- 井上哲士君
日本共産党の井上哲士です。
まず最初に、名古屋刑務所問題についてお聞きします。
衆議院の法務委員会理事会の求めで、法務省から、刑務所内の一連の事件についての報告書、そして過去十年間の刑務所内での死亡帳が提出をされました。私もこの資料と死亡帳を読んでみましたけれども、正に人権侵害と組織的な隠ぺいの姿が浮かび上がってまいります。
まず、死亡帳について聞きます。
昨年、参議院の法務委員会で、名古屋刑務所での保護房での死亡事件を過去十年分、資料を求めました。そうしますと、死亡者の資料は三年間しか保存していない、身分帳をすべて調べる必要があるので無理だと、こういう回答だったわけであります。
ところが、今回、資料が出てまいりました。三年しかないものがなぜ十年分出てきたのか。どうでしょうか。
- 政府参考人(中井憲治君)
お答えいたします。
これまで死亡帳の件を報告することなく、過去十年にさかのぼって保護房内での死亡案件を御報告しなかったのは事実でございまして、ここに深く陳謝申し上げます。
矯正行政の根幹が揺らぎました今、矯正局はもとより、現場施設におきましても可能な限りの資料をきちんと出すことで失われた信頼を回復していくほかないと考えております。
- 井上哲士君
なぜ隠したんですか。十二月四日に野党で名古屋刑務所の現地調査に行きました。その場でも私たちはこの資料を出すように言ったんです。本省の課長がその場に来ていまして、そもそもそういう資料はないと刑務所の職員の前で言ったわけですよ。ですから、本省が資料、そういう資料の隠ぺいをしているということが現場の刑務官の方に移ったわけですよ。そういう組織的な隠ぺいの態度で、大臣、こうした事件が今後また起こるんじゃないか。どうでしょうか。
- 国務大臣(森山眞弓君)
いや、誠に、そのようなことになったことは誠に申し訳なく、私としても非常に困ったことだと思っておりますし、本当に遺憾だと思います。
わざと隠すという気持ちがあったかどうかは分かりませんが、そんなことはないと信じたいわけでありますが、今後は御指摘に応じましてどんなことでもできるだけ明らかにいたしまして、実態を透明化して、世間の批判にこたえ得るような矯正行政にしなければいけないと考えております。
- 井上哲士君
これ、わざと隠したとしか考えられないわけですよ。
それで、この隠ぺい体質というのはこれだけじゃありません。私、五月事案についてお聞きをいたしますが、この事件の検察の、公判がありまして、検察の冒頭陳述が十一日にありました。事件の二日後の二十九日に刑務所内で開かれた検討会について、この陳述はどういうふうに述べているでしょうか。
- 政府参考人(樋渡利秋君)
お答えいたします。
お尋ねの点につきましては、検察官は冒頭陳述におきまして、名古屋刑務所長らは被害者死亡後に、その死亡原因について、革手錠を施用したことが関係しているのではないかと疑い、平成十四年五月二十九日ころ刑務所の医師による被害者の死因と革手錠施用との因果関係についての検討会を行い、刑務所の医師から、死因の詳細は判明しないが、被害者の死亡は革手錠施用が原因である可能性が高い旨を指摘され、同所長を始め幹部職員は、被害者の死亡は革手錠の施用によりもたらされたのではないかとの認識を持つに至ったなどと述べたものと承知しております。
- 井上哲士君
重大ですよ。もう事件の二日後から革手錠による死亡だということを刑務所長は認識をしていたと、こういう陳述なんです。そういう、それほどこの司法解剖の中身というのは重大な中身です。死亡の翌日の五月二十八日の四時二十分から七時半までの約三時間、司法解剖が行われています。この間に三回の中間報告と追報告が刑務所長から矯正局長、矯正管区長あてに出されております。五時五十分の中間報告の執刀医と検察官の感想というのはどういうふうに書かれていますか。
- 政府参考人(中井憲治君)
恐れ入りますが、ちょっと時間に関するメモを今把握できませんので、内容だけを報告さしていただきます。
