2004 年 6 月 1 日
法務委員会
行政事件訴訟法一部改正案
(参考人質疑・質疑・採決)
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- 井上哲士君
日本共産党の井上哲士です。
三人の参考人の方、本当にありがとうございます。
まず、園部参考人にお伺いをいたします。
斎藤参考人の陳述の中で、過去にも様々な柔軟な解釈があったが、昭和五十六年のこの大阪空港事件の大法廷判決というのが大変その後にある意味、悪い意味での大きな影響を与えてきたというお話もありました。その後、平成に入ってからは、様々な住民の立場からの前進的な判決も出されているということもあったわけですが、園部参考人から見て、この昭和五十六年の大法廷判決の持つ意味と申しましょうか評価、そしてその後の変化などについての背景にあるものなどはどのようにお考えでしょうか。
- 参考人(園部逸夫君)
最も答えにくい御質問でございまして、大阪空港の事件は私が調査官時代の事件なんです。ですから、あの事件が三年、三年以上掛かりましたかね、毎週毎週、もう今の最高裁でも前の最高裁でも考えられないぐらい審理に審理を続けまして、私はその審理の状況をつぶさに調査官として見てまいりました。
これはやはり、日本の最高裁だけでなく、日本の裁判所にとっては非常に難しい問題を突き付けられたのが大阪空港の事件でございまして、いろいろな考え方を持つ人が裁判官の中におられる。これはやはり、それと、行政権と司法権の間のバランスをどう考えるかというもう最大の問題にぶつかりまして、もう裁判官の中でも御承知のように意見が分かれまして、また少数意見も付いております。あれが言わば当時の、最高裁の当時の現況でございました。それは私はやむを得ないと思います。
ただ、しかし、判例は常に多数意見を中心に動いていくのでございまして、その意味で、その後の下級審の裁判に相当影響を及ぼしたことは間違いございません。しかし、同時に、いかにこういう問題が難しいかということも高裁、地裁の裁判官も十分認識したと思います。
したがいまして、そういう状況の下で、例えば「もんじゅ」の訴訟は、実は私は、これは最高裁の裁判官として関与した事件でございまして、こういう事件を実際に手元で扱ってみたときに、どうすればいいかと。まず何といっても、原告をいかに救うべきかというところから発想を改めていくというのがやっぱり行政事件の在り方かなと私は思っておりまして、そこから行政権とのバランスを考えていかなきゃいけない。まず行政権ありきと公益ありきということではおかしいのじゃないかという考え方を持ちました。
こういうようなことが、また最高裁でそういう「もんじゅ」訴訟などの意見あるいは新潟空港が出ますと、これがまた地裁、高裁に影響を及ぼすということで、そういうことが何度も繰り返した挙げ句に今度の改正に至ったということでございまして、裁判官も十分、先ほど余り裁判官は行政事件知らないと申しましたが、そうではなくて、いろんな経験もございます。ですから、今度新しい法律ができたときに、これはどういう意味を持つかということは大抵の裁判官は理解できると思いますので、是非その方向で運用をしてもらいたいと、こう思っております。
- 井上哲士君
次に、斎藤参考人にお聞きをいたします。
今のことにも関連をするんですが、過去に受刑者の丸刈り判決などなど、様々な柔軟な解釈をした判決がありながら、これが大きく広がっていかなかったことが指摘もされました。そして、今の大阪空港事件の判決もあったわけですが、一方で、この間、最高裁でもそうですし地裁レベルでも、行政事件についてかなり住民の立場での特徴的な判決も見受けられるようになってきた部分があるかと思うんですが、この辺の、なぜ過去にこうした柔軟なのが広がらなかったのか、そして最近の新たな動きの背景といいましょうか、原因といいましょうか、その辺はどのようにお感じでしょうか。
- 参考人(斎藤浩君)
私の考えは先ほどから述べましたが、昭和四十年代の半ばにやはり裁判所をめぐる不幸があったというふうに考えております。
いわゆる司法問題と言われたわけでありますが、それ以後の最高裁、その指導下にある下級審の裁判官の方々に非常に苦労があったと考えておりまして、それは、今までは弁護士といいますと司法問題族のようなところがずっと批判的に分析して、運動的に分析しておったわけでありますが、私は、もしできますればと思っておりますのは、公法学会にも所属しておりますので、そこで公開論文も募集されておりますので、書きたいなと心に思っておりますのは、理論的な観点から、昭和四十年代の半ばから約三十年間ぐらいはどういうことがあったのであろうかということ、園部元裁判官が今おっしゃったような中でのいろんな検討の真髄に迫って、運動的なところだけではなくて理論的なところからそれを迫りたいと思っておりますが、いずれにいたしましても、昭和四十年代の半ばから二十五年、三十年近くはその不幸の中の呪縛の中で裁判所はお動きになったのではなかろうかというふうに思っております。
