさいという指示をしろということではなくて、やはりこういう新しい法律ができたわけでありますから、それにふさわしい情報提供をしっかりしていただきたいという趣旨でありますので、是非、その点重ねて要望をしておきます。

 刑務所問題も是非聞きたいと思っておったんでありますけれども、ちょうど時間になりましたので、是非もう一回こういう場を持っていただきたいことも求めまして、質問を終わります。


井上哲士君

 共産党の井上哲士です。

 この法案は与党の議員立法で、野党は反対なわけでありますけれども、にもかかわらず、今、定足数が足りないという状況、これではちょっと質疑ができません。

委員長(魚住裕一郎君)

 速記を止めてください。

  〔午後四時一分速記中止〕

  〔午後四時十三分速記開始〕

委員長(魚住裕一郎君)

 速記を起こしてください。

  ─────────────

委員長(魚住裕一郎君)

 この際、委員の異動について御報告いたします。

 本日、佐々木知子君及び野間赳君が委員を辞任され、その補欠として脇雅史君及び西銘順志郎君が選任されました。

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委員長(魚住裕一郎君)

 質疑を続行いたします。

井上哲士君

 この法案は与党の議員立法ということで、今日は趣旨説明から質疑までという、この間、法務委員会ではなかった異例な対応をしてほしいという強い要望がある中で質疑が行われているわけでありまして、これは是非きちっとしたやっぱり定足数の下でやっていただくということで改めて求めておきます。

 先ほど、法案提出の在り方についての議論が同僚委員からもありました。私も議員立法というものは非常に大切だと思っておりますし、先ほども本委員会が議員立法で委員長提案をした性同一性障害についても議論をしておりました。あれなどは、役所に任せていたらなかなかできなかった法律だったと思うんです。そういう点では大変重要な役割がある。問題は、そのやり方と中身だと思うんです。特に、商法のような基本法の場合は、その改正については十分なやはり意見を聞き、慎重に行うことが私は必要だと思っております。

 かつては五年に一回の改正が不文律と言われておりましたけれども、九七年以降はほぼ毎年改正がされております。自社株買いのルール変更に限っても、関係の深い法律を含め、九四年以降、七回改正がされておる。

 調査室の資料にも、法制審の委員でもあります岩原東大教授のインタビューが載っております。こういうふうに言われていますね。この間のこの商法改正の作業について、明確な全体像に基づいておらず、継ぎはぎだらけのパッチワークだ。例えば金庫株の解禁では、企業財務や証券市場に与えられた影響について実証研究が必要なのに、法学者を含めて何もなされていない。金庫株解禁は経済界の意向を反映させた議員立法で、法務省の法制審議会で議論ができなかったから、なおさら検証は欠かせないはずだと、こういうふうに述べられております。

 いろんな改正の効果や弊害の検証が必要だと、継ぎはぎだらけの拙速ではいけないと、こういう意見は各界からも私聞くわけでありますけれども、こういう批判について提案者はどういうふうに受け止められているでしょうか。

衆議院議員(太田誠一君)

 どのような法律を作っても、やはりこれはポジティブな面とネガティブな面というのは両方あり得ると思いますし、今段階で、この平成九年以来の商法改正で、明らかに相当数の企業がこれを活用し、去年段階で二兆円から三兆円ぐらいの自社株取得がなされたわけであります。

 そして、それによって、先ほど申し上げましたように資金の配分の再配分ということが行われておりますので、もし、これは一つの側面でありますけれども、どの会社もやらなかったということになれば、これは空振りだったというふうになるわけでありますけれども、十分に活用されているというふうに考えております。また、そのことによって何かデメリットがあったとしても、それが顕在化しているという状態ではないかと思うのであります。

井上哲士君

 商法のような場合に、言わば目先の問題ではなくて先を見据えた改正が必要かと思うんですが、今回、中間配当限度額の計算方法の見直しが行われるわけでありますが、これもやはり前回、言わば継ぎはぎ的な拙速な改正の下での不備が現れたと、こういうふうにはお認めになりませんか。

