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2005年5月19日(木)

法務委員会
「会社法案」(第1回目質疑)

  • コクド・西武鉄道の商法違反事件やカネボウの粉飾決算など企業の不祥事が続くもとで、「その暴走をチェック・規制し、株主や労働者の権利を守る仕組みをつくることこそが必要」と主張。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 今回の法改正は九〇年代後半以降の連続した商法改正の流れに沿ったものであります。私も、二〇〇一年以降、当委員会で随分商法の質問をする機会がありました。ただ、この一連の商法改正には、法制審の委員でもあるような有力な商法学者からも、この間の商法改正の作業は明確な全体像に基づいておらず、継ぎはぎだらけのパッチワークだと、いろんな改正の効果や弊害の検討が必要だという指摘もされておりました。

 そこで、まず、こうした九〇年代後半以降のこの間の商法改正について幾つかお聞きをしておきたいんですが、まず大臣にお聞きをいたします。

 今朝からもいろいろありましたけれども、あの尼崎のJRの脱線事故、百名を超える方々の命がなくなりました。具体的な事故原因は今後様々究明をされていくわけでありますが、その背景には、利益優先で安全が二の次であるとか、説明責任の欠如であるとか、ステークホルダーによってチェックの仕組みが働いていないとか、いろんな企業体質が今指摘をされております。私は、会社法の中にこういう、この間の事故で指摘されたような体質に企業は陥らないと、こういうことをしっかり定めていく、そういう内容が必要だと思っているんですが、その点、いかがお考えでしょうか。

国務大臣(南野知惠子君)

 先生御指摘されるように、JRの尼崎の事故は本当に新しい情報を提供されるたびに大変だなというふうに思っておりますし、お亡くなりになった百七名、またその御家族に対してはいまだにまだ心がいえていないだろうと、本当に御冥福を祈るだけであると。さらにまた、この前も申し上げましたけれども、PTSDの問題点もこれから発生してくるというふうに思っております。そこら辺もしっかり他省庁とも関連しながらしっかりしていかなきゃならないということを思っておりますが、議員御指摘のように、会社には従業員ばかりでなく、取引先、顧客など、様々な外部の方々がステークホルダーとして考えられます。これらの方々の存在を大切にしていくことが会社にとって忘れてはならない経営上の要素であると思います。

 そのことが会社を経営していく上で自覚されるようにするためには、会社が、規模の大小などによる差はあれ、社会に開かれた存在でなければならない。公告、定款などの閲覧、それから会計帳簿の閲覧命令などを通じて会社の経営に関する情報が明らかにされるという仕組みは、その意味で非常に重要であると思います。

 また、議員御指摘のとおり、会社がその利益の追求を優先する余り、法令遵守をないがしろにしてステークホルダーに損害を与えることもあってはならないことであろうかと思っております。

 会社法案では、このような企業のコンプライアンス確保を目的として、すべての大会社に取締役の職務の執行が法令や定款に適合することなど、会社の業務の適正を確保するための体制の構築を新たに義務付けるなどの措置を講じております。

 さらに、会社の取締役などが第三者に損害を与えたときは損害賠償の責任を負うこととしておりますなど、会社経営における不正が外部からただされる仕組みも経営に緊張感を与えるものとして重要であるとも思われます。

 このように、会社法は、会社経営において会社の内部関係者の利害を考えるだけでは十分でないとする仕組みを多数用意しておりますけれども、今後とも様々な立場のステークホルダーの存在を考慮し、適切な法制度の在り方につき検討を怠らないようにしてまいりたいと考えております。

井上哲士君

 この点は三年前の改正のときにも随分議論をいたしました。

 当時、狭い株主利益の追求だけではなくて、ステークホルダーによって企業の暴走等をチェックし、企業の社会的責任を果たさせる仕組みが必要ではないか、こう指摘しますと、当時の大臣は、継続的に安定した経営を行っていくためにはこれらの利害関係者の利益を考慮することは当然だとした上で、委員会等設置会社の仕組みが業務執行者の権限を濫用して暴走することがないようにということでつくられていると、こういうふうに答弁をされました。

