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井上哲士ONLINE
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2003年7月24 日

法務委員会
担保・執行法一部改正案 質疑、討論、採決
仲裁法案 質疑、討論、採決

  • 「担保・執行法一部改正案」――善良な賃借人の居住権保護の必要性を指摘し、短期賃貸借制度廃止に伴う、敷金返還請求権の承認を要求。
  • 「仲裁法案」――コンビニ・フランチャイズ契約や建設業の下請関係などの、力関係に大きな差がある当事者間の将来の紛争に関する仲裁合意は、そこに脅迫などの問題があれば、無効になり得る事を明らかにした。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 先日は労働債権の先取特権の種類と範囲について質問をいたしました。今日はその行使に当たっての運用改善の問題をまず質問をいたします。

 担保権実行の一般原則は公文書で証明することですが、民事訴訟法では一般の先取特権については例外を認めてそういう制限を加えておりません。その趣旨はまず何でしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 これは、一般先取特権を証する公文書というのはなかなか適切なものが見付かりにくいという実情にありますので、これを公文書に限定いたしますと、利用できる文書が極めて限られてしまいまして、一般の先取特権による申立てを困難にすると、そういうことが配慮されたものと思っております。

井上哲士君

 その証明文書について、担保権の存在を証する文書という抽象的な形で規律をして、具体的な文書名を挙げておりませんが、その趣旨はどういうことでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 これは、具体的文書を例示するとなりますと、確定判決であるとか公正証書であるとか、非常に証明力の高いものをどうしても例示することになろうかと思います。

 逆に、そういたしますと、なかなか各種多様な文書を総合して判断するということが困難になるおそれもあると。そのようなことから、特に具体的な例示はしないと、こういうことにしたものと思っております。

井上哲士君

 今の二つお尋ねをいたしましたけれども、要するに証明が困難であっても、できるだけ幅広くいろんな文書を使うことによってこの先取特権を認めようという、こういう趣旨だと思うんですね。今回の民法改正でこの保護の範囲が広がるわけでありますが、建設現場の請負的就労者など、これまで以上にこういう賃金台帳などの書類の提出が困難な労働者の先取特権の行使を可能にすると。そうであるならば、それにふさわしい立証使用の運用というのが必要かと思うんですが、法務省としてはどういう運用を期待をされておるんでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 これは御指摘のように、今回広げる結果、相当多様な形態の労働債権が先取特権の保護の対象になってこようかと思います。この法律が特に書面の限定をしていないということが、そういう個々の事情に応じた多様な証書を総合して適切に判断をしていただけるようにと、こういうことでございますので、その趣旨を踏まえた判断をしていただければと、こう思っております。

井上哲士君

 その上で、最高裁にお聞きしますが、今そういう立法者の方の期待の声がありました。請負的就労者の場合、特に建設現場などでいきますと、もう口頭で仕事の依頼を受けて、給料明細などもちろんないし、明文の就業規則や賃金規定がないという方がむしろ多いぐらいだと思うんです。そういう皆さんが第三者的ないろんな文書を出すのに非常に困難があるわけで、相当柔軟な運用が必要かと思うんですが、今回の法改正の趣旨に沿った形でどういう運用改善が考えられているのか、いかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)

 ただいま御指摘のように、労働債権に関して、例えば契約が請負である、しかしその実態は雇用関係であるというような事例もございます。私も経験をしたことがございます。これについて、そのような実態に即した認定をしていくということが大変重要であるというように考えております。今までの経験からいたしましても、そのような認定をする上で最も重要なことは、これは書類が整っていない場合の労働債権の認定ということになりますので、当該事案に応じて様々な立証上の工夫をしていただいた、そういう立証を行っていただいて、裁判官もその事案に適した柔軟な、言わばしなやかな認定をしていくということが大変重要なことでございまして、このような認定がされていくように、これまでも研究をしておるところでございますが、なお一層現場の裁判の実務において研究がされるような空気が醸成されていくように私どもも努力したいというように思っております。

井上哲士君

 園尾さんが大変しなやかにやっておられたというのはいろんな論文で見る機会があるんです。

 それで、例えば全くそういう書類がないという場合に、陳述書というような形でもこれが証明文書の一つとして採用されていくのか、これはどうでしょうか。

最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)

