【2008年1月25日、日本平和委員会主催の学習会】
利権まみれの軍事費にメスを入れ、暮らしの予算の充実を
参議院議員 井上哲士
- 目次
- はじめに 〜底知れぬ軍事利権の徹底究明は通常国会でも重要課題
- 山田洋行と守屋氏の汚職事件の徹底究明は急務
- 防衛省・自衛隊の全ての事業・兵器調達の総点検を
- 日米の軍事・政治・軍需企業の癒着構造に根本的メスを
- 利権疑惑まみれの08政府予算案は許されない
はじめに〜底知れぬ軍事利権の徹底究明は通常国会でも重要課題
臨時国会では、新テロ特措法案廃案のたたかいと防衛利権の追及を一体のものとして取り組んできました。私は、新テロ特措法に関連して、政府に10回、参考人・証人喚問で3回、合わせて13回の質問に1ヵ月あまりで立ちました。そのなかでもかなりの部分を割いて防衛利権の問題を追及してきました。
大変広範囲にわたる問題で、改めて今日の学習会に向けて整理をしまして、本当に氷山の一角しか解明されていないということを痛感しています。始まった通常国会でもこの問題は重要課題として全力で取り組んで行きたいと思います。
守屋前防衛事務次官が兵器の受注に関して収賄をしたということで起訴されました。防衛官僚のトップであった人物が汚職犯罪で起訴されたということは極めて重大なことです。この間、文科省とか労働省の事務次官が逮捕されたケースはありますけれども、守屋氏の場合は、事務次官としての権限に直接かかわる分野での収賄で、戦後の汚職事件の中でも大変重大な問題だと思います。
守屋氏は宮崎前山田洋行専務とともに釈放されました。その点では、司法の分野では捜査が一区切りつき裁判に入っていくわけですが、政治的、構造的問題の解明と責任の追及は国会に課せられています。
守屋氏と山田洋行の間の贈収賄というのは、軍事利権の非常に大きな氷山の極々一角にすぎません。歴代の防衛大臣をはじめとした政治家の関与、日本の軍と政治家、企業の癒着など、構造的な問題の全容解明をしなくてはいけない。
今日はそういう点で、私がこの間国会で追及してきた問題を軸にしながら、どこが解明され、何が残されているのかなどをお話したいと思います。
大きくいうと3つの柱です。1つは、山田洋行と守屋氏を中心とした防衛省職員・幹部との汚職事件の真相解明をさらに徹底する必要があるということ。2つ目は、単に守屋氏と山田洋行だけではない、防衛省・自衛隊の発注してきた様々な兵器調達と様々な商社・メーカーとの間に構造的な利権の仕組みがある、ここにメスを入れなければならないということ。3つ目は、そこにとどまらない、政治家、アメリカも含めたもっと巨大な軍事癒着構造がある、ここにまでメスを入れる必要があるということです。
こういうことに全くメスが入らないまま08年度予算案が出されています。利権をそのままにした予算、中期防も許されないということを結論として申し上げたいと思います。
1、山田洋行と守屋氏の汚職事件の徹底究明は急務
まず第一に、山田洋行と守屋氏等への汚職事件、そして山田洋行と防衛省との問題の徹底究明です。
守屋氏への起訴事実〜収賄等・偽証
守屋氏が起訴されたわけですが、どういう起訴事実なのか。
収賄の総額は1249万円。内訳は、1つはゴルフ旅行接待の12回389万円。2つ目は現金の賄賂で、守屋氏の妻の口座とアメリカにいる次女の口座に送られたもので364万円。3つ目は日帰りのゴルフ接待108回497万円ということになっています。
今回の特徴は、過去の犯罪と決定的に違って、何か特定の便宜を図ってもらうというよりも、ずっと系統的に賄賂を贈って、系統的に後押しをしてもらっているというズブズブの癒着の関係です。逆に、この契約でこういう便宜を図ってほしいということとお金の授受ということが必ずしも結びつきにくいということで、収賄での立件は難しいのではないかという話もありましたが、検察は、長い間賄賂を受け取り、系統的に後押しをしてきたということで収賄で起訴しました。ですから起訴状では、「山田洋行による自衛隊装備品等の納入に関して種々便宜な取り計らいを受けたことへの謝礼及び今後も同様の取り計らいを受けたいという趣旨のもとに接待をされたものであることを知りながら」こういう賄賂や接待を受けて「職務に関して収賄した」ということになっています。これが基本的な起訴事実です。
