2005年3月29日(火)
法務委員会
「裁判所職員定員法の一部を改正する法律案」(質疑・採決)
- 聴覚障害者の裁判に参加する権利を保障するため、リアルタイム速記による字幕表示を要求。
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- 井上哲士君
日本共産党の井上哲士です。
裁判所の職員の中で、速記官の皆さんの問題について質問をいたします。
昨年の質問の際も、今の裁判でも、そして将来の裁判員制度の下でも、速記官の皆さんの技術や意欲を大いに生かすべきだということを求めました。その際に、速記用の反訳ソフト「はやとくん」のインストールを官支給のパソコンにもできるようにするべきだということを求めたんですが、十二月に実現をしたとお聞きをいたしました。その経過について、まず御報告をお願いします。
- 最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)
通称名「はやとくん」と言われております反訳ソフトは、速記官自身が開発したものですので、これを官支給のパソコンにインストールするには、当該ソフトが裁判所内の標準的なシステム環境に影響を与えないということについて検証を行う必要がございましたが、昨年六月にこの検証を実施するということを決定いたしまして、全国の速記官の意見や執務の実情等を踏まえて検証対象とするソフトを特定いたしました上で、十月に検証実施に着手いたしました。
検証の結果、「はやとくん」ソフトが裁判所の標準的なシステム環境に影響を与えない旨の報告書が提出されまして、インストールについて問題がないということが明らかになりましたので、十二月上旬にそのインストールを許可したものでございます。
- 井上哲士君
私、これまでは、この「はやとくん」の有用性について検証すべきだということを質問いたしますと、そういう今おっしゃったようなセキュリティーの問題があるので有用性の検証ができないんだっていう御答弁をいただいてきたんですね。
今の経過でいいますと、セキュリティー等の問題についてのみ検証をしたということになりますと、この有用性っていう問題は、局長は地裁時代にもごらんになっているんだと思いますが、その速さ、正確さっていうことについてはあえて検証するまでもない、有用性が高いと、こういう判断だということでよろしいんでしょうか。
- 最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)
速記官は、この「はやとくん」ソフトを自ら開発いたしまして、それからその改良ということにつきましても様々な努力を重ねておるというところでございますので、その有用性につきましては、速記官が自らがそのような使用形態を取っておるというところから、言わば外から見て観察をして検討しておるということでございますが、その点も踏まえまして今回のインストール許可ということに踏み切ったというわけでございます。
- 井上哲士君
速記官や関係者の皆さん、大変喜んでおられます。昨年の裁判所法の一部改正の際に、当委員会で全会一致で、将来的に不安定な状況に置かれることのないよう十分な配慮をすべきという附帯決議も付けましたけども、そうしたものも生かしていただいたんだと思うんです。
こういう附帯決議に基づく職務環境の整備という点では、必要な研修をしてほしいっていう声も聞くわけですね。今、速記官の皆さんの研修制度というのはどうなっているんでしょうか。
- 最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)
裁判所速記官は、民事裁判や刑事裁判等に立ち会いまして、証人等の供述を録取して速記録を作成するということによって適正迅速な裁判の実現に寄与する職種でございまして、その研修といたしましては、現在、中堅の速記官に対しまして、裁判所が当面する諸問題に関する理解を深め、中堅の速記官としての役割を認識してもらうとともに、速記事務等における執務能力の向上を図るための中堅速記官研修を実施しております。
また、中間管理職の地位にある速記官に対しましては、職務遂行に必要な識見及び管理技法を習得させ、職務意識の高揚と管理能力の向上を図るための中間管理者研修を行っております。
- 井上哲士君
ですから、中堅研修終わりますと、中間管理職にならない限り研修としては終わりということになるようです。お聞きしますと、他の職種については、最近様々な法改正もありますので、その対応も含めて、自庁研修など随分いろんな研修が行われている中で、速記官についてはほとんどないということで、自分たちは言わばこれ以上の向上をする必要がないのかなという思いに駆られるという声もお聞きをいたしました。
是非、これは職員の皆さんの御意見を聞いていただきたいんですが、この「はやとくん」のインストールに当たりまして、これまでDOSV版でやっておられた方がウィンドウズに変えてインストールをする場合など、いろんな難しさもあるようです。特に、地方で一人庁の方などは大変困難もあるということですので、これまでは職員の皆さんが自主的な研修、交流をされてきたわけですけれども、このインストールを機会に、この「はやとくん」にもかかわったような関連の研修を、例えば高裁単位でやるとかいうことも是非必要だと思うんですけれども、その点いかがでしょうか。
- 最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)
「はやとくん」は速記官が自ら開発したソフトでございまして、裁判所当局にはノウハウがございませんので、そのインストールや使い方等に関する研修は行ってきておりませんが、速記官が自主的に勉強会等を行う場合には、裁判所の業務運営に支障がない範囲で、当該裁判所において場所の提供等を行うなどの便宜を供与しておると聞いております。
今後とも、職員及び職員団体の意見を聞きながら、執務環境の整備ということに努めてまいりたいというように思っております。
- 井上哲士君
せっかく、インストールという決断がより一層生きるように是非御検討をお願いしたいと思います。
この間、この速記官制度というのが裁判員制度の下でも大変重要だということを何度か質問をしてきたわけですが、今日はバリアフリーという観点からお聞きをしたいと思います。
司法におけるバリアフリーについて、とりわけ障害を持つ人々が裁判に参加をしていく権利の保障について、どのようにお考えでしょうか。
