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2005年3月10日(木)

法務委員会
「大臣所信に対する質疑」

  • 政府が今国会に提出しようとしている人権擁護法案について、メディア規制の凍結などの小手先の修正での再提出は許されないと批判。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 まず、入管難民法にかかわって質問をいたします。

 UNHCRよりマンデート難民の認定を受けたトルコ国籍のクルド人のアハメド・カザンキランさんとその息子さんが一月十八日に退去強制処分でトルコに送還をさせられました。我が国の難民行政は冷たいという国際的な批判を浴びてきたわけですが、それでもUNHCRが認定したマンデート難民についてはこういう強制送還をしたのが今回初めてだということでありますが、これまでなぜこうしたマンデート難民の本国への強制送還を行ってこなかったのか、まずその点、お聞きします。

政府参考人(三浦正晴君)

 お答え申し上げます。

 入国管理局といたしましては、これまでも我が国としては難民と認定できないというようなケースがございまして、これについて、そのケースにつきましてUNHCRがマンデートをするというケースはあったわけでございます。こういうケースにつきましては、UNHCRから第三国定住等につきまして具体的な提示があった場合にはこれにできる限り協力するという形で協議をしてきたところでございます。

 ただいま委員御指摘の事案につきましては、正にマンデートがなされ、我が国では難民の認定を不認定にしたと、こういうケースでございますが、このケースにつきましては、UNHCRの方から第三国定住が非常に困難であるというお話を我々承っていたところでありまして、また一方で、我が国の司法手続におきまして、そのケースにおきましては東京高等裁判所で二度にわたりまして難民ではないという明確な判断が示されたという事情がございます。

 訴訟が二度あったわけでございますが、第一次の難民不認定処分の取消し訴訟に関する裁判所の判決は、東京高裁の判決が確定しておりまして、当該の方が難民ではないということが司法上、我が国の司法上確定していたという状況がございます。その後の二次訴訟といいますか、退去強制令書の取消し訴訟におきましても、東京高等裁判所まで同様の判断をいただいたという事情がございます。

 こういう状況の下で送還を実施していたという状況でございますが、今後ともUNHCRから第三国定住について御提示がございますれば、我々としてはできるだけ協力をしてまいる所存でおります。

井上哲士君

 そうすると、UNHCRの姿勢が変わったわけでもない、ケースとしてこれが初めてのケースであったと、こういう理解でいいんですか。

政府参考人(三浦正晴君)

 委員御指摘のケースのような形での送還というのは初めてだというふうに認識しております。

井上哲士君

 いろいろ説明聞きますと、本国での迫害のおそれはないんだというようなことも言われるわけですが、現に送還された父親は警察に一時拘束をされ、息子さんも警察に拘束され現在はトルコ軍に入隊させられたとお聞きをしているわけです。非常に注目を浴びたケースでもこういうことがあるわけですね。

 昨年、入管法の審議の際に附帯決議も付けまして、強制退去手続等については、家族的結合などの事情に十分配慮し、適切に対処する、それから、UNHCRの解釈、勧告を尊重すべきこと等を政府に求めたわけです。家族を引き離してUNHCRの意向を無視をしたという結果の今回のケースはこの附帯の精神に反していると思います。

 このカザンキランさんの場合も収容された翌日に強制送還をされて、そのほかも、この間マンデート難民の方が、高裁判決が出た直後に収容するとか、いろんな大変、マンデートを受けた方も含めて難民認定を求める外国人に厳しい姿勢が私続いていると思うんですね。これはあのときの附帯決議の精神と私は反していると思うんですけれども、その点、大臣の御所見を伺いたいと思います。

国務大臣(南野知惠子君)

 昨年の入管法改正の際に、当委員会におきます附帯決議につきましては、法務省といたしましても、入管行政を行っていく上で、その趣旨を踏まえ、尊重し、適切に対処しているところでございます。また、ノンルフルマンの原則につきましても、難民条約の締結国として当然遵守すべきものと考えております。

