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2003年10月9日

法務委員会
裁判官・検察官の給与法案の質疑・採決

  • 野沢法務大臣の会見発言を厳しく批判。裁判員制度における裁判員の数を充分に確保することと取調べ過程の可視化を要求。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 まず、裁判官、検察官の給与関連の法案について質問をいたします。

 今度の法案は人事院の二年連続のマイナス勧告に基づくものでありますが、国家公務員の賃金引下げは民間の給与引下げの促進にもなります。小泉総理は官から民へという言葉がお好きですが、官から民、そしてまた民から官へと、賃下げの悪循環の中で、私はやっぱり消費の引下げ、経済にも打撃という結果をもたらすということを指摘をせざるを得ません。

 さらに、先ほど来問題になっている憲法との関係についてお尋ねをいたします。

 この裁判官全体の報酬引下げについては、合憲説と違憲説というのが言わば真っ二つに分かれている中で、最高裁は昨年、合憲説ということを取りました。昨年の質疑の中でも、私は、この最高裁の事務総局の総務局が監修をした裁判所法の逐条解説の問題をお聞きをいたしました。

 この中で、報酬そのものの減額は、たとえ特定の裁判官のみに対して行われる場合ではなく、裁判官全体の報酬、さらには国家公務員全体の給与が同じ比率で引き下げられる場合でも許されないことは言うまでもないと明確に述べていることを示しました。当時の答弁は、裁判所法の解釈であって、憲法解釈ではないんだと、こういうような御答弁だったと思うんですが、これは納得のいくものではありません。

 今回の引下げにおいて、このことも含めて、改めて憲法問題について検討がされたんでしょうか。

最高裁判所長官代理者(山崎敏充君)

 本年も、最高裁判所の裁判官会議におきまして、この問題、検討がされまして、昨年同様に、人事院勧告に沿って国家公務員の給与全体が引き下げられるような場合には、裁判官の報酬を同様の内容で引き下げても司法の独立を侵すものではないことから、憲法に違反しない旨、改めて確認されております。

 ただいま委員御指摘の、裁判所法の逐条解説をした書物が事務総局から出ているということは承知しているところでございますが、これは事務総局の中の担当部局でございます総務局におきまして、裁判所職員その他関係者の執務の参考に供する趣旨で、裁判所法の各規定の解釈について解説したものでございます。その中には、意見にわたる部分も記載されておるわけでございますが、これはあくまでも当時の事務当局、総務局ということでございますが、その総務局限りの一応の見解を示したものでございまして、最高裁判所としての確定的な見解を示したものではございません。

 今回の先ほど申し上げました最高裁判所の裁判官会議の結論というのは、憲法上、裁判官の報酬について、特に保障規定が設けられております趣旨及びその重みを十分に踏まえて検討されまして、司法行政事務に関する最終意思決定としてなされたものと承知しているところでございます。

井上哲士君

 私も質疑に当たっていろんな文献も当たりましたが、このことについてきちっと解説をしているのは唯一この事務総局が出したものなわけですね。いろんなやはりお役所が自分の関係する法案について、法律についての解説書を出しておりますが、これはやっぱり責任を持って出されたものかと思います。担当者のということではやはり納得のいく答弁ではないということは指摘をしておきます。

 その上で、憲法問題にかかわって、野沢法務大臣が就任直後の記者会見で述べられました改憲発言について質問をいたします。

 この中で、大臣は、集団的自衛権については保有しているが行使できないというのは分かりにくいとした上で、分かりやすくしっかり明記すべきと、こういう発言もされております。衆議院の質疑の中で発言内容についてはお認めになりました。憲法九十九条で憲法の尊重擁護義務を負っている大臣の発言として非常に政治的に私は重大だと思います。この九十九条につきまして、例えば「註解日本国憲法」ではこういうふうに述べております。擁護するとは、憲法を侵す行為を防圧するという受動的意味である。尊重するとは、憲法を尊重して、これに違反せず、更に目的を実現することに力を尽くすことと、こういうふうに述べております。

 まず、法制局にお聞きしますが、こういう解釈で間違いないわけですね。

政府参考人(宮崎礼壹君)

 尊重と擁護の言葉の意味合いにつきましては、教科書によって少しずつ違いまして、擁護の方が強いというのもあれば、尊重の方が強いというものがございます。要は、併せて憲法を守る義務があるんだということであるというふうに大体教科書は総括していると思います。

 お尋ねの九十九条の趣旨でございますが、これは日本国憲法が最高法規でありますということにかんがみて、そこに書いてございワす、天皇、摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員に、憲法の規定を遵守するとともに、その完全な実施に努めることを求める趣旨の規定であるというふうに解されております。

