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2008年5月15日(木)

外交防衛委員会

  • 日本・インドネシア経済連携協定等の質疑で、国際的に大きな流れとなっている食料主権の立場から、政府をただす。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 日本・インドネシアEPAに関連して、まず食料安全保障、最近よく言われる食料主権という問題についてお聞きします。

 食料をめぐる世界的需要、価格動向は厳しくなっておりまして、最近、例えばエコノミストという雑誌は、「日本が飢え死にする」というショッキングな見出しを立てて欠落する食料安全保障を特集をしております。

 二〇〇四年の四月の国連人権委員会で食料に対する権利の決議が採択をされておりますが、日本はこれに賛成しておりますが、その理由はどういうことでしょうか。

外務大臣(高村正彦君)

 我が国は、二〇〇四年の国連人権委員会で採択された食料の権利決議に賛成したほか、国連総会で毎年採択されている食料の権利決議に対しても賛成票を投じているところでございます。

 食料の権利決議においては、国、地域、国際的なレベルにおいて貧困を取り除くための緊急措置をとること、すべての人は十分な食料を確保し、飢餓から解放される基本的権利を有すること等が盛り込まれているわけであります。我が国は、この決議に対して、すべての人々に対する基本的人権の保護に資するものであると考えて賛成票を投じているところでございます。

井上哲士君

 この採択された決議の第八項目に、食料主権に関する特別報告者のレポートを留意するというのがございます。この特別報告者はジャン・ジグレール氏でありますけれども、その中身を見ますと、カンクンの失敗に照らして、食料主権というこの新しい概念を検討し理解することは不可避である、食料主権の概念の第一の重要な構成要素は食料安全保障政策に関する国家と個人の主権を回復することであるとした上で、各国政府に対し、人権規約に従って食料に対する権利を尊重し、保護し、履行することを勧告する、食料安全保障と食料に対する権利に優先順位を置くような農業と貿易モデルを検討すべきであると、こういう非常に注目すべき指摘をしております。

 私、これを読みまして、この食料主権、食料安全保障という問題は、単に発展途上国だけの問題ではなくて、先進国にとっても大変重要な問題であると痛感をするわけでありますが、この点の認識はいかがか、農水省にお聞きしたいと思います。

農林水産大臣官房審議官(小風茂君)

 お答えいたします。

 今委員御指摘ございましたが、食料への権利の決議、これ国連人権委員会で採択されております。また、今お話ございましたように、二〇〇四年の決議では、途上国を念頭に、各国が食料安全保障に関する施策について主権を取り戻すことを考慮すべきとの食料主権に関するレポートに留意するということが確認されております。ただ、食料主権につきましては、概念そのものが確立しているというものではなく、また今後更に議論されていくべきものというふうに考えております。

 我が国といたしましては、国連人権委員会で採択されております食料への権利、この決議を尊重して、食料自給率の目標の達成に向けて、将来に向けて食料を安定的に供給するための施策を積極的に展開するとともに、食料安全保障等を確保する観点から、多様な農業の共存を基本理念といたしまして、食料輸出国と輸入国のバランスの取れた貿易ルールの確立、これを目指しまして積極的に取り組んでいるところでございます。

井上哲士君

 同じ年の十一月に、世界自然保護連合の第三回総会で生物多様性と飢餓根絶のための食料主権の確立をという決議も採択をされております。これも日本は賛成をしておりますけれども、その理由はどういうことだったんでしょうか。

外務副大臣(木村仁君)

 御指摘のように、二〇〇四年十一月の第三回世界自然保護会議において、生物多様性の保全と飢餓終えんのための食料主権の促進という決議のコンセンサス採択に日本は参加をいたしました。

 この決議は、貧困、飢餓への対応と生物多様性の保全との間には関連性があることを認識しつつ、国際自然保護連合メンバーに対し生物多様性の保全と貧困撲滅において食料主権を支持する政策もしかるべく考慮するよう要請するということ、それから、IUCN事務局長に対して生物多様性の保全と飢餓の終えんに関するイニシアチブを策定するよう要請すること等が盛り込まれております。