それに加えて衆参での証人喚問での偽証が追起訴されました。これは、衆議院でいいますとゴルフ代を1万円払っていましたと証言しましたが、実は払っていなかった。参議院でいいますと、娘のアメリカにおける生活費はちゃんと親がやっていますと証言しましたが、山田洋行から次女の生活費の口座にお金が送られていたということで、偽証罪が起訴事実に付け加えられました。
守屋前次官は、どういう便宜な取り計らいをしたのか。恒常的に山田洋行の後押しをしたということはありますけれども、少なくとも7つの装備品調達で宮崎被告側に有利な発言を繰り返していたことがいわれています。
航空自衛隊の次期輸送機C‐Xのエンジンの選定にかかわって後押しをしたということ。海上自衛隊の生物探察機に搭載する生物材検知装置というのがあるのですが、この受注の後押し。チャフフレアの水増しが発覚したときに、事実上不問に付す、水増し分は払わせましたが処分はなしないという取り計らいなど、いろんなかたちで山田洋行に便宜を図ったということが起訴事実になっています。これは、基本的事実を認めていますから、今後司法の場で裁かれていくと思います。
自衛隊・防衛省全体への賄賂攻勢の実態は未解明
しかし、これで済みません。1つは、山田洋行からの賄賂攻勢というのは守屋氏に止まりません。いろんな報道がされていますが、山田洋行は、防衛庁職員100人以上の名簿を作成して、盆暮れに贈答批品を送っていました。「高級牛肉や蟹、新巻鮭など、最低ランクでも1万円で、ランクごとに万単位で上がっていった」ことが報道されています。蟹とか新巻鮭などは腐ってしまうので送り返しにくいという手立ても知っているわけです。こういうことを系統的にやってきたといわれています。そして守屋氏へのゴルフ接待に同席した職員もいるわけです。さらに、「山田洋行は、陸・海・空の各自衛隊ごとに部長級の担当者を置き、それぞれが自衛隊幹部をゴルフ接待に連れ出していた」という報道されています。
山田洋行の宮崎元専務は、出世しそうな有望な若手官僚に若いときからずっと接触しながら“先行投資”してきました。そして守屋氏の場合、官房長、防衛局長、事務次官と登りつめるにつれて過去の投資を返してもらう。こういう関係があったわけで、守屋氏だけでなく、様々な防衛省職員や自衛官に対する接待を行っていた。
私はこれをずいぶん追及してきまして、防衛省はいま幹部級職員420人以上に対し、接待がなかったか贈答がなかったかどうかなど特別監察をやっています。報道によりますと3人は認めたようですが、本当にそれだけなのか。山田洋行側の関係者がこれだけ明確に接待等について発言しており、宮崎氏はこうした接待などに使う裏金を総額で5億円以上アメリカの複数の銀行口座にプールしていたと報道されています。
そうしますと、守屋氏に対する1249万円はそのごくごく一部に過ぎないわけで、どのようなかたちで防衛省職員や自衛官に対する賄賂攻勢、便宜の供与が行われきたかは解明しなければならないことです。
原資となった「水増し」請求・・・国民の税金が食い物に
さらに問題は、こういう賄賂攻勢の元手が何だったのかという点です。山田洋行というのは防衛専門商社ですから、基本的には相手は防衛省、自衛隊です。つまり、これは全部国民の税金なのです。それを元手にして裏金を作ったり賄賂攻勢をやってきたということです。
この間明らかになったのは、資料に残っている過去5年間だけでも、山田洋行と防衛省は116件契約をしていることです。いま全部洗い直しを防衛省にさせています。その調査が半数程度進行していますが、12件2億5千万円の水増し請求を山田洋行がしていたというのがいま明らかになっている事実です。
この水増し請求には2つの手口があります。1つは見積書の偽造です。防衛省と海外メーカーとの間に基本的に商社が全部入るわけですが、メーカー側から出た見積書を山田洋行が高値に偽装して防衛省に出すということをやっている。そのなかで、サインまで偽装するという悪質なことがやられていたわけです。
山田洋行が、貴社からの見積もりとしてこういう書類を提出していますが、これで間違いないですかと防衛省がメーカー側に問い合わせをするなかでこれまでに2億5千万円の水増し請求が、明らかになっています。