追報告は合計四件ございますけれども、その報告内容は、司法解剖が実施され、その所見として、肝臓の右葉の前後面境界線上に挫裂創が認められる。挫裂創は急激な圧迫によって生じるものである。腹腔内、腹でございますけれども、そこに約四百ミリリットルの出血及び血腫が認められる。肝挫裂による腹腔内出血、血腫が死因に何らかの形で関与したことは否定できないといったような一連の記載がございまして、そのほかにも肝臓の挫裂創は心肺蘇生術によって生じた可能性も否定できない。死因は現在のところ不詳である。直接の死因については各臓器の病理学的解剖を実施しなければならない旨のいずれの記載が順次四件の追報告に記載されているところであります。
- 井上哲士君
それは最後のまとめた報告だと思うんですが、追報告の一号に執刀医と検察官の感想が出ておると思うんです。それ、もう一回読んでください。
- 政府参考人(中井憲治君)
お答えいたします。
五時五十分、執刀医から、腹腔内にかなり大きな血腫がある、原因は現在のところ不明との所見があった。執刀医からけんかでもしたのかと質問があり、立会い検察官から複雑な事案になるかなとの感想があったという具合に報告書に記載されてあります。
- 井上哲士君
執刀医がけんかでもしたのかと問うような事態であり、しかも肝臓の挫裂創があったと、こういう重大な報告を受けたら、異常な事態が起きていると認識するのが当たり前だと思うんです。ところが、本省は、この事件が起きた直後に現地調査さえ行っていないということを昨年の私の質問に答えられました。しかし、この時点で名古屋の保護房、革手錠の使用頻度というのは全国でも突出していたんです。この時点で事態をつかんでいれば、九月事案、そして新たに告訴された七月事案も防げたと思うんですが、その点、局長、いかがですか。
- 政府参考人(中井憲治君)
委員御指摘の点も誠にそのとおりであろうかと思うわけでございますけれども、名古屋刑務所の当時の報告によりますと死因は不詳であるということでございましたので、当時の報告内容それ自体からは革手錠の使用が直接死因に関係しているとはうかがえなかったと、うかがわれるものではなかったという具合に聞いております。
- 井上哲士君
けんかでもしたのかと、こういう報告はあなたのところに、局長のところに来ているんですよ。それでおかしいと思って現地に行って調査をすれば、その革手錠のことも発見できたんじゃないんですか。どうですか。
- 政府参考人(中井憲治君)
委員御指摘のとおり、そのような報告が矯正局に参っておったことは事実でございます。しかし、まだ、当時の報告内容は先ほど答弁いたしましたとおりでございまして、そのような認識に立って当時の矯正局としては現地への調査等は行っておらず、検察に通報いたしまして、その捜査結果の推移を見守っていたという状況にあるものと聞いております。
- 井上哲士君
そういう人権感覚が今問われているんですよ。
大臣は数日後に、事件数日後にこの報告を受けていたということを認められておりますが、なぜ更に詳細な報告を求めてなかったのか。矯正行政が適切さを欠いているという認識を当時持たなかったんですか。その点、どうですか。
- 国務大臣(森山眞弓君)
今、局長からお話し申し上げましたように、検察の方にお願いして捜査をしていただくということでございましたので、私の感じといたしましては、検察で調べてもらうということが何よりも真相を把握するのに一番早道であるというふうに考えまして、その結論を待とうと。それを邪魔するようなことをほかがしないようにした方がいいというような考え方で協力し、妨害をしないようにということを指示したわけでございます。
- 井上哲士君
行政の責任が問われているんですね。たとえ過失の事故であっても死者が出ましたら、安全管理どうなっているのかということを行政として当然そこに行って調べるというのが当たり前じゃないですか。検察に、捜査の邪魔にならないからといって行政の責任を放棄したというのが今回の私は事態だと思うんです。余りにも人権感覚に欠ける答弁だと言わざるを得ません。
五月に勤務をしていた関係者への処分がされていますけれども、その内容と理由はどういうふうになっていますか。
- 政府参考人(中井憲治君)
五月事案の関係者の処分内容等についてでございますけれども、この事案で処分を受けましたほとんどの者が実は九月の致傷事件についても併せて処分対象となっておることを最初にお断りしたいと思います。