それが、最近、親しい裁判官とお話をさせていただく中で、やはり、例えば今回の新法ができ、改正法ができたときに、四十年代後半型の、私の言葉でありますが、統制的な解釈を下級裁判官に御指導なさるようなやり方ではなくて、今のやり方は非常にフランクに自由に最高裁の勉強会だとか検討会だとか協議会だとかが行われているやに聞いております。そういう時代になったことを私は心から喜びますとともに、その延長線上でこの改正法が大いに活用されて、私が先ほど確信を申し述べましたように、心ある裁判官ばかりでありますから、その方々の心にこの改正法がちゃんと届きますれば私は大きな成果が上がるものだと考えております。
- 井上哲士君
次に、菊池参考人にお伺いいたします。
行政のチェック機能という点で、司法と立法が相まってチェックをすることが大切なんだということが言われました。その中で、裁判官としては行政作用が違法かどうかは裁量権の逸脱、濫用という基準であるわけなので、法律でそれがどのように定められているかが大変大事なんだというお話をいただきまして、立法府に身を置く者としては大変大事なことだと思うわけなんです。
そういう点で、できますれば、過去のもの、そして今もあればなんですけれども、そういう法律での裁量権の範囲の定め方などで少し、例えば広過ぎて、こういう逸脱、濫用を正すという点で問題があったのではないか。過去、それで改正されたものがあればそうですし、今ももし何かお感じのことがあれば、具体的にいただければ有り難いと思うんです。
- 参考人(菊池信男君)
私、今の法律で、法律の定め方でそういう特定の法律について具体的に感想を申し上げるだけの準備がないんですが、ただ、これは例えば、一般的に言えば、行政裁量というものは悪者にばかりすべきじゃなくて、行政裁量がないと行政がちゃんとした身動きをしてくれないわけですから、だから弾力的、機動的な対応もできながら、やっぱり縛るべき、踏むべき手続だとか、それからこういうことを目配りして裁量権を行使しなさいと、いろんなことを書いてあるということはいいことだと思うんです。
ですから、例えば何か具体的な基準みたいなものを余り書いてしまいますと、基準に当てはまったものはそのとおり判断されますが、それから外れていると今度はもう、外れているものは判断の対象にならないということになっちゃいます。ですから、ちょうど今度のあれみたいに、こういう処分するときはこういうことをよく考えて、その点を考えて審査をしたり処分をしなさいという審査基準、処分基準みたいなものを、最近は法律にもある程度こういうことを考慮してというようなことがぼちぼち出てきているように思うんですが、そういうことをお書きになる。余り、裁量というのが大事なときに、裁量を、いや、ただ縛ればいいというものじゃなくて、ちゃんとして行き届いた密度の濃い裁量をするためにはこういう点目配りしなさいよということを書く、それから手続はこういうことを踏みなさいよという、そういうやり方をするのがいい。それはもう行政処分、無数ですから、やっぱり個別実体法で、その中身に応じて書くということではないかなという感じがいたします。
- 井上哲士君
次に、園部参考人と斎藤参考人に同じ質問をいたしますけれども。
斎藤参考人、最後にグローバルスタンダードという言い方をされましたけれども、今回の法改正でそういうグローバルスタンダードということから見たときに、どの程度までの前進をしたという評価をされていて、かつそういうグローバルスタンダードから見れば更に検討すべき問題幾つもありますけれども、とりわけ優先的にされる問題は何とお考えか、それぞれからお願いをいたします。
- 参考人(園部逸夫君)
グローバルスタンダードというのは何かということはなかなか難しいことでございまして、私は、将来に向けてこの行政事件訴訟法を全体としてもう少し格好のいいまとまったものにしていくことが必要ではないかと思います。何条の何、何条の何と付け加えてみたり、これは改正案ですから仕方がないんですが、もっと全体として、各章、各節ごとにきちっと、ある程度、何といいますか、これが、これこそ日本の行政訴訟法なのだということが一覧して分かるような、そういうきれいな法律にいずれは変えていただきたいと、こう思っております。