これ自身、悪質ですが、もう1つ手口があるのです。サプライヤーというやり方ですが、軍需企業・メーカーと山田洋行との間にもう1つ企業を入れるのです。場合によっては山田洋行の関連会社を間に入れるのです。メーカーからは関連会社に見積もりが行って、そこからさらに高い見積書を出させるというかたちでの水増しをやっている。関連会社をトンネルにして吊り上げ、利益を還流させるやり方です。防衛省はいまいろんな調査をしているわけですが、こうしたサプライヤーの調査までは難しいと言っていて解明がすすまない、民間と民間との契約だとして事実上問題視していないという状況です。
結局、商社言いなり、メーカー言いなりで値段を決めているという体質です。ここに大きな問題があるわけで、私たちは、こういうやり方を含めて、山田洋行が受注したすべての事業をさらに徹底的に洗い直せということをいま委員会でも求めているところです。
政治家の関与・・・歴代防衛大臣、官邸の責任
山田洋行と守屋氏との関係について、政治家がどういう関与をしたのかということも明らかになっていません。証人喚問のときに守屋氏が、山田洋行の宮崎元専務との宴席に額賀、久間という2人の元防衛庁長官・大臣がいたということを証言したわけですけれども、この点はまだ事実解明がされていません。
額賀氏は否定していますが、久間氏は「記憶にない」などとして、明確な否定はしていません。久間氏は当初は守屋氏と近かったのですが、沖縄における利権、普天間移転のやり方等をめぐって、途中から対立したと言われております。山田洋行との関係ではどういう構図だったか。山田洋行は内部紛争を起こして、ずっと中心だった宮崎元専務が退社し、日本ミライズという会社を立ち上げます。そしてこの日本ミライズがこれまで山田洋行が持っていたGEの代理権を奪ってしまうということがありました。この過程の中で、日本ミライズの宮崎氏側に守屋氏がついて、GEの代理権を奪われる山田洋行のオーナー側に久間氏がついたのではないかという構図が浮き彫りになってきています。
そして、山田洋行がGEの代理権を日本ミライズに奪われないようにするために、3千万円を日米平和文化交流協会の秋山直樹専務理事に渡して政界工作を依頼し、その際に、何とかGEなどを説得してほしい、そのためにアメリカに働きかけて欲しいという趣旨の久間氏宛の文書を秋山氏に渡したということが年末に報道されています。
これは、一連の事実を見ればつじつまが合う話です。赤旗日曜版が、久間氏と宮崎氏が秋山氏の同席のもとに一昨年の12月5日にすっぽん料亭で宴席をともにしたというスクープをしました。この宴席で、宮崎氏は久間氏に自分の会社である日本ミライズの応援をして欲しいと依頼するものでした。ところが、席上、久間氏は、山田洋行のオーナーの親子が自分のところに来た、いい親子ではないかと言った。そこで宮崎氏は、久間氏は山田洋行に手を出すなというプレッシャーを掛けているというサインを感じ、非常にショックを受けたということを宮崎氏自身が赤旗のインタビューで証言しています。
そのあと、昨年の春にフランスで航空ショーが行われた際に、防衛省の課長がGEに対して、なぜランクの低い日本ミライズに代理権を変えるのかと述べました。その後、なぜ1企業のことで課長がこんなことを言うのかと問題になった際に、この課長が、私は大臣の指示でやっていると発言したことが週刊誌に載りました。この時の大臣が久間氏です。
さらに、守屋氏は証人喚問の際に、「事務次官を辞めたあとに久間氏からC‐Xのエンジンの選定については日本ミライズを代理店にせずに直接契約ができないかと課長に指示したということを言われた」と証言しました。ですから、すっぽん接待、航空ショーでの発言、そして久間氏自身の発言からいいますと、彼は一貫して山田洋行の側についているのです。
このように、先ほど述べた山田洋行から政界工作資金として3千万円が出され、その一部が久間氏に行っているのではないかということは、一連の流れからいうとつじつまが合うのですが、この点については解明がなされていません。