井上哲士君

 実態は今申し上げましたようにそうでないことが起きているわけでありますから、これは改めて強く求めておきたいと思います。

 それで、そういう難民申請に対する厳しい姿勢も反映して、入管、入国管理センターの実態というのは非常に悪化をしております。お手元に法務省からいただいた資料で、東日本、西日本、大村のそれぞれ入国管理センターの収容延べ人員と収容人員の資料を出しておりますけれども、それぞれ三つのセンターの二〇〇一年それから二〇〇三年、平均収容日数というのはどういうふうになっているでしょうか。

政府参考人(三浦正晴君)

 お答え申し上げます。

 東日本センターにつきまして、一人当たりの平均収容日数でございますが、平成十三年から十五年の数値で申し上げますと、平成十三年が三十五・二日、十四年が四十九・六日、平成十五年が四十五・一日と、こういう数字になっております。西日本センターにつきましては、平成十三年が二十六・七日、平成十四年が三十三・〇日、平成十五年が二十九・一日と、こういう数字でございます。

井上哲士君

 大村も。大村。

政府参考人(三浦正晴君)

 失礼しました。

 大村につきまして、同じく十三年から順次申し上げますと、十三年が三十七・一日でございます。平成十四年が四十六・五日、平成十五年が四十三・九日でございます。

井上哲士君

 もう一つ、手元に診療件数というのも資料で出しましたけれども、これを見ますと、東日本が、二〇〇三年で六千二百五十九で、二〇〇一年と比べまして一三%増。西日本は、二〇〇三年が三千六百五十七で横ばい。大村が、二〇〇三年、七千百七十で一〇%増と、こうなっております。

 収容人員、延べ人員は減っているのに、診療件数は増えていると。これは今、先ほど答弁していただきましたけれども、一人当たりの収容日数が増えているということとの関係が見て取れるわけですね。そういう下で、この収容の長期化ということに伴いまして、ストレスなどからくる健康悪化とか、結核などの伝染病ということのおそれも指摘をされております。

 それで、じゃ管理センターの医療体制がどうなっているのかということで、これも資料をいただきましてお手元に配付をいたしましたけれども、医師、看護婦の配置でいいますと、大村は、常勤医師一人、非常勤一人、看護婦が常勤で二人。東日本は、常勤医師、非常勤それぞれ一人、看護婦が常勤で一人、薬剤師が常勤で一人。西日本は、常勤医師が一人、看護婦が常勤一人と、こういう状況です。

 これ自身大変不十分だと思うんですが、更にいただいて驚きましたのは、医療機器とか健康診断の体制というのが非常に不十分であるし、非常にばらつきがあるわけですね。医療機器でいいますと、大村と東日本にはエックス線の撮影機がありますけれども、西日本にはありません。健康診断を見ますと、大村の場合は入所時検査、胸部エックス線も含めてやっております。東日本は問診だけと。西日本は入所時検査ないんですね。そして、定期健康診断は、大村は六か月ごと、東日本は体重測定のみと、西日本は年に一回ということになっております。東日本は、エックス線の撮影機があるわけですけれども、技師がいないということになっているわけですね。西日本には、さっき言いましたように、もうエックス線の技師がいないと。

 なぜこういうような差ができるのかと思うんです。大村などは比較的健康が良くない人を収容されているのかと思ったりもするんですが、一体どういう理由でこういうばらつきが出てきているのか。少なくとも入所時の検査、それから一定期間ごとのエックス線の検査など定期的なものが必要だと私は思うんですけれども、この点いかがでしょうか。

政府参考人(三浦正晴君)

 お答え申し上げます。

 確かに委員御指摘のとおり、センターによりまして設備が異なっているという点は事実でございます。

 ただ、各収容所、センターのほかに地方入国管理局にも収容所がございますが、こういう収容所に収容された人につきましては、入所時には全員健康状態に関する質問は行っておりまして、もし必要であると認められる者については、速やかに医師による診療を実施しているという実情にございます。

 御指摘のように、西日本センターにおきましてはエックス線の設備がないわけでございますが、ここは、元々、建物の構造上、いわゆるレントゲンの機械が使えるようなところがなかったということでありまして、これは早急に改善しなければいけないと思っておりまして、このレントゲン設備の整備を早急に図るように今検討しているところでございます。

