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2005年4月26日(火)

法務委員会
「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律案」(質疑)

  • 法案の基本理念と行刑改革会議の提言で示された受刑者に人間としての誇りを取り戻させ、自発的に更生と社会復帰の意欲をもつような処遇改善こそ再犯防止につながるという改革の理念が一致しているか質問。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 最初に、この行刑改革の理念についてお聞きをいたします。

 衆議院での議事録などを読んでおりますと、受刑者への人権の配慮が再犯を増やして治安悪化に結び付くかのような議論が、一部ではありますけれども、ありました。

 そこで、まず大臣にお聞きをするんですが、こういう受刑者への人権の配慮が治安悪化に結び付くというような議論について、大臣はどういう認識でいらっしゃるでしょうか。

国務大臣(南野知惠子君)

 法案におきましては、書籍などの閲覧又は宗教上の行為、面会及び信書の発受など、受刑者に権利として保障されている行為を明らかにするということが必要であると思いますが、それとともに、受刑者の刑事施設における生活に関しまして物品の給与と医療等に関する規定を設けておりますけれども、これは、受刑者としての地位に照らしながら、やはり保障されるべき権利等の範囲を明らかにしたものであろうかと思います。殊更に良い待遇を行うこととするものではありません。こうした人権への配慮が治安悪化につながるとは認識しておりません。

 むしろ、この法案は、刑務作業、改善指導、教科指導の矯正処遇を行うことといたしまして、受刑者にはこれを受けることを義務付けていこうと思っております。これらの処遇を通じまして受刑者の改善更生及び社会復帰を促進することにより、国民が安心して暮らせる安全な社会の再生に寄与するもの、まあ私の言葉で言えば、すてきな人生を再度リボーンするというようなところに矯正という問題を持っていきたいと思っております。

井上哲士君

 行刑改革会議の提言は、刑務所がつらいところであればあるほど受刑者が二度と帰りたくないということで再犯防止につながるなんという考え方ではおよそないわけですね。大変共感を呼んで読んだくだりがあるんですが、提言の中で、真の意味で、罪を犯した者を改善更生させ、円滑な社会復帰を果たさせるためには、それぞれの受刑者が、単に刑務所に戻りたくないという思いから罪を犯すことを思いとどまるのではなく、人間としての誇りや自信を取り戻し、自発的、自律的に改善更生及び社会復帰の意欲を持つことが大切だと、こうした上で、こういう処遇をしてこそ、職員に自らの職務への本来の使命感と充実感を与えるんだと、こういうくだりがあって、私は大変共感を持って読んだんですが、この方向というのがこの法案の基本的な理念だということで、大臣、確認してよろしいでしょうか。

国務大臣(南野知惠子君)

 そのような意味では、法案は御指摘の提言に沿うものであると考えております。

 この法案におきましては、受刑者処遇の原則として、その者の資質及び環境に応じまして、その自覚に訴え、また改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図るということを旨といたしております。

 こうした法案の定める処遇は、受刑者に人間としての誇りや自信を取り戻される処遇にほかならないと考えております。

井上哲士君

 そうしますと、この法案の題名なんですが、現行の監獄法は非常に監獄内の保安と秩序に重点を置いた施設管理法だという批判がありました。それを新しい理念の下での転換を図るというわけですが、どうも法案の名前は刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律案ということで、施設管理法的な側面が強いなと私は思うんですが、例えば、法案の名前も受刑者の処遇等に関する法律案とするべきだったと思うんですが、いかがでしょうか。

政府参考人(横田尤孝君)

 お答えいたします。

 御指摘のとおり、法案は受刑者の人権を尊重しつつ、受刑者を真の意味で改善させ社会復帰させるための処遇の方法を定めておりますが、他方で、刑事施設視察委員会や実地監査に関する規定など、言わば処遇の前提となる刑事施設の基本及びその管理運営に関する事項についても種々の規定を置いているところでございます。そのため、法案の名称は刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律としたものでございまして、もとより、このことは何ら受刑者の処遇に関する規定の意義を軽視したりするものではございません。

