2006年10月26日(木)
文教科学委員会
「教科書検定や全国学力テスト、学校選択制」について
- 従軍慰安婦について謝罪した河野官房長官談話について伊吹文科大臣の歴史認識をただす。また、全国学力テストの学校別公表、格差と序列化が進み、地域とのつながりも薄れる恐れがある学校選択性について質問。
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- 井上哲士君
日本共産党の井上哲士です。
大臣には初めての質問になりますので、まず土台となるいわゆる歴史認識の問題についてお伺いをいたします。
今も日中韓三国の交流の大切さということがございました。このアジアとの本当の友好関係をつくっていく上でも、戦後の国際秩序の土台の上で世界とアジアの一員として生きていくという点でも、私はやっぱり過去に行った日本の侵略戦争と植民地支配に対する態度、これは問われてくると思います。特に中国、韓国との関係でいいますと、教科書問題は非常に大きなことでありまして、この検定の責任者である大臣の歴史認識といったものを問われると思います。
〔理事北岡秀二君退席、委員長着席〕
安倍総理は、いわゆる従軍慰安婦についてのおわびと反省を表明をした河野官房長官談話について、政府として引き継いでいると、こういう答弁をされましたけれども、これは文部科学大臣も同じ認識ということでよろしいでしょうか。
- 国務大臣(伊吹文明君)
教科書検定というのは当然審議会を持ってやっておりますので、その点はひとつ御理解をいただきたいと思いますが、私は安倍内閣の一員でございますから、内閣の一員としては当然安倍総理の考えておられるとおりの態度を取らなければいけないと思っております。
- 井上哲士君
河野談話には歴史教育などを通じて同じ過ちを決して繰り返さない決意ということも表明されておりますが、当然この内容も含めて受け継ぐということでよろしいでしょうか。
- 国務大臣(伊吹文明君)
日本は法治国家でございますから、当然教科書検定についてもきちっとした法体系の中で行われていて、河野官房長官談話を受けて御承知の近隣への配慮条項というのが新たに加わっております。これは変わっておりませんから、当然のことだと思います。
- 井上哲士君
ところが、下村官房副長官が、八月の下旬でありますが、自虐史観に基づいた歴史教科書も官邸のチェックで改めさせると、こういう発言をしていたということが大きく報道をされたわけですね。今の法治国家という話、そして河野官房長官談話、近隣条項も含めて態度を引き継いでいくということからいいますと、私はこれ全く反する発言だと思うんですが、この点、大臣の認識はいかがでしょうか。
- 国務大臣(伊吹文明君)
御質問の趣旨は、下村副長官の発言についてどう思うかということですか。それは、私は、先ほど申し上げたように、安倍内閣の一員でございますから、閣僚としては当然内閣の方針に従うということを申し上げましたので、副長官ですから、個人の立場と内閣の一員という立場を使い分けられるという立場には私はないと思いますがね。
- 井上哲士君
だから、その下村氏が、自虐史観に基づいた歴史教科書も官邸のチェックで改めさせると、こういうふうに言われていたわけですね。これは矛盾するんじゃないでしょうか。
- 国務大臣(伊吹文明君)
何度も申し上げていますように、日本は独裁国家ではございませんので、法治国家でございますから、官邸が教科書検定をできるという法体系にはなっておりません。
- 井上哲士君
そうすると、この下村氏が発言をしたようなことはあってはならないと、こういうことで確認をしてよろしいでしょうか。
- 国務大臣(伊吹文明君)
それは下村さんが自分の個人的見解として御発言になったと伺っておりますが、それがあっていいことかどうかというのは、安倍内閣の一員として下村さんに聞いていただきたいと思います。
- 井上哲士君
官邸のチェックで教科書が変わるようなことは法治国家の下ではないんだということが先ほど来繰り返しお話がありました。
ただ、歴史教育の中で実際にこの従軍慰安婦の問題がどう取り上げてこられたのか。教科書からは記述がなくなったりするなど、実際は大きく後退をしているのではないかと私は思いますし、大変問題だと思っております。
そして、今、下村氏の発言も挙げたわけですが、先日は、中川これは自民党政調会長でありますが、デモで騒音をまき散らす教員に児童生徒の尊敬を受ける資格はないと、免許剥奪だろうと、こんな発言も飛び出しますと、私は安倍内閣の言うこの教育改革というものがこういう特定のものを押し付けていくということになるんじゃないかという危惧を大変強く覚えております。それを申し上げておきたい。
それからもう一点大変危惧を持っておりますのは、いわゆる競争と選別、その下での格差が拡大するのではないかということなんです。