 労働債権と認定いたしますと、一般の先取特権という担保権が成立いたしますので、これについて裁判官がいろいろ虚偽の債権が混入しては困るということで認定に工夫をしておるわけでございますが、陳述書に関していいますと、この陳述書というのは自己証明の文書ですから、これのみで先取特権を認定していくということはかなり難しいことではありますが、しかしかなりその陳述書を裏付ける何らかの証拠というのがある場合が少なくありません。

 これを丁寧に見ていく、例えば給料に関する明細書のたぐいだとか、そのようなものを大変丁寧に見ていって、その陳述書がどれだけ裏付けられているのかというような観点から事実を認定していくというようなことをやって、柔軟な認定をするということも理屈上可能でございまして、そのような様々な事案に応じた認定をしていく努力をしていかなければいけないというように思っております。

井上哲士君

 是非、そういうしなやかな運用をお願いしたいと思うんです。

 その上で、この間の参考人の質疑でもありましたけれども、一人親方など、労働組合などにも入っていない方が先取特権を行使しようと思いますと、非常に簡易な申立て書にしないとなかなか難しいと。地裁によれば、窓口に見本を置いているというふうに聞いたんですが、先日、この「書式債権・動産等執行の実務」という本を見せていただきまして、そこにこの申立て書の一つの例が掲載をされているのを見ました。これは民事法研究会が出版している本ですからかなりスタンダードなものだと思うんですが、これを見ますと、「添付書類」として「証明書」、「(1)従業員名簿の写し」、「(2)給与台帳の写し」、「(3)給与債権未払明細」、この三つが書いてありまして、何のただし書もないんです。ですから、むしろ窓口に行ってこういう申立て書を見ますと、こんな書類はとっても添付できないということでむしろしり込みをしてしまうんじゃないかと。先ほど来の趣旨とはかなり違うんではないかなということを私は思ったんです。

 ですから、やっぱり今回の法改正の趣旨に合ったような簡易な申立て書というものが研究もされ、交流もされる必要があるんではないか。それぞれ、地裁ごとにやられることになるかと思うんですけれども、その点でも是非、最高裁としての御努力をお願いしたいんですが、その点はいかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)

 ただいま御指摘のようなひな形というような工夫もあるわけですが、これはただいまの御指摘にもありますとおり、運用のよろしきを得なければかえって硬直な運用というのを推認させてしまうというような問題もございます。

 特に、この労働債権の難しい認定の事例について言いますと、事案ごとに適切な書類を工夫していくということが是非必要ですので、むしろひな形というような定型的な処理を念頭に置いた事務処理ではうまくいかないというような場合もあります。やはり、事案に応じて知恵を絞っていくという姿勢がまず大事だというように考えておりますが、御指摘のような、運用についてこのような場で議論がされたということも踏まえて今後の検討が進んでいくということを私どもも期待をしておりますし、努力もしていきたいと思っております。

井上哲士君

 これ、行使を本当にしようと思いますと、時間との勝負もあるわけですね。それこそ一人親方の方などが裁判所に駆け込んだときに、なるほど、これならすぐできるというやり方、やはり一から書くというのはとても難しいことがあるわけですし、その辺の窓口の対応も含めて大変大事だと思うんです。せっかく今回の改正があるわけですから、本当にしっかり行使ができるように是非この研究や普及をお願いをしたいと思います。

 次に、敷金返還の問題についてお尋ねをします。

 この改正案では、敷金返還請求権は買受人に承継されないことになりますので、賃借人は預託金の返還を求めることができずに元の家主に請求をするということになります。しかし、経営状態が悪化をしている旧所有者が支払えるわけはありませんので、実際は賃借人の権利保護にとって重大な後退になる。むしろ、やっぱり敷金、保証金は買受人に引き受けさせると、こういう制度にすべきではないかと思うんですが、その点はどうでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 御指摘のように、短期賃貸借制度、賃借権が引き受けられる場合には敷金返還請求権も買受人が引き継ぐということになっているわけでございます。

 ただ、これを悪用いたしまして、高額の敷金の差し入れを仮装いたしまして、買受人に対してその返還の名目で金銭の支払を要求するという執行妨害行為がしばしば行われているという具合に言われております。

 また、敷金の返還請求権を引き継ぐということになりますと、当然、買受け代金はその分、減額、低くならざるを得ない。それは、配当を受ける抵当権者の損害ということになるわけでございます。本来、抵当権に後れて設定されて対抗できないはずの賃借権に伴って生じた敷金返還請求権の分だけ抵当権者が予測できない損害を被ってしまうということで、合理的ではないという指摘もなされていたところでございます。