いずれにしても、お金で防衛装備がゆがめられるということがあってはならないことですから、徹底追及が必要です。そもそも守屋氏が非常に長い間防衛事務次官として君臨し、天皇とも言われ様々な豪腕を振るった。これは、当時の官邸の後ろ盾があったからです。小泉政権の下で飯島秘書官とも近かったといわれています。守屋氏が豪腕を振るい防衛予算を食い物にしてきたことについて、彼を取り立ててきた政権の関与や責任も解明し追及する必要があります。
これが山田洋行と守屋氏との関わりという1つ目の問題です。
2、防衛省・自衛隊の全ての事業・兵器調達の総点検を
2つ目に、これにとどまらない、防衛省、自衛隊のすべての事業、兵器調達を総点検する必要があるということです。
山田洋行以外の商社でも「水増し」の疑い
山田洋行以外の商社に対しても水増しの疑いがあります。参議院の外交防衛委員会として外国メーカーに対し、“商社を通して御社からこういう見積書が防衛省に出されていますが、これは間違いないですか”と照会しています。防衛省も調査していますが、委員会としても独自の調査をしたものです。177社、契約件数444件で見積もりが改ざんされていないかどうか照会の手紙を出しましたが、1月9日現在で44社96件の回答がありました。問題がないというのは28社72件です。見積書が違うなど問題があるというメーカーが7社11件、不明な点があるというのが9社13件で、96件中24件が何らかの問題があるわけですから、山田洋行だけでない色々な商社で海外メーカーとの契約のなかで水増しが横行している疑いが極めて高いということが1つです。
国内調達でも横行する「水増し」
もう1つは、国内メーカーによる水増しです。防衛省は、体制がない、知見がないということで、海外メーカーからの調達は商社を通して契約することが必要であり、商社が水増しをしてもチェックしにくいと言っています。しかし商社が間に入る場合だけではないのです。防衛省と国内メーカーが直接契約している場合にも大変な水増しが横行していることもこの間の質疑で明らかになりました。
防衛省は、国内メーカーからの調達の場合は色々な積算をしてきちんと予定価格を出すので、予定価格と実際の契約価格が限りなく100%に近くても、問題ないという言い方をしてきました。ところが、メーカーが「工数」――作業に必要な時間を水増しして報告すること等のやり方で、過大請求するやり方が行われてきました。
「防衛調達をめぐる水増し請求・過払い」という資料①(PDF)があります。これは、90年代に発覚した、企業からの水増し請求の一覧です。山田洋行だけでなく18社で行なわれ、金額のわかっている16社で1143億円の水増し請求が行われていました。
ところが、刑事告発は1件もしていません。水増しは、故意にやっているわけですから詐欺行為です。にもかかわらず刑事告発は一切していません。山田洋行は告発するといっていますがまだしていません。刑事告発しないのであれば行政処分をしたのかと聞くと、「取引停止処分にしました」ということです。事前に資料をもらうと、“取引停止処分にした”“公開入札には参加させない”と書いてあります。しかし、防衛調達は「止むを得ない」などの理由で、8割、9割が随意契約ですから入札に参加しなくても痛くも痒くもない。実際どうなのか。資料②(PDF)の「取引停止期間中の契約件数・金額」にあるように、取引停止中でも実際には随意契約をどんどんやっています。資料が残っている5年間分だけでも161件74億円。ですから、防衛大臣も「取引停止の効果は上がっておりません」ということを答弁で認めました。
しかも、こうした水増しを行ってきた企業にも引き続き天下りが行われているのです。これは重要な問題です。1998年に“調本事件”というのが起きました。旧防衛庁調達実施本部を巡る背任事件で、水増し請求が発覚した際に、その返還額を圧縮した見返りにOBの天下りを認めさせたとして本部長らが逮捕されたものです。当時の検察の冒頭陳述によると、防衛庁幹部が企業に対し、「水増し問題を起こしたんだから、その改善のためはいってもらうという名目も立つだろう」という話しまでして天下りを受け入れさせた。水増し請求と天下りが結びついた事件でした。