その中で、グローバルスタンダードと言うときに、一体日本の行政訴訟をどちらに持っていくべきかということも考えていただきたい。先ほど、英米的な行政委員会や行政審判所というものの効用も私は十分存じております。行政審判所、実際に見てまいりましたが、もう二百以上あるわけでございまして、かなり司法的な仕事をしている。アメリカの行政委員会もしかりでございます。これは非常に長所を持っております。それから、同時にまた、行政の専門的裁判所という考え方も、これもまた大変今の日本の実情に合わせてよろしいのじゃないかと思っておりますから、そこでどちらに偏るということなく日本的な行政訴訟法の全体を、全体像というものを描くべきではないか、それがグローバルスタンダードを日本が上手に取り入れる方法ではないかと、このように考えております。
- 参考人(斎藤浩君)
私が申し上げたのは、検討会の御努力で、資料で訴訟要件を広く認めるべきかどうかについての判例が十四個ほど選ばれて、日本、アメリカ、フランス、ドイツ、イギリスでは、その同じものがアメリカ、フランス、ドイツ、イギリスで起こされたときには、日本で却下されているものが他の国ではどのように扱われるであろうかという非常に初期の検討会の中でいい資料が出ておりまして、それらを私ども持って帰りましてマル、ペケを付けましたところ、ほとんど日本はバツなんでありますが、大概は、今挙げた十四個の事例を外国でありますと大抵マルになっておりました。
その日本でバツのうちのどれが救えるかというふうに私がこの衆議院の議論そして参議院の議論を拝聴、拝読しておりまして思いますのは、山崎事務局長がおっしゃるのを聞いておりましても、誤解かもしれませんが、例えば近鉄特急料金については、塩野座長は衆議院で、これは救わなきゃいけないというふうにおっしゃったと思いますが、山崎さんはちょっと分かりませんが、その他環境の問題のいろんな法律が新しくできているのを加味すれば原告適格が広がるというふうに山崎事務局長も随分おっしゃっていました。
そういう点で、十四個のこの却下事例の中で私はかなりの、却下事例じゃないですね、十四個の事例の中で却下されたものの中のかなりのものは今回の法律案で確認訴訟の形をかみ合わせますればやれていくのではなかろうかというふうに思います。
そういう点で、グローバルスタンダードというのは裁判を受ける権利をちゃんと保障するということでありまして、何も住民の側の、国民の側の訴えを全部認めるということを申し上げているのではないので、裁判を受けたいという国民にはちゃんと裁判を受けていただいて、それを合理的になるほどという判断を裁判官が自信を持ってやられるという、こういうことを私はグローバルスタンダードと考えております。
- 井上哲士君
ありがとうございました。
- 委員長(山本保君)
以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
参考人の方々に一言ごあいさつ申し上げます。
本日は、大変お忙しいところ貴重な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。当委員会を代表して厚くお礼申し上げます。ありがとうございました。(拍手)
午前の審査はこの程度にとどめ、午後一時まで休憩いたします。
午後零時一分休憩
午後一時開会
- 井上哲士君
日本共産党の井上哲士です。
行政事件訴訟法改正案について二回目の質問となりますが、今日はまず情報の偏在の是正という問題について質問をいたします。
行政機関と個人のように極端に情報量に差がある訴訟で必ず問題になりますのが、情報や証拠の偏在、そして立証責任という問題であります。検討会の中でも、行政訴訟の被告指定代理人になった方が、行政訴訟は民事訴訟法の一般原則が適用されるために、行政庁は一般に自ら不利益な証拠を自発的には出さないと、こういう実態も検討会の中でも出されたとお聞きをしております。
本改正案では、これに対して処分等を争う場合に、その内容、根拠となる法令、その理由の提出を求める釈明処分の特則が設けられました。ただ、この原告の側からいえば、申立て権のある文書開示命令ないしはそれに類似した制度の方がよいんではないかと、こういう議論も強くあったと思います。なぜ釈明処分という裁判所の職権による制度にしたんでしょうか。
- 政府参考人(山崎潮君)