 この委員会等設置会社の仕組みが果たしてそういう効力を発揮をしているかどうかは別として、そもそもその後非上場も含めまして百四社しか導入をしていないというふうにお聞きをしております。

 そして、最近、JRだけではなくて、コクド、西武の事件、カネボウの粉飾決算、それからUFJ銀行の検査忌避など、企業不祥事というのはむしろ悪化をしているんじゃないかというふうに思うわけですが、この間のこうした一連の改正の中ではこういうチェックの仕組みづくりが不十分であったと、こういうふうに指摘をしたいと思うんですが、その辺いかがでしょうか。

国務大臣(南野知惠子君)

 確かに、企業の不祥事がマスコミに取り上げられることも多く、このような会社では会社の業務執行者による権限の濫用が行われていたことが少なからずあったものと思われます。しかし、大部分の企業では業務執行者が適切にその権限を行使しているのも事実でございます。

 現行法の権限濫用を防止するための措置が必ずしもうまく働いていないというわけでもないと考えておりますが、もっとも、業務執行者の権限濫用を防止することは会社法制の永遠のテーマであろうかと思いますから、今回の会社法案でも大会社に内部の統制システムを整えることを義務付けたり代表訴訟制度を改善するなど、企業における業務執行者の権限濫用の防止措置を強化しております。

井上哲士君

 これは正に、今永遠のテーマということが言われましたけれども、一九七四年にこの商法改正が行われた際にも、こうした企業利益優先ではなくて、しっかり様々な関係者の利益を守るような仕組みが会社法の中に必要だということが指摘をされてきたわけでありますけれども、依然としてずっとこの問題が解決をされていないという事態があります。

 もう一点お聞きしておきますけれども、ストックオプションの問題であります。

 これは九七年に議員立法で導入をされました。当時、二百二十五人の商法学者が「開かれた商法改正手続を求める商法学者声明」を出すほど、様々な議論を押し切って導入をされ、その後一層の緩和が、規制緩和がされました。

 ところが、この二〇〇二年の改正を前後しまして、このストックオプションが大流行だったアメリカでは、このオプションの行使価格よりも株価が下がってしまうという事態、これで非常に従業員に与えるマイナスの影響も起きました。さらに、エンロン事件などに見られるような、株価を高めるための粉飾決算へのインセンティブに逆になっているじゃないかとか、それからインサイダー取引の温床になっているじゃないかとか、さらには会計の観点から利益を不当に小さく見せる、こういう問題等が次々と指摘をされまして、見直しが進みました。マイクロソフトなど、廃止をする会社も相次ぎました。

 当時、いろんな当時の質疑などを見ておりますと、例えば自民党の提案者からは、このオプションが会社、企業の業績に大きなインセンティブを与える道具でございますであるとか、大きな力を起爆薬みたいに発揮しまして、アメリカの産業を蘇生させるというか活性化をさせるというか、その大きな力になったものだということで、言わば天まで持ち上げるようなことも言われておりました。

 その後、導入された後いろんな規制緩和もされたわけですけれども、当時提案で言われたような効果をその後発揮をしたと、こういう評価をされているんでしょうか。

政府参考人(寺田逸郎君)

 これは、おっしゃるとおり、議員立法でそもそも導入された制度でございます。

 一般的に申し上げますと、そのオプションを与えられる者にインセンティブを与えるということで、法律的に言うと新株予約権の有利発行ということで今の法制上は整理をされると、こういうものでございます。権利者の側から言いますと、株価が高くなればなるほど相対的には有利な株式の手に入り方がされるということになりますので、そういう意味で会社の業績を向上させて株価を上昇させようというインセンティブが働くと、こういう一般的な考え方の下にこのようなものが用いられてきていると。これは日米を問わずそうであろうと私どもも理解をいたしております。

 平成十六年度における調査、民間の調査でございますが、調査によると、上場会社の約四割でこの制度が用いられているなど、制度の利用そのものは非常に広がっているところでおりまして、ストックオプション制度そのものについては一定の効果は発揮されているというような評価が会社の関係者の間ではあろうというように私どもも理解をいたしております。