 もっとも、憲法にはその改正規定、改正の手続が定められておりますので、所定の手続によりますことを前提として憲法改正につきまして検討し、あるいは主張をするということを憲法自体が認めているということも明らかでございますから、このような議論を行うことと、現在の憲法の規定を遵守し、その完全な実施に努力するということは別個の問題であるというふうに常々解されておりまして、政府としてはそういうふうに申し上げてきておりまして、例えば昭和五十五年十月七日の森清議員の質問主意書に対する政府の答弁書におきましてもそのことが示されているところでございます。

井上哲士君

 完全実施に努めることということがこの尊重擁護義務の中身として今示されました。

 大臣は、衆議院の答弁で、この目的実現に、憲法の目的実現に力を尽くさなくてはならないということについて、一学説であるような、かのような答弁もありました。しかし、内閣としての解釈もありましたように、完全実施に努めるということであります。改めて、この憲法の尊重擁護義務についてどのように受け止めていらっしゃるのか、お答えいただきたいと思います。

国務大臣(野沢太三君)

 まず、御理解をいただきたいことは、先日の記者会見の発言あるいはまた衆議院における答弁、続けてございますが、まずは、法務大臣としての見解というよりも、記者からの御質問によりまして、これまで憲法調査会会長として参議院におきまして積極的に憲法に関する議論に加わってきた私、政治家野沢としての見解を申し上げたと、こういうことをまず御指摘しておきたいと思います。

 御指摘の閣僚の憲法尊重擁護義務の解釈につきましては、私が内閣を代表してお答えする立場にはありませんが、私の考え方といたしまして、先ほど法制局の部長さんがお答えされておりますけれども、九十九条が、天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う旨定めていることは、この憲法が最高法規であるということから、公務員が同法の規定を尊重するとともにその完全な実施に努力しなければならないという趣旨を定めたものと承知をしております。

 ただ、九十六条において憲法の定める改正手続も併せて明記されておることでございますので、憲法改正についての検討あるいは議論をこれは禁止する趣旨のものではないと考えておるものでございまして、その趣旨で私も取り組んでおるところでございます。

井上哲士君

 この公務員の憲法尊重擁護義務と憲法改正に関する議論との関係に関する政府の統一見解というのは一九八〇年に出されておりますし、その後の一九八三年には当時の中曽根総理が本会議での答弁をしております。総理は、当時の総理はこう言っているんですね。憲法の遵守の義務があるということとした上で、私はただいま行政府の最高責任者の地位に立っておりますが、議員であったときとは立場が違うわけであります、したがって憲法改正に関する具体的な条項に関する意見を申し述べることは、どうしてもこれは個人と公的地位が混交される危険性は十分あるのであります、そういう混乱を考えますれば差し控えるのが正しいと、こう考えております、こういう答弁もされておるわけであります。

 そういうことからいえば、個人的見解ということを言いつつも、実際上、法務大臣就任直後の会見、法務省内で行われたところでこういう発言をされたということはやはり不適切だと考えますが、改めていかがでしょうか。

国務大臣(野沢太三君)

 私の憲法擁護義務に関する見解は先ほど申し上げたとおりでございますが、私は、閣僚として憲法改正に関し発言をするにつきましては、これまでの総理の発言その他もございますように、御指摘のような見解もあるということを踏まえまして今後も処してまいりたいと考えております。

井上哲士君

 私、重大だと思いますのは、日本の憲法というのは五十年以上も経過して一度も手を入れていないとして、様々な面で矛盾が出たり現実と乖離が発しているということで、この改憲の理由として述べられております。確かに、経済大国と言われる日本でホームレスがあったり生活苦の自殺があったり、生存権と懸け離れた実態というのは私もあると思います。

 そうであるならば、しかし憲法の完全実施の義務、これを負った閣僚としては、現実の乖離があるならば、その現実をやはり憲法の次元に合わせる、そういう努力こそが義務付けられておると思いますが、サういう立場で法務行政に当たられると、これはこういうことでよろしいですか。

国務大臣(野沢太三君)

 私は、憲法の在り方はそもそも、国民の皆様がだれが読んでも分かりやすい、中学生、高校生くらいで読んでも素直に条文どおり理解できると、こういうことが望ましいとかねてから考えておるところでございます。

 これまでその意味で様々な議論が行われてまいりましたけれども、ただいまは国会におきまして衆参両院で憲法調査会が開かれまして既に四年目に入っておるところでございますが、こういった国会での議論を踏まえ、また、それぞれ各党がただいま取り組んでおられます憲法の今後の在り方についてのいわゆるマニフェスト、その他の御意見もあろうかと思います。そういった様々な御議論を踏まえながら法務大臣としての適切な対応を今後とも心掛けてまいりますので、どうぞよろしくお願いします。

