2004年10月28日(木)
- 井上哲士君
日本共産党の井上哲士です。
最初に大臣に弁護士費用の敗訴者負担制度の問題で質問をいたします。
総理が先日の参議院本会議の答弁でこの制度導入の目的について、裁判を利用しやすくする、利用しやすいものにするということだと述べられましたけれども、大臣も同じ認識で間違いないわけですね。
- 国務大臣(南野知惠子君)
そのとおりでございます。
- 井上哲士君
私は、いろんな経過見ていますと、大企業などが消費者や労働者などからの訴訟を起こしにくくするということが大きなねらいの一つにあると思っております。
ただ、仮に政府が言われるように裁判を利用しやすくする目的だとしても、果たしてこの法案の制度が機能するんだろうかという、役立つんだろうかという疑問があります。両方が勝訴を確信している裁判というのはそうありませんで、敗訴が予想される当事者というのはこれに同意をしないわけですから、制度は使われないと。そういうことになりますと、政府の言う目的に照らしても、この導入の意味はないと思うんですけれども、いかがでしょうか。
- 国務大臣(南野知惠子君)
法案の制度をどのぐらい御利用いただけるかということにつきましては、一概に申し上げることはできないのでないかなと思います。当事者が両方とも訴訟に勝つと思っていて弁護士に係った費用を回収したいと考えている場合には、この制度を利用されることがあると思います。法案の制度につきましては、当事者の両方が希望する場合に、訴訟に勝って相手方から弁護士に係る費用を回収したい人の期待にはこたえることができ、その意味では意義があると思っております。
- 井上哲士君
法案を出されてもどのぐらい使われるか分からないということですから、私は本当に導入の意味が示し得てないと思うんですね。説明に来られた方は、例えば境界争いなどお互いに勝訴を確信をしていて、相手の弁護士、自分の弁護士費用も払わせたいと思っていると言われましたけれども、そういう場合はこういう制度がなくたってそれぞれ裁判やられるわけですから、私はアクセスの拡充には役立たないというふうに思うんです。
問題は、そういう利用をしやすくするどころか、むしろ萎縮につながっていくという問題です。これも総理が本会議で答弁をされましたけれども、訴訟に持ち込まれる前の契約書の条項の中に敗訴者負担制度条項が組み込まれることにより、経済的に弱い立場の人にとって裁判利用を思いとどまらせる効果を懸念する向きもあることを承知していると、こういうふうに認められました。
そこで、まず聞くんですけれども、こういう法律ができることによって、この契約書の中にあらかじめこの敗訴者負担条項を組み込むと、こういうケースが拡大をしていくだろうと、こういう認識はあるんでしょうか。
- 国務大臣(南野知惠子君)
契約で弁護士に係る費用の負担を決めることが広まるのではないかと心配される方がいらっしゃることは承知いたしております。制度の本来の目的が発揮されますよう、法案の御審議の場におきまして更によく議論していただきたいとお願いいたします。
- 井上哲士君
私、現状がどうなっているんだろうかと思いまして、いろんな契約書をいろんなところで見ているんですけれども、今でも幾つかこういうものがありますし、広がりつつある条項だと思うんですね。
これ、例えばりそな銀行のフリーローン保証委託約款というものですけれども、第六条、「費用の負担」というところに、貴社が将来の求債権保全のために要した費用など負担しますと、この費用には訴訟費用及び弁護士費用を含みますというのがこう既にあります。それから、国土交通省がマンションの標準規約、標準管理規約のひな形を出しておりますけれども、ここを見ましても、訴えを提起する場合、理事長は、請求の相手方に対し、違約金としての弁護士費用及び差止め等の諸費用を請求することができると、こういうことも書かれております。
今後、例えば業界ごとにひな形を出すというような形で、その中にこの敗訴者負担条項が組み込まれるという形になりますと、飛躍的にこれは拡大をしていくと、こういうおそれがあると思うんですね。そして、そうなりますと、消費者などは、この項目については私は省いて契約をしますと、こういうことをやるのはなかなか困難だと思うんですね。
ちょっと、これ加えて聞くんですけれども、こういう契約書ができたときに、消費者などがその部分は外して契約をするということが十分に可能だと、これは大臣、認識いかがでしょうか。
- 副大臣(滝実君)
今委員おっしゃるように、現在でも既に実体の経済取引といいますか、その中ではあらかじめそういうような約款を盛り込んでいるという契約が今指摘されましたけれども、それはそのとおりだと思います。ただ、将来この敗訴者負担制度ができるからといって、その問題、実体法の契約取引がますますそういう結果になることになるかどうかというのは、それはちょっと一概に言えない問題があるだろうと思います。
ただ、おっしゃりますように、やはりそれは個々の取引契約のときに、やっぱり十分にそこのところは一般国民の方が理解をしてもらう、そしてそれについて自分でもってその約款に安易にイエス、ノーを言わない、イエス、ノーというか、イエスを言わないというようなやっぱり習慣というものは作っていただく必要があるだろうとずっと思っております。
- 井上哲士君