 また、現在の短期賃貸借制度は、必ずしも賃借人を均等に保護するようにはなっていない。たまたま賃借権の満期が競落の前に来てしまいますと、そこで対抗できなくなりますので、その場合には敷金はやはり従前の賃貸人に返還を請求せざるを得ない、そういう事態になるわけでございます。

 そのようなことを総合的に考えますと、現在の短期賃貸借制度を維持して買受人に敷金を引き継がせるということはやはり難しいであろうということから、今回、短期賃貸借制度を廃止するということとしたわけでございます。

 ただ、今回の改正は、この法律、改正法の施行前の賃借権には適用されませんので、既に設定されておりますものについては従前どおりでございます。したがいまして、今後、設定される賃借権については短期賃貸借制度の適用がないということになりますので、私どもとしては、この新法が成立をいたしました場合には、施行までの間、全力を挙げてこの周知を図りまして、賃貸借契約設定時にそういうことを十分認識して設定をしていただけるようにという努力をするつもりでございます。

井上哲士君

 どれだけの周知が本当にされるんだろうかということはこの間、指摘をしたとおりなんです。

 衆議院での答弁を見ておりますと、賃借人が差押えを受けた場合には、敷金と賃料を相殺する特約を結んでおけば相当程度保護が図れると、こういう答弁をされておりますが、今後こういう特約を結ぶような賃貸契約が増えていくと、何かそういう根拠があっての答弁なんでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 これは実際に、そういう賃貸人が差押えを受けた場合に敷金の返還時期が到来するという特約が結ばれているという実例があると聞き及んでおります。

 今回の短期賃貸借制度を廃止した場合、そういう特約が結ばれていれば賃借人の保護が相当充実することは間違いございませんし、今回のような法改正をにらんでそういった特約がされるという可能性は十分あり得るだろうと思っております。

井上哲士君

 先日も国交省の方にも来ていただきましたけれども、今度の法改正によってこの敷金のことなどがどういうことになるのかということをしっかり宅建業者に説明させろと言っても、なかなか後ろ向きなお話でありました。

 そういう状況の下、仮に敷金が返ってこなかったら、そういう事態、そういう事件が起きたら相殺できますというようなことを契約時に特約をするようなケースがおよそ増えていくとは私はとても思えないんです。ですから、それを根拠に相当程度保護が図れるというようなことが一体本当に起きるんだろうかということを、それだけ指摘をしておきます。

 その上で、最後に内覧の問題についてお聞きをいたしますが、現場の執行官の方のものなどを読んでおりますと、例えばマンションの一室を競売したい場合に九十九通の入札があったというようなこともあるそうであります。そういう場合に、多数の内覧希望者に対して目的の建物に案内するということが実際にできるんだろうかと、こういう疑問が当然あるわけですね。

 六十四条の二の第四項で、「執行裁判所は、内覧の円滑な実施が困難であることが明らかであるときは、第一項の命令を取り消すことができる。」と、こういうことがありますが、例えばこういう大変たくさんの人が希望されて、実際上無理じゃないかと思われるようなときなどもこの項目を活用するということは可能なんでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 基本的には、相当多数の方が希望した場合には相当回数に分けて行うとか、そういう工夫をすることによって円滑に実施できるのではないかとは思っておりますが、場合によれば内覧希望者が極端に多数で、どんな工夫をしてみても到底円滑に実施できないという場合も、それはあり得ないわけではないだろうと思いますし、そのような場合にはこの条文の対象として取り消すこともあり得るのではないかと思っております。

井上哲士君

 さらに、一度に十人とか十五人内覧をさせますと物件が傷付けられるんじゃないかとか、それから談合の危険性が生じるんじゃないかと、こういう指摘もありますけれども、こういう懸念にはどのように対応されるんでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 この内覧の実施は執行裁判所が執行官に命じて執行官の責任において実施することになっておりますので、正に内覧を希望する人が物件を傷付けるような行為をすれば円滑な実施を妨げるものとして直ちに退去を命ずることができるようになっておりますし、談合を防止するために適切な指示を執行官はできますので、それに従わなければやはり退去と、こういうようなことによってそういう違法な行為が起こらないように対処できるものと、こう考えております。