衆議院議員(太田誠一君)

 平成十三年段階でこの金庫株を解禁をしたときに、私提案者じゃありませんでしたけれども、そのときには極めて慎重な考え方で限度額の計算方法をこういうふうにされたんだと、当時の提案者はそうされたんだと思いますが、その後の様々な起きてきたことに対応するために、そこを手直しをしなければいけないというふうになったわけでございます。

井上哲士君

 先ほどの提案理由でも、現行法では「中間配当ができなくなる事態が生じております。」と、こういうふうに述べられました。

 やはりこれ、調査室の資料にありますが、今年の一月の十六日の日経新聞にこういう記事があります。実は、二〇〇一年六月の改正の際、条文の不備は経団連なども国会審議の途中で見付けていた。だが、手直しをされなかったと。なぜか。「かねて金庫株の解禁を要望していた経団連は、ただでさえ混迷する審議に配当問題が加わり、法案自体が流れることを恐れた。」と、こういう記事が出ておりまして、やはり前回、本来やられるものが十分な議論がなしに提案がなされたということをこの記事は私は示していると思うんです。

 過去、いろんな商法の改正も行われました。ストックオプションも議員立法で提案をされました。当時の提案説明を見ますと、自民党の代表は、「取締役及び使用人の意欲や士気を高め、かつ、優秀な人材確保の有効な手段として、企業の業績向上や国際競争力の増大に資する」と、こう手放しで持ち上げられております。ところが、今日このストックオプションは、まあ言わば本家のアメリカでもエンロン事件などを通じて弊害が指摘をされております。株価至上主義の中で様々な不正に結び付いた、そして一部の経営者への富の偏重が起きたと、こういう指摘がされておるわけですね。そして、本家では見直しが進んでいると、こういう事態についてはどうお考えでしょうか。

衆議院議員(塩崎恭久君)

 今御指摘のアメリカでのストックオプションの問題点については、一つは、どういう付与のやり方をしているのかという問題であり、それからもう一つは、会計上の扱いでこれを費用として計上するかどうかというところで問題になっていることでございます。

 日本の場合には、もう御案内のように、株主総会の決議が必要でありますが、アメリカはそういうものもない中でこういう形になっているわけであって、ストックオプションにまつわる問題というのはありますが、このストックオプションの法律そのものが問題であるということではなくて、今申し上げた付与のやり方と会計が問題に、会計処理の問題であって、日本も今会計処理の問題については同じように費用として計上すべきかどうかということを議論をしているところでありまして、必ずしも議員立法であることによる問題ということではないというふうに思います。

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委員長(魚住裕一郎君)

 この際、委員の異動について御報告いたします。

 本日、浜四津敏子君が委員を辞任され、その補欠として風間昶君が選任されました。

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井上哲士君

 アメリカでの見直しというのは法律の不備だけじゃなくて、このストックオプションという方法自身が言わば株価至上主義を招くという、そういう本質的な問題があるんじゃないか、こういう議論も行われているわけです。

 これが議員立法で日本が導入される当時に「開かれた商法改正手続を求める商法学者声明」というのも二百三十四人の連名で出されました。この委員会でも何度も議論になったことでありますが、当時この中で、ストックオプションを導入するにしても、それに伴い株価操作やインサイダー取引等の弊害が生ずるおそれを少なくするためにはいかなる方法を取るべきか等、国民にオープンな議論がなされていないと、こういう批判がされました。そして、我が国より格段と厳しい制度がしかれていると思われるアメリカにおいても、近時はストックオプションを富の偏在を招く歯止めの利かない報酬制度であるとする指摘も見られると、こういうふうにこの商法学者の声明が述べておったわけで、私はこの今商法の改正ということを見るときに、やはりこういう指摘も含めまして本当にきちっとした議論の上に行われていくことが必要だということを最初に申し述べまして、法案の中身に入りたいと思います。