五月事案のみが処分の対象となりましたのは私の前任の矯正局長のみでございます。
まず最初に事件が発生いたしました名古屋刑務所の関係者について申し上げますと、五月事案の実行行為者三名に対しましては起訴休職としております。今後の公判の内容等を確認しつつ、かねての調査結果をも踏まえまして、事実関係を確認できた時点で処分を行うこととなります。
当該事件のその余の関与者についてでありますが、その個別の特定を含めまして現在調査中でございます。
五月事案の監督者につきましてですが、事件発生当時の所長、それから処遇部長及び処遇担当の首席矯正処遇官の三名に対しては、いずれも停職三月の処分がなされました。処遇部次席矯正処遇官に対しては減給二月、百分の二十の処分がなされたところであります。
続きまして、上級庁であります名古屋矯正管区及び法務省の関係者についてでございますが、名古屋矯正管区長は戒告、同管区第二部長及び第二部保安課長が減給一月、百分の五、それから法務省の法務事務次官が厳重注意処分、前矯正局長及び矯正局保安課長がそれぞれ訓告処分とされております。
- 井上哲士君
事務次官の処分の理由はどうなっていますか。
- 政府参考人(中井憲治君)
五月事案及び九月事案に関しまして、部下職員等の指導監督に十全を欠いたということだと聞いております。
- 井上哲士君
矯正管区長、管区第二部長の処分理由はどうなっていますか。
- 政府参考人(中井憲治君)
矯正管区長の処分事由でございますけれども、第一点が、名古屋矯正管区職員及び名古屋刑務所長の指導に十全を欠いたことから、同刑務所職員による五月事案を未然に防止できなかった。それから第二点が、五月事案について、名古屋刑務所から事案発生の十日後に懲役受刑者の肝挫裂が革手錠使用に起因する旨の医師の所見を含む資料の送付を受け、その内容を承知したのにもかかわらず、同受刑者死亡の原因について真相究明を怠った。第三点が、部下職員の指導に十全を欠いたため、次の事案を未然に防止できなかったということでございます。五月事案についても同様に職務を行った結果、名古屋刑務所職員による九月事案を発生させたと、こういったこと等々が処分の事由となっております。
それから、矯正管区の第二部長についてでありますが、第一点が、名古屋刑務所の手錠の使用状況を把握できる立場にありながら、手錠の使用件数が異常に多いことを見過ごして、同刑務所への指導を怠り、五月事案を発生させたというのが第一点。第二点が、五月事案につきまして、名古屋刑務所から事案発生の十日後に懲役受刑者の肝挫裂が革手錠の使用に起因する旨の医師の所見を含む資料の送付を受け、その内容を承知したのにもかかわらず、受刑者死亡の原因について真相を怠ったという点。第三点が、五月事案発生後も名古屋刑務所の革手錠使用件数が異常に多い状態が続いていた状況を漫然と放置したと。第四点が、同五月事案につきまして、今申し上げたように職務を怠った結果、名古屋刑務所職員による九月事案を発生させたというものであると聞いております。
- 井上哲士君
ですから、五月、九月のときに任務のあった現場の人は、全部九月事案を未然に防げなかったということが処分理由になっているんです。十二月、五月、九月のすべての事案の間大臣であって、しかも幾つもの事件を耳にしながら正に漫然と放置をしていたというのは、大臣、あなた自身だと思うんです。昨年の十一月に、韓国では、検察官の暴行で被疑者が死亡した事案で法務大臣と事務総長が辞任をいたしました。法務省の最高責任者として新たな矯正行政を私はあなたの人権感覚の下ではなし得ないと思います。直ちに辞任すべきだと思いますが、いかがですか。
- 国務大臣(森山眞弓君)
名古屋刑務所で起きました刑務官による一連の事件につきまして、誠に申し訳なく、矯正行政に対する国民の信頼が大きく損なわれたことに対しましては責任を強く痛感しております。矯正行政の最高責任者といたしまして、同刑務所の一連の疑惑について、もっと早くこのような情報が得られて積極的な指示や指導ができなかったかと極めて残念でなりません。今は、おわびの言葉を重ねるだけではなくて、刑務官の抜本的な意識改革を迫るようなシステムを一日も早く作り上げなければならないというふうに思いますし、真剣に矯正行政の立て直しを図ることによって国民の信頼を回復しなければならないというふうに思っております。そのためには、従来の常識や発想にとらわれない大胆な方策を打ち出していかなければいけないというふうに考えているわけでございます。