新しい釈明処分の手続を設けたわけでございますけれども、この目的は、やっぱり審理の早期の段階で処分の理由、根拠に関する当事者の主張、それから争点、これを明らかにして、早くその審理の充実、促進を図ると、こういう目的でございます。
文書提出命令の制度でございますけれども、これは証拠調べでございますので、争点が定まった後にどういう証拠調べをしていくかという場面で問題になってくると、こういう制度でございます。したがいまして、その時点が少し違ってきているということと、その証拠調べの文書提出命令についてはかなり厳格な要件をもって対応すると、こういうことになっているわけでございます。
これを、じゃ、早期に持ってくると、その文書提出命令を前倒しでやるということになると、もう審理の冒頭から、それを出す出さない、それからその要件に当たるか当たらないかとか、そういうところでかなり時間を使うということと、やはり争点をなるべく早期に集約していくというためにはこの釈明処分という方法でやりまして、これでも十分足りない、足りないような場面に関しては証拠の文書提出命令の制度を使っていくということで、両方、何というんですかね、手段を与えて、その双方をもってなるべく事実を審理の中に出してきちっとした判断をしていくと、そういう役割分担というふうに考えたわけでございます。
- 井上哲士君
民事訴訟法上の文書提出命令の運用の状況にもよるというようなことも、見守るというようなことも答弁に過去あったかと思うんですが、今のあれでいいますと、そういう早期の段階での釈明処分と、そして審理が進行した場合の文書提出命令、これを組み合わせていく、必要な法的手当てもしていくと、こういうことでよろしいんでしょうか。
- 政府参考人(山崎潮君)
文書提出命令に関しましては、このベースに民事訴訟全体がございますので、そちらの方でどういうシステムを構築していくかという問題と全体で考えていくという問題になろうかと思いますけれども、この少なくとも行政事件訴訟に関しての釈明、これについては特にやっぱりこの事件に関して必要であるということから設けたと、こういうことでございます。
- 井上哲士君
これは職権によるものですから、裁判所が必要ないと判断すれば釈明は行われないと、こういうふうになるわけですが、今回の趣旨からいいますと、処分とか審査の是非が問題になるという場合にはこの釈明処分が基本的には行われると、こういう運用がされるということでよろしいんでしょうか。
- 政府参考人(山崎潮君)
裁判所もやっぱり根拠とか資料、これがあった方が判断しやすいわけでございますので、こういう根拠があれば、通常の場合はやっぱり釈明処分、この権利を行使、権限を行使していくということになろうというふうに我々は考えております。
- 井上哲士君
今回の釈明処分の場合に、処分に関する一切の資料までは提出を求められません。それから、この処分を前提としない義務付け、それから差止めの訴訟の場合などは、そもそも処分等が行われていないということで、使うことができないということになるかと思うんですね。
そうしますと、やはり提出できる資料の範囲、それから提出を求めることができる場合が狭過ぎるんではないかと、こう思うんですが、いかがでしょうか。
- 政府参考人(山崎潮君)
今回の規定の趣旨でございますけれども、やっぱり訴訟に必要な範囲について早くその資料、根拠等を出して審理の迅速化を図るということでございますので、やはりその審理に必要な範囲でというかぶりはどうしても出てくるわけでございまして、じゃそれ以外の資料も一切合財出せということになったときに、それは膨大な資料があって、それが訴訟に直接関係あるかないか、それも分からないまま出すということになれば、かえって非常に混乱してしまう。そのチェックのために相当時間を食うとかそういうことになりますので、そこは事件に必要な範囲でということで考えたわけでございます。
それからもう一点は、基本的には取消し訴訟についてだけであって、例えば差止め訴訟とかそういう点について適用がないではないかということでございますけれども、この差止め訴訟につきましてはまだ処分が行われていないわけでございますので、そうなりますと典型的にそういうものがあるかどうかということが必ずしも言えないという種類のものであるということからこの規定を置いていないということでございますし、それから義務付け訴訟の中で既に判断が行われているものに関しましては、これは取消し訴訟とともに一緒に起こしてもらうというシステムになっておりますので、その中で当然その釈明処分が行うことができるわけでございますのでそれを利用できると、こういう考え方によるわけでございまして、そのすべてについてこの制度を設ける、そこまでは必要はないと、こういうことでございます。
