先ほど私ちょっと言い掛けたんですけれども、教育委員会というのは、一応テキスト風に言いますと、教科書風に言いますと、三つの原則というふうに日本に導入されるときに説明されました。
それは、一つは、教育委員会というのは、教育の言わば住民統制といいますか、民衆統制といいますか、別の言葉で言えば教育行政における民主主義というこのファクター、それは、住民が選挙によって選ぶということも含めて、住民代表性といいますか、そういう面、つまり教育行政の民主主義、民主化ということですね。
それから二つ目が、それの一つの形態になりますけれども、教育という仕事、教育行政が基本的には地方の自治事務であり地方の仕事であるということで、教育行政の地方分権化ですね。
分権化した上で、なおその分権化された自治体の中における組織内分権といいますか、そこにおける政治部局、行政部局、一般行政部局からの独立性といいますか、自主性というようなもの。
その三つが一応その教育委員会の理念というふうに言われ、それから制度原則としては、これも最近ちょっと言われ始めておりますけれども、再び。そういうふうに見てきますと、しかし、教育は同時に一方で専門性というようなものを要求されます。しかし他方で、先ほど言った教育の民衆統制とか民主化ということは、言わば地域住民なり保護者の、すべての一般の素人の人たちにとっても教育は非常に重要なあれだし、この教育要求なり教育への願い、あるいは教育行政に参加するというふうな、そういうレーマンコントロールとプロフェッショナルリーダーシップを一つの統一したものとして、あるいはそのバランスを持ったものとして一応制度化したのが教育委員会制度だというふうに、大体そういうふうにテキスト風には習ってきたわけです。それで、しかし、それは、確かに私は現在においてもかなり重要なファクターであると思います。
私は、今の教育委員会制度が言わば形骸化、すごく形骸化してきたと言われているその最大の契機は、やはり先ほどもちょっと冒頭の発言の中にもあったとおり、やっぱり一九五六年の地教行法体制への転換であったというふうに思います。その背景とか要因は一応おいておきまして、つまり、そこで何が変わったのかというところの一つは、先ほど言いました、言わば教育委員を含めた教育委員会自体の住民代表性といいますか、あるいはその民衆的な基礎といいますか、あるいは市民的な基礎といいますか、やっぱりそこが非常に、何といいますか、希薄になったということです。教育委員自体も任命されていくわけです、間接的なあれは働いているにしても、代表性は、直接的なあれが。
私は、中野の準公選制は合法か違法かという大きな議論もありましたけれども、あれをずっと調べていて一つ分かったことは、住民代表性というのは、例えば準公選という、一応区民投票によって担保された準公選制というふうなものが住民代表性というものをまず教育委員自体に与えるんですね。これは、教育委員が自分たちの使命感とかそういう、何といいますか意欲とか勇気とか、そういうものを自分の中につくり出す内発的な要因に、住民から選ばれているといいますか、それがあると。と同時に、教育委員及び教育委員会、あるいは事務局も含めて、それに対する、住民代表性というか、あるいは権威といいますか、それも同時に、何といいますか、つくり出していたというようなことがそのときちょっと気が付いたんですね。そういう意味で、一つはそれが大きく欠落したということ。
二つ目は、やっぱり教育委員会自体の首長部局との関係性において従来持っていました権限というのが、ある意味ではほとんど首長部局に吸収されていったわけですね、教育予算、教育条例案の原案送付権というようなもの。
それからもう一つやっぱり大きかったのは、何といっても教育の地方分権と言われたときのやっぱり国、都道府県、市町村のこの関係、このファクターがやっぱり非常に弱まったと。
ですから、その三つのファクターは、私は、やっぱり教育委員会制度を考える上で非常に重要なことでありますから、その意味ではこれを今日の形でどういうふうにまずは新しくつくり出していけるのかという、そういう問題があります。
ただ、そのときに、私は思うんですけれども、民主党の案もいろいろ興味深いところはあるわけですが、例えば今回の政府法案で、教育委員の定数、これはそれぞれの何というかフレキシブルな、そういうのを導入しましたね。私は今、例えば教育委員の選出、選任の方法を、これが直ちにすべて何というか一律に公選制がいいというふうには必ずしも思わないんですね。むしろ多様な何といいますか方式というのが、実はこれまで日本の中だけでも、沖縄なんかも含めますと何種類かあるわけですから、そういうようなのも含めて、それぞれの地方の創意といいますか、知恵というようなものを含めた形でやっていくというような、手法としては私はそんなふうに考えております。