 それで、まず株主平等の問題でありますが、株主の平等というのはこの株式会社制度の基本原則の一つ、自己株式の取得が一部の株主にだけ払戻しを行うという点で本質的に株主平等に反するものだと思います。今回の改正は、総会権限であった自己株式取得の権限を取締役会にも与えようとするものですが、これまで取締役会決議による株式取得制度が商法に設けられていたのは、親会社が子会社保有の自己株式を取得する場合だったと思いますが、これが株主平等に反しないとされていたのはどういうことでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 御指摘のように、現行法におきまして親会社による子会社保有の自己株式の、取締役会決議によって取得できることとされておりますが、これは子会社による親会社株式の取得は原則として禁止をされておりまして、例外的に株式交換、株式移転、会社分割、合併又は他の会社の営業全部の譲受けなど、例外的に認められているにすぎないわけであります。

 そういう例外的に子会社が親会社の株式を取得した場合に、この親会社の株式を処分するということはなかなか困難な場合が多いと、こういうことから、そういう例外的な事由によって子会社が取得した自己株式についてはその迅速な処理を図ることが必要であると、こういう観点に立ちまして親会社が取締役会決議によって取得をできるとされたものでありまして、このような限定的な場合でございますので、株主平等原則との関係においても大きな問題は生じないとされたものでございます。

井上哲士君

 そういう限定的なものから株主平等の原則には抵触しないということでありますが、今回の定款授権の取締役会決議による自己株式の取得は、株主全員に自己株式取得の決定に参加をする、そういう権利が平等に保障をされておりません。そういう点では手続面での保障が株主平等の最低限のものだと思いますけれども、この最低限のラインがこれによって崩されるんではないか、この点、発議者はいかがでしょうか。

衆議院議員(石井啓一君)

 今回の改正で定款の授権に基づいて取締役会の決議により自己株式を取得するその手法でございますけれども、市場取引又は公開買い付けの方法によるものでございまして、いわゆる特定の株主から相対で取引をするということはできないことだと、こういうふうにされておりますので、このような取得方法による限り、株主平等の原則には反することにはならないというふうに考えております。

井上哲士君

 取締役会によっての、これができるようにするということになりますと、インサイダー取引の可能性が高くなるんじゃないかということが衆議院でも繰り返し指摘をされました。

 取締役会の周辺にいる者が会社の重要な情報を知り得る立場にあって、事前にそれを知って株式を買って後で高く売り抜けて利益を上がる、典型的なインサイダー取引であります。今度の改正で取締役会決議のみで自社株が大量に買えるという仕組みを作ることによって、このインサイダー取引のおそれを広げることになるんではないか、衆議院でもこのような指摘をしておりました。

 そうしますと、今日の審議を待っていたかのように今朝の新聞で一斉にこの問題が報道をされております。

 パソコンメーカーのソーテックの元課長が、インサイダー取引の疑いで横浜地検に告発をされたということでありますが、この人は取締役会の資料作成などを担当する立場、そして、同社が自社株の買い付けを実施するなどの情報を把握をして、二〇〇二年四月から五月に掛け同社の株計五十株を約四百九十四万で購入をし、最終的には二百七十七万円の利益を得たと、こういう事件が今朝報道をされました。正に取締役会の周辺にいる者がインサイダー取引をするという典型的な例が出たわけでありますが、今回のこの改正によってこういう事件がやはり広がるおそれがあるんではないか、この指摘については発議者はどうでしょうか。

衆議院議員(石井啓一君)

 平成十三年の金庫株の導入のときに、いわゆる今の委員の御指摘のございますインサイダー取引を防止する仕組みといたしまして、自己株の取得及び処分を重要事実に含めると、その重要事実を公表した後でなければ自己株の取得、処分はできないと、こういう制度的な担保をさせていただいておりまして、今回の改正案も同様の手続にのっとるものでございます。

