事実認定と量刑についてちょっと分けて現実にどうなるかということを申し述べたいと思いますけれども、まず犯罪事実の認定でございます。
例えば被告人の犯人性というんですか、被告人が犯人かどうかという点について争いがある殺人事件で、裁判員の五人の方は被告人が犯人である、こういう意見を述べたということを前提にいたしまして、裁判官三人及び裁判員の一人、これは被告人は犯人とは認められない、こういう意見を述べたということを前提にしたといたします。刑事裁判におきましては、検察官が犯罪事実の立証責任を負うということにされておりますので、そうなりますと犯罪事実の一部であります被告人が犯人であるということの立証がされているかという点が評決の対象になることになります。
ただいま申し上げた点で申し上げますと、裁判員五人が被告人が犯人であるという意見でありますので、合議体の総数九人の過半数に達していることにはなります。しかし、ここの法案ではそのルールは単純には採用しておりませんので、両者の意見が反映された上の過半数、こういうルールを取っております。
そこで、その五人には裁判官が一人も含まれていないということから、この法案の六十七条一項が要求しております裁判官と裁判員の双方の意見を含む過半数、これにはなっていない、達してはいないということになります。したがいまして、評決によって被告人が犯人であると認定することができないということになります。結局、被告人が犯人であることの立証が十分にされていないということに帰着するわけでございますので、これは判決で無罪の言渡しをする、こういうようなルールになるということでございます。
それから次に、量刑でございます。
量刑について、設例は、裁判員五人が被告人は無期懲役に処すべきであるという意見を述べまして、裁判官の一人が懲役二十年、それから裁判官の二人とそれから裁判員の一人、残りの一人は懲役十五年の刑が相当であると、三つに分かれたということをちょっと想定をしたいと思います。
それで、裁判員五人が無期懲役という意見でございますので過半数には達しておりますけれども、その五人の中には裁判官が一人も含まれていないということになりますので、先ほど申し上げました法案の六十七条二項、この評決の要件を満たさないということになるわけでございます。そうなった場合には、裁判官一人の意見を含む過半数の意見となるまで最も被告人に不利な意見の数を順次有利な方に加えていくという、こういう作業をするわけでございます。その中で最も利益な意見である、そうなりますと懲役二十年の刑について評決が成立をするということになるわけでございます。
こういう手順というんですか、考え方で決まっていくということでございますので、ちょっとやや複雑ではございますけれども、この辺のところを御理解賜りたいというふうに思います。