井上哲士君

 今、第六項のお話があったわけですが、今、談合とか執行妨害ということがありましたが、プライバシー保護という観点からもこの項目が活用されるわけですが、プライバシー保護のために立入り制限とか退去を命ずるというのは、具体的にはどういうものが想定をされているんでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 例えば、その建物に立ち入って中を見ているときに内覧をしている者が勝手にその住人の持ち物を見るとか、そういうことがあれば、これは必要な限度を超えた行為でございますので内覧の円滑な実施を妨げるものとして制止できますし、言うことを聞かなければ退去を命ずることができる。このようなことによって不当にプライバシーが侵害されることは防げるのではないかと、こう思っております。

井上哲士君

 病人がいる場合とかも答弁もありましたけれども。

 参考人質疑のときにも日弁連の代表の方から、当初の議論よりも内覧の範囲が広がっているということから、非常にプライバシーが侵害をされるんではないかという危惧の声が出されておりました。是非、こういう危惧が実際にならないような運用を強く求めまして、質問を終わります。


井上哲士君

 私は、日本共産党を代表して、担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律案に対して反対の討論を行います。

 今日、集合住宅や賃貸マンションには約九百二十八万世帯が居住しており、実に全国四千四百万世帯の二一%、借家住まいの七八%に上ります。これら住民の居住の安定を図ることは政府の責務であります。

 ところが、本法案は、占有屋による執行妨害排除や短期賃貸借制度の不安定さを理由として短期賃貸借制度を廃止し、賃貸マンション居住者が安全に、かつ安心して住まう権利を後退させ、生活の基盤を揺るがすものです。いわゆる占有屋等による違法な強制執行妨害による収益が暴力団など反社会的集団の資金源の一つになっており、対策が必要なのは当然のことです。本法案の保全処分の強化、明渡し執行の実効性の向上など対策強化は必要です。しかしながら、短期賃貸借制度を廃止しても、悪質な占有屋を根絶はおろか激減させることもできないことは、与党側参考人も述べたとおりであります。

 逆に、短期賃貸借制度廃止が抵当物件がほとんどである我が国建物賃借権の保護を決定的に後退させるのは余りにも弊害が大きいと言わねばなりません。明渡し猶予期間が設けられるといっても、原案での三か月、修正による六か月では賃借人の居住の安定を図ることはできず、また敷金返還請求権も承継されないというのでは、到底、国民の納得を得られるものではありません。

 そもそも賃貸物件は、その多くが自己使用目的ではなく、賃借を目的として建設されています。金融機関も、賃貸用物件であることを前提に賃料収入を返済原資と見込んで融資しています。たまたま物件の所有者が破産したからといって、何の落ち度もない賃借人が立ち退きを迫られる理由はありません。

 今求められているのは、フランス、ドイツのように正常な賃借人の保護を拡充することです。改正案がその方向を顧みなかったのは、不良債権早期処理を求める規制緩和論者や大手ディベロッパーの要求のみを最優先させたものと言わざるを得ません。

 なお、労働債権の先取特権の種類及び範囲の拡大、扶養料等の債権の履行確保は、改善であり、賛成であります。

 以上、反対の理由を申し述べ、反対討論を終わります。


井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 この仲裁法は事実上の新法であり、十分な審議が必要だということを主張してまいりましたけれども、今国会最後の定例日にこういう形での審議になりました。元々、審議時間が短い上に、今日のような事態の中で予定されていた方も質問に立てないというようなことも今お聞きをしたわけで、国会の都合の中で、できた法律はすべての国民にかかわるということを考えますと、こういう審議の在り方についてまずいかがなものかということを最初に申し上げておきます。

 その上で、この仲裁制度は、当事者の合意がある場合に裁判を受ける権利を放棄をして仲裁によって私的に紛争を解決をする制度です。国際商事事件を始め、一定の分野での対等な立場にある当事者間においてこの制度を活用することは合理的でありますし、これまでの法整備に当たっても我々は賛成をしてまいりました。しかし、いったん仲裁合意がされますと、たとえどんな仲裁判断がなされようと裁判を起こすことはできない。今日、いろんな契約がありますけれども、当事者間の対等な関係で行われないような契約の下でいろんなトラブルが起きている。そういう事態を見ますと、安易な仲裁合意というものは憲法で定められた裁判を受ける権利が奪われる、そういうおそれがあります。

 その点で幾つかただしていきたいと思いますが、今回の改正案で、中間取りまとめの段階ではなかった労働者や消費者についての保護規定が設けられましたけれども、その目的はどういうことだったんでしょうか。