これまで、私の指示で私自身がすべて情願書を読むようにしたほか、行刑運営に関する調査検討委員会におきまして、六か月以内の革手錠の廃止とか矯正から独立した体制での情願の調査など様々な方策を検討し決定してまいりましたが、今後とも行刑の改革に向けて議論を尽くすとともに、外部の有識者から成る行刑改革会議を立ち上げまして、調査検討委員会の調査結果等を提供いたしまして、調査結果の検証や国民の視点に立った再発防止策を提言していただきたいと、お願いしたいと考えております。
矯正行政というのは一種の閉ざされた社会として今日までやってまいりましたようでございますが、その透明性を高めまして、外部からの御批判や検証のできるものに変えていかなければならないというふうに強く考えております。決して容易なことではございませんけれども、今後も矯正行政の最高責任者といたしまして、改革の先頭に立って国民の信頼回復に向けて全力を尽くすことが私の責任だと考えております。
- 井上哲士君
あなた自身の人権感覚が問われているわけですから、本当に信頼を取り戻そうと思ったら、まず辞任をしていただきたいということを申し上げて、次の質問に移ります。
次に、労働法制の改悪の問題についてお聞きをいたします。
雇用保険法に続いて労働基準法、労働者派遣法、職安法の改悪案が閣議決定をされております。五千五百万人の労働者の健康と暮らし、家族にも大変大きな問題をもたらす中身であります。今日は、労働基準法の改正案に盛り込まれた裁量労働制の拡大についてお聞きをいたします。
まず、裁量労働制とは一体何なのか、かみ砕いて御説明お願いします。
- 政府参考人(松崎朗君)
裁量労働制でございますけれども、これは労働者自らがその知識また能力等を生かして主体性を持って働くことを可能とすることを目的といたしまして、具体的には、この業務の性質上、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるために、当該業務の遂行の手段でありますとか労働時間の配分の決定、こういったものにつきまして、使用者が具体的な指示をすることが困難な業務につきまして、労使協定とか、また労使委員会での決定等一定の要件を定めまして、これに基づきまして、実際に働いている時間ではなくて、あらかじめ定めました一定の労働時間働いたものとみなすという制度でございます。
- 井上哲士君
一日に何時間働いたかどうだかにかかわらず労使で決めた時間だけ働いたとみなすものだと、今ありました。
このみなし労働時間を超えて働いた場合は、残業代出ますか。
- 政府参考人(松崎朗君)
お答えいたします。
このみなし労働時間といいますのは、その実態に応じて、その実態を一番よく知っております労使委員会等で決めるものでございまして、具体的に統一する、一日において八時間を超えたりとかそういった計算ではございませんので、原則として残業代は出ません。
- 井上哲士君
これ、当初から長時間労働につながる制度だという批判がありましたし、今もありましたように、残業代を払う必要ないわけですから、サービス残業が合法化されるということにもなります。
実際、この裁量労働制の下での過労死事案というのは後を絶ちませんで、先日、光文社で裁量労働制で働いて過労死した二十四歳の青年の遺族と会社側が七千五百万円の支払で和解をいたしました。裁量労働制の職場で初めて過労死認定をしたケースですが、この青年の場合は、女性雑誌のグラビアページの担当編集者で、死亡前一年間の労働時間は出退勤簿に書かれただけで年間三千百二十二時間十二分、一か月二十日勤務として一日平均十三時間ということであります。自宅で朝七時に急性心不全で若い命を失ったわけですが、大臣、こういう過労死が後を絶たないという実態、どういうふうに認識をされているでしょうか。
- 国務大臣(坂口力君)
具体的な事案につきましては今初めてお聞きするわけで、私もよく存じませんけれども、過労死の人たちが、過労死に対する様々な申出が増えてきていることは事実でございまして、私もその点では憂慮をしているところでございます。