井上哲士君

 より行刑改革の理念を生かすためには順番を逆にしてもよかったんではないかという気もいたしますけれども。

 更に聞きますが、名古屋刑務所事件などが大きな問題になったときに、この行刑運営の実情に関する中間報告が平成十五年三月三十一日に出されました。この時点では、いわゆる処遇の中でも担当制の問題というのをかなり強く指摘をしておりまして、担当制による処遇の限界だと、こういう指摘までされておりました。ところが、行刑改革会議の提言などを読んでおりますと、かなりこの点ではトーンダウンをしたと思うんですが、法案でも特段の規定はされておらぬわけですけれども、この担当制の見直しを中心としたこの処遇の改善ということはどのように考えられているんでしょうか。

政府参考人(横田尤孝君)

 お答え申し上げます。

 いわゆる担当制とは、各工場を担当する職員が受け持つ受刑者を個別指導しながら集団を管理する処遇体制でございまして、これにつきましては、受刑者の心情を把握し、個別的な相談を実施するなどして、職員と受刑者との人間関係を基盤とした処遇を可能とする一方、担当職員の裁量が大きく、恣意的に運用されるおそれがあるなどの問題がございまして、当局といたしましても、その弊害を防ぐための措置を講じる必要があるというふうに認識しております。

 そのため、各種協議会等におきまして、担当職員に任せきりにするのではなく、組織として担当職員をバックアップする体制を整えるよう指導しておりますほか、行刑施設の心理技官を増配置いたしまして積極的に処遇に関与させることにより、担当職員をサポートさせたり、受刑者の心情安定や所内生活適応上の問題解決を目的とした民間カウンセラーの導入を図ったり、あるいは担当職員を複数配置するなどの対応を進めるなどしてその弊害の防止に努めているところでございます。

井上哲士君

 提言などを読んでおりますと、過剰収容の下では機能しなくなったというような表現があるわけですけれども、そうしますと、過剰収容が解消されればまた担当制に戻るのかと、こんな感じもするわけですが、そういうことではない、根本的な問題だとしてこれは組織的な対応を今後していくと、こういう理解でよろしいんでしょうか。

政府参考人(横田尤孝君)

 おっしゃるとおりでございまして、ただ、もう一方言いますと、その過剰収容が将来的に緩和あるいは解消されましたときに担当制がなくなるかということにつきましては、現時点ではそのようなことは申し上げているわけではございませんで、やはり担当制そのもののやっぱり弊害ということもある一方で、これ委員も御指摘のように、行刑改革提言でもその有用性というものにつきましても評価があるわけでございますので、その弊害を防ぎ、そしてその良さを生かす方法、これは過剰収容であろうとそれからなかろうと、これについてはやっぱりずっと私どもは検討しながら実践していかなければならないというふうに考えております。

井上哲士君

 次に、この施設管理法としての側面が表れるのが面会、信書、書籍閲覧などの権利制約の要件の部分だと思うんですが、例えば四十七条などは、刑事施設の長が禁止をすることができる要件として、「刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあるとき。」、「矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがあるとき。」と、こういうふうにしておりますけれども、非常に広い範囲だと思うんですね。

 この点では、最高裁が昭和五十八年六月二十二日に判決で判示をしておりますけれども、監獄の規律及び秩序の維持上放置することができない程度の障害を生ずる相当の蓋然性があると認められる場合と、こうしているわけですが、この要件とこの規定は同じだと考えてよろしいんでしょうか。

政府参考人(横田尤孝君)

 お答えいたします。

 法案におきまして、受刑者の面会及び信書の発受を制約する要件として、刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあることを規定しておりますのは、受刑者が安全で秩序ある共同生活と適切な処遇環境を確保するために刑事施設の規則及び秩序が適正に維持されることが必要であるということによるものでございます。

