2011年6月16日(木)
法務委員会(1回目)
- サイバー犯罪に関する刑法改正案② 質疑と反対討論。質疑では通信履歴の保全要請について質問。(付帯決議がつけられる)
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- 井上哲士君
日本共産党の井上哲士です。
今日の議論でも、この質疑が拙速でないかという国民の皆さんからのお声があるということが出ておりました。震災を受けて閣議決定したかのような誤解は、それは誤解だと思いますが、しかし、やはりこの間の国会の中で十分な議論がされてきたのかといえば私は極めて疑問であります。
衆議院の場合も、不信任決議などの動きがあるという中で、これ早く上げようじゃないかということを相談をしたというようなことも自民党の方が新聞紙上でも語っていられるということがありますし、衆議院での答弁が今日の段階で言わば解釈をめぐることについて法務大臣が再答弁をするというふうなことなどを見ていましても、私はやはりそういう批判を免れ切れないと。更に慎重議論をするべきだということをこの間申し上げてきましたけれども、改めて冒頭申し上げておきたいと思います。
その上で、今日は保全要請のことについてまずお聞きしますが、これと憲法二十一条に定められた通信の秘密との関係です。
大臣は、通信内容だけでなく通信履歴もこれは秘密の保障の対象になるということを認められた上で、こう答弁されております。通信内容は通信そのものなので憲法の規定がずばり適用されるけれども、通信履歴となると、憲法の保障の対象ではあるけれども、やはり公共の福祉の観点から一定の限度というものはあるだろうと言われておりますが、なぜ履歴については憲法上の通信の秘密の保障について一定の限度があると言えるのか、その根拠は何でしょうか。
- 国務大臣(法務大臣 江田五月君)
一般論として、憲法に規定している基本的人権、それぞれございます。それぞれにどういうふうにこれを保障していくかというのはいろんな場合があるので、公共の福祉との兼ね合いというような言い方もあるかもしれませんが、例えば居住、移転の自由とあるいは内心の自由と同じ保障ということではない。やっぱり居住、移転の自由であれば、おのずといろんな公共の福祉からの、あるいは本人にとってのいろんな制約というものもあると、これはもう一般論としてそういうことでございます。
通信内容は、これはもう通信そのものですから、通信の秘密は侵してはならないということなので、そこを何かの制約を加える場合には、制約といいますか、そこに捜査の手が伸びるときにはよほどの必要がなければできない。それでも、必要があれば通信内容にも捜査の手が伸びることはありますが、通信履歴というのはやり取りをしたという言わば外形的事実ですから、その外形的事実を捜査機関が把握をして、そこからいろんな捜査手法を使って犯罪に迫っていくということは、私は、内容よりもそれは外形的事実なので、より基本的人権としての保障が徹底される場面というのが制約されてくるということはあり得る話だと思っております。
- 井上哲士君
一般論ではなくて、やはり個別の問題なんですね。履歴には犯罪容疑とは無関係なものも当然含まれてまいります。捜査対象者と通信をしていたと、その相手は自分が知らない間に通信していたという事実が捜査当局の手元に行くというおそれがあるわけですね。私のところにもマスコミ関係者の方からメールいただきましたけれども、一体どういう人と自分が接触して、どういう人から取材をしているのか、その事実自身を我々は隠す必要があるんだと、だから、誰といつ通信したということが明らかになること自身が取材源の秘匿を困難にし、そして報道の自由を侵すことにもなりかねないと、こういうメールも来たんですね。
これ、どうお考えでしょうか。
- 国務大臣(江田五月君)
それは、報道の皆さんからすると、自分がどういう人に接触をして取材をしているかということは、取材源を秘匿するという観点から非常に重要なことだと思います。
- 井上哲士君
ですから、中身は重要だが履歴は少し限定をされてもいいということに私はならない、こういうケースだと思うんですね。
そもそも、いつ誰と通信したかというのはまさに通信の秘密、重要な憲法上の問題です。ですから、だからこそ通信履歴というのは通信が終われば基本的には速やかに消去されるべきものなんですね。通信事業者が一定期間通信履歴を保持しますのは、料金請求とかそういう課金のための業務上必要最小限度、そういうときなどに許されるものだと思います。
例えば郵便事業の場合は、誰と誰のところに郵便のやり取りがあったか、江田法務大臣のお宅に毎月毎日どれだけの郵便が届いた、こんなことは一切記録に残しませんね、特別の場合を除いて、配達証明とか。なぜかといえば、切手を張って投函をした段階で既に課金ということでいえば終わっているわけです。
じゃ、電話はどうかといいますと、通信時間によって料金が違いますし、市内、市外、国際電話で料金違いますから、請求する際にどういう番号に何分掛けたかということは残しておかないと請求の根拠がありませんから、これはその必要の範囲で通信履歴は残します。しかし、それも必要なくなれば、やはり消去されることになるわけですね。
