【月刊学習2006年10月号】
〔小泉内閣五年と日本共産党〕
緒戦の相手は小泉首相―全力プレーで切り開いた道
現場ふみ、調査し、国民の声をつきつけた論戦
参議院議員 井上哲士
「小泉内閣の負担増は…定率減税の半減、廃止から、年金、医療、介護、障害者福祉等々、合わせますと十三兆を超える負担が国民にかぶさってきた。特に社会的弱者に対する負担というのは大変重い」−小泉総理との最後の直接対決となった六月七日の参院決算委員会で私はこう迫りました。
その質問からほぼ五年前の二〇〇一年の九月二十七日の参院本会議場。左端の最前列が当時の私の席。ひな壇に座った小泉総理は目の前の席にいます。七月の参院選挙で初当選をし、始めて総理の演説を身近に聞いた本会議でした。この日を出発とした小泉政権との対決の五年間を、私自身が小泉総理と直接論戦した八回の質問を軸に振り返ります。
- 目次
- 格差を拡大し、批判を「ねたみ」という首相
- 利権と一体の企業献金を礼賛
- 森派「もち代」、コクド、橋梁談合
- 異常なアメリカいいなりを批判
- 事実と道理にもとづく質問は政治を動かす
- 参議院選挙勝利で、国民の願いにもっと応えられる議員団へ
◆格差を拡大し、批判を「ねたみ」という首相
この五年間で、総理から直接聞いた忘れられない答弁の一つは、定率減税廃止をめぐる論戦の時です。参院予算委員会で党議員が、年間二億円以上もの役員報酬をもらっている大企業の役員が、なんと年間三千万円もの減税を受けている事実を突きつけ「定率減税廃止による庶民増税ではなく、高額所得者の減税にこそメスをいれるべき」と迫りました。総理の答弁は、「税金を取りすぎると働く意欲がなくなる」というもの。委員会室で「庶民の働く意欲はいいのか」と思わず叫びました。
この間、たくさんの現場に足を運び、たくさんの悲鳴を聞いてきました。労働の規制緩和により派遣や請負の非正規労働が急速に増加し、人間を物扱いするような働かせ方が横行する中で、少なくない若者が働く意欲も将来の希望も失っています。障害者自立支援法により「応益負担」が導入され、多くの障害者が作業所に通ってももらう賃金より利用料のほうが高くなりました。「なぜ、お金を払って働くのか」と意欲を失わせ、負担にたえきれず施設利用をやめる障害者も続出しています。
それだけではありません。今、年間の自殺者は三万人以上。しかもリストラや倒産などを理由にした働き盛りの男性の自殺が増えています。リストラ応援の小泉構造改革の犠牲者です。
庶民からは働く意欲ばかりか生きる意欲すら奪うような悪政を続けながら、高額所得者には「働く意欲」のために減税をする。格差をつくり、広げてきたのが小泉内閣でした。
この格差にかかわって忘れられない答弁は、今年二月一日の参院予算委員会でのもの。この日の午前中、総理は、「格差があるのは悪いとは思わない」と答弁し、さらに同日の夕方には「成功した人をねたむような風潮が問題だ」とのべました。このときも委員会室で思わず「そんな居直り答弁があるか」と叫びました。
拝金主義を賛美する異常
この総理の答弁のひどさを再認識することが最近ありました。日本経団連前会長の奥田碩氏は八月二十三日に名古屋市内の講演で「格差は社会の活性化につながる限り、むしろ望ましい」とのべたのです。さらに奥田氏は、「金もうけこそ活力の源泉」とした上で、成功者を嫉妬せず称賛することが経済的繁栄に不可欠とのべました。有力財界人が拝金主義を賛美する異常さです。
総理の答弁と奥田氏の講演は、国民の声を「ねたみ」と切り捨てることまで瓜二つです。「庶民増税ではなく、大もうけしている大企業や高額所得者に応分の負担を求めるべきだ」「人間らしい働き方をしたい」と声をあげるのが「ねたみ」でしょうか。あたり前の声ではありませんか。こうした当たり前の声を冷たく切り捨て、財界の言い分を代弁する―この財界直結政治のもとで連続して行われた社会保障の改悪や国民負担増と休むことなく戦い続けてきた五年間でした。
◆利権と一体の企業献金を礼賛
小泉総理の財界利益直結の政治は、金権政治と一体ですすめられました。経団連は当時の奥田会長の提唱で、政党がどけだけ経団連の要求に忠実に活動したかという「通信簿」にもとづき企業献金を斡旋するシステムを作りました。財界による政党丸ごと買収です。これに対し、企業献金礼賛を繰りかえしたのが小泉総理でした。〇三年の総選挙後に、党議員団金権腐敗政治追及委員会の事務局長となった私は、この問題で総理と繰り返し論戦をしました。