井上哲士君

 日本でも、オプションの価格よりも、行使価格よりも株価が下がるなど、いろんなことでマスコミ等でも様々批判もされ、問題点が指摘をされている問題だと思うんですね。

 この導入の際に、インサイダー取引など市場ルールと違反が横行する可能性ということも随分懸念をされました。また、委員会等設置会社を導入をする際にも、ディスクロージャーの強化など前提となる制度の充実を図らないままにアメリカ型の企業統治機構を導入するということは政策的な整合性を欠くんじゃないかということも質問をいたしましたけれども、当時のやはり大臣は、近年、証券取引の活性化に伴い適切な法整備が行われて、諸外国と比べて遜色のない体制が整備をされていると、こういう答えでありました。

 しかし、この点でも、最近明らかになった例えばコクド、西武の長年にわたる問題をチェックすることができなかったということもあったわけで、アメリカSEC並みの遜色ない体制でチェックしているから大丈夫だということとは違う事態になっていると思うんですけれども、この点、大臣、いかがでしょうか。

国務大臣(南野知惠子君)

 インサイダーの取引等に関しましては、証券市場を規律する法制度などによりまして適正なチェックが行われているものと承知しているわけでございますが、しかしながら、現実にコクド、西武のような事件が起こってしまったということにつきましては、とても残念なことだなと思っております。

 今後、これらの事件での教訓を踏まえながら、必要に応じて適切な処置がなされることを期待いたしております。

井上哲士君

 当時も、アメリカ型の都合のいいところだけつまみ食いをして、その背景にあるこうしたディスクロージャーとか監視制度の充実を図らないのは整合性を欠くということを申し上げたわけですが、そのアメリカですらその後様々な問題が起きておりまして、アメリカの会計制度もこれは世界標準ではなかったということが随分言われてきているわけでありますから、私は改めて、冒頭にも言いましたように、こうしたこの間の商法改正の効果、そして弊害ということは更に真剣に検討されるべきではないかということを指摘をしておきます。

 その上で、まず企業結合法制についてお聞きをいたします。

 この間、企業分割法制など企業グループが柔軟に組織再編行為を行う法整備が進められてまいりました。そこで置き去りにされてきたのがこの企業結合法制であります。今日、午前中にもいろいろ質疑があったわけですけれども、今回も組織再編行為を更に容易にする改正が含まれておりますけれども、結局、企業結合法制は置き去りにされております。株主の側からの問題もある。労働者、債権者側からの問題など、実際に様々な弊害が現に現われてきていると思いますし、既にかなり前からこの問題の必要性というのが指摘をされていたにもかかわらず、なぜ今回これだけの全面的改正をしたにもかかわらずこの問題が先送りをされたのか。この企業結合法制の必要性、重要性、どう認識されているのか、まずお聞きをいたします。

政府参考人(寺田逸郎君)

 最近、企業グループの形成というのが非常に進展してきていること、それについて企業結合法制の整備の必要性を唱えることがあるということは午前中の質疑でも申し上げましたけれども、私どもも十分に認識をしているところでございます。殊に、最近は国際的な再編あるいは一〇〇%の子会社化というようなことが非常に経営上有利だという御判断もおありになるところがありまして、ますますこういう意味での企業結合のいろんな在り方というのが追求されてきているんだろうというふうに思っております。

 ただ、この企業結合に対してどう法制的に特別の制度を予定するかということは大変に難しい問題で、各国も対応が様々でございます。一般的に企業結合法制としてどういう対応をするかといいますと、親会社の支配下にある子会社が、その子会社の株主、債権者等の利害関係者よりも、支配者である親会社の株主その他の者に対してどういう利益をもたらすように考えて行動するかということについての様々な考え得る措置ということで、どういうことがあり得るかということでございます。

 これを国際的にどう解決するかは、例えばドイツのように、契約関係で支配会社と被支配会社の間の利害調整を行ってしまうというようなところもございますけれども、それが必ずしも国際的に一般的ではございません。必ずしも何が今国際的に有力な考え方だということも一義的に明らかではないわけでございます。