- 井上哲士君
刑事訴訟法のときにも議論になったわけですが、原告側からいえば、どれだけの資料が相手が持っているのか分からないと、何がそのうち必要なのか分からないということがあるわけですね。こういう行政訴訟と同じように証拠偏在が問題になるのに知的財産の関係の訴訟があります。
今回、この訴訟の改正案も出されているわけですが、この場合は裁判所法の改正で、証拠開示命令に関してインカメラ審査を行う場合に、両当事者に資料を見せて意見を聴けると、こういう制度も盛り込まれております。これと同様に、こういう行政訴訟の場合にも証拠偏在を解決するような何らかの更なる手だてが必要かと思うんですけれども、その点はいかがでしょうか。
- 政府参考人(山崎潮君)
この知財関係のインカメラ手続につきましては、また近いうちに御審議いただきたいというふうに思いますけれども、これは裁判所がその資料を見る場合に、非常に知的財産関係につきましては高度の技術的な事項が多いわけでございますので、それについてその一方当事者からだけその説明を聴いているということで、本当に果たしてそれが正しいのかどうかと、なかなかチェックし切れない、そういうタイプのものでございますので、そこでそれをきちっと担保するためにこの相手方に、相手方にも見てもらって意見を言ってもらうと、その上できちっとした判断をしましょうと、こういう一つの特例を設けているわけでございます。
これは、そういう意味では反対当事者にも意見を聴くということになりますが、その前提といたしましてやはり秘密を守っていただかなきゃなりませんので秘密保持命令というものが掛かるわけでございます。これ罰則付きでございまして、将来にわたってある一定のときまでは絶対に漏らしてはならないというようなことになるわけでございます。
したがいまして、かなりその限定された世界で使っていくような手段だということで例外的にこれを設けまして、これを一般に広げていくというのは、そこまでの必要性があるかという問題と、やっぱり秘密保持命令とかそういう問題が全部掛かってくる。場合によっては法廷も非公開でやるということになりますので、これを一般化しますとやっぱり憲法上の問題にもいろいろ出てくるということから、限られた部分だけに適用があるものだと理解をしているわけでございます。
- 井上哲士君
同じ方法をここに当てはめろということではありませんで、今回の法改正で様々な類型などが新たに用意をされて、入口は広がっても、結局やっぱりこの情報の偏在という問題解決されなければ住民側が結果として勝つことができないということになるわけですから、この点でやはり情報の偏在、証拠の偏在などを正す方策というのを更に検討をしていただきたいということを申し上げておきます。
次に、管轄の問題についてお尋ねをします。
今回、高裁所在地の地方裁判所に広げるということになりました。専門性の確保などがここに限定をした理由として言われておりますけれども、国の場合は、大体、高裁所在地には出先機関がありますから余り経済的不利益というのはないと思うんです。しかし、高裁所在地といいましても、地方の方にとってはかなり交通費等の負担があるわけでありまして、原告の経済上の利益ということも考える必要があると思うんですね。余りにも多大でありますと、結局、訴訟はあきらめざるを得ないということも出てくるわけであります。
行政訴訟が基本的に行政庁の処分による原告の権利救済を図るということから考えますと、更にこの管轄を拡大をしていくということが必要かと思うんですが、この点いかがでしょうか。
- 政府参考人(山崎潮君)
確かに、今回は利用される国民の方の利便の、そういう要請と、それからそれを判断をしていく裁判所の専門性をどうやって集中していくかという問題、あるいはどうやって分散をしていくかという問題になろうかと思いますけれども、その辺の兼ね合いでこういうような発想を取ったということでございます。
これで、今までもいろいろやってきた中でどういう声が上がっているかということですね。こういうもの、今後もこの改正に伴いまして、まだいろいろ不十分だというような声が上がるとすれば、またそれはそれとして考えていかざるを得ない問題だろうというふうに考えておりますが、現在はそのバランスのところで御提案をさしていただいていると、またそれは将来の課題であると、こういうことだろうというふうに理解をしております。
- 井上哲士君