 御指摘の判例でございますが、これは未決拘禁者の新聞記事等の閲読の自由の制限に関するものでございまして、受刑者の面会及び信書の発受の制限の要件について直ちに妥当するものとも考えられませんが、いずれにいたしましても、この法案における面会及び信書の発受を制約する要件に該当するためには、刑事施設の長において、単に抽象的な懸念を抱いているという程度では足りず、個々のケースの事情に即して、合理的な根拠をもっておそれがあると認められなければならない上、法案では、規律、秩序を維持するためとる措置は、「被収容者の収容を確保し、並びにその処遇のための適切な環境及びその安全かつ平穏な共同生活を維持するため必要な限度を超えてはならない。」とする比例原則を明記しておりまして、制約が必要な限度を超えて行われないよう配慮しているところでございます。過度に受刑者の権利を制約することはないものと考えております。

井上哲士君

 そうすれば、例えばおそれがある場合ではなくて、例えばおそれが明らかな場合とか、より制限的な規定にするべきではないかと思うんですが、この点いかがでしょうか。

政府参考人(横田尤孝君)

 ただいま申し上げましたように、この現行の規定でこれはもうはっきりと必要な限度を超えてはならないとなっているわけでございますので、これによって支障が生ずることはないというふうに私どもは考えております。

井上哲士君

 この規定で刑事施設の長による恣意的な運用がなされないようにするという必要があると思うんですが、そのためには、例えば権利制約をした場合に、その理由を記載した書面などを受刑者に交付すると、こういうことも必要かと思うんですけれども、この点はいかがでしょうか。

政府参考人(横田尤孝君)

 お答えいたします。

 受刑者の面会及び信書の発受につきましては、この法案による不服申立てをすることができることとされております。受刑者が不服申立てをする機会を奪うことにならないよう、受刑者に対し面会又は信書の発受を制限した旨を告知することを予定しております。

 しかしながら、そのような制限をした理由につきましては、例えば制限した面会又は信書の発受の相手方等が判明してしまうと矯正処遇の適切な実施に支障を生ずる場合など、これを告知することが適当でない場合もありまして、その可否及び方法につきましては個々の事情に即して適切に対応することになるというふうに考えております。

 なお、受刑者に理由を告知しなくても制限をした旨を告知する以上、受刑者としては不服申立てをすることができ、そのような不服申立てがされた場合には、矯正管区の長又は法務大臣において、刑事施設が保管している制限の理由に関する記録を含めて職権で調査を実施することになるわけでありまして、信書の発受等の制限について濫用されないようチェックすることが可能であると考えております。

井上哲士君

 その点でいいますと、新しくつくられる刑事施設視察委員会の役割は非常に大事だと思うんですが、例えば、こういう権利制約をした場合の理由の書類であるとか、それから不服審査をした中身であるとか、また場合によってはプライバシーに配慮する形でのカルテであるとか、こういうものはこの新しくつくられる視察委員会が見ることはできるんでしょうか。

政府参考人(横田尤孝君)

 お答えします。

 刑事施設視察委員会は、刑事施設の全般的な運営に関して、その実情を的確に把握した上で国民の常識を反映した意見を述べていただく仕組みでございまして、個別具体的な被収容者の権利の救済を図るためのものではないことから、基本的には、ある特定の被収容者がどのような不服申立てをしたかとか、どのような医療措置を受けたかなどの情報を委員会に提供することは想定しておりません。

 しかし、例えば、不服申立てを受けた法務大臣において、刑事施設の長のどのような処分について取消しの判断をしたかを把握するための情報や、刑事施設で一般的にどのような医療措置がとられているのかを把握するために必要なカルテの情報につきましては、刑事施設視察委員会が刑事施設の運営について意見を述べるために必要な情報である場合もあり、このような場合には、刑事施設の長は委員会の求めに応じて必要な範囲と方法で情報を提供することとなると考えております。

井上哲士君

 時間ですので終わりますが、この問題、引き続き質問をさせていただきます。

 終わります。


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