 法制審議会の中でも、この企業結合法制について議論する必要がある、検討する必要があるという声はないわけではございませんでしたけれども、なかなか難しい問題だということでむしろ認識が一致したわけでありまして、親会社の利益というものを子会社にどう反映させていくかということ、逆に、子会社の取締役が親会社に対してどういう責任を直接負うか、この間のメカニズムというのを整合性を持って検討するというのは非常にこれまでの会社単位で考えてきた会社法制の中にあっては難しい問題でございます。

 問題自体として全然意識しないわけではございませんので、今後も重要な課題として検討はしていくつもりでございますけれども、まず、どのようなことが実務上本当に問題になり得るかということをよく見定めていかなければなりません。その点がまだなかなか固まった状態ではないという状況にある。その下で、今回、改正法案の中に入れ込んでしまうというのが難しかったという御事情は御理解をいただきたいところでございます。

井上哲士君

 国際的にこれが標準だというものがないというお話はありました。今の答弁でいいましても、今後それが一つのものにまとまっていくということではないんだろうと思うんですね。そうしますと、日本のこの実態に合わせたものというのをどうしていくかということをやっぱり考える必要があると思うんです。

 幾つか例を挙げられましたけれども、実際日本も既にいわゆる連結決算というのをやっておりまして、税制等の面では企業グループとして扱っているわけですね。そういうような企業グループという有機的な結合体として見る連結納税制度を導入しているアメリカにしてもヨーロッパにしても、大体、企業統治の観点から、親会社の株主権の保護とか従属子会社の少数株主と債権者保護のために何らかの、いろいろ違いはあると思いますが、何らかの制度はあると思うんですね。

 日本のように、こういう連結納税制度を一方で導入しながら、こういう結合法制を持っていないというのが主要な国の中でどこかあるんでしょうか。

政府参考人(寺田逸郎君)

 むしろ、アメリカ、ドイツは進んでいるというように今御説明されたんだろうと思いますけれども、ヨーロッパでもそれほど多くの国がはっきりした形での企業結合法制を持っているとは私どもは理解をいたしておりません。

 我が国においても、実は、親会社の株主が子会社の中の計算関係についてどういう実情であるかということを調査することは、裁判所の許可等一定の条件はございますけれども、全くできないわけではない。その限度では、それを企業結合法制と胸を張るつもりはもちろんございませんけれども、意識してないわけではないわけでございます。

 ただ、おっしゃるような、株主がそれ以上直接的な権限行使を子会社に対して行うかどうかについては、なお十分に慎重な検討を要するというのが私どもの今の立場でございます。

井上哲士君

 そちらは非常に慎重な検討と言いつつ、実際上でいいますと、様々な新しい企業支配や再編の法整備はどんどん先に進んでいっているという現状があるわけですね。やはり、新しい企業支配の手段というものができれば、それに合わせた株主や債権者保護の仕組みというのを私は一体でつくるべきだと思うんですね。

 アメリカの場合も、十九世紀の後半には持ち株会社が企業支配の手段として登場し、大体もうその同時期に支配的親会社株主による子会社取締役に対する多重的代表訴訟を認める判決が出て、判例法上確立された制度として認められてきたという歴史があるとお聞きをしておりまして、日本のようにどんどんどんどんこの企業再編の方向だけが先に進んで、この点でやっぱり法整備が遅れているというのは、私はこれは至急に整備をする必要があると思うんです。

 具体的に、例えば九七年の独禁法の改正による持ち株会社の解禁によりまして、NTTなど大企業が株式交換によって純粋持ち株会社を設立して、持ち株会社一人しか株主を有しないという会社が随分生まれております。例えば、最近では上場会社のUFJホールディングスの子会社であるUFJ銀行の検査忌避が刑事事件となったわけですが、現行法ではこのUFJホールディングスの株主はUFJ銀行の取締役の違法行為の追及は直接追及をできないということになっているわけで、これ自体は非常に不合理だという認識は法務省としてはお持ちなんでしょうか。

政府参考人(寺田逸郎君)