井上哲士君

 西日本センターも東日本センターも私行ったことありますけれども、西日本センターはたしか平成十一年に新しくできている、最近できた建物なんですね。ですから、構造上ないんじゃなくて、そのときにそういう構造を造らなかったということが問題なわけなんです。

 医師の確保についてはいろんな御苦労をされているのは分かっていますけれども、今の話でいいますと、入所時の問診はしていると。しかし、いただいた資料では西日本は検査はなしということになっていますね。定期健診を東日本の場合はこの体重測定しかやっていないという、これはなぜですか。ほかは必要があるからやっていると思うんですけれども、東日本に入っている人は必要がないと、こういうことなんですか。

政府参考人(三浦正晴君)

 委員が今ごらんになっている資料ですと確かにそういう記載になっておりますが、定期的に、東日本の場合には定期的なものとしては体重測定を行っているということでございまして、もちろん、それ以外に本人の方から訴えがあった場合には当然適宜適切に医師が対応しているという状況でございます。

井上哲士君

 こういう外国人の方の健康診断なんかをよくやっておられるお医者さんにお話を聞くんですが、外国人の結核感染者というのは非常に多いんだそうです。十人に一人ぐらいに古い結核の影があって、百五十人に一人ぐらいは活動性の結核を持っていると。ですから、七百人ぐらい収容しているとしますと、三、四人の結核患者がいてもおかしくないというのが、その方、専門家のお話なわけですね。ですから、言われたからやるんじゃなくて、やっぱり一定の時を区切る、ないしは入所時にエックス線とか血液を含めたきちっとした検査をするということが必要なんですよ。

 この医師のお話を聞きますと、これはもちろん第一義的に収容者の人権問題でありますけれども、職員の問題でもありますし、それから仮放免後の一般市民への感染という可能性もあるわけですから、そういう検査をしなくちゃいけないと。

 厚生労働省なんかに話しすると、法務省から相談があれば動けるんだが、そういう相談もないというようなことを言われていたということを私は昨年聞いたんですけれども、厚生労働省などとこういう問題について相談をしたことはあるんでしょうか。

政府参考人(三浦正晴君)

 厚生労働省とは医師の派遣等についていろいろ協議はさせていただいておるところでございます。

井上哲士君

 一般的医師の派遣だけではなくて、健康診断という場合は、いろんな職員、技師、それからエックス線の機械がない場合は検診車というようなこともあるわけですけれども、そういうことも含めた体制について相談をしているのかということです。

政府参考人(三浦正晴君)

 失礼いたしました、先ほど若干言葉足らずでございまして。

 委員御指摘のとおりの状況でやっております。

井上哲士君

 これ、先ほど言いましたように、収容者の人権問題であると同時に職員の問題でもあり、仮放免後の一般市民の問題でもあるわけですね。

 去年の十一月にお医者さんやいろんな皆さんと一緒に法務省に申入れに行った際に、法務省の方も感染症については正直言って私たちも怖いと、職員が安心して働けるようにしなくちゃならないと、こういうことも言われているわけですね。ところが、先ほどありましたように、エックス線については何とかしたいと言われましたけれども、西日本にはないし、体制的にも非常に予算上も厳しいという状況があるわけですね。

 これ、ちょっと大臣にお聞きしますけれども、こういうやはり現状を打開をしなくちゃいけないと思うんですが、必要な予算も付ける、他省とも必要な協力も仰ぎながら解決を図るという点で、決意をお願いをしたいと思います。

国務大臣(南野知惠子君)

 退去強制手続の性質上、原則として収容した上でこれを進めている必要がありますけれども、もとより人権、人道に配慮すべきは当然でありますので、収容を行った場合においても、被収容者には保安上支障がない範囲でできる限りの自由というものも持っていただいておりますが、それに加えて、収容中の外国人が病気になった場合、そのときには必要な医療措置をとることができる体制としているわけではありますけれども、今御指摘がありましたこういう状況ではあります。

 また、年齢や健康状態等も配慮しますならば、必要な場合には仮放免ということも弾力的に考える必要など、柔軟に対応していきたいと思っておりますが、今後とも法にのった手続はもちろんのこと、人権と人道に十分配慮するよう努めてまいりたいと思っております。