国務大臣(森山眞弓君)

 仲裁は、おっしゃいますとおり、仲裁人の判断に服するという合意に基づく紛争解決制度でございますので、仲裁人の判断に不服がありましても後で裁判で争うことはできないわけでございます。この点、消費者や労働者は契約の際に仲裁の意味を理解していないことが多くございまして、仲裁の意味を理解していたとしましても、事業者又は使用者との交渉力の格差がございますから、仲裁合意をせざるを得ない場合が多いということが考えられます。

 そこで、新法では、消費者と事業者間の仲裁及び個別労働関係紛争に関する仲裁について特例を設けることにいたしたわけでございます。

井上哲士君

 私も、去年の臨時国会で当時の中間取りまとめについて質問をいたしまして、特に労働者、消費者の問題についてもお尋ねをいたしました。その点で、この保護規定が法案では設けられたということは、中間取りまとめからは一定の前進だと思うんです。

 ただ、先ほどもありましたけれども、当分の間ということになっているわけですが、これは、将来はこういう保護規定が外されていくと、こういうことを意味するんでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 これは、当分の間は、今後いろいろな運用をしていって、いろいろ改善すべき点があれば改善をして、その上でそれぞれの必要な法律の中に本則として置いていくと、こういう性質のものでございますけれども、私ども、今、これを外すということは考えておりません。

井上哲士君

 形はどうあれ、こういう保護の規定というものは残されていくんだと、こういう理解でよろしいわけですね。

政府参考人(山崎潮君)

 私どもの理解はそうでございます。

 例えば、これは消費者と労働者の場合で扱いを変えているわけでございますね。こういうものも今後やっていくうちに共通なルールになるのか、また別のものになるか、そういうことを検証しながらやっていこうと、こういうことでございます。

井上哲士君

 こういう保護規定がしっかり恒久的に作られていくことが必要だと思いますが、同時に、保護の範囲というものを拡大をしていく必要があると思うんです。労働者と消費者については今回、保護規定が入りましたが、これ以外にも力の差が大きい者同士の契約というのはたくさんあります。例えば、建設業における元請企業と下請企業、それから運送業における発注者と個人でやっているような運送業者。

 大臣にお聞きしたいんですが、こういうケースでは圧倒的な力の差がある、先ほど、交渉力や情報量に格差があるために消費者、労働者に保護規定を入れたということでありますが、それ以外のこうした様々な交渉力に差がある契約になぜ保護規定が設けられなかったんでしょうか。

国務大臣(森山眞弓君)

 事業者というものは、団体であれ個人であれ、自ら事業活動を営む者でありますから、主体的な判断をする能力が備わっているということが認められまして、消費者や労働者と同視することはできないと考えられたのでございます。

 なお、仲裁合意が詐欺、強迫等によりなされた場合にはその意思表示を取り消すことも可能であり、意思表示が取り消されますと、仲裁合意によって訴権を失うという効力もなくなり、裁判で紛争を解決することができることになるわけでございます。

 このように、下請業者であるがゆえに常に不利益を被るとは言えませんので、仲裁合意の効力については民商法等の一般的な実体法の規律にゆだねられるべきものと考えたわけでございます。

井上哲士君

 事業者であれば常に主体的な判断力や交渉力が相手に対して本当にあるのかどうか。

 例えば、今、大変大きな社会問題になっておりますのがコンビニのフランチャイズ契約です。今、この契約をめぐりまして、もう全国各地で店主の側が本部を相手取って訴訟するということが起きているんですね。そういう実態があること自身は推進本部としては把握をされているでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 私どもでも、フランチャイズ契約に伴って、様々な態様はあろうかと思いますけれども、紛争が生じているということは判例等で把握をしているという状況でございます。

井上哲士君

 このコンビニのフランチャイズ契約を結ばれる方というのは、脱サラをされた方とか、多くが個人なわけですね。こういう方々は、このフランチャイズ契約によってどういう権利関係になるのかと、こういう知識は、フランチャイズのこのコンビニの本部と比べましても格段の、劣ることになります。契約においては、本部が出してくる情報とか資料を信じるわけがありませんで、形の上では事業者間ですけれども、実態は大企業と個人というような契約になるわけですね。しかも、実際は、契約してみて初めて中身が分かるということがたくさん起きておるわけです。売上げは聞いていた話よりも少ないと。