 IUCNでは持続可能な農業は生物多様性の保全に資するものと認識されており、この決議はその趣旨を踏まえたものであることから、我が国はコンセンサス採択に参加いたしております。

 ただ、この決議では食料主権ということについても言及されておりますけれども、食料の権利に関する国連人権委員会特別報告者のレポートで提唱されている食料主権については、概念そのものがまだ十分確立されているわけではなく、今後更に議論されていくものと存じてコンセンサス参加をしたものであります。

井上哲士君

 この決議は、食料主権を支援する政策に十分な考慮を払うことと、今引用もされました、こうなっているわけですね。私は、この食料主権にかかわる二つの決議に日本が賛成をしている事実は非常に重要であるし、その趣旨にこたえるやっぱり行動が求められると思うんですね。今まだ概念は不明確だという答弁がありましたけれども、これはやはり決議に賛成した政府としてはもう少し自覚を持ってその趣旨にこたえることが必要だと思うんです。

 食料主権は、途上国も先進国も、輸出のためではなくて、それぞれの国が自国民に対して食料を安定的に供給する責任を負う、そして実効ある輸入規制や価格保障などの農業政策を自主的に決定する権利と言ってもいいと思うんですね。この点から、これまで日本が行ってきた二国間のEPAの農業分野の評価というものが問われてくると思います。

 そこで、まず聞くんですが、各国の農林水産物の関税率を比較する一つの目安として平均関税率がございますが、アジア各国、日本、インドネシア、韓国、タイ、インド、この平均関税率はどうなっているでしょうか。

農林水産大臣官房審議官(小風茂君)

 お答えいたします。

 OECD、経済協力開発機構でございますけれども、これは、主要国の農産物における平均関税率というものを一定の前提を置きまして分析し、それらを取りまとめた結果を公表しております。この分析では、御質問ございました国又は地域の農産物の平均関税率というものにつきましては、日本は一一・七%、インドネシアは四七・二%、韓国は六二・二%、タイは三四・六%、インドは一二四・三%という記載がございます。

井上哲士君

 今挙げていただいた数字見ましても、日本はアジアの中でも一番低い平均関税率ということになっているわけですね。決して農業保護大国ということではないということがこの数字から明らかなわけでありますが、アジアの中でも一番低い平均関税率の日本が今までの二国間EPAで農業分野において高い関税譲許を行っているわけですが、その理由はどういうことでしょうか。

農林水産大臣官房審議官(小風茂君)

 お答えいたします。

 御指摘のこと、アジアの中では平均関税率が低い日本がどうして譲許を行ってきたかという御指摘でございました。

 EPAにおきましては、WTOの協定におきまして、実質上すべての貿易について関税を撤廃するということにされております。例えば、そういうふうになっておりますので、このため、各国とのEPAの交渉に当たりましては、守るべきものはしっかり守ると、こういう方針の下で、我が国の基幹作物あるいは地域の農林水産業における重要品目、こういうものにつきましては関税撤廃の例外扱い、こういうものを確保いたしまして農林水産品については一定の譲許を行っていると、こういうことでございます。

井上哲士君

 仮にすべての二国間EPAが発効した場合に、発効から六年から十年後ぐらいでは日本に輸入される農林水産品目の大部分の関税率が撤廃ないしは極めて低くなっていると思うんですが、具体的にこの六ないし十年後ぐらいの関税の姿というのはどういうふうになっているんでしょうか。

農林水産大臣官房審議官(小風茂君)

 ただいま現在、アジア諸国との間では日本とのEPAが発効いたしております国は、シンガポール、マレーシア、タイ、この三か国でございます。それからまた、交渉が妥結したものは、フィリピン、ブルネイ、インドネシアの三か国とそれからASEAN全体と。それから、現在交渉を行っておりますものがベトナム、インド、韓国の三か国ということになっております。