 したがいまして、この制度的に、この今回の改正案ができたからといって一概にインサイダー取引が増えるということはないかと思いますけれども、一方でこういった不公正取引を監視するための人員等も含めた体制の整備というのは、これは重要だと思いますので、それは引き続き努力をしていかなければいけないというふうに考えております。

井上哲士君

 取締役会決議のみで買えるようにするということによって、先ほど挙げたような取締役会の周辺にいる者がインサイダー取引をやりやすくなるとかいうこの可能性が広がること、そのこと自身は認められますか。

衆議院議員(石井啓一君)

 いや、それは先ほど答弁させていただいたように、一概にはそのようには言えないというふうに思っております。

衆議院議員(塩崎恭久君)

 これまでの総会決議による自社株買いにおいても、それは枠を決めるわけですから、実際にやるときは取締役会でやっぱり決めるわけですね。そのケースでもやっぱり今おっしゃったような周辺にいる人が知り得るということによってインサイダー取引が起こり得るわけですから、そういう意味では、この仕組み、今度の新しい仕組みでその可能性が高まるというよりは、むしろ今御指摘のようなケースをどう取り締まる体制を作っていくのかという方が大事で、先ほど鈴木先生が御指摘になったような体制作りの方が大事であって、これによってその可能性が高まるということではないんだろうと思います。

井上哲士君

 前回改正のときにもそういう取締りの監視の体制が日本はアメリカに比べて非常に弱いということが繰り返し指摘をされたわけでありまして、今回、こういう新しい改正に伴って私は本来一層強化をするというものが出されるべきだったと思いますけれども、それがないということになりますと、今日こういう事件が報道されているわけでありますが、一層こういうものが広がる可能性が増えたということは指摘をしておきたいと思います。

 次に、最低資本金の規制の問題でちょっとお聞きをいたします。

 商法が株式会社において資本制度を取っているのはなぜなのか、そもそものことをお聞きをいたします。

政府参考人(房村精一君)

 これは、株式会社におきましては、株主は出資の額を限度として会社の債務に対して責任を負う有限責任制が取られておりまして、会社債権者のための責任財産は株式会社が保有する財産に限られているということでございます。

 そこで、株式会社の財産が適切に確保されるようにする必要があることから、株主からの出資を原則として資本に組み入れて会社財産として保有させるというために資本制度が導入されているという理解でございます。

井上哲士君

 要するに、債権者保護のためにこの制度があるわけですね。

 この法定準備金を財源とする金庫株取得が解禁をされたということによりまして資本の払戻しを認めることになったと。これはやはり債権者保護というものが大きく後退をさせられたんではないかと思いますが、発議者いかがでしょうか。

衆議院議員(石井啓一君)

 これは今回の改正というよりも前回の平成十三年のときの金庫株の改正そのもののお話かと存じますけれども。

 法定準備金を自己株取得の財源にするに当たりまして、減資と同様の、例えば無効の訴えの手続等の債権者保護の手続は義務付けておりますので、資本維持の原則が目的としております債権者の保護は守られているというふうに考えております。

井上哲士君

 七月十五日の朝日新聞に、昨年度この自社株買いを実施しなかった三菱商事のコメントが出ておりました。「「自社株買いは株主の利益になるが、資本が減るため債権者にとってはマイナス。格付けにも影響する」と冷めた見方だ。」と、こう書かれておりまして、これは私は見識だなということを思って読みました。

 この問題の関連で質問しておきたいのは、法務省が二〇〇五年の商法大改正に向けて現在作業中ですけれども、報道によりますと、最低資本金に関する規制を完全に撤廃をする方針を固めて、すべての企業は無条件で資本金が一円でも起業できるようにすることを目指すと、こういうふうにされておりますけれども、実際どのような検討が行われているんでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 現在、法制審議会におきまして会社法の現代化のための検討を進めているところでございますが、その中で最低資本金制度の在り方についても検討をしているのは事実でございます。