私は、〇三年一月の参院予算委員会で、〇二年度補正予算案への反対討論を行いましたが、このときは、小泉首相との直接のやりとりはなく、初めて総理に対して質問したのは、〇四年三月二十六日の予算委員会の締めくくり総括質疑でした。このときのテーマは金権政治問題。以来、総理との八回の論戦のうち、四回が金権政治をめぐる問題となりました。
最初の質問で、三菱自動車から自民党への献金を取り上げました。三菱自動車はリコール隠しで〇〇年、〇四年と連続して国土交通省から処分を受けています。〇四年のケースは、大型車のタイヤ脱落事故が連続しながら、「整備不良が原因。構造上の問題ではない」として設計ミスを隠し続けたもので、その間、脱落したタイヤによるいたましい死亡事故も起きています。ところが処分を受けてからも、自民党が同社から四千四百万円もの政治献金を受け取っているのです。
私は、「企業犯罪を犯しているような企業からの献金を受け取って堂々と使うのか」とただしました。これに対する小泉総理の答弁は、「企業、団体から政治献金を受けて使うというのは政党活動として許されることでありますので、適切に処理されているならそれで私はいいと思っております」と、まったく反省の無いもの。私は、「今の答弁を被害者の方が聞いたらどう思うか」と反論しました。
◆森派「もち代」、コクド、橋梁談合
次に総理に質問したのが〇五年二月一日の予算委員会。テレビ中継がある質問も始めての経験でした。この時もテーマは金権政治の問題です。旧橋本派の一億円ヤミ献金事件とともに、小泉首相の出身派閥・森派が、いわゆる「氷代」「もち代」とよばれる資金を所属議員に配りながら、それを届け出ていないという、政治資金規正法違反疑惑を追及しましたが、総理は「人ごと」のような答弁を繰り返すばかりでした。
以降、二〇〇五年三月二十七日の予算委員会では、証券取引法違反で起訴された西武グループ総帥、コクド前会長の堤義明被告と小泉純一郎首相の関係について質問。さらに、二〇〇五年六月七日の決算委員会では、国発注の鋼鉄製橋梁工事の入札談合事件に関して質問しました。西武グループからも談合企業からも自民党に献金がされていたのです。
特に、道路公団や国発注の鋼鉄製橋梁工事を「A会、K会」という談合組織が三十年にわたり談合を繰り返してきた橋梁談合事件では、二つの談合組織の加盟企業からの自民党への献金は、十一年間で十六億円にもおよびました。公共工事にかかわる談合は、落札価格を引き上げることにより税金を無駄遣いさせるものです。その不当利益の一部が政治献金に回っているわけですから、即刻返還すべきだと迫りました。
このように、企業不祥事が起こるたびに、その企業から自民党への政治献金について調査し、追及してきました。
ところが総理の答弁は、「適切に処理されていればいい」という居直りに終始し、犯罪企業からの献金も一円も返還しませんでした。歴代総理は、少なくとも談合が発覚した企業からの政治献金は返還してきたことと比べても、小泉政権の金権容認ぶりは際立っています。
民主党も経団連に対して企業献金を求めているなか、金権政治をただす日本共産党の役割がますます大きくなった五年間でもありました。
◆異常なアメリカいいなりを批判
二〇〇三年三月二十一日。深夜零時過ぎの本会議場。前日の午後に緊急本会議が開かれ、小泉総理から、米英によるイラクへの攻撃が開始され、政府としてそれを支持するという報告が行われました。その質疑が、深夜に行われたのです。この本会議も強烈な印象に残っている一つです。
私のホームページの活動日誌には、当日のことを「日本共産党からは市田書記局長が質問に立ち、米英の無法なイラク攻撃を糾弾し、それを支持した小泉首相を厳しくただしました。首相はイラク攻撃の正当性についてなんらまともな答弁ができず、結局『アメリカに反対はいえない』というもの。恥ずべき思考停止の姿勢に終始しました。それにしても異様だったのが自民党席。普段とは違い、小泉首相が議場に入るや掛け声と熱狂的拍手です。思わず『そんなに戦争がうれしいのか』と大声で叫びました」と書いています。
こうして無法なアメリカのイラク攻撃を支持し、自衛隊の派兵も強行した小泉内閣。アメリカの要求に応えるためには国民の声も地方自治もないがしろにし、米軍基地の再編とそれと一体になった自衛隊の強化、巨額の負担を唯々諾々と合意してきました。このアメリカいいなり政治とも正面から対決してきました。
防衛施設庁の“圧力メール”を暴露