じゃ、ネットの場合はどうかと。今、大体通信時間で料金が発生する従量制か、ないしは幾ら使っても一か月の料金が同じという固定料金ですから、従量制の場合も、その接続している時間さえ把握をすれば別に請求はできます。ですから、一体いつ誰と通信をしていたかということを課金のために残す必要は基本的にないわけですね。ですから、ネットの場合も通信履歴というのはやはり速やかに消去をされているということなわけですよ。
ですから、履歴といえども、を残すということ自体がやはり通信の秘密とも非常にかかわりのある問題でありますから、これを捜査機関からの要請だからといって事業上の必要性以外の目的で保持をさせていくということが果たして正当なのかと。私は疑問なんですが、いかがでしょうか。
- 国務大臣(江田五月君)
今委員が御指摘のような観点というのは、私は否定するものではありません。そういう観点というのはあり得る話だと思います。
しかし一方で、このコンピューターネットワークというものが今国際的にも広がりを持ち、そして社会的に重要なインフラになっていて、それに対してサイバー攻撃、ウイルスの攻撃があって、これが重要な混乱を起こしているというのも、そしてそれを防いでいかなきゃいけないというのもまた一つの大きな要請だと思うんですね。
ですから、そこのやはりそれは兼ね合いの問題であって、通信内容はこれは相当な根拠がなければそこへ踏み込むことはできないけれども、通信履歴について、しかもこれは結構早く消去されるものであるから、状況を見ていてこの部分についてはちょっと消去を待ってくださいということで一定の保全の要請を、しかも一定の限られた人間が行うと。そして、やはりそれは必要なかったらもうそれはもちろん取り消すこともあるし、また期間の経過によって消去されるということもあるけれども、必要があるという場合には令状を請求をして司法審査を経た上でその通信履歴というものを捜査機関が取得をして、これの解析によって犯罪に迫っていく、被疑事実に迫っていくということですから、私は、客観証拠を重視していくというような今の時代の流れからいうと、やはりここは、その兼ね合いでこの限度で一定の制度をつくることはこの適正手続にも、あるいは通信の秘密を守るという憲法の要請にも合致をするものだと。そして、これについてはもちろん濫用があっちゃいけませんから、そこは立法府の皆さんのいろんな御注意にもこたえながら適正な運営をしていきたいと思っているところです。
- 井上哲士君
当委員会でも取調べの捜査メモのことを問題にしたことがありますけれども、プライバシー保護のためには速やかに必要ないものはもう捨てなさいというか、もう消去しなさいということを言っていましたよね。ですから、やっぱり秘密の保持ということのためには、必要ないものはもう残さないというのが一番の問題なんですね。それをさせるということは、やはり憲法で保障された通信の秘密にかかわる問題ですから。もちろん一方で捜査の必要性というのはあります。ですから、差押えの必要性がまだ明らかでないうちに令状もなしに捜査当局の要請でそれを可能にするというのは、これはやはり私は問題だということを思うんですね。
しかも、今内容とは違うんだということも言われましたが、衆議院の答弁で大臣こういうふうに言われているんですね。受信メールの本文についても、プロバイダーの利用者においてダウンロードすればプロバイダーのサーバーから削除されるというものと承知しており、通信履歴についてプロバイダーに対し保全要請を行うことによって電子メールの本文について保全されるということには必ずしもならないと、こういう言い方をされました。
複数のパソコンを使っている場合に、ダウンロードしてもサーバーから削除されないというふうな設定にしている方はむしろ多いんじゃないかと思うんですね。ですから、残っているんです。必ずしもないという言い方をされたという答弁は、内容が保全される場合もあるし、その際は今後差押えの対象に履歴とともに保全されていた内容もなると、こういうことなんでしょうか。
- 国務大臣(江田五月君)
メールの内容がダウンロードされれば消えてしまう場合と、そうでなくてダウンロードされても残る場合と、それは設定の仕方で両方あると。しかし、ダウンロードされれば消えてしまうような設定の仕方もあるんだということを言ったわけで、しかし、そうでない場合には、それは履歴が残っている場合に内容も残るという場合は当然あるわけです。
しかし、今保全を要請するのはこれは履歴であって、内容まで要請しているわけではないけれども、同時に内容も残ってしまうということはあり得るだろうと。だけれども、あくまでその内容についてこれを捜査機関が取得をしたいと思えば、通信履歴の差押えによってだけではそこまで行くことはできないので、これはまた新たに何か手続を取ればそういうこともあり得るという話であって、そういうことを述べたと御理解ください。
- 井上哲士君