 また、意見の中には、最低資本金制度についてこれを撤廃すべきであるという意見もございますが、現段階においては、まだ最低資本金の撤廃や引下げの是非等について検討しているところでありまして、その結論が得られている段階ではございません。

井上哲士君

 その議論の中で三つぐらいの案が提示をされているかと思うんですけれども、それはどういう案が提示されているでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 一つは、もちろん撤廃という案も議論の対象でございますが、最低資本金の額を引き下げる、例えば現在株式会社が一千万、有限会社が三百万でございますが、これを三百万程度に下げる、あるいは更に下げるというような、最低資本金制度は存続するけれどもその額を引き下げると、こういう案も検討されているところでございます。

井上哲士君

 要するに、大幅引下げないしは撤廃と、こういう議論になっているわけですね。

 現在、中小企業挑戦支援法で商法の特例として最低資本金規制の適用を五年間猶予しているという例がありますけれども、この最低資本金規制を撤廃、緩和しようというその意見の根拠は一体何なんでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 一つは、今、特例が認められていることからもうかがわれますように、新しく会社を起こす、この妨げに最低資本金がなっているのではないか、ノウハウとかそういったものはあるけれどもお金が今手元にないと、こういうときに、この最低資本金の制約が大きくて新しい企業を起こせない、そういうことによって企業の新規参入が妨げられていると、こういう御指摘がございます。

 それから、企業が取引をする場合に、取引相手として取引をするかどうかを決めるときに一番着目するのは、その企業の財務内容なりその企業の実態であって資本金の額ではないと、こういう意見もございます。

 それから、例えば最低資本金を定めております EU 諸国の中でも、フランスにおいてはその撤廃が検討されているところでございますし、またアメリカにおいては最低資本金は一般に定められておりません。そういった国際的な動向も踏まえた御意見があるものと承知しております。

井上哲士君

 起業の妨げということもありましたけれども、中小企業とか起業家の利用を想定した制度としては合名会社とか合資会社の制度があるわけですね。アメリカではこういうものに対応するパートナーシップとかリミテッドパートナーシップと言われるものがベンチャー企業の形態として活用されていると聞いておりますけれども、最低資本金規制を撤廃じゃなくて、むしろこういう制度を利用するということにはなぜならないんでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 合名会社、合資会社の制度もそれなりの役割はあるわけでございますが、その特質として、社員の全部又は一部が会社債務に対して無限責任を負うものとされております。現在要望されております最低資本金の見直しの意見は、株式会社あるいは有限会社の持っております有限責任性を確保した上でその事業を行うことを容認すべきであると、こういう御意見でございますので、合名会社、合資会社の活用ということでは対応が困難であろうと、こう思っております。

井上哲士君

 今、有限責任性の活用ということが言われましたけれども、やはり日本で株式会社という名前にいろんな無形の信頼があるというのは、結局、有限責任であるために設立に一定の資金が必要だと、これに由来していると思うんですね。ですから、最低資本金制度の引下げ、撤廃ということになりますと、そういう債権者保護のために設けられたこの資本制度というのが事実上機能しなくなるのではないかと思いますけれども、その点はいかがでしょう。

政府参考人(房村精一君)

 御指摘のように、一般に有限会社よりも株式会社の方が社会的な評価が高いということは言えようかと思います。その理由の一つとしては、最低資本金の大小ということも考えられるわけでございますが、しかし平成二年の改正前においては、株式会社において最低資本金制度は設けられておりませんでした。しかし、その段階におきましても、やはり株式会社と有限会社との評価というのは現在とそう大きくは変わらなかったのではないか。そう考えますと、必ずしも最低資本金制度が両者の社会的評価を分ける決定的な要素になっているとは言えないのではないかと。

 有限会社が主として閉鎖的な会社を想定した制度で、公開会社も含む株式会社と比較すると、例えば取締役会や監査役の設置義務、貸借対照表の公告義務の有無、こういった点に差異がある、そういうことも評価の違いの要因になっているのではないか、こう考えております。