さっき、マンション標準管理規約のひな形言いましたけれども、こういう形でいろんなひな形が出て印刷したものができますと、この部分は私は同意できませんと言ったら、実際上契約ができないということになってしまうわけですね。ですから、消費者がよく見て選択をするというようなことは、現実の今の契約状況の中ではこれは僕はあり得ないことだと思うんです。
問題は、先ほど総理も言われたようなこの懸念ですね。この問題は、実は法案が出てきてから出てきた声じゃないんですね。アクセス検討会の中でも出ていましたし、パブリックコメントでも随分出されていたんです。
では、そういう声が出た後にこの法案が作られたわけですから、この法案のそのものの中に、総理も言われるような懸念を解消する措置が含まれているのかどうか、この点、いかがでしょうか。大臣だ、大臣。
- 国務大臣(南野知惠子君)
契約で弁護士に係る費用の負担について決めるという問題は、この制度を導入しない場合にも生じる問題であります。法案とは直接に関係しない問題ではないかと考えております。
御指摘の問題につきましては、法案の御審議の場におきまして更によく議論していただきたいと思っております。
- 井上哲士君
法案とは直接関係ないというお話、御答弁です。
ということは、もう一回確認しますけれども、こういう懸念を解消するための措置というのはこの法案の中には盛り込まれていないんだと、こういうことで確認してよろしいですね。
- 政府参考人(山崎潮君)
今大臣から概括的なお話がございましたけれども、そのとおりでございます。
私の方から若干述べさせていただきますけれども、この法案の中にはございません。ただ、実体法の関係は、例えば先ほどから御指摘がある消費者の問題につきましては消費者契約法がございます。その中に、多分九条だったと記憶しておりますけれども、消費者がある通常生ずるような損害を超えるような損害を負うような損害賠償の予約、あるいは違約金の定め、これは無効であるという規定がございます。
そのほか、個別労働紛争に関しても労働基準法があったりとか、そういう解釈で賄えると我々は考えているわけでございまして、この法案にはございませんけれども、他の実体法の規定があると、こういうことでございます。
- 井上哲士君
法案の中にはないということは認められました。
多くの懸念は、そういう実体法で守られていることが、こういう法律ができることによって駄目になっていくんじゃないかと、こういう懸念があるわけですね。そのこと自身も総理もお認めになってきたわけです。
ですから、政府が述べてきた裁判を利用しやすくするという目的にも沿いませんし、幅広い国民からは、逆に裁判を使いにくくすると、こういう懸念があるにもかかわらず、法律の中にはそれ自身を解消する措置もないということでありますから、私は、もうこれは百害あって一利なしで、やはり廃案にするということが必要だということを申し上げておきます。
次に、いわゆる犯罪使用の電話対策の問題についてお聞きをいたします。
架空請求とか、いわゆるやみ金の問題というのは非常に深刻であります。先ほどもありましたけれども、今度の震災で、テレビの安否情報を悪用して、そこに電話をしてやる震災おれおれ詐欺というのまで出ている。本当に人間として許せないことだと私は思うんですね。
これは、啓発なども必要ですけれども、同時に、この犯罪に使われた電話、この手段の規制が大事だと思うんですね。架空預金口座などは対策が取られるようになっていますけれども、電話の対策というのは十分な対策が取られていないと思います。
その中で、特にいわゆるプリペイド携帯電話の問題でありますけれども、非常に匿名性が高いということで、こういう架空請求とかやみ金事件や、あるいは薬物事件で対応されていると思いますが、その実態、そして捜査当局としてはどういう体制、対策が必要とお考えか。警察庁、法務省、それぞれからお聞きをいたします。
- 政府参考人(岡田薫君)
プリペイド式携帯電話が犯罪に使用されている実態等についてのお尋ねでございますので私の方から御説明申し上げますが、御案内のとおり、プリペイド式の携帯電話は本人確認の徹底が難しいというようなことから、使用者がはっきりしないことが多うございます。そのため、おれおれ詐欺、架空請求詐欺あるいは身の代金目的誘拐事件、それから御指摘ございました薬物の密売等各種犯罪において、被害者との連絡手段あるいは共犯者同士の連絡手段としてかなり広く利用されているものと認識をいたしております。
こうした携帯電話を犯罪に利用された場合に、その電話番号が判明いたしましても犯人を割り出すことは極めて困難でございます。そうしたことから、捜査上の大きな障害になっているところでございますので、警察といたしましては、こうした匿名のツールが犯罪に利用されないよう関係省庁等が連携をした上で有効な対策を講じていくことが極めて重要であると、このように考えております。
- 政府参考人(大林宏君)
ただいま警察庁からも説明がありましたけれども、いわゆるおれおれ詐欺等にプリペイド式携帯電話が使われている実態については法務省としても承知しております。犯罪対策の観点から何らかの規制が必要であると認識しており、具体的対策については関係省庁とも十分協議の上検討してまいりたいと考えております。
- 井上哲士君
そこで、総務省にお聞きするんですが、NTTドコモはこのプリペイド携帯電話というのはもう日本の社会に必要ないということで廃止の検討を始めているようですけれども、総務省としてもこの犯罪利用の実態に照らして廃止も含めた決断をすべきだと思うんですが、いかがでしょうか。