文部科学省は、来年の四月から全国一斉に小学校六年生と中学校三年生のすべての子供たちを対象に学力テストを行います。私は、今年の三月の委員会でもこれには反対だということを質問で申し上げました。非常に弊害が大きいと。その際に、文部科学省としても、この学力テストの実施が過度の競争を招いたり学校間の序列化を招来したりすることはあってはならないと答弁もされ、そして結果の公表については弊害的な部分を最小限化すると、これは前の大臣が答弁をされました。
その後いろんな公表方法について検討があったと思いますが、どういう形で公表をされるんでしょうか。
- 政府参考人(銭谷眞美君)
来年の四月に行います全国学力・学習状況調査の結果の公表についてでございますが、まず一つは、国全体の状況を公表いたします。二つには、都道府県単位の状況を公表する予定にいたしております。三点目には、地域の規模等のまとまりごとの状況、ちょっと分かりにくいんでございますが、大都市、中核市、その他の市、町村等に分けまして、それぞれの状況を公表する予定にいたしております。
私どもといたしましては、公表するデータの読み取り方等を併せ示すなど、序列化や過度な競争につながらないよう十分配慮することを基本的な視点といたしております。
- 井上哲士君
国としてはそういう公表ですが、都道府県の教育委員会、それから市町村の教育委員会での結果の取扱いはどのようにお考えでしょうか。
- 政府参考人(銭谷眞美君)
各教育委員会における全国学力・学習状況調査の結果の取扱いにつきましては、これも序列化や過度な競争につながらない取扱いを求めているところでございます。
すなわち、都道府県の教育委員会に対しましては、域内の市町村や学校の状況について個々の市町村名、学校名を明らかにした公表は行わないこと、市町村の教育委員会に対しましては、同様に域内の学校の状況について個々の学校名を明らかにした公表を行わないことを求めているところでございます。
- 井上哲士君
過度の競争と序列化をつくらないということでそういう抑制的な公表を求めているわけですが、一方、安倍総理の「美しい国へ」という本を読みますと、全国的な学力テストを実施し、その結果を公表すべきではないかと述べられた上で、この学力テストによって保護者に学校選択の指標を提供すべきであると、こう書かれているわけですね。学校選択の指標にするということは、学校ごとの結果を出さなくてはできないわけでありまして、正にこの学力テストが競争と序列化に活用されることになるんじゃないか、こう危惧をするわけですが、大臣のお考えはいかがでしょうか。
- 国務大臣(伊吹文明君)
今おっしゃったのは安倍総理が自民党の総裁選に出る前に出版した本に書いてあることをおっしゃったわけですね。ですから、安倍さんが内閣総理大臣として行政権の中で実施しようとすることは、これは施政方針演説の中にある以上のことはありません。
- 井上哲士君
そうしますと、前大臣がいわゆる学校ごと、それから市町村ごとなどを公表すると弊害的な部分があると、こういうことも言われているわけですが、伊吹大臣も同じ考えだということでよろしいですか。
- 国務大臣(伊吹文明君)
学力調査というのは何のためにやるかというと、やはり最低限の学力が全国的に付いているかどうかということを調べるというわけですからね。今政府参考人が申しましたように、文部科学省としては一つ一つの学校の成績を公表するというようなことは考えないと、こう言っているわけですから、それで私はいいんだと思います。
ただし、安倍さんが美しい国という本の中でいろいろ言っているような、つまり学校が本当に納税者の税金をもって効率的に納税者が期待されている役割を果たしているかどうかということは、みんなが責任を持って受け止めなければならない現実だと思います。
- 井上哲士君
学校選択の指標になるような形で公表されることについてはあり得ないという御答弁だと私は受け止めました。
ただ、現実にはすべて幾つかの都道府県や市町村でこの学校ごとの結果が公表されております。そして、それがこの学校選択制と結び付くことによっていろんな問題を引き起こしているんですね。安倍総理もこの学校選択制の全国展開に意欲を見せていらっしゃるわけですが、まずこの学校選択制を導入した自治体はどれだけあるのか、数と率についてお聞きします。
- 政府参考人(銭谷眞美君)
学校選択制を導入している自治体は、平成十六年の十一月時点でございますが、小学校段階で二百二十七自治体、中学校段階で百六十一自治体でございます。自治体内に二校以上の小学校を設置をしている自治体のうち、学校選択制を導入している自治体の割合は八・八%でございます。同じく二校以上の中学校を設置している自治体のうち、学校選択制を導入している自治体は一一・一%でございます。
- 井上哲士君
私は、いじめとか教員とのミスマッチとかいろんな問題があれば、弾力的に運用することで十分に可能だと思うんですね。