ということは、履歴の保全要請をした、その中には内容が保全されている場合もある、それも含めて令状を取ればそれも差押えの対象になることがあり得ると、こういう理解でいいんですか。
- 国務大臣(江田五月君)
そういう令状が別に得られればそれはそういうことはあるでしょうが、その場合には司法審査は別途行われるものと思います。
- 井上哲士君
そうしますと、この間問題になってきたような事実上のリアルタイムの傍受のようなことに近いものになってくるんじゃないか、私は大変問題だと思います。これまでの答弁ぶりとも少し違うんではないかという疑問を呈しておきます。
もう一つ、差押えの件についてでありますが、電磁的記録のある記録媒体そのものを差し押さえることができるのが大前提で、被差押者がどの程度協力してくれるかなどなど、いろんな事情で執行方法もいろいろで、現場での捜査機関の判断に委ねるのが適切という答弁でありました。今回、電磁的記録の性質に着目して法整備をしたということでありますが、コンピューターの特徴は、やはり被疑事実とは関係のない膨大な記録が入っておりまして、それそのものが差し押さえられますと業務等にも支障があるということから、他の記録媒体に複写をして差し押さえることができるという法整備したわけですね。そうであれば、やはり他の記録媒体に複写差押えができるという場合には原則としてそうするべきであって、記録媒体そのものの差押えはできないという運用にするべきだと思うんですけれども、いかがでしょうか。
- 国務大臣(江田五月君)
これは両方の場合があると。そして、それぞれそれは令状が別ですから、そこは令状審査が両方あり得るという話で、どっちが本体ということになりますとなかなかお答えしづらいんですが、捜査をやっていく場合に、記録媒体自体に残っている様々な情報というものが捜査に有益という場合もあるんだと思います。
したがって、記録媒体を押さえることは例外であって中身の複写などが本則だといっても、やはり捜査機関としてはこれは記録媒体を押さえて迫っていきたい、いく必要があるという場合があって、そのことをきっちり明示をして、その資料を付けて令状請求をしたら、そこは司法審査の結果そういうことも出てくるので、どちらが本体、本則というわけにはいかないと思います。
- 井上哲士君
私はなぜこういうことを言うかといいますと、やはりコンピューターそのものを差し押さえられますと大変なことになりますから、実際には他の媒体に複写して差し押さえる場合でも、コンピューターそのものを押さえるよということを言わば圧力にしていろんな供述の強要とか起こり得るんじゃないかということをやはりこの間の事態を見れば思うわけです。ですから、そこはもっときちっと、原則は今言われたような特別な理由がない限りは複写して差し押さえるべきだと、こういう運用をやはりもうちょっと明確にするべきじゃないかと思いますが、改めていかがでしょうか。
- 国務大臣(江田五月君)
繰り返しのお答えで恐縮ですけれども、そこは捜査機関の捜査手法というのは様々あって、電磁的記録そのものということもある、しかし電磁的記録等が記録されている記録媒体の属性というものをしっかり把握したいという場合もある。その辺りについて、どちらが本則でどちらが例外というのはなかなか捜査機関の立場に立つと難しくて、もちろん捜査機関の立場だけが全てではありませんが、コンピューターネットワークの保全ということを考えるならやはり捜査機関も一定の捜査手法がなければそれはいけないんで、この辺りが一つ調整のよく利いた制度設計ではないかと思っております。
- 井上哲士君
差押え自身をやめろと言っているんじゃなくて、複写してできるんであればそれを原則にすべきだということは私は国民の立場に立ったやり方ではないかなと思います。そういう運用を強く求めておきたいと思います。
最後、ウイルス作成罪に関してなんですが、今日も冒頭、バグに関しての少し整理した答弁がございましたけれども、前回の質問のときに、重大なバグを指摘をされながら公開をし続けた場合に、提供罪についてはどうなるのかという質問を私いたしました。元々衆議院でもそういう質問でした。その際に大臣の答弁は、百六十八条の二の第二項には当たらないと、こう言われましたので、私はそれを聞いて、提供罪には当たらないという答弁があったというふうに引き取ったんですが、百六十八条の二の第二項というのはこれは供用罪なんですね。供用罪に当たらないと言われるとまた少しこの間のとも違うと思うんですが、改めて聞きますけれども、そういう重大なバグを指摘されながら、その作成した人がそれを知った上で公開をし続けた場合というのは、これは提供罪に当たるのか当たらないのか、明確な答弁をいただきたいと思います。
- 国務大臣(江田五月君)