将来の問題ということなんですが、ただ、今回の法改正によって行政訴訟というのは増えていくことは確実だと思うんですね。それを前提に考えますと、やはり地裁レベルでどんどん行政訴訟に通じた裁判官を増やす必要があります。今でも、処分を行った処分庁の所在地を管轄する地方裁判所に管轄権あるわけですけれども、今回の改正で、今後、訴訟増えていくということを考えた場合に、まずそういう地裁レベルでの訴訟が増えていくわけですから、むしろ、やはり今回のようにとどめずに、もっと地裁レベルでの体制も強化をしていくという流れに沿って広げていくべきかと思うけれども、いかがでしょうか。
- 政府参考人(山崎潮君)
これは、審査をしていく裁判所の体制の問題もあるわけでございますが、いずれにしましても、これをまず実行に移して、この附則でもその規定が置かれておりますけれども、五年後にいろいろ問題があれば見直していこうということでございますので、とにかく実行に移さしていただいて、本当にどういうような要望が出てくるのか、ニーズが出てくるのか、その辺をちょっと踏まえながら今後検討していく問題だというふうに考えているわけでございます。
- 井上哲士君
次に、出訴期間の問題についてお聞きをします。
出訴期間が延長されたわけですが、これをなくすべきだというような議論もありました。その答弁の中では、法的安定性を重視をしてやはり期間を定めてあると、こういうこともありました。
ただ、一方で、その事件が第三者に影響を与えないというものについていえば、あえて出訴期間を限定をする必要はないのではないかと思うんですね。例えば、人事の問題など、六か月を超えて、その人事が例えば特定の思想を差別する事件だったというようなことも分かることはあるわけで、こういう場合などは出訴期間をあえて限定する必要はないんではないでしょうか。
- 政府参考人(山崎潮君)
理念的には分からないわけではないんですけれども、ただ、行政処分というのはもう様々なものがあるわけでございまして、時代とともにどういうものが出てくるか分からない、こういうような性格のものでございますので、要するに、第三者に影響があるかないか、そういうところの入口の問題で、そこで問題になって出訴期間を徒過したのかどうかということにもなりかねないところがございまして、これを第三者に影響がないものについては出訴期間はなし、それ以外はありと、こう截然と分けることはなかなか難しいということでございます。そういう意味で、ここでそこの仕分はしなかったということで御理解を賜りたいと思います。
- 井上哲士君
なかなか仕分は難しいという話でありましたが、じゃ例えば国税の場合、一年を経過しても行政の側からは遡及して更正決定などが行えます。ところが、国民の側からはできないということになるわけですね。ですから、国の側から国民の申請に対して異議の申立てが一年を超えてできるというものであれば、国民の側からも一年を超えて異議の申立てができると、こういうふうにするべきだと思うんですが、いかがでしょうか。
- 政府参考人(山崎潮君)
ちょっと、その出訴期間じゃない、いわゆるその更正処分ですね、更正処分の期間云々について国側がどのぐらい、あるいは国民の側をどうするかという問題につきましては、その所管するところの、その法律を持っているところのいろいろな立法政策の問題でございますし、ちょっと今私の方からそれをお答えするのは適当ではないというふうに考えております。
- 井上哲士君
じゃ、もう一点、間違った教示がなされた場合の出訴期間の問題です。
例えば、本来六か月とすべきところを三か月と教示をされたと。六か月ぎりぎりになって間違っていることを知ってももう出訴できないと、こういうようなことも起こり得ます。教示の訂正を行ってから出訴期間が進行すると、こういうふうにすべきだったと思うんですけれども、この点はどうでしょうか。
- 政府参考人(山崎潮君)
それも一つのお考えかと思いますけれども、ただ、教示の誤りがどういう性格のものか、どういう内容のものかということにもよるわけでございますので、これを截然と本当に分けられるかどうかという問題もございます。
したがいまして、私どもはこの正当理由というところの判断にゆだねようということでございまして、従来はこれ不変期間としておりましたので、よっぽどのことのない限りその期間は延びないということになるわけでございますが、それはやっぱり非常に酷な場合もあり得るだろうということから、その不変期間を今度はやめました。やめまして、期間を過ぎても正当な理由があれば救われるようにしようということでございまして、そういう中で、どんなような対応が出てきても、この正当理由に当たるかどうかということで包括的に判断をしていくと、こういう方がいろんな場合に対処しやすいだろうということからこのような方法を設けたということで御理解を賜りたいと思います。