 交渉が妥結したアジア諸国とのEPA交渉に当たっては、先ほども申し上げましたが、守るべきものは守ると、こういう基本方針の下で、我が国の農林水産業に悪影響を及ぼさないよう取り組んできておるところでございます。

 また、現在交渉中のアジア諸国とEPAがすべて発効したという仮定で将来の農林水産物の平均関税率を算定するということは技術的になかなか困難であるというふうに認識しております。

井上哲士君

 下がっているんですか、上がっているんですか。それはいかがですか。

農林水産大臣官房審議官(小風茂君)

 現在、交渉した結果、譲許すれば、関税率はその譲許したものについては下がるということになります。交渉中のものは、まだ、その取扱いについてはまさに二国間で話合いを行うということになろうと思います。

井上哲士君

 段階的な削減措置も終わって、広範囲な撤廃ということになると思うんですね。

 今、守るべきものは守ると盛んに言われたわけですが、インドネシアからの農林水産物の輸入はアジア諸国の中では中国、タイに続いて第三番目ということでありますし、インドネシアは日本への輸出増を望んでおります。

 今回の締結によって、将来のインドネシアとの間の農林水産物の輸入動向の予測というものはどういうふうになっているんでしょうか。

農林水産大臣官房審議官(小風茂君)

 我が国とインドネシアの農林水産物の貿易の状況でございますけれども、インドネシアの対日輸出に占める割合は約三千億円、全体の一二%ぐらいでございます。そういう状況を踏まえましてEPAの交渉をいたしまして、インドネシアとのEPAの交渉におきまして、守るべきものはしっかり守ると、こういう方針の下で、我が国の基幹作物あるいは地域の農林水産業における重要品目、こういうものについては関税撤廃の例外扱いを確保したところでございます。

 また、インドネシアとのEPAが発効した後のインドネシアから我が国への農林水産物の輸入動向につきましては、国内の需給動向、あるいは他国からの輸入動向、こういうものが影響することでありますので一概には言えない面があるというふうに考えておりますけれども、いずれにしても、今後ともインドネシアからの農林水産物の輸入動向というものは注視してまいりたいというふうに考えております。

井上哲士君

 要するに、具体的試算をされていないということだと思うんですが。

 これまでアジアの諸国の二国間EPAを批准してきましたけれども、そういう二国間EPAの農業分野の関税削減が日本農業に与える影響、事前、事後、これは試算をされているんでしょうか。

農林水産大臣官房審議官(小風茂君)

 アジア諸国とのEPAにつきましては、シンガポール、マレーシア、タイということの間では締結をし、既に発効しております。

 これらの国との交渉に当たりましては、平成十六年十一月に策定されましたみどりのアジアEPA推進戦略、こういうものに即しまして、アジアにおける食料安全保障、あるいは食の安全、安心、農林漁業、食品産業の共存共栄、あるいは農山漁村の発展の観点、こういう観点からお互いの農林水産業の存立を尊重しつつ対応するということでやってきたところでございます。

 これらのEPAによる我が国農業への影響試算というものは行っておりませんけれども、守るべきものは守ると、こういう方針の下で、我が国農林水産業への影響は及ぼさないよう交渉をまとめてきたところでございます。

 今後とも、その農林水産物の輸入動向につきましては注視してまいりたいというふうに考えております。

井上哲士君

 守るべきものは守ると言われますが、既に批准したものも含めて試算を行っていないということでありますから、これはやっぱり、関税削減を進めながら実際日本農業に与える影響を具体的に試算もしていないという姿勢は、これは絶対改められるべきだと思うんですね。

 インドネシアとの協定では、合板とカツオ・マグロは今後の再協議ということになっておりますけれども、一般論として、貿易、経済状況や他のEPAの見直し状況によって、再協議の結果、関税撤廃や削減を含む譲許ということがあり得るんでしょうか。