- 政府参考人(江嵜正邦君)
プリペイド式携帯電話につきましては、その匿名性が犯罪に利用されていたということから、携帯電話事業所におきまして販売時の本人確認を実施してきたというところでございますけれども、自由に譲渡、転売などできるということから、依然として匿名性が高いおれおれ詐欺などの犯罪に利用されているという事実は十分認識しております。
携帯電話事業者の方も、従来の販売時の本人確認強化だけでは、譲渡、転売などされた場合の利用者の把握に有効ではないという認識を持っておりまして、実効性のある本人確認強化策を考えているというところではございます。
御質問のプリペイド式携帯電話の廃止等がございますけれども、プリペイド式携帯電話、これは親が子に持たせるなどの利便性があるという部分はございますが、一方でその匿名性から犯罪に利用されているということも事実でございますので、私どもといたしましては、国会、関係省庁、事業者など関係方面の取組も踏まえまして、実効性のある対策に向けて適切に対応してまいりたいというふうに考えております。
- 井上哲士君
それに加えて、このプリペイドにとどまらず、いわゆる犯罪使用電話という問題があります。
これ、京都で摘発された山口組傘下の組織暴力団の例ですけれども、普通の携帯電話を覚せい剤の密売のための受付専用電話にして、そこからプリペイドに転送するというやり方をしているんですね。この受付の電話の番号の下四けたが五七五七で、これ覚せい剤の粉とごろを合わしたコナコナということだそうですけれども、これが行われている。
昨年の七月に策定されました薬物乱用防止新五か年戦略でも、こういう場合にこの電話番号、携帯電話を押収しても、電話番号自身はこの密売人同士で売り買いをされて、結局この密売ルートの遮断に至っていないと、捜査機関のみでは解決できない構造的な問題になっていると、こういうふうに指摘をされています。これ、五年前の計画でも同じ指摘なわけですね。どういう実態があって、なぜこういうことになっているのか。警察庁、いかがでしょうか。
- 政府参考人(岡田薫君)
今御質問のございました、何年か前で報道等でもいろいろ問題になりましたけれども、顧客付き携帯電話というようなことで呼ばれることもございます。そうしたものが薬物乱用拡大を防止する観点から、警察としては迅速に捜査をするということで取締りを強力に推進をいたしておりますが、なかなかその電話自体は押さえても、番号自体はまた別の機械に付け替えられて利用される。それ、しかも、御指摘のような覚えやすい番号で、お客にとってはですね、使われるというようなことがございまして、そういったものについての何らかの防止策というものはこれまで関係省庁ともいろいろ検討してきたところでございますが、そうした措置について更に引き続いて関係省庁等とも検討してまいりたいと、このように思っております。
- 井上哲士君
犯罪に用いたということで没収されても、言わば主たる使用価値である番号はそのまま続けられるということになっているわけですから、これ自体やっぱり対応が必要だと思うんですね。
架空請求事件のように、電話番号を直ちに利用停止をしてこういう被害の拡大を防ぐ必要があるのではないかと、そう思うわけですけど、この点、総務省、いかがでしょうか。
- 政府参考人(江嵜正邦君)
架空請求につきましては、総務省にも多くの苦情相談が寄せられておりまして、今年度上半期でも全体の相談数の半分以上が架空請求のものという状況になっております。大きな社会問題というふうに私どもも認識しております。
御指摘の点につきましては、この春以降、地方自治体や弁護士会などからも総務省に対して御要望が寄せられているところでございます。私どもといたしましては、こういう状況を踏まえまして、この六月から、携帯電話事業者とともに架空請求などの犯罪に利用された電話回線の停止というものにつきまして検討を進めているところでございます。
この検討に際しましては、電話回線の利用を停止することが表現の自由の手段である通信を制限することになるという部分もございますので、本当にその回線が犯罪に利用されたか否かという事実認定、それからまた将来の一定期間、その回線の利用を停止するに足りる犯罪であるかということ、これらにつきましての判断基準、判断方法などについて検討する必要があるというふうに思っております。
ただ、私どもといたしましては、こうした法的問題の整理を進める一方で、架空請求などの犯罪に利用されたと思われる電話回線の停止を行うという観点から、本人確認のできない電話回線の利用停止というようなことにつきまして、携帯電話事業者、弁護士会などとともに引き続き検討を進めてまいりたいというふうに思っております。
- 井上哲士君
最後に、こういう犯罪被害をなくしていく上で大臣の御決意を伺って、質問を終わりたいと思います。
- 国務大臣(南野知惠子君)
御指摘のいわゆるおれおれ詐欺のような、高齢者などの社会的弱者が被害者となる犯罪が多発する一方で、凶悪な殺傷事件も続発しております。日本の治安の現状については、誠に憂慮すべき状況にあると確認しております。
国民が安心して暮らせる安全な社会を再生することは最重要課題であると受け止めております。関係諸機関と連携しながら、治安の回復に向け最大限の努力をしてまいりたいと思っております。
- 井上哲士君
終わります。
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