今年二月一日の予算委員会。私は、総理が、在日米軍基地の再編について事前に自治体に相談する、と述べていたことを示したうえで、防衛施設庁が、地方議会が米軍基地強化反対の決議をあげないよう圧力をかけるように各防衛施設局に指示するメールを送っていることを暴露しました。さらに五月十七日の行政改革特別委員会では、沖縄からグァムへの海兵隊の移転に伴う家族住宅の建設で日本が出融資の形で負担する金額が一軒あたり八千万円にものぼることを明らかにし、アメリカのいうままに負担しようとする政府の態度を批判しました。
アメリカいいなり政治は九条改憲と結びついています。先日は、元自民党石川県連幹事長で県議会議長も務めらながら、九条の会・石川ネットの呼びかけ人に加わってくださった山中温泉観光協会会長の上口昌徳さんを訪ねました。「戦争が終わったとき、憲法の中にダイヤモンドのように埋め込まれた九条を私たちは文句なく受け入れてきた。自民党の中で青春を過ごしたが、この憲法を改正しようなどと考えたことは一度もなかった」と話される上口さんは、「野に直言なき国家は滅びる」という言葉を紹介して励ましていただきました。「確かな野党としてがんばりどき」と思いを新たにしています。
◆事実と道理にもとづく質問は政治を動かす
米軍再編をめぐる圧力メールの質問の直後に民主党の永田議員の「ガセネタメール」質問が大問題になり、それとの対比で話題になりました。二月二十五日付の東京新聞は、情報提供と国会質問に関して、「問題は…取材能力や真贋(しんがん)を判定する能力」と述べた上で、「『メール』をめぐる情報提供が国会質問に結びついた例は、最近もあった。 今月一日、参院予算委員会で井上哲士議員(共産)が取り上げた米軍再編問題の質疑が、それだ。」と報道しました。
この質問は、送られてきたメールのコピーにもとづいて党として徹底して調査をし、間違いないと確信をもって質問をしました。だからこそ、政府も本物と認め、基地の地元紙が大きく報道するなど運動を励ますことができました。
これは何もこの質問に限ったことではありません。日本共産党が国会でも地方議会でも、つらぬいてきた姿勢です。行政の側は自分たちに都合のいい資料しか示しません。それを鵜呑みにする「オール与党」と違い、私たちは、しっかりと調査をし、現場に足を運んで住民の生の声をつかんで質問する。だからこそ、少数であっても、野党であっても政治を動かすことができます。
そのことを改めて実感したのが冒頭紹介した六月七日の決算委員会の質問。このとき私は、障害者自立支援法の問題を取り上げました。党議員団による緊急調査の結果、二百余りの施設で百七十六人もの退所者(検討中含む)が出ている実態を示して、政府としての調査と見直しを総理に迫りました。
これに対し総理は、「様々な実態を含めて調査する必要があると思っております」「問題題点があった場合はその問題をどう正していくかという見直しについては政府としても真剣に対応しなきゃならない」と調査と見直しの必要性を認めました。動かぬ事実をつきつけたことが政府を動かしました。
私の質問直後の六月十六日には厚労省が都道府県に対して、四月の施行後の実態について報告を求める通知を出しました。その後、発表された調査結果でも私たちの調査が明らかにした深刻な実態が裏付けられました。
自立支援法の施行前にも障害者団体や全国の党地方議員団の奮闘があり、自治体独自の減免や補助制度がつくられてきましたが、この質問も契機にさらに取り組みが広がり、次ぎ次ぎと自治体の支援制度が実現しています。この間、各地で開いた障害者団体との懇談会はいずれも椅子が足りなくなるほど沢山の参加者があり、訪れた施設では「現場に足を運んで実情を聞いてくれるのは日本共産党だけ」という声もいただきました。
◆参議院選挙勝利で、国民の願いにもっと応えられる議員団へ
前回選挙の後退で党の議席は九議席となり、議員団の活動に様々な制約が加わりました。議院運営委員会の割り当てがなくなり、本会議質問は通常国会での政府四演説に対するものと、決算審議の二回だけに制限され、党首討論にも立つことができません。
私は参院国会対策委員長として、国会が召集されるたびに、こうした不当な制約をやめ、本会議質問や党首討論を保障するよう議長や議運委員長、各党の国対に申し入れてきましたが、残念ながら改善されていません。重要な法案の質疑にも本会議で立てず、もっと議席があれば、もっと国民の願いに応えることができるのにと歯がゆい思いをしてきました。
その点からいっても来年の参院選挙での比例五議席の実現は一歩も譲れない課題です。自らの再選と五人の勝利、さらに選挙区での議席獲得へ全力でがんばりぬきます。