- 井上哲士君
今日の質疑でも、それぞれに今後残された検討課題のことが出されました。今回の改正は、先ほど出発点だというお話もありました。例えば、消費者訴訟における団体訴権などは具体的な検討が行われていると聞いていますけれども、それ以外の団体訴権とか裁量審査の問題、立証責任の問題などなど、様々残された問題があります。これらは具体的検討がされているとは言い難い状況だと思うんですね。
検討会で議論をされて、今回の改正で盛り込まれていない問題については引き続き検討することが必要なわけですが、まず、これ、推本にお聞きしますけれども、今回、法案は出したわけですが、推本としての期間はまだあるわけで、個々の検討会は引き続き議論をしていくのか、そして議論を積み重ねて、推本が解散する時点において何らかの取りまとめみたいなものを出すのか、どういう、今後議論するとすればどういう形で生かしていくのか、その点いかがでしょう。
- 政府参考人(山崎潮君)
御指摘のとおり、まだまだいろんな問題が提起をされております。この問題につきまして、私どもの検討会、今ちょっとお休みをしておりますけれども、この審議が終わればまた再開をしまして議論をしたいと思います。
この議論の中でどういう問題を本当に取り上げていくか、あるいはこの議論を今後どういうふうにやっていくか、そういう議論の中からいろいろ考えていきたいということで、今私どもがアプリオリに移行したいというものはございません。余りやるとまた事務局主導だということになりますので、十分御意見を伺ってからその将来につなげていきたいと、こう考えております。
- 井上哲士君
その上で大臣にお聞きするわけですが、検討会も引き続き議論をされて、そこで今後の大事な問題についても提起がされていくかと思います。今回、四十年ぶりの改正ということになるわけですが、やはり司法制度改革の本部があってこそこういう改正までこぎ着けたと思うんですね。
今後、この間出されてきた様々な検討課題を一体どこが責任を持っていくのか。果たして法務省ということだけで、この間のような、やはり推本のような体制があってこそここまでこぎ着けたことを考えますと、もう少しいろんな仕組みが要るんではないかと思うんですけれども、その点も含めてお願いをいたします。
- 国務大臣(野沢太三君)
確かに、これまで広範にわたる議論を進めてまいりまして、なお検討を要するという課題も幾つか積み残しているということは御指摘のとおりでございますが、取りあえずしかし相当大きな前進である今回の改正を十二分に生かして進めなきゃいかぬ。
残された問題につきましては、今事務局の方からもお話がありましたように、推進本部に行政訴訟検討会が設けられておりますので、まずはここで方向を打ち出すことが大事かと思います。これが十一月には任期が参りますので、その後の体制につきましては、政府を挙げての取組ではございますが、主体的にはやはり法務省がその中心となって、関係の省庁等も協力をいただきながら、実質的な議論については引き続きの推進を図ることが大事であると思っております。
先ほども申し上げましたように、ここの議論といいますものは大きな前進ではございますが、終着駅ではなく、出発駅としても大事な時点に今あると考えておるわけでございます。
- 井上哲士君
法務省が中心になっていくということでありますけれども、やはりこれまでの議論が広く様々な市民も含んで議論をされてきてここまで来たということになりますと、そういうやり方を何らかの形で是非取っていただいて、残された課題が大きく前進をするということを強く求めておきたいと思います。
あと、若干時間をいただきまして、先日の法制審議会の保証制度部会から出された保証制度の見直しに関する要項の中間試案についてお聞きをいたします。
今月からこれパブリックコメントに付されようとしておりますが、根保証ですね、特に包括根保証というのは九九年の商工ローン問題のときに随分問題になりました。少なくとも包括根保証は禁止すべきだというのが運動団体の声でありましたし、私たちも当時、貸金業規制法の改正に関して包括根保証を禁止するという独自の法案を提出をいたしました。しかし、法務省も含めまして非常に消極的な意見もありまして、この基本法のレベル、貸金業規制法でも法制上の規制というのはありませんでした。
今回、具体的に規制の検討が行われたその理由、そして今後の法案化に向けた日程がどうなっていくのか、お願いします。
