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2010年4月22日(木)

外交防衛委員会

  • 米兵犯罪と検察審査会制度の関係について質問。同制度は、明石歩道橋事件で強制起訴が初めて実施されてから注目されています。米兵犯罪も適用対象になるものの、審査会の議決の効力が及ばないということが、初めて明らかになった。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 議題の三条約は刑事事件の取扱いに関しての条約でありますので、関連して、日本における米兵関係者の犯罪行為の取扱いについて質問をいたします。

 この間、日米間の密約の下で米軍優遇にゆがめられているということを質問をしてまいりました。

 まずお聞きしますけれども、一九五三年の日米合同委員会の合意によって、日本に第一次裁判権がある米軍関係者の犯罪について、裁判権の行使、不行使を米側に通告をする期間が定められております。期間内に通告しなければアメリカ側に裁判権が行使し得ることになり、我が国は裁判権を行使することができなくなるわけでありますけど、この期間は何日と定められているでしょうか。

法務副大臣(加藤公一君)

 お尋ねの期間につきましては、御指摘の日米間の合意によりまして、我が国の法令によって六月以下の懲役以下の刑に当たる罪などの一定の軽微な罪につきましては、当該犯罪についての最初の通知の日の翌日から起算をして十日以内、その他の更に重い罪につきましては、同様の起算日から二十日以内に裁判権行使の通告をすべきものとされております。

 ただ、付言をいたしますと、我が国において裁判権行使の決定を留保したいという旨の通知をいたしました場合には、十日以内に通告すべき事件については更に五日、二十日以内に通告すべき事件については更に十日、猶予が与えられるということでございます。

井上哲士君

 私、今手元にこれ、一九七二年に法務省刑事局が発行した検察資料一五八、合衆国軍隊構成員等に対する刑事裁判権関係実務資料というのを持っております。

 これは、国立国会図書館に所蔵されておりまして、法務省がこれは秘密扱いなので公開するなという申入れをし、いったんは非公開、黒塗りになりましたけれども、今は国民的批判もありまして公開をされているものであります。

 この中で、今の裁判権行使、不行使を通知すべき期間について、これらの事件の捜査処理上、時間的な制約を受けることになっているというふうに刑事局自身が書いているわけですね。なぜこういう米軍関係者の犯罪の起訴に時間的な制約を設けたんでしょうか。

法務副大臣(加藤公一君)

 多少長めになって恐縮でございますけれども、経緯も含めて御説明を申し上げたいと思います。

 昭和二十七年の四月に発効いたしました行政協定において、米軍事件については米国側が専属的裁判権を行使するものというふうにされました。その後、翌年の十月に発効した改正後の行政協定におきまして、我が国は、米軍人等に対し、我が国の領域内で犯す罪で我が国の法令によって罰することができるものについて裁判権を有するということにされました。他方で、米国側が、専ら米国の財産等に対する罪や米軍人等の身体、財産に対する罪、あるいは公務執行中の作為、不作為から生ずる罪については第一次裁判権を有するということにされ、残りの部分については我が国が第一次裁判権を有するということになりました。この内容でありますけれども、当然今の日米地位協定にも引き継がれているところであります。

 こうなりますと、米軍の事件については、我が国と米国側の双方の裁判権が競合するという場合があるところでありまして、この一次裁判権を有する当局というのをあらかじめ定めるということが必要になります。実際、そのときに一次裁判権を定めても、そちら側が、その一次裁判権を有する国がいつまでも裁判権を行使しないと、ずるずる引っ張るということになりますと、これは二次裁判権を有する国からすれば決してそれが相当だとは言えないということになるところでございまして、できるだけ速やかに他方の国の当局に裁判権を行使するか否かを通知をしようということを決めたというふうに理解をいたしております。

井上哲士君

 官僚はそういう答弁書を書いたんでしょうけれども、今紹介したこの実務資料には解説でこういうふうに述べているんです。

 これらの合意事項にあるように、裁判権行使の通知期間を比較的短期間に限定する合意がなされたのは、軍隊の構成員等の移動は随時何の拘束もなく行われるべきものであるという本来の性格にかんがみ、構成員等に対する処分を不確定なままにしておくことは軍行動に支障を来すものであることが了解されたからであると、こういうように内部でちゃんと説明しているんですよ。いかがですか。

法務副大臣(加藤公一君)

 今御指摘のように、通告の期間が短いではないかという件につきましては、米国の軍人等について配置の移動というのが随時行われる可能性があるということを考えて、その一次裁判権の行使、不行使を迅速に通告すべきということに決めたというのはそのとおりだと思います。

井上哲士君

 つまり、軍の論理なんですよ。軍の都合を優先させて米軍優遇になっている。この間質問した中で、例えば米軍関係者の起訴率が低いということも明らかになりましたけれども、ここにやっぱりこういう問題があるということなんですね。これしっかり検証していただきたいと思います。

 それで、こういう結果、事件が起訴にならなかったという場合に、被害者が不服の場合は検察審査会の制度があります。これは、法的拘束力がある起訴議決制度が導入されまして、つい先日、明石の歩道橋事件で初めて強制起訴になって注目をされております。