 また、収容所の医療の充実、これ予算の獲得ということにつきましては、今後とも更に努めていきたいと思っております。

井上哲士君

 是非、これは正に人道問題でありますので、よろしくお願いしたいと思います。

 ただ、幾ら医療を良くしましても、健康悪化の基本的なやっぱり原因というのは長期収容にあるわけですね。最近、難民認定を求める訴訟をしていても仮放免をしないなど、人権に配慮しているとは言えないような運用が、厳しくなったということをこの長期収容が反映していると思うんです。

 例えば、昨年、難民申請をしていた五歳以下の児童二人を含む家族が一か月間成田の収容施設に収容されるという、ちょっと信じられないようなこともあったわけですね。難民認定の訴訟を行っている場合に、逃亡のおそれがないということを前提に、長期の収容とか、母子、家族の分離がないというように、そういう事態を避けるために、退去強制令書が発付されたとしても収容を原則とするというような、こういう運用はやはり改めるべきだと思うんですけれども、この点はいかがでしょうか。

政府参考人(三浦正晴君)

 お答え申し上げます。

 ただいま委員御指摘の件につきましては、個別案件でございますので、詳細なお答えは、申し訳ございませんが、控えさせていただきます。

 一般論で申し上げますと、退去強制手続につきましては、ただいま大臣からもお話ございましたように、身柄を収容して進めるというのが手続になっております。幼児を収容するというケースもあり得るわけでございますけれども、このような場合におきましては、身元引受先を探すなど、できるだけ短期間の収容にとどめるように配慮をいたしますとともに、仮放免を弾力的に運用しておるところでございます。

 今後とも、幼児、児童等の収容につきましては、最大限配慮を持って適切な運用をしてまいりたいというふうに考えております。

井上哲士君

 本当に最大限の配慮がされるように強く求めておきます。

 次に、人権擁護法案にかかわって質問をいたします。

 前回廃案になった法案は、国際水準に達していないということで非常に国際的にも批判の声がありました。今、与党の方で二つの点、メディア規制の凍結と五年後の見直しという修正内容が言われておりますけれども、これは実は、前回廃案になった法案を審議しているその最中にも言われていた中身なわけですね。しかし、当時もそれはもう修正に値しないと。きちっと公権力の、人権侵害などを救済できる、真に独立した機関をつくるように出し直せという声がある中であれが廃案になったわけです。それを過去と同じようなまたごくわずかな修正で出してくるというのは、この参議院、この法務委員会での国会審議を全く無視したものだと私は思うんですが、その点、大臣、いかがでしょうか。

国務大臣(南野知惠子君)

 報道関係の条項につきましては種々の御議論があることは承知しておりますが、法務省といたしましては、与党人権問題等に関する懇話会、そこで、報道関係条項を凍結し、凍結を解除するには別途法律を要するとの方針を決定されたことを踏まえて検討を行っているところでございます。

井上哲士君

 当時も凍結というのがありましたけれども、結局、凍結というのは解除が前提だと、何も変わらないということへの批判があったわけです。

 これまで、最初から法律の一部を凍結をすると、こういう立法例が何かありましたか。

政府参考人(小西秀宣君)

 一定の条項を凍結した例ということでいいますと、私どもで承知しておりますのは平成四年の法律第七十九号、国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律というものが、いわゆるPKFを凍結した例があるということを承知しております。

井上哲士君

 要するに、それぐらいしかないんですね。このときのPKO法の凍結、いわゆるPKF本体業務の凍結というのは、その後、御承知のとおり解除されたわけです。

 ですから、何か与党の議論を報道で見ておりますと、凍結は削除と同じだと、こんな声も出ているということがありましたけれども、あくまでもやっぱり凍結というのは解除の前提にあるわけです。結局、これは保護観察に置くものだという批判もありましたけれども、メディアを行政機関の下に置いて、解除をちらつかせて監視をすると、やはりこういう発想だと思います。