- 政府参考人(房村精一君)
御指摘の根保証、特に包括根保証でございますが、これにつきましては保証期間、保証金額の定めはないものですから、主たる債務者が破綻した場合、保証人が過大な責任追及を受けて過酷な結果となりがちであると、こういうことで問題があるという指摘がかねてからあったわけでございます。
これまでにも、過度に保証に依存した融資慣行については関係省庁におきまして実務運用面での改善策等が検討され、また実施されているわけでございますが、倒産が多発する現下の経済情勢を踏まえますと、保証契約の内容を適正化するためのより直接的な措置を講ずる必要があると考えられるわけでございます。
そういうことから、今回、法制審議会に対しまして、包括根保証契約について、その規制の在り方を検討をするようにということで諮問がなされたわけでございます。
現在、先ほど御紹介ありましたように、中間試案を公表してパブリックコメントに付しておりますが、今後の予定といたしましては、この意見を取りまとめまして引き続き検討を続けまして、今年の秋には意見を取りまとめまして、できるだけ早く所要の措置を講ずる、法案として国会に提出したいと、こう考えております。
- 井上哲士君
被害者が出ておりますし、待たれているものなので、是非取りまとめをお願いしたいんですが、今回の中間試案で具体的にこの根保証を規制をする主な内容というのはどのようになっているんでしょうか。
- 政府参考人(房村精一君)
中間試案の主な内容でございますが、まず第一に、保証契約については書面によらなければその効力を生じないものとすると。慎重に保証契約を締結していただくということを考えております。それから次に、個人が保証人として継続的に発生する不特定の債務を保証するいわゆる根保証契約をするときには保証の限度額を定めなければならないということにしております。それと、保証期間につきましては、例えば五年といった一定の期間内に発生した債務にその保証の対象を限定すると、このようなことを考えております。それから、仮にその期間が長くなる場合、一定の期間が経過する前であっても一定の事由が生じたときにはその保証すべき額を確定する確定請求ができると、このような措置を講ずることも検討の対象になっております。
その他細かい点は幾つもございますが、今言ったような、主として限度額とそれから期間の点、これを中心に現在の包括根保証に対して制限を加えるということが内容でございます。
- 井上哲士君
改善がなされていくわけですが、ただ、上限を定めない契約は無効だということでありますけれども、金額自身の上限は決めないわけですね。
そうしますと、実際の力関係でいいますと、保証人の能力を超えた限度額を設定をするということもあり得るわけで、そうしますとやはり救済ができないという場合もあるわけで、むしろそういう保証人の能力を超えた設定は禁止だと、こういうような項目も入れるべきだと思うんですが、その点はいかがでしょうか。
- 政府参考人(房村精一君)
確かに、非常に金額、限度額が大きい場合、過酷な結果が生ずることもあり得ないわけではありませんが、しかし、今回、限度額を必ず定めるようにということといたしましたのは、まず、限度額が定まっておりませんと保証契約を締結する時点で自分がどの程度の負担を被るのかということが予測ができない、その結果、その判断に慎重さを欠く場合もあり得ると、そのようなことから必ず限度額を定めて根保証をしなければならないと、そういうことによって適切な判断をしてもらうということを考えているわけでございます。
御指摘のように、上限額が余りにも大きい場合、過酷な結果を生ずる可能性もないわけではありませんが、しかし、どのような場合に過大な限度額なのかということを法律で定めるというのは非常に困難だろうと思います。従来も、そういう意味では裁判例においてそういう過酷な結果が生ずるような場合に、当事者の合理的な意思解釈であるとか信義則等の一般法理に基づいて救済をしている例もあるわけでございますので、その点については、今回の改正をした限度額については、特段の制約を加えない場合は同様の保護が判例において可能なわけでございますので、そういった形で救済をしていくしかないのではないかと、こう思っております。
- 井上哲士君
終わります。
- 委員長(山本保君)
他に御発言もないようですから、本案に対する質疑は終局したものと認めます。
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