農林水産大臣官房審議官(小風茂君)

 委員御指摘ございましたけれども、今回のインドネシアとのEPA交渉の結果、合板、カツオなどの品目につきましては協定の発効から一定期間経過後に再協議を行うという扱いをされておるところでございます。再協議とされた品目につきましては再協議を行うということが求められておりまして、その旨協定の中に、五年後に一般的な見直しを行う際、あるいは四年後の再協議、そういうものが協定の中に盛り込まれておるということでございます。また、そのときにまた議論する、協議をするということになろうかと思います。

井上哲士君

 そのとき協議をするということでありまして、守るべきものは守ると言いながら、やっぱり担保措置が見えてこないわけですね。やっぱり食料主権という先ほど述べた立場に立って、実効ある輸入規制や価格保障などの大局的な判断が必要だということを指摘をしておきたいと思います。

 最後、有害廃棄物の問題についてお聞きするんですが、今回の譲許表の中には灰及び残留物とか薬剤廃棄物、下水汚泥、医療廃棄物等々が入っております。これによってこういう有害廃棄物の輸出が促進をされるんではないかという懸念が相手国の国民からも出ているわけでありますが、これが有害廃棄物の輸出促進にならないのかどうか、環境省にお聞きしたいと思います。

環境大臣官房廃棄物・リサイクル対策部長(由田秀人君)

 本EPA協定の発効後でありましても、日本・インドネシア間あるいは日本・ブルネイ間におきましてはバーゼル条約が従来どおり適用されることとなっております。したがいまして、有害廃棄物の輸出を行おうとする場合には、バーゼル条約に沿いました国内法であるバーゼル法に基づきまして、環境省の確認及び相手国の書面による同意、それから経済産業省の承認が得られない限り当該有害廃棄物を輸出することができないことになっておりまして、今後ともこのような有害廃棄物の輸出手続を適切に適用していく所存であります。

 また、有害廃棄物がバーゼル法の手続を行わずに輸出されるようなことがないよう、我が国では関係省庁が連携いたしまして、一点は、事業者に対しまして関係法令を周知するためのバーゼル法等の説明会の開催を毎年やっておりますが、十九年度実績では全国十都市でやっておりますし、それから事業者からの輸出の個別の相談に応じる事前相談の実施をやっておりまして、十九年度の実績では約三万件に及んでおります。それから、税関への申告時における慎重な審査とか検査などの対策を行っておるところであります。

 さらに、環境省におきましては、インドネシア、ブルネイを含めましたアジア各国からの参加を得まして、有害廃棄物の不法輸出入防止に関しますアジアネットワークのワークショップを過去四年にわたりまして開催しておりまして、アジア諸国とバーゼル条約の実施のための各国の取組の情報交換等を行うなど、不法な輸出入の防止についての国際的な取組を行っておるところであります。

 これらの活動を通じまして不適切な輸出の防止にも最善を尽くしているところでありますが、EPAの発効後も有害廃棄物の輸出が促進されることはないように適切に取り組んでまいりたいというふうに考えております。

井上哲士君

 時間ですので終わりますが、やはり有害廃棄物条項を条約に盛り込みますと、形式的には輸入可能性が整って相手国の国民に不安を与えておりますし、環境NGOなども、途上国の甘い監視体制を突いた形でこのバーゼル条約規制外の中古テレビなどの脱法的処理が行われるんではないかということも指摘をされております。

 農業分野については、今既定路線としてあらゆる品目の関税率を下げる措置については納得もできません。

 また、外国人看護師・介護士の研修生制度、彼らに低賃金、過重労働を押し付ける可能性もありますし、労働者としての保護も十分ではないと。医療行為をさせる懸念も指摘をされておりまして、日本・インドネシアEPAについては賛成しかねるということも指摘を申し上げまして、終わります。


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