やはり、労働には一定の、やはり労働時間というものは法律的に定められたものもございますし、そしてやはりそれぞれの健康を維持していくということもあるわけでございますから、そうしたことを各企業の中で十分これは配慮をしていただいて、決定をしていただかなければならないものというふうに思っております。
- 井上哲士君
配慮がないからこういう事件が起きているんです。実際、裁量制がないような人に適用されて、成果に追い込まれて、みなし労働を大きく超えて働かざるを得ないというのが、実態があるんです。ですから、それまで専門的業種だけだったのが九八年に事務系ホワイトカラーにまで対象を広げる、いわゆる企画業務型の裁量労働が導入されましたけれども、ホワイトカラー全体に広がるじゃないかという批判に対して、厚生、当時労働省はいろんな規制をしたはずですが、どういう規制がされたでしょうか。
- 政府参考人(松崎朗君)
企画裁量、企画業務型の裁量労働制でございますけれども、この導入に当たりましては、その要件といたしまして、事業運営上の重要な決定が行われる事業場においてという要件、また労使の代表から成ります労使委員会を設置し、その労使委員会におきまして対象となります業務であるとか対象の労働者、また先ほど申し上げました一定のみなし労働時間でありますとか、更に健康及び福祉を確保するための措置、また苦情処理のために実施する措置、そういったものをこの労使委員会できちんと決めるという点、更には対象となります本人、個々人の労働者の同意を得るということが必要とされております。
- 井上哲士君
労使委員会で決議すべきのは七項目ありまして、この決議を行う労使委員会の要件が六項目ありましたから、この十三項目の一つでも欠ければ導入できないというのがこの制度でした。しかし、実際には歯止めがどんどん崩されております。
具体的にまず対象の範囲について聞きますが、今、企画業務型裁量労働で働いている人数の一事業者当たりの平均というのはどのぐらいになりますか。
- 政府参考人(松崎朗君)
十四年十二月末現在でございますけれども、この企画型裁量労働制の導入事業場の数は百八十二ございます。また、適用の労働者数は約六千八百、七百人ぐらいでございますので、単純に割り算いたしますと、一事業場当たり三十七人という状況でございます。
- 井上哲士君
NEC が昨年の十月から新 V ワークという裁量労働制度を社内に作りました。これ、約七千人が適用で、そのうち一千人が事務系ホワイトカラーによる企画業務型裁量労働なんです。ですから、今の平均三十七と比べますと、もうけたが二つも違う大規模なものが導入をされました。
新聞報道によりますと、NEC の側が粘り強く厚生労働省と交渉をして、事務系ホワイトカラーの仕事は皆、企画や調査を含むと説いて了解を得たと、こうされていますけれども、これは事実ですか。
- 政府参考人(松崎朗君)
個別企業のお尋ねでございますので、詳細については差し控えさせていただきたいと思いますけれども、この NEC の事案につきましては、この裁量労働制の導入に当たりまして所轄の労働基準監督署に必要な届出がなされ、その届出がなされた場合には、きちんと要件に合うかどうかをチェックしているということで受理したというふうに承知しております。
- 井上哲士君
要するに、現場の監督署が了解をしたということになるわけですね。
しかし、この制度導入をされるときの審議では、この制度は、企業の本社等の中枢部分で働くホワイトカラーで、経営戦略、経営計画を一体的に担当しているような人、ことに限るんだという答弁を繰り返しされているんです。その中枢で経営戦略、経営計画を一体的に担当するという人が千人もいるというのは、およそ審議のときには想定をしていなかった規模ですね。
しかも、この NEC の社内のタイムマネジメント推進委員会というのの議事録を見ますと、会社はこう言っているんです。新裁量労働制においても、従来同様、標準始業時刻である八時半以降出社する場合は前日までに行き先表示板等に出社予定時刻を明記することが基本である。何の連絡もなく出社予定時刻に出社しない場合は、遅刻と同様、上司から厳しく指導する。こう言っているんですね。