その責任をめぐり、当時の防衛庁長官の額賀氏に対し参院で問責決議があがり、額賀氏の辞任にまでなりました。にもかかわらず、その後も水増し請求が行われ、その企業に対して相変わらず天下りが行われているわけですから、本当に何にも教訓が生かされていません。
刑事告発はしない、行政処分の取引停止も実際はほとんどやられていない。そして、天下り。福田総理に「こういうやり方が国民に理解されると思うか」と聞きますと、“私も理解できないので国民も理解できないでしょう”などととぼけた答弁です。国民の税金を食い物にする構造について徹底したメスを入れる必要があります。
商社「言い値」の海外現地調達
さらにいまPKO活動などで増えている海外での調達も問題です。。海外で現地調達するものは、「外国での調達」を理由に基本的に随意契約で行われています。これがまた、大変ひどいものです。
イラクのサマワで陸上自衛隊が生活品から装備にかかわるものまで現地調達しています。これは山田洋行が契約しています。この契約状況を見ると、99.9%予定価格と一致します。(資料③-1(PDF))、(資料③-2(PDF))しかも見積書も出していません。週刊誌では宮崎元専務が”イラクで10倍もふっかけた”と言っていたという記事も出ていますが、まさに商社の言い値で契約が行なわれてきました。
山田洋行はイスラエルにもクウェートにも事務所があり。中東での防衛省の現地調達を契約していました。イスラエルの事務所はゴラン高原のPKOでの調達を契約しています。実は、先ほどふれた山田洋行から秋山氏に渡った3千万円の裏金の元手はここにあるのです。報道によると、ゴラン高原のPKOの調達で現地の自衛隊が支払った資金を、銀行で送金すると足が着くので、紙幣を郵便物に潜り込ませるなど様々な手口でアメリカの山田洋行の子会社に送り、そこで裏金にしていたというのです。
ゴラン高原での山田洋行の受注は5年間で1億2千万円です。その額で3千万円の裏金を作るとしたら相当な水増しをしないといけません。ほとんど商社の言い値で契約しているわけです。このように、海外派兵に伴う現地調達で税金が食い物にされているという実態も解明する必要があります。
守屋次官の下で推進された防衛政策・兵器調達・施設整備が利権の対象に ― グアム移転に群がる軍需企業
さらに、守屋氏が推進したすべての防衛行政にかかわる問題です。守屋氏は官房長4年間、防衛局長2年、事務次官2年やったわけで、その間に、普天間基地の移転、米軍再編、インド洋やイラクへの派兵、ミサイル防衛体制などの非常に大きな防衛政策の転換を進め、防衛庁の省昇格も実現させてきました。その多くに山田洋行などが食い込んできたのです。
ですから、守屋氏自身がすすめたC‐XやP‐X、ミサイル防衛構想やグアム移転などなど一連の政策、兵器調達が利権の対象になっていないかどうか、このことも解明する必要があります。そして、実際にグアム移転は利権の対象となってきた疑いが非常に強いのです。
米軍再編は守屋氏が強力にすすめてきたものです。沖縄米海兵隊のグアム移転というのは1兆2千億以上の巨大プロジェクトで、日本側の負担は米軍は家族住宅3500戸などで7千億円以上になります。この家族住宅自身が、1軒8千万円で見積もられており、異常に高いという問題があります。防衛省は、詳細は決まっていない、総額も確定していないといいながら、すでに業者を集めて説明会が行われています。昨年、東京と大阪で説明会が行われ、グアムでも8月に説明会が行われています。東京と大阪合わせて350社が説明会に参加しています。この説明会に日本ミライズも山田洋行もちゃんと参加しています。ここに日本ミライズが作成した、「マル秘」と書かれた図があります。この中では、グァム移転でアメリカの企業が第1次の受注をしたらその下に入ってコンサルタント事業をやるという構図になっています。ここまで話をすすめている。
日本ミライズの宮崎氏は、「守屋氏が次の社長になる」と取引関係の企業などに話していたと報道されています。事務次官を辞めた後、天下り規制が切れる2年後には、守屋氏が日本ミライズの社長になるということを売り込みに使っていたわけです。これは、決して根拠のない話ではありません。実は、守屋氏は一昨年の9月に『サピオ』という雑誌で、「日本における米軍の再編や配置をどうするかというのは、私の防衛官僚としての大きなライフワークです」と述べています。ライフワークというのは、普通は今の仕事を辞めてもやり続けることということですね。これは、先ほどの宮崎氏の話ともつじつまが合うわけです。つまり、自分で米軍再編のシナリオを作り、退官後は、その仕事を扱って儲けようとも考えていたのではないかと思わざをえません。