井上哲士君

 この最低資本金規制の撤廃というのが報道されて以来、いろんな議論が行われております。

 七月五日の日経に出ていたコラムが大変私は見識だなと思って読んだんですが、こう言っていますよね。「株主が有限責任という特権を享受する株式会社とは、破たん時には大資産家の株主も投資額以上は責任を負わず、取引先や債権者は一家路頭に迷っても仕方ないという、いわば「非倫理性」を内包した制度である。株式会社法の歴史はこの問題との格闘の歴史である。そもそも起業時や順調経営時ばかりを強調してはいけない制度なのだ。」と言った上で、「最低資本金制度は株式会社制度利用者に制度の意味を教える貴重な教育効果もある。一定の「所場代」なしにはじめてはならないシステムだと。最低資本金制度の撤廃が、株主有限責任、債権者保護、資本金規制といった株式会社制度の基本原理を軽視するところに結びついていくとしたら、その弊害は想像を超える。」、こういう指摘でありました。

 こうした、本来の基本原理を軽視するということに結び付いたら弊害は想像を超えると、この指摘についてはいかがお考えでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 先ほども申し上げましたが、現在、法制審議会において最低資本金制度については検討を加えているところでございます。そこにおきましては、廃止ももちろん意見としては出されておりますし、その廃止に伴う弊害を懸念する声もあろうかと思います。

 いずれにいたしましても、法制審議会において十分この最低資本金制度の在り方につきましては御議論をいただいて、それを踏まえて法務省としての考え方を決めていきたい、こう考えております。

委員長(魚住裕一郎君)

 時間ですが。

井上哲士君

 経営者のモラルハザードなどが様々言われている中、それを助長するようなことにならないということを強く求めまして、質問を終わります。


井上哲士君

 今日は、三人の参考人の方、ありがとうございます。

 まず、土屋参考人にお伺いをいたします。

 陳述の中で公的弁護制度のお話がございました。さきの報道によりますと、公的弁護制度の検討会では、この公的弁護制度の運営主体を独立行政法人にしようということでほぼ検討会では意見が一致をしたという報道もございました。この間、国立大学の独立行政法人の法案が通ったわけですが、このときも学問の自由とか大学の自治ということが随分議論になりました。公的弁護の場合は相手が国になるということもあり得るわけですから、かなりやはり組織の在り方などには慎重なものが要るかと思うんですが、そういう独立性の確保といいましょうか、そういう今後立ち上がるであろう公的弁護の運営主体についての考え方を少しお願いをいたします。

参考人(土屋美明君)

 公的弁護については私も自分の意見を検討会の中で述べました。今月の検討会になりますか、そこでは、私は、独立行政法人にするのが一番いいであろうという意見であります。ただし、それには条件がありまして、今、先生御指摘になりましたように、弁護の独立性ですね、自主性、独立性という、そこの言わば弁護活動の生命に当たる部分はきちんと担保される組織にならなければいけないという、そういう条件付であります。

 それで、今、公的弁護の運営主体について最高裁の方からは、中間に中立公正な、ボードという表現が使われていましたけれども、委員会組織のようなものを設けて、そこで、報酬の基準でありますとか契約関係ですとか、そういったいろんなものを扱うことによって公正さを確保しようという提案がなされております。それが一つの案にはなると思うんですけれども、そういういろんな工夫を通じて、個別の弁護活動の中身の問題に干渉するようなことはないように、ただし、不適正弁護ですとか、そういうものに対してはきちんとした対処が行われるように、そういう公正な判断ができる組織を、中立的な組織をかませることによって、独立行政法人としても国の指揮の下に弁護活動が置かれるような事態は回避できるのではないだろうかと。制度設計次第だと思っておるんですけれども、そういうことになるのではないかと私は思っております。