これでも時間配分を自らに任された業務だと、こういうふうに厚生労働省は認めたということですね。
- 政府参考人(松崎朗君)
お答え申し上げます。
制度論としましては、先ほど要件等を御説明させていただきましたけれども、さらにその労働時間の具体的な配分とかいった点、そういった点につきまして本人に任されるわけでございますけれども、一定の例外といいますか、例えば労働者の安全衛生でありますとか施設の管理、そういったことに必要な事項について一定の制限を行うとか、それからまた業務の遂行につきましても、ただ抽象的、一般的な指示を行うといったような、一定合理的な範囲内であれば労働者の裁量性を制限したものとは言えないということでございます。
しかしながら、今、委員がおっしゃいましたような具体的な事例につきましては、私どもまだ把握しておりませんけれども、一般論といたしましては、従来のフレックスタイム制におきますようなコアタイムをきちんと決めて、その時間帯に必ず出社していなければならないといったようなことはこの裁量労働制から逸脱するのではないかと、一般論として申し上げます。
- 井上哲士君
しかし、現に厚労省が現場で認めたこの職場で、事実上出勤時間すら自由にならないというようなやり方がされているわけです。
フレックスタイム制だって出勤時間は自由なわけですから、それさえの自由度もないようなところでこれが行われるということを認めることになりますと、正にこれ歯止めなく無限定にホワイトカラー全体に広がっていくんじゃないですか、どうですか。
- 政府参考人(松崎朗君)
個別具体的な事案につきましては、それぞれ現場の監督署においてきちんと監督指導等を行うこととされておりますので、きちんとした、そういった実態があるのであれば、きちんとした監督指導を行います。
- 井上哲士君
じゃ、もう一点聞きますけれども、この企画業務型の裁量労働の職場でも使用者は労働者の労働状況の把握をしなくちゃならないと思いますが、これは指針では具体的にどういうふうに定めているでしょう。
- 政府参考人(松崎朗君)
これ一昨年、平成十三年の十二月に、例の過労死の労災認定基準を改正いたしました。こういったことに伴いまして、いわゆる過重労働に関する総合対策というものを平成十四年二月に策定をしております。
その中で過重労働を防止するということをしておるわけでございますけれども、その中におきましても、事業主は裁量労働制対象労働者及び管理監督者についても健康確保のための責務があることなどにも十分留意して過重労働とならないよう努めるものとするというふうにその中で決めており、この裁量労働制も対象としてといいますか、考慮して策定したというものでございます。
- 井上哲士君
いや、この指針の中で具体的に使用者が何をしなくちゃいけないかと決めているでしょう。それをお聞きしているんです。
- 政府参考人(松崎朗君)
この今申し上げました健康福祉措置でございますけれども、こういったものにつきましては、まずは管理として、どういった時間帯にどの程度の時間在社し、また労務を提供し得る状態にあったか、そういったものがはっきりとなりますように、出退勤時刻とかその部屋に入ったり出たりした時刻の記録、そういったものをきちんと取り、それからさらには健康確保のために、長い場合には産業医、お医者さんの診断を受けさせるとか、また代休を与えるとか、そういった措置を決めております。
- 井上哲士君
出退勤時刻をちゃんと記録しなくちゃいけないと。
私、この NEC で使われている V シートというのを持っておりますけれども、この田町地区ではタイムカードもなければ出勤簿、毎日の出勤退勤時間を記録する出勤簿もないんです。一か月に一遍、この V シートというもので自己申告をしますけれども、ここには休暇とか休日が書いてあるだけでありまして、毎日の出退勤時間など、およそ報告項目にはないんです。こういうのは指針違反ということでいいですね。
- 政府参考人(松崎朗君)
裁量労働制につきましては、基本的には本人に任せるというような趣旨でございまして、事業主についてもそういうふうに、きちんと健康管理のためにそういうふうに努めてほしいということでございますので、ストレートに違反というわけではございません。
