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2006年12月14日(木)

文教科学委員会
「著作権法改正案」について

  • 厳罰化の問題とIPマルチキャスト放送について。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 まず、罰則の強化に関して、大臣にお聞きします。

 文化芸術活動は、表現の自由や思想、良心の自由、とりわけ内心の自由が保障された下でこそ発展をするものだと思います。著作権は、思想又は感情を創作的に表現したものだけに、刑事罰の在り方というのは慎重にされるべきだと思います。取締りを強化することでかえって自由な創作活動や文化芸術活動にマイナスがあってはならないと思います。

 今回の法改正では、個人罰則を五年以下から十年以下と重罰化をしております。刑法犯で十年以下の懲役となりますと、詐欺、恐喝、業務上横領など重罪と言われるものに当たるわけですね。かなり重い罪になってくる。著作権に私はこのような厳罰化というのは相入れないのではないかと考えますが、いかがでしょうか。

国務大臣(伊吹文明君)

 著作権は、先生がおっしゃった言葉で言えば、思想又は感情そのものを保護するものではないんですよね。思想又は感情その他を含む表現をしているものに対する保護ですから、特許権と並んで、ある意味では文化的、経済的な活動を支える、ある意味では知的財産権的性格を持つものでございますので、もう御承知のとおり、先般、特許法等の産業財産法の罰則が強化をされたわけですから、知的財産権的なものとしての保護はやはりやらねばならないと、そういう考えで罰則の強化をしたわけです。

井上哲士君

 保護しなくちゃいけないのは当然のことなんですね。ただ、今言われましたけれども、特許権というのはやはり登録を必要とするわけでありまして、著作物の場合は創作した瞬間に発生するという点で私はかなり違うと思います。ですから、諸外国でも同一に扱っていないわけでありますし、個人罰則が懲役十年以下というところはほとんどないと思うわけで、この点でも日本がかなり突出しているんじゃないかと考えるんですが、いかがでしょうか。

政府参考人(加茂川幸夫君)

 お答えをいたします。

 罰則が必要であるかどうか、その要否又は程度につきましては、罰則全体のバランス、特に類似分野におけます取扱いを考慮して、それぞれの国が国情等に応じて独自に判断すべきものではないかと考えておるわけでございます。

 諸外国について見ますと、自由刑についてはアメリカが最高五年以下の禁錮、韓国の場合には五年以下の懲役、またイギリス、フランスが最高二年以下の禁錮となっておるわけでございますが、これを見る限りは日本の罰則が、先生御指摘になりました、十年以下でございますので、厳しい国に含まれる、厳しい国と整理されることは事実だと思っております。しかし、刑罰全体を見ました場合には、例えばアメリカにおきましては、著作権侵害に係る罰則、再犯の場合には最高十年の自由刑が定められておりますし、また罰金につきましても、アメリカが最高二十五万ドル、フランスの場合には最高十五万ユーロを科することができるという側面もございまして、ここを見ますと、我が国よりも厳しい罰則規定が見られるところでございます。

 すなわち、諸外国と比較することは難しいわけでございますけれども、こういった点からも我が国の罰則だけが突出していると断定はできないのではないかと私どもは理解をしておるわけでございます。

井上哲士君

 幾つかの国、言われましたが、例えばドイツやイタリアなどは三年以下の自由刑ないし禁錮刑ということになっておりますし、いずれにしても、何が著作権の侵害に当たるかというのは非常に裁判でもかなり難しく争われるケースが多いわけで、私は、やっぱり刑事罰の適用は抑制的であり、民事的な解決が図られるという方向にするべきではないかと思っております。

 もう一点、IPマルチキャストに関して聞きますが、著作権法の目的からいいますと、権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作権等の権利の保護をも図り、もって文化の発展に寄与すると、こうなっています。それだけに権利の切下げというのは慎重に検討されなければならないと思いますが、特に実演家やレコード製作者の権利を制限することは今回初めてのことだと思います。

 衆議院の審議で、実演家らの許諾権を報酬請求権にすることについて、権利制限を課することになるんだと、こういう答弁でありましたが、これまでの法改正でこういう権利制限というのはどういう場合に行われてきたんでしょうか。

政府参考人(加茂川幸夫君)

 これまでの権利制限についてでございますが、個別に、その場合の公共性が認められるか、あるいは権利者の利益保護の観点から問題はないか、社会的な要請、必要性等々を勘案して検討してまいったわけでございますが、幾つかの例を申し上げますと、例えば許諾不要、許諾が必要であったものを許諾不要と改めた権利制限としましては、十二年の法改正がございました。これは、視覚障害者、視聴覚障害者のため、例えば著作物をパソコンを用いて点訳する際の点字データの保存、送信について、又は放送番組等の音声を字幕化してリアルタイムで送信すること、これを自由に行えるようにしたという改正でございました。

 また、もう一つ例を申し上げますと、平成十五年の改正では、教育機関等での著作物の活用の促進といたしまして、一つには、弱視の児童生徒のための教科用図書を拡大するための複製、また学校等の教育機関において、教員だけではなく学習者による複製ができるようにする規定、遠隔授業のため教材等をインターネット等を用いて送信すること、さらには試験問題として著作物をインターネット等を用いて送信することが行えるようにした改正も見られたところでございます。