- 最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)
障害を持つ方の司法参加につきましては、裁判所施設にアクセスできるということがまず基本でございますので、庁舎の新営、増築等に際しまして、いわゆるハートビル法と呼ばれております高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律や、あるいは各地方自治体ごとに制定されております福祉のまちづくり条例等に基づきまして、身体障害者用エレベーターの整備や点字ブロックの敷設等、施設のバリアフリー化を努めておるということでございます。
- 井上哲士君
今専らハードの面での御答弁だったんですが、ソフトの面なんですね。特に聴覚障害者についてお聞きをするんですが、聴覚障害者の方がかかわる裁判で手話が必要な場合というのは、どのように今手当てをされているんでしょうか。
- 最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)
聴覚障害者が裁判を受ける場合の措置につきましては、具体的な事件を担当する裁判体が判断するということになりますが、一般的には訴訟法上定められております手話通訳、それから筆談、これは書面尋問というようなことの規定がありますが、このような方法によることができるというようにされておりまして、各裁判体が事案に応じまして、ただいま御指摘の手話通訳を使う、あるいは筆談を採用するということによりまして適正な訴訟手続を行うように配慮しておるというように認識しております。
- 井上哲士君
民事の場合はこの手話通訳の費用は当事者が持つということになりますから、やっぱりいろんなハードルになっているわけです。しかも、この手話による裁判そのものにいろんな制約というものがあります。
ある学者さんで、この手話通訳の裁判を傍聴したときのお話をお読みしたんですが、黙秘権の告知というのが非常に難しいんだと言われておりました。観念的、抽象的なことを手話で伝えるのは非常に難しいと。人さし指を口に当てて言うなとか答えるなというのは表現できるけれども、言いたくないことは言わないでいいという抽象概念を伝えるのは非常に大きな困難が伴うと。そして、この黙秘権が伝わらなかったら裁判を進められないので、ある刑事裁判ではいつまでたっても裁判が進まなくて、たった六百円を盗んだことで何年も被告人のままの立場で過ごして、そのまま人生を終えた人もいると、こういうお話も聞きました。
また、聴覚障害者の方が裁判を傍聴するということも非常に難しいという問題があります。また、聴覚障害者の方が自分が手話で表現したことが果たして正確に伝わっているのかということも確認できないという困難もあると。
こういう様々な問題というのはどのように認識をされていますか。
- 最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)
そのような御指摘のような聴覚障害を持たれる方を対象とする審理、あるいは、最近数は非常に多くなっておりますが外国の方、特に少数言語の理解しかできないという方の審理ということなどにつきましては裁判体で様々な工夫を考えておるというところでございますが、この手話通訳のほかにどのようなことを考えるかということでございますが、ただいま申し上げましたとおり、各裁判体の判断によって現状ではそれぞれ適正に対応しておるものというように考えておりますが、一般的に、聴覚障害がある者が裁判を受ける場合の裁判への実質的な関与をより一層高めるために様々な観点から検討を要するというように考えておりまして、司法における障害者等に対するバリアフリーという視点につきましては、今後も引き続き検討していかなければならないという認識でございます。
- 井上哲士君
是非、その中でこの速記官の皆さんの技術を活用もして、このリアルタイム速記による字幕表示ということを位置付けていただきたいと思うんです。途中から難聴とかになったり、いわゆる聴覚障害を持った人などは手話が十分にできない方がいらっしゃいます。そういう人たちも文字なら理解できると。逆になかなか文字の理解が乏しい方もいらっしゃいますから、それぞれの条件はあろうかと思うんです。最も有効な方法を選べるようにするべきだと思います。これは聴覚障害の皆さんが、傍聴も含めた司法参加にとっても非常に大事だと思います。
一九九九年に、東京地裁の八王子支部が、障害者が、聴覚障害者がひき逃げされ死亡した事件の公判で、傍聴席の同じ障害持つ人たちにパソコン通訳を認めたという例を新聞で見ました。当時の記事を読みますと、被害者の聴覚障害を理由に裁判が不利に進められないように、遺族らでつくる支援する会が傍聴に手話とパソコンを使った通訳の許可を求めた。通訳者が打ち込むと、画面に約一・四センチ四方の大きな字を表示。被告が起訴事実を認め、遺族が証言すると、キーをたたく音とともに法廷内にすすり泣きが響いたと、こういう記事が出ておりました。普通の人なら当たり前にできることが、こういう手だてがないと傍聴もできないという事実があるわけですけれども、私は、このとき法廷内にすすり泣きが響いたということですが、そういう裁判のいろんな困難のためにあきらめる方もいらっしゃると。法廷外ですすり泣きをされている方も随分いらっしゃると思うんですね。
そういう方にとって、私は、このリアルタイム速記による字幕表示というのは大変大きな意味を持つわけでありまして、そのための技術や能力も今随分あるわけですから、是非これは前向きに活用していただきたい、検討いただきたいと思うんですけども、改めていかがでしょうか。
- 最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)
ただいま御指摘のような様々な事態に対処するために、各裁判体ではいろいろ工夫もし、検討もしておりまして、また、当事者双方とも相談をして、どのような方法が最も適切かということについての意見を伺うというようなこともやっておるわけでございます。
私ども司法行政の任に当たる者といたしましても、そのような裁判体の意見なども聞きながら、今後も引き続き検討していくという所存でございます。
- 井上哲士君
終わります。
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