 これはやはり削除をするべきだということを強く申し上げますが、同時に今回、前回の法案もこの報道だけではなくて、国民の言論、表現活動も規制の対象としております。諸外国でいろんなあれありますけれども、行為としての差別的扱いは規制をされますが、こういう言論、表現活動を対象とする例はほとんどありません。先ほどネットでニュースを見ておりますと、今日の自民党の法務部会でも異論が出て了承にならなかったと。その中で、差別の助長や誘発などの定義があいまいだという声も出たということが出ておりました。

 実際この法案では、不当な差別的言動とそれから差別助長行為も制裁を伴う調査や停止勧告、差止め請求訴訟の対象としておりまして、何が差別的かというのは委員会の判断になると、こういう仕組みになっています。これでは広い国民の言論として表現の自由や内心の自由にまで行政が介入をするというおそれがあると思います。もちろん、表現によって他人の人権を侵害していいというものではありません。しかし、これが差別表現だとか差別助長行為だということを行政が判断をして介入をしていくということは、これはやっぱり別物だと思うんですね。

 この問題というのは非常に裁判でも微妙な問題がなっています。一九六九年に、矢田事件といいまして、大阪市教組の支部の役員選挙の際の立候補あいさつ状が差別文書だということで暴力事件になったものがあります。これは、一つは刑事裁判になりました。もう一つは民事裁判になったんです。刑事裁判の方は、この文書が言わば差別文書だと、結果として差別を誘発する文書だと、こういう認定をしました。しかし、民事裁判の方は、そうではないと、こういう認定をしたわけですね。

 ですから、この問題というのは非常に、表現行為というのは送り手と受け手がいますから、送り手の意図や意味したものが受け手がそのとおりに受け取るとは単純に言えませんし、その場の問題もあります。非常に認定は難しいと思うんですね。こういう裁判でも認定が分かれているというこの難しさという問題について、大臣、どうお考えになりますか。

副大臣(滝実君)

 今委員が御指摘の点は、この種の問題としては一番悩ましい問題だろうというふうに思います。それだけに、全くの完全なる司法手続という前に、やっぱりこういう格好で言わば準司法的に、いろいろ話、両者の、訴えた人の話を聞きながら、具体的にどうしたらいいかということも含めてこの人権委員会で扱ってもらうと、こういう趣旨でございますから、言わばこれによって刑罰を科するとか、あるいはもっと補償を求めるとかというよりも前に、そういうような行為を是正してもらうとか、そういうようなことも含めてこの委員会でやってもらうと、こういうふうに考えているわけでございまして、そういう意味では純然たる民事あるいは刑事の手続とは違う機能を持たせたいと。こういうことで、言わばスピーディーな、簡易な救済策と、こういうふうにねらっているわけでございますので、そこのところは今までの手続とはちょっと違うところがあると思います。

井上哲士君

 先ほど言いましたように、具体的行為じゃないんですね、表現ですから。同じことを言っても、その後、本当に、例えば差別助長行為か、差別的言動等か、この判断が難しいから、そこにスピーディーだからといって行政がいった場合にまた新たな逆の人権侵害を巻き起こすことになると。だから、僕は、これについてはやはり厳格な手続における司法というものを中心に少なくとも言論、表現についてはするべきだと思うんです。

 日本は人権、人種差別条約について四条の(a)と(b)、人種的優越又は憎悪に基づくあらゆる思想の流布、人種差別の扇動等については留保しております。なぜ留保したかという外務省の説明がありますけれども、こういう宣伝、思想の流布というのは様々な場面における様々な態様の行為を含む非常に広い概念だと、そのすべてを刑罰法規をもって規制することについては、憲法の保障する集会、結社、表現の自由等を不当に制約することにならないか、文明評論、政治評論等の正当な言論を不当に萎縮させることにならないか、また、これらの概念を刑罰法規の構成要件として用いることについては罪刑法定主義に反することにならないか、極めて慎重に検討する必要があるということで留保をしているわけですね。

 私は、そういうこれまでの政府のことからいいましても、こういうやはり国民の表現の自由という、表現活動についてはこの法案でのこうした規制の対象にするべきではないと、こういうふうに思っております。いずれにしても、一から作り直して、本当に国際水準の人権救済機関として出し直すべきなんだと、小手先の修正で出すことは許されないということを申し上げまして、質問を終わります。


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