井上哲士君

 正に法務大臣としての適切な対応というのはこの完全実施について努めると、こういう義務があるんだということを改めて強く申し上げておきます。

 その上で、司法制度改革についてお聞きをいたします。

 先ほど来、裁判員制度の導入について議論がありますが、大臣としてはこの制度、どういう意義があるとお受け止めになっているでしょうか。

国務大臣(野沢太三君)

 私は、裁判員制度につきましては、一般の国民の皆様が裁判員として裁判官とともに評議し、有罪、無罪の決定及び刑の量定を行うということで、大変、裁判あるいは司法全体に関する国民の皆様の身近な存在として大変有意義な課題であると心得ておるわけでございます。

 これに関して更にこれから議論を深めまして、一層、司法制度全体が国民の皆様にとって役に立つ身近な存在であるということがこれによって実現することを強く期待し、またそのために努力をしてまいる所存でございます。

井上哲士君

 国民の参加、国民の常識を裁判に反映をさせると、こういう裁判員制度の目的を果たすためにはやはり市民を飾り物にしてはならないと思います。まず、裁判員の意見が反映される体制、ルール、それからもう一つは市民でも分かりやすい刑事裁判の手続が必要だと、この二つが私は重要だと思います。

 まず、体制という点で合議体の構成の問題であります。

 先ほども今の検討会の議論状況について議論、御報告がありましたが、いわゆるコンパクトに裁判員と裁判官の数を同数にしてやろうという案と裁判員を多くしようという二つの大きな流れがあろうかと思います。

 先ほどそれぞれの主な論点について御紹介があったわけですが、改めて、特に主な論点についてそれぞれ、コンパクトにするという案と一定のものにするという案についてそれぞれどういう論議の違いがあるのか、改めてお願いをいたします。

政府参考人(山崎潮君)

 裁判官に関しましては大きく、三人にすべきだという意見と一人又は二人で足りるという、こういうふうに分かれるわけであります。

 三人にすべきであるという意見の理由でございますけれども、まず、裁判員制度は現在の裁判官による合議体に国民が加わるという制度でありますので、裁判員が加わったからといって裁判官の人数を減らす理由はないということ、それから、裁判員の制度の対象となる事件よりも法定刑の軽い事件について裁判官三人による裁判が行われる、これとの均衡がいいのかという意見、それから、裁判官を二人とすると、法律解釈あるいは訴訟手続上の判断のように裁判官が最終的な権限を持つという事項について裁判官の意見が分かれたときにその判断に窮することにならないかと、こういう意見でございます。

 それから、裁判官が一人あるいは二人とすべきという意見でございますけれども、この裁判員制度は新たな発想で制度を設計すべきであって、裁判員制度における裁判官の役割はプロとしての知識、経験を提供するということにあるんだから、一人のベテランの裁判官で十分果たし得るんではないかという理由、それから、裁判官を二人とした場合に、裁判官の判断が分かれたとしても一定のルールを決めておけば対応できるのではないかと、こういう意見でございまして、個々のそれぞれの理由が述べられているという状況でございまして、まだ今後ともどうしていくかということをはっきり決めたということではございません。

井上哲士君

 やはり、この裁判員制度は市民はお手伝いではないんですね、主役だと思います。

 この間、例えばいろんなことがやられておりますけれども、九州大学が行った模擬裁判というのも紹介をされております。やはり裁判員の数が多いと非常に議論が活発になると。裁判官と裁判員の割合の三対十の場合は、発言回数は裁判官六十一回、裁判員百三十五回と。ところが、三対四にしますと、裁判官百十一回、裁判員五十八回ということで、発言回数の割合が全く変わったということも報告をされております。

 で、アメリカの連邦最高裁は、向こうはまあ陪審員制度でありますけれども、裁判員の数が六人までであれば地域社会の公正な縮図と言えるけれども、五人以下であるとそうではないと、こういう趣旨の判断もしております。正に、この市民を飾り物にしないという点では十分な人数を確保するということが非常に重要だと思うんです。

 で、大臣は就任直後の記者会見でもこの裁判員の数についても述べられております。やはり本当に裁判員制度を実のあるものにするためにも、やはり十分な数を確保することが必要かと思いますが、改めて所見をお願いします。

国務大臣(野沢太三君)