そういう中で学校選択制が進められてきましたが、従来の通学区域を残したものと、通学区域をもうなくしちゃって自由選択とかブロック選択という制度があると思いますが、この通学区域自身をなくすという学校選択制を採用しているのはどれだけでしょうか。
- 政府参考人(銭谷眞美君)
いわゆる学校選択制につきましては、幾つかのやり方がございます。
それで、当該市町村のすべての学校のうちから希望する学校に就学を認める、つまり、従来の通学区域はなくして、当該市町村内におけるすべての学校の中から学校を選んで就学を認めるという自由選択制を導入している自治体の数は、小学校で学校選択制を導入している自治体二百二十七のうち三十一、中学校で学校選択制を導入している自治体百六十一のうち四十五となっております。
- 井上哲士君
通学区域をなくすやり方を取っているのはまだごく少数なわけですね。これはやっぱりいろんな懸念があるからだと思うんですが、文部科学省はこの三月に学校選択制等についての事例集というのを出されていますけれども、この中ではどういうデメリットを懸念されているんでしょうか。
- 政府参考人(銭谷眞美君)
公立学校のこの学校選択制は、保護者の意向や要望に対応するとともに、特色ある学校づくりを進め学校の活性化を促進するなどの観点から、地域の実情などに即して市町村の教育委員会の判断において導入をされているものでございます。
学校選択制のデメリットとして挙げられますのは、一つには、学校と地域とのつながりが希薄になるおそれがあると。二つには、入学希望者が少ないために適正な学校規模を維持できない学校が固定化するなど、学校の序列化や学校間格差が発生するおそれがあると。三点目、これはデメリットと言えるかどうかでございますが、過疎地では実際的には導入が困難であるといったことが挙げられるかと思います。
公正のため、メリットというものもちょっとお話しさせていただきますと、メリットとしては、保護者及び児童生徒の選択や評価を通じて特色ある学校づくりと教育の質の向上が図られる。二点目としては、保護者の学校への関心が高まり、学校と保護者の連携の強化につながる等が挙げられるかと思います。
文部科学省といたしましては、学校選択制を導入すべきか否かは地域の実情を十分に踏まえまして各自治体が判断すべきであり、全国一律に義務付けるということは適当でないと考えているところでございます。
- 井上哲士君
今、大きくいえば二つの弊害、デメリットということがありました。実際、既に恐れていたことは起きていると思うんですね。
特に、まず地域とのつながりの問題について大臣に御見解を聞くんですが、子供たちが非常に遠くにある学校に行くケースも少なくありません。やっぱり居住地ごとに学区制度が決まっているということは、地域の中で子供を育てる、そしてそれが地域のコミュニティーになるという大きな利点があったと思います。
大臣、同じ京都でありますから、私ちょっと固有名詞を挙げますと、うちの子は第四錦林小学校というところに行っておりますが、非常に地域でこの間、通学の安全を見守るということで、PTAやら自治連やら各種団体が一緒になって取組をしておりますし、また、学校のクラブで例えば吉田神社のお祭りでやる太鼓とか剣矛なんかをやるという、非常に地域がこの学校を守り育てようという思いもあるし、学校の側も積極的に地域と一緒になってやってきているとき、これは非常に京都の良き伝統でもありますし、全国的にも行われていると思うんです。
ところが、これが地域の子供がよそにも行ってしまう、そして学校には言わば知らない子供たちもたくさん来るということになったら、この地域とのつながりというのは本当に崩れてしまうと思うんですね。既に、例えばお祭りの太鼓のたたき手がいなくなってくるとか、いろんな問題も指摘をされております。
大臣の地元の京都一区なども非常にこういう点では取組が強く、長くあるところなわけですね。こういう、しかも今回の大臣のごあいさつの中でも、地域ぐるみで子供の成長を見守る環境の整備を進めますということが書いてあるわけです。こういう方向とこの学校選択制をするということは私は相反するんじゃないかと思うんですが、その点いかがお考えでしょうか。
- 国務大臣(伊吹文明君)
井上先生、我々はふるさとを同じゅうしておりますから、率直に言って京都というのは非常に恵まれた都市でして、戦災を受けませんでしたし、定着している人も非常に多いですから、学区ごとの地域コミュニティーというのがかなり定着している例外的な私は政令都市だと思います。ですから、これがすべての大都会に当てはまるかどうかということは少し、ちょっと簡単に判断してはいけないと思うんですが、確かに先生がおっしゃるようなメリットが壊される危険があるんですよ。しかし、先ほど佐藤先生の御質問に私がお答えしたように、そのメリットが、今先生が御指摘になったようなメリットを壊しても、なおかつ使っている税金で効率的な学校運営、人材育成ができるメリットの方が多ければ、壊さなければいけないというときが来る可能性があるわけですよ。