 それで、改めて申し上げることもないかもしれませんが、弁護士会の方からは、独立行政委員会ですとか公益法人に指定法人として担わせるのがいいとか、いろんな意見が出ておりますけれども、そういう選択も一つだろうとは思います。ただ、現在の状況では、独立行政法人方式を取ることによって得られるメリットの方が大きかろうというふうに私は考えまして、そういう主張をしたわけでございます。

井上哲士君

 次に、軍司参考人にお伺いをいたします。

 陳述の中で、いわゆる外弁の単独雇用の問題での懸念のお話がありました。今日は、資料にいわゆるローファームの状況なども入れていただいているわけですけれども、今の現状と、今後単独雇用で予想される懸念、もう少し具体的な点でお伺いをできれば有り難いんですが、いかがでしょうか。

参考人(軍司育雄君)

 お答えいたします。

 私どもの主張は、先ほど申しましたとおり、共同事業で、その共同事業体が日本弁護士を雇用していけば足りるんではないかと、こういう主張をしておったわけですが、単独雇用が入ってしまったというところを懸念している、こういうことです。

 なぜ共同雇用、共同事業体であれば大丈夫かといえば、それは、そこにある程度の経験のある日本弁護士が一枚かむから、その先輩弁護士によって若手弁護士が指導を受けたりすることによって不正常な状態は防がれるであろうと、こう考えたわけです。ところが、単独雇用ということになりますと上下の関係だけになるわけで、業務命令が基本に仕事の上ではなるわけですが、日本法を業務命令によって扱ってはならないんだと、そういう規定が確かに用意されています。しかし、これに対する刑罰の担保などは全くないわけでありますから、つまり、その実効性が心配であるということです。

 そこで、若干具体的に申し上げますと、業務命令はしないけれども、事務所として日本法を扱うような仕事、日本の企業あるいは日本の個人の方から外弁さんが仕事を受けたとする。外弁さんはその仕事をやってはいけないわけです、新法によっても、日本法を扱っちゃいけないんですから。しかし、手元に日本の弁護士がいると。そうすると、その日本弁護士に業務命令でやらせてはいけないけれども、業務命令という形でなくて、これはあなたの個人の仕事としてやりなさいと、例えばですね、こういうことが大いにあり得るわけです。そうしますと、その雇用されている弁護士は個人の仕事としてこれを、この仕事を遂行することができる、裁判所で訴訟活動をすることもできる、日本弁護士ですから、そういうことになってきます。その結果得る報酬がその日本弁護士の手元に名実ともにとどまって、日本弁護士の独立した仕事であるということになれば理屈の上では何も問題ないわけですが、理屈どおりにいくだろうかという心配です。

 外弁事務所としては、先ほど申し上げましたとおり、いろんな名目で、業務命令という形は取らないけれども、そこから経済的なものを吸い上げる、通訳料だとか事務所使用料とか、そういう形で外弁事務所の収益を上げる方向に向かうんではないかということが容易に懸念されると、具体的に申し上げますと、そういうことかと思います。

井上哲士君

 次に、中村参考人にお伺いをいたします。

 去年の司法書士法の改正のときも本当にたくさんいつも傍聴に来ていただきまして、今日もたくさんお見えでありますが。「月報司法書士」なども送っていただいておりますけれども、簡裁の訴訟代理権の獲得、得たということで、非常に熱心な研修などが行われていることも伝わってまいりますし、たくさんの方がこれを受けられたということで、本当に熱意を感じているところです。

 今回、さらに、この事物管轄の引上げということになるわけでありますが、先ほど来の幾つかの質問の中でも、不動産など非常に複雑な事件もその中には含まれて、むしろ地裁でやった方がふさわしいということがあります。裁判所の運用などでこれをひとつ解決していくということもあろうかと思うんですが、皆さん方が仕事を受けられるときに、やはりこれは地裁でやった方がいいんじゃないですかという形での振り分けということもあり得るのかなと思うんですね。むしろ、そこをきちっとした方が、簡裁の持つ特質をきちっと生かすという点でも、仕事上の信頼をしっかり獲得していく上でもいいのかなと思うんですが、その辺はどんな御議論がされているんでしょうか。

