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井上哲士ONLINE
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2002 年 12 月 10 日

法務委員会
戸籍法改正法案

  • プライバシー保護と法の下の平等の観点から戸籍の「原則非公開」化や「個人籍」についての認識をただす。
  • 性同一性障害の人の戸籍の性別変更を広く認めるように求める。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 戸籍の再製を可能にするこの改正案は、関係者の皆さんの強い要望もあるものであり、私どもも賛成であります。取りまとめをされました衆議院の法務委員会の皆さんに敬意を表するものであります。

 今回の法改正への様々な関係者の要望、そして法務省の検討状況を見まして、改めて日本社会における戸籍の意味や家族の在り方に与えてきた影響を認識をさせられました。

 戸籍は公示機能を持つものとして原則公開をしてきたわけでありますが、戸籍に盛り込まれている個人情報が公開されるということがプライバシー侵害に当たるとしまして、七六年の改正で閲覧制度、原則廃止をされ、さらに謄本などを請求する場合の正当理由を明らかにしなければならないということになりました。しかし、現実の場面では何が正当な理由か、なかなかはっきりしない。窓口の担当者が真偽の確認のしようがないというような問題があります。

 ある人物の戸籍謄本から、親の身分関係や、養子かどうか、嫡出か非嫡出かなど、個人のプライバシーがすべて分かるものであります。戸籍法の第十条に公開原則という条文は残っているわけでありますが、こうした状況から公開原則というのは破棄されるべきだという学者の指摘も多いわけであります。例えば、戸籍に関しては官公庁が行政の必要上アクセスする以外は本人のみがアクセスできることとすべきだ、本人以外の者に本人の意思に反して身分証明を交付する必要はないと、こういう指摘もあります。逆に、どうしても公開をすべきだという論は余り聞かないわけでありますが、原則非公開の方向ということに踏み切ることも検討されるべきだと思うんですが、その点で大臣の御所見をお願いいたします。

国務大臣(森山眞弓君)

 戸籍は、今、委員がおっしゃいましたとおり、相手方を知るという必要性がありますので、身分行為とかあるいは取引関係に入ることを予定している者にとっては非常に重要な文書でございまして原則公開とされていたんでございますが、この公開制度を悪用いたしまして個人のプライバシーを不当に侵害する事例が発生したことを配慮いたしまして、昭和五十一年の戸籍法一部改正によって公開に制限が加えられたというものでございます。

 具体的には、戸籍謄抄本等の請求にあっては、原則として請求の事由を明らかにしなければならず、請求が不当な目的によることが明らかなときは市町村長はこれを拒むことができるとされまして、また除籍謄抄本等の請求にあっては、請求ができる者を、除籍に記載されている者又はその配偶者、直系尊属若しくは直系卑属及び国又は地方公共団体の職員、弁護士その他法務省令で定める者に限定いたしまして、これ以外の者は、相続関係を証明する必要がある場合、その他法務省令で定める場合に限って請求できるというふうになっております。

 この現行の公開制度はプライバシーに十分配慮しなければならないと思いますので、このようなやり方で維持されるべき制度であると考えております。

井上哲士君

 更に一歩踏み出すべきではないかということも指摘をしておきます。

 さらに、お聞きしますが、現在の戸籍には戦前の家制度の残滓と指摘をされる点が幾つもあります。

 例えば、戸籍筆頭者、配偶者、未婚の子、こういう世帯単位の構成になっておりまして、家族に序列を作るとか、父母欄も母の氏は省略をされており、対等な個人としての男女を構成する男女共同参画社会にはなじまないんじゃないかと、こういう指摘もあります。筆頭者が死亡しましても筆頭者欄は死亡者のままに残ってしまう、ですから妻が亡くなった夫の氏を名のろうとする限り戸籍は変わらないわけですね。戸籍上は妻は死者を頂点とする世帯の一部だと、こういう指摘もあったり、筆頭者とそうでない者の間に主従の関係を持ち込むものであり、明らかに憲法の規定する個人の尊重や法の下の平等に反すると、こういう指摘もされております。

 戦後の民法改正の際にも様々な議論がありました。夫婦、親子を原則として同一の戸籍に記載すべきというやり方は民法改正が強く意識しているはずの家族制度の廃止ということを有名無実にするおそれがあると、こういう指摘もありました。この改正要綱の起草委員会の担当幹事の一人であった川島武宜教授は、当時、民法改正案研究会にも参加をされておりまして、その意見書では、フランスで提案されているような個人単位で、しかも一人一用紙主義の身分登録制度の採用が望ましいと考えると、こういうようなことも言われております。

 最近も、戸籍のもたらす精神的な効果が非常に大きな負の遺産になっている、もはや無視できない悪影響をもたらしている、家制度の残滓を払拭する方向で根本的に改正する時期が到来しているというふうな指摘もあるわけであります。

 選択的夫婦別姓を推進してこられた大臣でありますが、こういう言わば個人籍に変えるべきだという指摘について御所見をお願いいたします。

国務大臣(森山眞弓君)

 おっしゃるような考え方も確かにあろうかと思いますが、我が国の戸籍制度は、一組の夫婦とこれと氏を同じくする子供ごとに編製されまして、各人の現在の身分関係を統一的に明らかにするだけではなくて、入籍、除籍に関する戸籍相互間の関連付けによりまして系譜的な親族関係を容易に明らかにすることができる機能を兼ね備えております。さらに、一つの戸籍にすべての身分関係を記載することになっておりますので、人の出生から死亡までの身分関係の変動を容易に把握することができるようになっているわけでございます。

 戸籍を個人籍にすべきであるというような考え方につきましては、個人籍ですと技術的に身分関係のつながりを公証することが複雑になること、また現行の戸籍制度を個人籍にすることには膨大な費用と手間が掛かりまして、現実には非常に困難であると思いますので、必ずしも賛成いたしかねると思います。

井上哲士君

 戸籍のありようというのは日本人の家意識というのに非常に大きな影響を与えておりまして、当時の民法改正研究会の指摘は今なお新しいという学者の指摘もあります。個人の尊重というのが真に具現化をされる制度を作る必要があるのではないかということだけ指摘をしておきます。

 最後に、先ほども性同一性障害の問題で質問がございました。家裁に申立てをして変更が認められたのは、戸籍の性別の変更が認められたのはこれまで一件だけなわけでありますが、性同一性障害を理由として性転換手術を受けた人の社会生活上の不便を考えますと、もっと広く変更が認められるべきだと思います。

 この間の答弁では、国民的議論の動向やガイドラインの内容などを踏まえつつ対応していきたいということもあるわけですが、こういう国民的な世論など法務省として何か調べたことがあるのか、またそういう計画があるのか、それも踏まえて今後どのような対応をしていくのか、質問をいたします。

政府参考人(房村精一君)

 国民的議論の動向ということで特段、従来、世論調査等をしたということはございません。この問題をめぐるいろいろな発言あるいは報道等について注意を払っているというところでございます。

 今回の御議論、あるいは関係機関とも連携を取りまして、いずれにしても私どもとしても真剣に検討をしていきたいと、こう考えております。


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