このように、守屋氏がすすめてきた米軍再編の事業などは利権を含んだものであるという疑いが極めて濃いものです。
しかも利権の構図は日本国内にとどまりません。守屋氏と米軍再編を進めたアメリカのパートナーは、アーミテージ元米国務副長官です。アーミテージ氏は昨年の11月、『報道ステーション』でインタビューに答え、“宮崎氏についてよく知っている。私は宮崎氏が好きだ。彼はサマワにいる自衛官に親身な手配をした立派な人物だと思っている”という発言をわざわざしています。宮崎氏が来日中にアーミテ―ジ氏を接待した可能性は極めて高いし、山田洋行のアメリカの現地法人が、アーミテージ氏がつくっているコンサルタント会社であるアーミテージアソシエイツやアーミテージ氏の側近がやっている会社に、7年間で約1億円のコンサルタント料を払っていたことが報道されています。ですから、山田洋行は、米軍再編を仕掛けた日米の2人のキーパーソンに接待をし、多額のコンサルタント料を払っていた。
まさにグアムに群がる日米をまたにかけた利権の構図が浮かび上がってくるではありませんか。
3、日米の軍事・政治・軍需企業の癒着構造に根本的メスを
防衛調達の「特殊性」や「軍事機密」を口実に大半が随意契約で、秘密主義 ―「天下り」、「労務借り上げ」、「政治献金」
最後に、全体の大きな利権構造の問題があります。
防衛調達というのは、作っているメーカーが限られているということと軍事機密だということを口実に、ほとんどが随意契約で、しかも秘密主義で行われてきました。この「特殊性」を隠れ蓑にして利権の構図が作られてきたのです。
自衛官は体力が必要ですから若年退職をしていきます。毎年約1万5千人の退職者を出し、うち約4割は、防衛省のあっせんなどでメーカーや商社に天下りしています。幹部は「顧問」として迎えられ、現役幹部と接触する際の仲介役や情報集めにより受注に影響力を発揮します。山田洋行の場合、「防衛省への売上高10億円に対し1人」の割合で同省・自衛隊からOBの天下りを受け入れる方針を立てていたという関係者の話も報道されています。
これは山田洋行だけではありません。資料④(PDF)「日米平和文化交流協会の主な会員企業と受注金額、天下りと献金」をみていただくとわかりますが、受注金額の多い企業ほどたくさんの天下りを受け入れているという構図があります。こういうところが自民党にもしっかり献金をしています。天下りと政治献金による政治家‐自衛隊・防衛省‐企業というこの関係が温存されてきているわけです。
もう一つの癒着の仕組みが「労務借り上げ制度」です。これは防衛庁の技術研究本部が新しい装備品を開発し、その試作品の試験を行なう際に、開発を受注しているメーカーから技術者を「借り上げ」て、一緒に試験を行なうという制度です。2000年以降で、述べ28万人がこの制度で借上げられています。その日当は2007年度の11月末までで、10万5889円にのぼり、上位3社はダイセル化学工業16万7092円、次が日本電気15万445円、3番目が日本油脂14万5243円という驚くべき高額になっています。企業にすれば、試験に参加をして技術力を付けながら、確実にもうけが入って、そして量産段階に移行したときにはこの開発品を受注ができる、大変有利な形になっています。研究開発段階からの癒着構造として緒方前参院議員が問題にし、防衛省は見直しを約束していましたが、名称を「技術支援契約」に変えただけで、日当もむしろ昨年度より高くなっています。
しかも日本の防衛調達の特徴は、いまの安保体制の下で主要な兵器がアメリカ製だということです。購入する場合もありますし、ライセンス国産といって、アメリカの軍需産業からノウハウを買い、生産ラインを独自に作って国産する方法もあります。そのもとでアメリカの軍需企業の先兵として軍事専門の商社が暗躍してきました。ですから、ロッキード事件とかグラマン・ダグラス事件以来の構図は全く変わっていません。こういう防衛調達の特殊性を口実にした癒着と秘密主義の構図があります。