- 井上哲士君
しかし、さっきの指針では、労働者の出退勤時刻はしっかり把握しなくちゃいけないと、こうなっているんじゃないんですか。違うんですか。
- 政府参考人(松崎朗君)
これは指針に基づきます努力義務ということでございまして、健康管理とか長時間労働にわたるような実態がある場合にはこれに基づき指導をさせていただくということでございます。
- 井上哲士君
そういういい加減なことじゃ駄目ですよ。いいですか、九八年五月十五日の労働委員会での局長の答弁では、タイムカードその他でチェックする体制が整っていない限り、私どもは不正確な届けとして改善をさせていくと述べているんです。なぜ改善させていないんですか。
- 政府参考人(松崎朗君)
冒頭申し上げました裁量労働制がこの要件に合致しないような裁量労働制を取っている場合には、個別の、具体的に所轄の監督署におきまして具体的な監督指導を行っているということでございます。
- 井上哲士君
現に、ですから、この勤務時間の掌握ということの、言わば要件として決められたことをやっていないわけですから。こんなことを放置しているんでは駄目ですよ。
NEC の労働者からは、昨年の十二月にこうした問題について監督署に申立てが出ています。三か月間放置されているわけですが、直ちに、これだけのことがあるわけですから、臨検監督すべきじゃないでしょうか。どうでしょうか。
- 政府参考人(松崎朗君)
具体的な個別事案につきましては、現場の監督署におきまして的確に対処しているというふうに考えております。
- 井上哲士君
対処されていないんですよ。
これは一企業だけの問題じゃありません。企画業務型の裁量労働が導入されている事業所での勤務状況の把握というのは、厚生省の調査では、厚生労働省の調査ではどうなっていますか。
- 政府参考人(松崎朗君)
ちょっと済みません、今申し上げた質問がちょっと分かりにくかったもので、もう一回お願いいたします。
- 井上哲士君
企画業務型の裁量労働が導入されている事業所での勤務状況の把握というのはどうなっているか、そちらのアンケートで、聞き取りで。
- 政府参考人(松崎朗君)
アンケート、今手元にございませんけれども、従来の、導入の前に比べて時間が長くなったというのは非常に少なくて、時間はほとんど変わっておらないというのが実態だとたしか記憶しております。
- 井上哲士君
時間のことじゃないんですね。勤務状況の把握実態、自己申告が七割になっています。そして、私、この社会経済生産性本部の調査では、把握していないというのが実に三割あるんですね。全然指針と違うようなことが行われているんです。これ導入のときに、勤務状況の把握というのは抜かりない万全の監督指導、チェック体制を作り上げる、こういう答弁をしているんです。やっていないんです、全然。
ですから、範囲はどんどん広げられる、届出時点でのチェックもされていない、集中的な監督もされていない。私は、全然導入時の国会答弁と違うことが行われている、国会審議を冒涜するような中身だと思うんですよ。こんなことで、大臣、労働者の権利、健康を守れるんでしょうか、どうでしょうか。
- 国務大臣(坂口力君)
裁量労働制につきましても、一定のやはり時間の制約というのはあるわけでございますし、これは労使がそれで合意をして決めるわけでございますから、その中でやはりそれを守ってやっていかなければなりません。守られていないということになれば、それは是正をしなければいけないというふうに思っております。
- 井上哲士君
守られていないのに、実際にはまともな臨検監督もされていないからこういうことが、事態が起きているわけです。
現状でもこれだけの問題があるにもかかわらず、今回の労基法の改正案でこの企画業務型の裁量労働制の対象の限定を外す、労使委員会の決議要件も緩和をする、こういうことになりますと、本当に懸念をされたとおり、ホワイトカラー全体に長時間労働やサービス残業を自己裁量の名の下に押し付ける、こういうことになります。そういう点で、こうした正に労働者の権利破壊の法案については撤回をすべきだ、このことを申し上げまして、関連の質問に譲ります。