 ちょっと追加して一点確認をしておきたいんですけど、公務中の犯罪はアメリカ側に第一次裁判権がありますね。公務中かどうかの最終判断は裁判所が決定するんだということを先日、法務省から答弁がありました。

 そうしますと、実際は、捜査段階で公務証明書が出されると、日本が反証しなければこれは米側の第一次裁判権のある事件という取扱いがされますね。当然これは日本は起訴できないわけでありますが、この公務中かどうかのこういう検察判断を、是非を、この検察審査会というのは審査の対象にできるんでしょうか。

法務副大臣(加藤公一君)

 検察審査会法上は、検察審査会に対してその処分の当否の申立てをすることができるということになってございますので、今お尋ねのその公務性、行為の公務性ということについても審査ができるのではなかろうかと思いますが、今済みません、私の知識ではその程度しかちょっとお答えができません。

井上哲士君

 しかし、裁判権はアメリカ側に行っているわけですね。それでも審査の対象になるんですか。ちょっと大事なことなので、もう一回確認します。

法務副大臣(加藤公一君)

 その公務性があるかないかというのが日本側の検察側の判断というレベルであれば、それについても審査ができるんではないかという理解であります。

井上哲士君

 じゃ、更に聞きますけれども、日本に第一次裁判権がある米兵犯罪で検察が期限内に起訴の判断をしなかった場合、また不起訴とした場合、これは、被害者は検察審査会に審査を申し立てることは当然できるということでよろしいですね。

法務副大臣(加藤公一君)

 それは御意見のとおりだと思います。

井上哲士君

 そうしますと、その場合に、検察審査会で起訴相当ないし不起訴不当という議決が出た場合は、検察は再検討、捜査をして起訴か不起訴かを再び判断をするということになるわけですが、こういう米兵犯罪の不起訴についてそういう議決を検察審査会がした場合にはどういう効力を持つんでしょうか。

法務副大臣(加藤公一君)

 実はこれは先生、正直申し上げて大変鋭い御質問でございまして、検察審査会法上、検察審査会が当該事案について起訴相当の議決あるいは不起訴不当の議決をした場合には、検察官といたしましてはそれを参考にして事件を再検討するということになります。改めて起訴、不起訴の処分をしなければならないということで定められているわけでありますけれども、米軍との合意で申し上げるならば、不起訴の段階で、つまり日本側が一次裁判権を行使をしないということになりますと、裁判権そのものは今度は米国側が持っているということになりますから、このときにどうするかというのは実は一つの大きな課題であることは事実でございます。

 日米地位協定上は、米軍人等が米軍当局により裁判を受けた場合に、無罪の判決を受けたときあるいは有罪の判決を受けて服役をしているときなどは、我が国の当局は同一の犯罪について重ねてその者を裁判してはならないというふうに規定をされておりますから、そのケースについては問題は発生をしないと思いますけれども、米軍当局が裁判権を行使をしていない場合につきましては、現在までのところ、把握している限りで前例もございませんし、それを定めた資料というものもございませんで、なかなか確定的なことが申し上げられません。

 これは、それゆえ先ほど申し上げたとおりでありまして、大変大きな課題だろうというふうに思います。

井上哲士君

 これは、実は検察資料一三四という部外秘の資料があります、質疑回答集というのがありますけれども、この中で、大阪の地検から問い合わせしているんです。それに対して法務省刑事局はこう言っているんですね。裁判権がなくなったのであるからいかんともし難い。建議あるいは勧告として了知されたいと。こういうことをもう、これは昭和四十年の資料でありますけれども、しているんです。

 ですから、そうなりますとこの検察審査会というのは、起訴独占主義を取ってきたけれども、そこに国民から選ばれた検察審査会の起訴議決によって強制起訴するという制度もつくったわけですよ。ところが、この米軍関係者の事件の被害者だけはそれを反映をさせることができない。いかんともし難いと、こうしているんですね。私はこれは本当に大きな問題だと思います。結局、日本にとって実質的に重要であると認める事件についてのみ第一次裁判権を行使するというあの密約が土台にある中でこういう様々な矛盾ができていると思うんですね。

 時間もあれなので、外務大臣、最後お聞きいたしますけれども、この裁判権をめぐる密約について、外交文書の公開の中で優先順位を考えるという旨の答弁がこの間ありました。ただ、私は、これは過去の話じゃなくて、今申し上げたように現実に起きている、今の刑事司法の中で取扱いがずっと続いているわけですね。ですから、直ちにこれは調査をして、法務省とも一緒になって、まさに政治主導で検証していただきたいと思いますけれども、外務大臣、いかがでしょうか。

外務大臣(岡田克也君)

 今委員御指摘のこの密約といいますか、一九五三年に、日米地位協定の前身である行政協定について、我が国が一定の場合に刑事裁判権を放棄することを日米間で秘密のうちに合意していたのではないかという指摘があるということは承知をしております。

 ただ、これ、現時点においてそういう取扱いを行っているわけではないというふうに考えておりますので、現在効果があるというものではない、そういうふうに考えているところでございます。

井上哲士君

 時間ですので、終わります。


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