 それから、一番問題になっているのがロイヤルティーですけれども、その利益に掛かると自分は思っていた、ところが、実際は総売上額から売上原価を引いた額にロイヤルティーが掛かりますので、店主の方は、その残りから経費を差し引きますので残らない、恒常的な赤字になる、本部の方は安定的にロイヤルティーを得ることができると、こういう仕組みになっております。

 二十四時間営業を義務付けられますが、こういう状況ですからなかなかバイトも雇えなくなる、そうしますと、もう家族で二十四時間支えなくちゃいけないということで、もう家族も崩壊状態になっていくと、こんなことも起きるんですね。

 じゃ、やめたらいいじゃないかと。しかし、やめようと思いましても、非常に多額の解約違約金というのがあります。それから、保証人というのも付いておりまして、大抵は親族なんかにやっていますから、これにも縛られてやめることができない。

 ちょっとこれは大臣に、この実態について御意見をお伺いしたいんですが、要するに、やめる自由もないんですね。コンビニの経営者というのは事業主というよりも労働者だと、こう言う方もいらっしゃいますが、それよりもひどいということを言われる方もいます。こういう解約違約金や保証人に縛られてやめたくてもやめれない、労働者のように退職する自由もないんですから現代の奴隷契約だと、こういうふうに言われる方もいらっしゃるんです。

 こういう非常に力関係が違うような契約が横行しているような分野でも保護が必要ないんだろうか、こういうところでも対等な事業者の契約だと考えられるんだろうかと、この点、大臣、いかがでしょうか。

国務大臣(森山眞弓君)

 いわゆるフランチャイズ契約というものにもいろんなのがあると思います。

 先生がおっしゃったような大小の違い、あるいはそれぞれの交渉能力や情報力の違いというものがかなりあるものもあるかと思いますけれども、それはフランチャイズ契約一般の問題でございまして、個別のそのような例につきまして司法制度改革という見地から御答弁申し上げることはちょっと難しいというふうに思うわけでございます。

 また、フランチャイズ契約の中に仲裁合意の条項があった場合については、仲裁合意の当事者はいずれも事業者でありまして、事業者は、団体であれ個人であれ、自ら事業活動を営むことから、主体的な判断をする能力が備わっていると認められるわけでございます。したがって、個人である消費者や労働者と同じように扱うということはできませんので、特則を設けて保護するまでの必要はないのではないかと思います。

井上哲士君

 今るる説明をしましたように、実際には個人で脱サラをしたような人たちが、コンビニ本部と全く情報力も交渉力も違うという下で、様々な現に今トラブルが起きているわけです。こういう中に、将来の紛争についても仲裁契約という契約が入ってきたらどうなるのかということが問われると思うんですね。

 例えば、具体例を一つ紹介しますと、裁判になっているもので東北ニコマート事件というのがあります。九八年の八月三十一日の仙台地裁で、この本部によるフランチャイズ契約を結ばせるための勧誘方法は取引通念上相当な範囲を逸脱したものと、こういうふうに断罪をされました。この判決にあります勧誘方法というのは、日商が四十数万円しかなかった直営店があって、その情報を伏せたまま、契約者に対しては日商が五十二万三千円ある、月七、八十万円の利益が上がっているという説明をして店主に営業譲渡をした。実際には、業績が上がらずに、高額なロイヤルティーなどによって借金だけ背負わされたと、こういう実態なんです。

 こういうフランチャイズ契約の場合に、情報力、交渉力に本部と店主の場合に相当の格差があると、そのこと自体は認められるでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 そちらの専門ではございませんが、個々のケースによってそういうものはあり得ると、それが全部かどうかということはちょっと分かりませんけれども、それは判例がございますので、まあそうだろうというふうに思っております。

井上哲士君

 裁判の場でコンビニの側が主張しますのは、契約内容どおりに行動しているので本部側に契約違反はないと、こういう主張なんですね。

 しかし、実際の契約の実態はどうかといいますと、売上予測と経費という一番重大な問題については本部側の資料に店主の方は頼る以外にない。これが大変いい加減なものだったことは先ほど述べたとおりなんです。しかも、事前には売上予測とか経費について説明があるだけで、三百万円前後の契約委託金というのを支払って初めて契約書が提示をされるというのが大部分なんですね。契約書が提示されるのは多くは契約当日で、五万字にも及ぶ契約書を読み合わせをすると。まあすぐに理解をできるはずもありませんで、契約をしてしまうわけですね。しかも、解約違約金を払う覚悟で裁判に訴えようとしますと、その膨大な契約書の中には裁判所の管轄事項が入っている。ですから、たとえ契約者が地方であっても、コンビニの本部のある裁判所まで行かなくちゃならないということになって、これでもまた裁判を受ける権利が阻害をされると、こういう仕組みになっているんです。