 御指摘のとおり、裁判員制度の数あるいは合議体の在り方については、極めてこの制度の正に本質にもなり、また将来のこの普及の一番大事なかぎにもなるところであると心得ておりますが、裁判員制度における合議体の構成に関しましては様々な御意見があると承知をしております。

 司法制度改革審議会意見においては、裁判員の主体的、実質的関与を確保するという要請、評議の実効性を確保する要請等を踏まえまして適切な在り方を定めるべきであると述べられているところでありまして、これを踏まえ、制度の導入に向けて具体的な検討を進めてまいりたいと、かように考えております。

井上哲士君

 大臣は、記者会見では、これは個人的見解としつつ、やはり裁判員が意見をよく出せるようにするためには数が多い方が必要だということも述べられております。是非、その立場で制度の具体化をお願いをしたいと思います。

 もう一つ、このかぎとしては、分かりやすい刑事手続が必要であります。取調べ過程の可視化など取調べの適正化の確保ということがずっと指摘をされてきたわけでありますが、七月の末に具体化が出されております。どのような具体化がされたでしょうか。

政府参考人(樋渡利秋君)

 お尋ねの件は、いわゆる取調べの記録制度についてであろうと思いますが、それにつきましては現在、関係省庁におきましてその具体的実施に向けた規則、訓令等の作成作業等に取り組んでいるところでございますが、関係省庁で合意した記録制度の概要に即して説明いたしますと、身柄拘束中の被疑者、被告人の取調べ時間、調書作成の有無等の取調べの過程状況に関する事項につき、書面による記録の作成、保存を義務付けるものでございまして、上司等による指導監督の契機等とすることにより、取調べの適正をより一層確保しますとともに、公判段階において捜査段階における被疑者供述の任意性、信用性が争点となった場合に、捜査段階の取調べの過程、状況に関する客観的、外形的な証拠資料を提供することによりまして、公判、審理の充実、迅速化に資することを目的としているものでございます。

 さらに具体的には、取調べ記録は、捜査官が取調べ室又はこれに準ずる場所において身柄拘束中の被疑者、被告人を取り調べる場合におきまして、原則として一日単位で作成する報告書とし、記載事項は作成者、名あて人、取調べ年月日、取調べ担当者、通訳人、取調べ場所、取調べ時間、被疑者氏名及び生年月日、逮捕勾留罪名、被疑者調書作成の有無及び通数その他参考事項とすることを予定しております。

井上哲士君

 これ問題は、現行の裁判の中でも改善が必要だということでやられたものでありますが、裁判員制度という制度発足に当たっては更に踏み込んだことが私は必要だと思います。特に、最近、弁護士や市民団体だけではなくて、裁判官をされていた方からも更に踏み込んだ取調べ過程の録音、録画を求める声が出されているのに非常に注目をしております。

 幾つか論文を見ましても、自白の任意性というのが非常にやはり争いになってきた、これは客観的ななかなか証拠がなくて水掛け論になっている。これまでの裁判官であっても、それについての判断が非常に難しかったという中で、長期化の原因にもなってきた。裁判員が制度ということに当たれば、ここの問題を解決することが非常に重要だと。長期化になってはならないし、そしてまた、裁判員の方がなかなか自分の心証を形成することができないということになりまして、お飾りだったということになりますと、裁判員制度ひいては司法の信頼そのものにもかかわるということで、この取調べ過程の録音、録画に踏み込むべきだという声が裁判官をやっていた方からも出てくることを非常に注目をしております。

 改めト、この問題に更に踏み込んだ検討をすべきかと思いますが、その点いかがでしょうか。

委員長(山本保君)

 時間が来ております。簡潔にお願いします。

井上哲士君

 私は、日本共産党を代表して、裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律案及び検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律案に反対する討論を行います。

 反対の第一の理由は、国家公務員の給与を引き下げる人事院勧告に連動し、社会全体の所得水準を引き下げ、消費の悪化を招き、景気に悪影響を与えるものだからであります。

 国家公務員の給与の引下げは五年連続となり、地方公務員や特殊法人など公的部門の給与の引下げ、さらに民間企業の給与引下げの圧力につながるものであり、賃下げと景気悪化の悪循環に拍車を掛けるものであります。

 また、今回の引下げが四月にさかのぼって適用され、減額となる差額給与を年末調整で精算するという点であります。このような手法は民間でも行われておらず、不利益遡及の脱法行為と言えるものであり、認めるわけにはまいりません。

 反対の第二の理由は、裁判官の報酬を減額することは憲法第七十九条、第八十条二項で明文で禁止をしており、違憲の疑いが極めて強いからであります。

 以上、反対の理由を述べて、討論といたします。


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