参考人(中村邦夫君)

 お答えいたします。

 今、先生がおっしゃられたとおりでありまして、例えば不動産に関する訴訟などにつきましては、私ども、今までは本人訴訟、本人支援という形でかかわってはまいりましたけれども、その場合でもそうでしたが、なかなか難しい問題も非常にあることは事実だろうと私は思います。

 そうなりますと、問題なことは、依頼される国民の皆さんをどう我々は考えなきゃならぬかという観点をまず第一に置くべきだろうというふうに思います。もちろん、どういう訴訟であれ、それがその裁判所でできるものであるならば、我々は努力し研さんを積んでやらなきゃならないということはありますけれども、しかし、そうは申しましても、実際問題としてなかなか難しい問題もあるだろうということは十分承知しておるつもりです。

 そういった意味では、いろいろなところでも御議論されておるようでございますけれども、まず裁判所の方の受付時点における様々な裁量的な問題であるとか、あるいは事件が途中から移送される問題が起きるかも分かりませんし、さらに、私どもといたしまして、私ども自身も、これは当初から地裁の方に行った方がいい、あるいは弁護士さんの方にお願いした方がいいだろうと、そういったことは自らやっぱり判断する必要は出てくるだろうと思っております。

 そういうことを考えますと、今後、私どもだけの問題ではなくて、これは日弁連さんなどにもいろいろ御協議をしていただいて、その辺のところを、スムーズに弁護士さんの方にそれをバトンタッチできるというか、最初の段階からでもそうでありますけれども、お願いするようなそういうシステムといったようなものは今後は考えていく必要があるだろうと。

 あくまでも、国民の皆さんの立場として何が一番大事かという観点から考えていく必要があるだろうというふうに私どもは今考えておるところでございます。

井上哲士君

 もう一点、軍司参考人にお伺いをいたします。

 この法案で、いわゆる非常勤裁判官制度というものが作られるわけですが、これが弁護士任官の拡充に資するのではないかと言われております。かつて、近畿弁護士会連合会が独自の推薦制度を作っていらっしゃったことを取り上げまして、この弁護士任官を推進すべきだという質問もしたことがあるんですが、その後それもかなり広がっているというふうにお聞きしているんですが、この弁護士任官促進のためにこの間日弁連が努力をされていること、そして、今回の非常勤裁判官制度が作られることがこの弁護士任官の促進にどういう効果があるとお考えか、お願いをいたします。

参考人(軍司育雄君)

 この非常勤裁判官制度のスタートは、新法が成立したもちろん後ですが、最高裁の説明によりますと、小さな姿でスタートすると、たしか私の記憶では全国で二、三十人であったと、今、資料を見るいとまもありませんが。全国で二、三十人というのは予算上の関係と伺っておりますが、小さくスタートすると、こういうふうに聞いております。しかし、次の年度からはこれを大きく運用していただきたい、全国の各裁判所で幅広く、調停主任官、家事調停主任官でしたかを弁護士から採用していただきたいと、こう考えております。

 既に、第一年目の非常勤裁判官については私どもの、私、第一東京弁護士会ですが、にも既にその推薦依頼が来ている状況です。会員に募集をしているわけですけれども、この非常勤裁判官については、希望者は相当数いるというふうに認識しております。本格的な弁護士任官とは違う勤務形態でございますから、弁護士も事務所を持ったまま対応できるということですので希望者も相当多いと、こういう認識を持っております。

 そこで、弁護士任官も増えてはきたものの、本来の弁護士任官も増えてはきたもののまだ十分ではないという認識を持っておりますので、これを、この非常勤裁判官の形態が大きくなることによって、そこから弁護士任官への移行が近い将来できるように私どもは期待しているわけです。現にそうなるであろうと思います、希望者が非常に多いですから。そのように思っております。


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