 しかし、そういういろんな困難を乗り越えて何人かの方が裁判に訴えたことによってこの問題が今、社会問題化をしているわけですけれども、今後、そういう何百ページも及ぶような契約書の中に、将来の紛争については仲裁で解決をすると、こういう合意が入っておりますと、もう契約者は分かりようがないわけでありまして、やはり裁判を受ける権利そのものが奪われてしまうと思うんです。やはり、こういう分野についても私はきちっとした保護規定を設けることが必要だと思うんですけれども、その点いかがでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 先ほど大臣からも答弁ございましたように、フランチャイズ契約についてどういう保護をすべきかというのは、それぞれ所管をするところで、法律を所管するところできちっとまずお決めをいただくという問題だろうと思います。私どもは、仲裁法の、まあその基本法を定めているわけでございまして、その中で典型的に言わば強者と弱者と通常言われているものですね、そういうものについて労働契約と消費者契約、この二つを暫定措置として設けたわけでございます。

 ですから、今後、そのフランチャイズ契約、どのような本当に実態になっていくか、それはそれぞれのところでいろいろ御判断をいただいて、やはりそこを分けるべきだという判断になれば特例も設けられていくということになりますし、そうでないという判断であればそうではないということで、それぞれのところでみんな御判断をいただくという、こういう形になろうかというふうに思っております。

 それからなお、膨大な書類の中に仲裁条項があったという場合も、判例が幾つかございまして、いろんな事情を総合勘案しまして、そもそも仲裁合意が成立をしていないというふうに判断をしているものもございまして、やはり仲裁合意は裁判にいけないということになるわけでございますので、相当重要な効果を、効力を生ずるということから、判例もそこは非常に慎重に扱っていると、こういうことで保護も図られていると、こういう状況だろうというふうに理解をしております。

井上哲士君

 典型的な例として消費者と労働者に規定を設けたんだということでありますけれども、まあ今のフランチャイズはコンビニだけじゃありませんで、いろんな分野でもこういったトラブルが様々起きておりますし、最初も挙げました元請と下請の関係とか、それから今日も担保・執行法で議論になりました借地借家契約などでもやはり大きな交渉力の格差があるという分野はたくさんあるわけですね。ですから、むしろそういった典型的な例だけではなくて、全体に網をかぶしたような法の在り方ということが私は必要だと思うんです。

 その上で、次にお伺いしますけれども、例えばこういうコンビニ業界が言わば業界の肝いりの仲裁機関などを設立をして、そして将来の紛争を仲裁、この機関にゆだねるということを契約書に入れておくと、こういうこともあろうかと思うんですが、こういう言わば業界団体などが仲裁機関を立ち上げること、これ自体は可能ですか。

政府参考人(山崎潮君)

 これは何ら禁止する法律等ございませんので、自由だということになります。

井上哲士君

 そうしますと、例えばそういう今挙げたような、例えばコンビニ業界が立ち上げたところがいろんな紛争の中で実際上公正な機関として機能しないというような場合に、これは例えば行政としてはどういう対応がされるんでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 ちょっと、対応がちょっと具体的につかみかねるわけでございますが、業界が作った仲裁機関でそれを押し付けるような契約だということになった場合には、一般的には例えばそれが信義則に反する場合だとか、もっと程度が激しければ公序良俗に違反するとか、そういうことになれば、仲裁契約そのものですね、これが無効であるという判断にもなりますし、またそこに意思表示の瑕疵があるということなら取り消せると、こういう問題になります。

 それからもう一つは、この仲裁に入って、その中で非常にへんぱな判断がされるということになれば、先ほども申し上げましたけれども、この法律の中に当事者を公平に扱わなければならないという規定がございまして、この規定に反するような判断をすれば仲裁判断の取消しというところに効果が結び付いていくということでございまして、こういうことがしょっちゅうされれば、それはもう仲裁機関としては評判を落として成り立たないと、こういう形になっていくだろうというふうに思っています。