「日米安全保障戦略会議」などを舞台とした癒着の解明…ミサイル防衛構想、武器輸出三原則の撤廃要求
そのなかで、今回の事件で非常にクローズアップされたのが、日米安全保障戦略会議などを舞台とした癒着の構造です。日米安全保障戦略会議については資料⑤(PDF)を見てください。 社団法人の日米平和文化交流協会には、日米の軍需産業のそうそうたる企業が理事や会員として参加しています。そして防衛省からは、歴代長官などが理事に就任しています。久間氏などもそうですが、防衛庁長官や大臣になったら理事を降りますが、大臣を辞めたらまた戻ります。この協会と表裏一体の組織が、安全保障議員協議会という国会議員を中心とした組織です。この両組織の共催で、日米安全保障戦略会議というのを毎年やるようになってきました。
ここで、どういう議論がされてきているのか。たとえば、去年の11月に行われた第10回日米安全保障戦略会議ですが、会議と一緒に兵器の見本市も行われています。そのプログラムを見ると、プレゼンテーションとして、「わが国の防衛政策課題としてのミサイル防衛」ということを防衛省が報告しました。その後に「日本の将来の防衛構想について」ということをロッキードマーティンコーポレイション、グラマンコーポレイションが報告し、翌日には同じ題名でボーイングも報告する。アメリカの軍需企業が日本の防衛政策についてプレゼンテーションをするわけです。さらに「ミサイル防衛と日米防衛交流」というパネルディスカッションでは、司会は元防衛施設庁長官の宝珠山氏が務め、三菱やロッキードなど日米の企業がパネリストになっています。まさに軍需企業が自分たちの儲けの場になる日本の防衛構想をどうするのかということを当局と一体となって議論し、しかも兵器の見本市も行われてきました。
もともとこの協会は、日米文化振興会という名称で、定款も「日本と米国との文化の交流に関する講演会…等の開催および参加」となっています。それを秋山氏が入ってきて、名前も変え、どんどん防衛関係の会社や政治家が理事になって変質していきました。今や、ここが日米の軍事、政治家、軍需企業が一体となって意見交換をしながら利権の相談をするような場になり、定款に定められた事業とは離れた実態となっています。この協会は外務省所管の社団法人であり、その実態を把握にしているはずなのに、外務省所管の国際交流基金からこの協会に助成金が出ています。そのお金が、政治家がアメリカに行って軍需産業との交流を図る際の旅費になっているという問題もあります。
さらにこの交流協会は、定款ではできない毒ガス不発弾の処理に関する調査事業もやっています。この事業は防衛省が発注しています。その後の実際の処理事業の下請けには山田洋行が入っています。なぜそういうことになったのか。この点の解明も必要です。山田洋行からはこの事業の受注に絡む「事業協力費」として専務理事の秋山氏に1億円が渡ったという報道もあります。本人は否定していますが、真相究明が必要です。
この交流協会の役員には防衛大臣経験者とともに福田総理も並んでいます(昨年3月に退任)。福田総理は私の質問に「自分は良く知らない」といい訳をしましたが、理事を務めながらそんないい訳は通用しません。役員をしてきた政治家、この協会と軍事利権の関係、不明朗な業務実態などについて明らかにする責任があります。
この間、日米軍事同盟をめぐって、日米首脳会談をはじめ様々な政治レベルの会合が行われてきたわけですが、それ自体が利権をはらんでいるということだと思います。そもそも政府の防衛政策や日米同盟政策そのものにはじめから利権が組み込まれているのではないか。在日米軍の再編にしてもグアム移転にしても、ミサイル防衛構想にしても。アメリカの方は政府と軍需企業が一体となって日米同盟政策をおしすすめるという実態があるわけですから、日米安保戦略会議などを舞台とした日米の軍需利権の構図を徹底的に明らかにすることなしに、いま彼らが行っているあれこれのことを進めさせるわけには行かないと思います。