その不正指令電磁的記録の場合に、作成罪と提供罪と供用罪というのがあって、一項は作成罪と提供罪を書いてある、二項は供用罪を書いてあるという、そういう整理の仕方で、一項の提供罪というのは、これは言ってみれば、提供する側とされる側がある意味意思の疎通といいますか共通の認識があるような場合で、ですから、偶然できたウイルスを向こうも、提供を受ける側もそれを知っていてそして受ければ、むしろ自分で作成するんじゃなくて、人が作成したものを自分で今度それをいろいろ利用できるようになるわけですから、その場合は提供を受ける側が情を知っていると、悪意であるということが想定をされていて、供用罪の場合には、これは供用される相手がまさにそういうものだということを知らないわけですから、これを実際に活用することによってコンピューターの中がむちゃくちゃになっちゃうということでございまして、そういう仕分があると、そういう切り分けになっているということでございます。
- 委員長(浜田昌良君)
井上哲士君、おまとめください。
- 井上哲士君
時間ですので、じゃ、終わります。
<反対討論>
- 井上哲士君
私は、日本共産党を代表して、情報処理の高度化等に対処するための刑法等一部改正案に反対の立場から討論を行います。
コンピューターとそのネットワークが広く社会に普及している中で、利用者に重大な被害を及ぼす不正なプログラムの広がりに対処することが求められております。しかし、本法案は、そのような対処の必要性によってもおよそ正当化し難い内容のものであります。
第一に、いわゆるコンピューターウイルスについて作成段階で犯罪化することは、実際の被害発生前の行為を処罰しようとするものであり、刑法の原則に反するものであります。重大な犯罪の予備的な行為が処罰される例としては、銃刀法違反や劇薬、毒物等の不正な入手、所持の処罰などが挙げられますが、いずれもそれ自体が人の生命や身体にかかわるものであり、コンピューターウイルスについてこれらと同じように処罰の早期化の必要性を認めることはできません。
また、被害が発生していないにもかかわらずプログラム作成者のコンピューター上で行われる作成行為を処罰及び捜査の対象とすることは、プログラムを行う者の内心の自由、表現の自由を脅かすことになりかねません。仮に、被害発生前の摘発になるとすれば、見込み捜査で追いかけていないとできないことから、対象者を継続的に監視するといった捜査手法を招くおそれがあります。
第二に、ウイルスの作成、供用等の罪の構成要件が極めて客観性に乏しく、全く明確ではありません。被害発生以前の目的犯であることもあり、外形的に処罰の範囲を限定することは困難であります。曖昧な規定を当局が運用して対処することは、プログラムの作成を行う人々の活動の萎縮をも招きかねません。ウイルス被害に対処するためには、本来のコンピューター機能を損なったという実際の被害に着目した類型をつくるべきであります。
第三に、通信履歴の保全要請は、憲法上保障されている通信の秘密を侵害するおそれがあります。一般に、通信の秘密は、通信の内容のみならず、通信の事実そのものも秘匿の対象とされるべきものです。法案は、本来であれば一定の時間の経過とともに消去されるべき履歴について、捜査対象者が通信を行った相手方である他の利用者に対して何ら通知も行われないまま、それと知られずに履歴を保全するものであります。さらに、裁判所の判断を得ることもなく当局による要請が可能とされていることは、令状主義に反するものであり、当局側の濫用を招きかねないものであります。
以上、三点申し上げまして、反対討論とします。
<附帯決議>*わが党は反対
情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議
政府は、本法の施行に当たり、次の事項について特段の配慮をすべきである。
一 不正指令電磁的記録に関する罪(刑法第十九章の二)における「人の電子計算機における実行の用に供する目的」とは、単に他人の電子計算機において電磁的記録を実行する目的ではなく、人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせない電磁的記録であるなど当該電磁的記録が不正指令電磁的記録であることを認識認容しつつ実行する目的であることなど同罪の構成要件の意義を周知徹底することに努めること。また、その捜査等に当たっては、憲法の保障する表現の自由を踏まえ、ソフトウエアの開発や流通等に対して影響が生じることのないよう、適切な運用に努めること。
二 記録命令付差押えについては、電磁的記録の保管者等に不当な負担を生じさせることのないよう十分留意するとともに、当該記録媒体を差し押さえるべき必要性を十分勘案した適切な運用に努めること。
三 通信履歴の保全要請については、憲法が通信の秘密を保障している趣旨に鑑み、その必要性及び通信事業者等の負担を考慮した適切な運用に努めること。
四 サイバー犯罪が、容易に国境を越えて行われ、国際的な対応が必要とされる問題であることに鑑み、その取締りに関する国際的な捜査協力態勢の一層の充実を図るほか、捜査共助に関する条約の締結推進等について検討すること。
五 本法の施行状況等に照らし、高度情報通信ネットワーク社会の健全な発展と安全対策のさらなる確保を図るための検討を行うとともに、必要に応じて見直しをすること。なお、保全要請の件数等を、当分の間一年ごとに当委員会に対し報告すること。
右決議する。
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