だから、そういうことにならないように、みんな学校現場や何かをしっかりしていきたいというのがここにいる者のやっぱり共通の認識なんだろうと思うんですね。だから選択制も、自己評価、第三者評価の公表制も、進んでバウチャーなどということも、みんなやはり学校現場が納税者の負担にこたえているかどうかというところに出てきている提案なんですね。ですから、できるだけ先生がおっしゃったようなメリットを壊さなくてもいいようにみんなで頑張りたいと思いますね。
- 井上哲士君
私、言いたいのは、要するに、一方で地域での子供の成長を見守る環境整備を進めるという方向を出しながら、もう一方でそれとは逆行するようなことを打ち出すということになったときに、お互い打ち消し合うことにもなりますし、現場の混乱も招くと。私は、やっぱり今非常に、全国的な取組からいえば、やっぱり地域と学校のつながりというのを広げていこうという流れがある中で、それと逆行するものを一遍に出すというのはこれは間違いじゃないかと、こういうことを申し上げているんですが、いかがでしょうか。
- 国務大臣(伊吹文明君)
先生のようなことを重視されて、学校現場にほぼ納税者を満足させるだけの教育力があるという前提に立てば、先生のおっしゃるとおりでしょう。
- 井上哲士君
私は、そういう力を地域と一緒につくっていこうという方向をやはり大臣のあいさつでも打ち出しているわけですから、その方向でやはりきちっとやるべきだということを申し上げているわけです。
もう一点、先ほどのデメリットということでいいますと、序列化という問題があります。東京では既に学力テストの結果公表と学校選択制が導入されておりますから、これがリンクして、それぞれが持っているデメリットが言わばくっ付いて更に私は問題を広げていると思うんですね。
二十三区の小学校で入学者ゼロの学校も続出をしておりますし、〇五年度では小学校一校、中学校三校、〇六年度には中学校二校が入学者ゼロだったと、こういうことも聞いております。いったん何かうわさが立つと、それで希望者が減り、それを聞いてまた減るとか、こういう状況が生まれているわけですね。
そうしますと、結局、義務教育の段階に言わばいい学校、悪い学校というようなことが評価ができる。そうすると、結局その子供の世界に優越感とか劣等感を持ち込むことになりますし、時間的、経済的に余裕がある方はそういうところに例えば車で通学をさせるとか、こういうこともできますけれども、そういう選択ができない子供たくさんいるわけですね。
私は、序列化という問題は今日朝から議論になっていますけれども、例えば福岡の話でも、子供にイチゴの等級で序列化をして話をしていた、非常にこれは心を傷付けたと思うんです。学校にそういう序列化やレッテルを張ったときに、子供たちがどう傷付くのか、それが結局クラスの中でまた弱い者に向かうということでのいじめの一つの原因にもなっていくと思うんですね。
こういう序列化というものはつくるべきでないと思うんですけれども、この点での大臣の御認識はいかがでしょうか。
- 国務大臣(伊吹文明君)
これは、井上先生、何度も私は御答弁申し上げていますとおり、うまく、現場がすべてうまくいっていれば先生がおっしゃるとおりなんですよ。だけど、現場がうまくいかない場合には、痛い手術だけれども、やらなければいけない手術もあると。だから、そういう手術をしなくてもいい現場をつくっていくようにみんなで頑張ろうじゃないかということを私は申し上げているわけです。
- 井上哲士君
痛い手術が命を奪うようなことになってはならないと思うんですね。
さっき言われましたように、学力テストについても、学校選択制も、いずれも過度の競争と序列化が懸念されるということ、それぞれ文部科学省自身が言ってきたことなんですね。それが一体にやられますと、一層これが助長されるということに私はなると思います。
先ほども紹介ありましたけれども、全国の小中学校の校長先生のアンケートでも、学校が直面している問題に教育改革が対応してないと答えたのが八二パー、そして早過ぎて現場が付いていけないと答えたのが八五パーという数があります。一方で、その一つ一つの学校を良くしようという努力、そして地域で一体化してやっていこうという努力を出しながら、それと逆行する方向が出てくるというのは一層の混乱を与えるし、その被害は子供と現場になると思いますから、私はやっぱり、しっかり今必要なのは、教育基本法の理念を生かして、これを徹底していくことだということを思います。
そのことを申し上げまして、質問を終わります。
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