井上哲士君

 その分野でいろんな仲裁機関があって、紛争が起きたときに自由に当事者が選べるという場合でありますと、今おっしゃったように、評判が落ちて選ばれないとかということはあり得るかと思うんです。しかし、あらかじめ業界団体がそういう機関を作っておいて、そして将来の紛争はここにゆだねるんだということを契約書の中に入れておく。こういうコンビニだけではありませんで、不動産、例えば不動産問題の仲裁センター、いろんな名前はあろうかと思うんですが、そういう形で入っていた場合に、もちろん見た感じは公正なものとして作られるわけですから、これはなかなか選ぶ状況がないということになりますと、結局そういうものがずっと残っていく、裁判を受ける権利を放棄をして仲裁をここにゆだねても公正な解決ができないと、こういうことが続くということになりませんか。

政府参考人(山崎潮君)

 ですから、そういう事態が生じて仲裁判断が取り消されるというようなことになれば、そもそも仲裁契約を結ぶような形になるのかどうか。やはり、世の中の方々、皆それぞれ賢いところはお持ちでございますので、それはそれぞれで判断して断ればいいということになるんではないかと思います。

井上哲士君

 現に、消費者センターなどに寄せられるいろんな今の問題を見ましても、断ることができない、いろんな形でのトラブルがあることを考えますと、やはり大変、先ほど来申し上げているような心配がこのやり方にはあるということで、やっぱり全体としての、社会的に弱い、交渉力の弱い、情報力の弱い、そういう人たちを全体として保護をするということがやはり必要だと思います。

 その上で、もう一つ聞きますが、こういうコンビニフランチャイズ契約に限らずに、この種の契約書は大部でありまして、一般の国民がすべて理解するということは非常に困難です。将来の紛争について契約書の中に仲裁合意事項が書き込まれていても、裁判の権利を、受ける権利が奪われることに気付かずに契約してしまうという危険はいろんな形であろうかと思いますが、仲裁合意をするときに、当事者が将来自らの訴権が奪われる可能性があるということを認識をせずに合意をしてしまった場合に、認識がなかったことをもって、言わば錯誤があったとしてこれを無効にするということができるのか、ちょっと改めて、確認でお願いします。

政府参考人(山崎潮君)

 判例では、契約の様々な状況を認定をいたしまして、そもそも合意がないという認定をしているものもあるわけでございますが、仮に合意があったとしても、それが例えば強迫に基づくものということになれば取消し、民法上の取消しができるということになるわけでございまして、そういう場合にはその効果が生じないということは、この法律の十四条一項の例外、一項でただし書を設けておりまして、そこに、仲裁合意が無効、取消しその他の事由により効力を有しない場合を訴権喪失の例外としてはっきり規定をしているわけでございますので、ここで救済がされると、こういうふうに理解をしております。

井上哲士君

 今の、脅迫に基づくというような話もありましたけれども、じゃ、こういう場合はいかがでしょうか。

 例えば、建設業で元請と下請、それから運送業における発注者と事実上の個人事業者、この発注者が提示をする契約条件におよそ注文を付けるようなことができないという場合は間々あるわけですね。こういう場合に、下請業者などは契約内容に注文を付けたらもう仕事ももらえないと、生活も維持をできない。仲裁制度については問題だと思っていても拒否をできないということが間々あろうかと思いますが、こういう、仲裁合意を拒否したくてもできなかったという事情の下で合意をしてしまったという場合には、この意思表示の取消し事由になるんでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 ただいまの前提だけでなるかならないか判断しろというのはなかなか難しいところでございますけれども、その状況次第であろうと思いますけれども、かなり大部のいろんな条項がございまして、その中にも、埋もれていることでほとんど気が付かないような場合、そういうようなことになれば、本当に合意があったかどうかという判断になろうかと思いますが、一応合意があることを分かって、分かってやったという場合には、なかなか、直ちにそれが力関係の優位があったからといって、それが取消しになる、無効になるということではないというふうに理解はしております。

井上哲士君

 労働契約の場合に、それを断ったら自分が仕事を得る機会も得られなくなるかもしれないということで保護規定が付いたわけですけれども、実際の今のいろんな契約の分野でいいますと、先ほど来挙げておりますように、そういうようなケースというのはやっぱりたくさんあると思います。そういうものについてもこの仲裁が将来の紛争にわたっても適用されるということが入っていきますと、やはり国民の裁判を受ける権利、そして暮らしの権利というものが脅かされる危険がある、そのおそれが高いということを再度改めて指摘をいたしまして、質問を終わります。


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