 なお、この許諾権を報酬請求権と改めました改正例としましては、少し古くなりますが、昭和五十九年に例がございまして、公共サービスとして公共図書館等が非営利、無料で映画の著作物を貸出しを行う場合に、権利者に対する補償金の支払を義務付けるとしたケースがございます。

井上哲士君

 今挙げられたものは公正な利用からいって必要なものだと思うんですが、今回はIPマルチキャスト放送による放送の同時再送信が本年末に開始される予定だということが理由なわけですね。これ、いわゆる地デジ放送二〇一一年完全実施のための補完策ということでありますが、文化庁としてこのIPマルチキャスト放送が本年末に開始されるという具体例を掌握されているんでしょうか。

政府参考人(加茂川幸夫君)

 私どもが掌握している事実について申し上げます。

 一点は、これ、総務省の情報通信審議会が昨年七月に取りまとめた中間答申でございますが、IPマルチキャスト放送による地上デジタル放送の同時再送信につきましては、二〇〇八年中に全国で開始することを目的とし、その技術上、運用上の仕組みを確立するため、二〇〇六年から再送信を開始する必要があるとしているところでございます。

 二点目でございますが、このスケジュールを具体に実現するために関係者が努力しておると私どもは承知をしておりますが、十二月十一日、今年でございますが、株式会社アイキャストが放送事業者から再送信の同意を得るべく、放送事業者から成る地上デジタル放送補完再送信審査会に申請を行ったと聞いております。この審査会におきましても、スケジュールに沿った再送信を実現するために比較的速やかに審査が行われるものと私どもは承知をいたしておるわけでございます。

井上哲士君

 具体的に本年末に開始される予定ということは挙げられなかったわけですね。

 そうであれば、二〇一一年の地デジの完全実施のために無理やり行うような、しかもこういう窮屈な日程でというのは、私は大変疑問でありますし、実演家やレコード製作者の権利者も、集中管理事業を開始をして契約の円滑化にも協力をしていると思います。

 最後一点、条文の確認をしておきたいんですが、法律案では第百二条の三項に、IPマルチキャストという用語ではなくて、ここで言う自動公衆送信というのはインターネット送信も対象に入ってくるのではないかと。また、この条文には同時にという文言がないわけですが、改正の目的である同時再送信以外の場合も権利制限の対象となるのかどうか、これをお答えください。

政府参考人(加茂川幸夫君)

 先ほどもお答えをしたことでございますが、改めて整理して申し上げます。

 今回の改正では、自動公衆送信による放送の同時再送信について、原放送の放送対象地域内に限って実演家等の権利が制限されることになるわけでございます。通常のインターネット送信もこの自動公衆送信に含まれます。そのため、これらの要件を満たせば制度上は権利制限の対象になり得るわけでございます。

 ただ、先ほども御説明申しましたように、一般に個人が行うインターネット送信につきましては、現在の技術を前提とする限り原放送の放送対象地域に限定して送信することは困難であると私どもは承知をいたしております。したがって、事実上、インターネット送信が対象となることは現実的にはほとんどないと考えております。

 また、同時性についても御質問があったわけでございますが、繰り返しで恐縮でございますが、条文上は、放送されたものではなくて、放送されるものと規定をしておりまして、この表現によりまして、過去に放送されたものは含まれず、同時再送信だけが権利制限の対象になると私どもは整理をしておりますし、この表現は現行の著作権法上の規定に倣ったものでございます。

井上哲士君

 終わります。

委員長(荒井正吾君)

 他に発言もないようですから、質疑は終局したものと認めます。

 これより討論に入ります。

 御意見のある方は賛否を明らかにしてお述べ願います。

井上哲士君

 私は、日本共産党を代表して、反対の討論を行います。

 本法律案では、著作権侵害に対する個人罰則を強化しています。しかし、本来、著作権侵害に対しては、侵害者に対する差止め請求など民事上の請求権を行使することで、その侵害行為の停止、予防と被害回復を図ることができる性格のものです。著作権侵害に重罰を科すことは、創作行為者に心理的な萎縮効果を及ぼし、自由な創作活動を阻害することにもなりかねません。

 政府は、産業財産権との調和を図るとしていますが、そもそも著作権は登録を必要とする特許権などの産業財産権とは異なり、著作物の創作によって著作権が成立するものであり、著作権の対象も思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものを言うと、内容も表現方法も様々なものが含まれることから、産業財産権と同一に扱うべきでなく、罰則の在り方もより慎重であるべきと考えます。

 さらに、実態として著作権侵害の検挙例は、レコード、CD等の海賊版の輸入など、デッドコピー事案が大部分であり、それ以外の著作権侵害罪の適用は極めて少数であり、現行法が定める懲役刑の上限、それに近い刑が適用された事例も少なく、〇四年に行われた法改正で上限を三年以下から五年以下に引き上げたばかりで、その効果が十分に検証されてないことからも、直ちに懲役刑を引き上げる必要性も乏しいものであります。

 視覚障害者に対する録音図書のインターネット送信など、必要な権利制限は賛同できる面もありますが、罰則の強化による懸念を払拭することはできず、全体として反対をいたします。


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