いま、官房長官のもとに防衛省改革会議というものが設置されていますが、結局過去やったように、組織だけいじっていまの天下りや利権を生み出してきた構図にはメスを入れないままお茶を濁す危険が極めて強い状況です。この点も国民的な監視が必要だと思います。
4、利権疑惑まみれの08政府予算案は許されない
こういう大きな利権疑惑が解明されないまま政府予算が出されています。もともとこの政府予算案の概算要求をつくったのは守屋氏です。守屋氏がつくった概算要求を政府予算案にするに当たってどこかにメスが入ったのかというと、基本的に入っていません。そのままになっています。軍事費は全体で4兆7798億円ですが、そのうち2兆円ぐらいが装備に係る予算になっています。
その中で今回、ミサイル防衛システムには1714億円計上されて、累計では7347億円となっています。日米安全保障戦略会議では、一貫してミサイル防衛システムの推進が大きなテーマとなって語られています。こういう大きな計画は、一旦始まりますと長期にわたって、しかも莫大な予算が計上されます。軍需産業にとってこれほどおいしい話はない。そして、軍需産業は、このアメリカが進めてきたこのシステムに加わることを理由に武器輸出三原則を解除して日本が自由にいろいろな研究や輸出もできるようにしたいという強い要求を出しています。自分たちの利益のために、憲法にもとづく国是まで変えよというのですから許せません。
いわゆる「思いやり予算」については、2083億円が計上されました。先日、日米両政府は、今年三月末で期限切れとなる思いやり予算を3年間延長する特別協定を締結しました。経済財政諮問会議の答申でも厳しい財政事情を理由に合理化が求められ、政府も米側に“米軍基地だけを聖域にするようでは国民の理解を得られない”と見直しを要求していましたが、結局90億円程度の削減で押し切られました。インド洋で給油を中断してしまって迷惑をかけたということで強く出られないという話もありましたが、社会保障費は毎年2千2百億円削減される一方、それとほぼ同じ金額の思いやり予算が出ているわけで、まったく思いやる方向が逆だといえます。
軍事予算の具体的な分析は平和新聞1月25日号にわかりやすく書いてありますが、在日米軍の再編費用も522億円計上されています。思いやり予算にしても米軍再編にしても、ミサイル防衛システムにしても、アメリカとの合意を優先し、軍事費は事実上聖域とされています。これが、国民生活に予算上のシワ寄せになっています。
先日の参院本会議の自民党の代表質問でも “もう社会保障費の2千2百億円の削減は限界、私も経済財政諮問会議に何度も呼びつけられたが、どうやって削るかということではなくて、国民の命を守るためにはいくら必要なのかという角度の議論が必要ではないか”とのべ、野党席から大きな拍手がおこるという奇妙な構図になりました。与党の中からも限界だという声があがるほど社会保障を切り捨てながら、アメリカを優先する。ここに一番大きな問題があります。
さらに、地方自治体への補助金の問題もあります。岩国の市長選挙でも大問題になりましたが、再編に合意しないということで市庁舎建設の補助金を中止をしてしまうということをやりました。こういう「アメとムチ」で地方を脅すというやり方も、守屋氏が考えたものです。財務省内は、予算が一旦ついて庁舎建設もすすんでいるわけですから、補助金を途中で中止することなど国と地方の関係ではあってはならないという意見もあったようですが、それを守屋氏が強力に進めたのです。
また、来年度の予算には自衛隊の組織改変の予算もついていて、今国会には防衛省設置法等改正案が提出されます。その中で自衛隊法も改正し、陸・海・空に分かれている情報保全隊を統合して人員も装備も拡充するという内容も入っています。あれほど国民監視の活動で厳しい批判を受けながら、まったく意に介さないばかりか、さらに強化しようというのですから、許しがたいことです。
来週明けから衆議院で補正予算案の審議がはじまり、国会全体として予算の審議に入っていくわけですが、こうした大きな問題をかかえているような予算を許すわけにはいかないわけで、おおいに皆さんと一緒に運動も広げながら論戦の先頭にも立っていきたいと思います。
(本稿は、08年1月25日、東京都豊島区東部区民事務所で日本平和委員会が主催した学習会での講演の記録です。)