 個別の案件について直接コメントするということは避けたいと思いますが、今のような親会社の株主が子会社の取締役の違法行為に対してどういう責任の追及をすることができるかといいますと、もちろんオーソドックスには親会社そのものが株主でございますので、その親会社を動かしてその子会社の取締役の責任を追及するということになるわけでございますけれども、しかし、それが親会社そのものは動かないということで非現実的であるということであれば、その取締役の違法行為によって株価が下がってしまうというようなことがございまして、現実に経済的な損害が出れば、それは取締役の第三者責任というような形で責任を追及することも全くできないわけではないわけでございますので、そういう意味で、私どもの今の会社法制が今の企業結合の現実に全く対応できないということではないんだろうというふうに思います。

 おっしゃるとおり、多段階株主訴訟のようなものができれば、それは株主にとっては非常に便利な面が出てまいるわけでございますけれども、反面、どこまでその親会社の株主が子会社の経営そのものに直接影響を与えるような訴訟を起こしてくるか分からないわけでございますので、そういった逆の面での作用というのを総合的に見てそれの選択を判断していかなきゃならないわけでございます。そういうものについて、導入された場合に、一体子会社の取締役というのはだれを見て経営をするのかというような問題にも波及するわけでございますので、なかなか率直に申し上げまして難しい問題であるというように考えております。

井上哲士君

 親会社の株主、親会社の取締役に対しての代表訴訟の提起という方法もあるというお話ですが、子会社取締役の違法行為を証明するだけでも非常に負担なわけですけれども、それに対して訴訟提起を行わないことの違法性とかそのことに発生する損害の立証など大変なやっぱり負担ということになるわけで、なかなか実効性は私はないと思います。やはり、統一的な、グループとして一体しているという実態に合わせたこの点での制度を考えるべきだと思います。

 もう一つ、労働者の問題について厚労省にも来ていただいていますので聞きますけれども、企業分割法制が導入をされまして、企業分割が非常に活用されておりますが、それに伴って労働者保護でいろんな問題が生じております。

 典型的な例を一つ挙げますけれども、二〇〇二年に行われましたIBMのハードディスク事業の売却をめぐる問題というのがございます。これハードディスク事業部を新設、分割をして、分割をしてもう五日後には日立製作所に会社譲渡をしてしまったと、こういうケースなわけですね。この問題では、分割時ではなくて分割後の労働条件を交渉できるかどうかというのが大変問題になりました。

 IBMの方は、分割した後の労働条件の変更は新しい経営者の問題だということで交渉に応じないと。それから日立の方は、もう既に事業売却の契約は行われていて労使関係が将来近々に発生するというのはもう明白であるにもかかわらず、まだ労使関係は成立してないから団体交渉には応じないということになりました。

 労働契約承継法では、分割時の同一労働条件での労働契約の包括承継は定められておりますけれども、その後については定められておりません。こういうIBMのケースのように、もうごく短期間に分割に隣接して会社譲渡されるということであれば、本来ならその譲渡後の条件についても交渉することが必要だったと思うんですけれども、これを拒否をすると。そうなりますと、分割法上の協議は義務付けられておりますけれども、その場で労働組合としての意見表明をしようにも、その先の労働条件が分からないわけですから、意見表明をできないという事態も生まれたわけですし、そもそも労働者は大変な不利益を被ることになる。私はこの点は改善が図られるべきだと思うんですけれども、その点いかがでしょうか。

政府参考人(太田俊明君)

 お答え申し上げます。

 個別具体的なことはちょっとコメントを差し控えますが、一般的なお話として申し上げたいと思いますけれども、まず、一般に会社の株主の場合ですと、これは当該会社の労働者との間に雇用関係はないということで、これは例えば団体交渉とか、そういう応諾義務の負うような使用者には該当しないということがございます。

 それから、株式譲渡の場合のその譲渡先と労働者の関係ということでございますけれども、株式譲渡の場合には、これは会社の株主が変わるということでございますので、それによって直ちに労働条件が変わるということではございませんので、その分割前に譲り受けた会社と団体交渉を行うことができなくても、それ自体が労働者に不利益になるのではないというふうに考えているところでございます。

 当然ながら、今お話ございましたように、株式譲渡後において、新設会社なりその会社で労働条件を変更するという場合には、その当該新設会社なりその会社で団体交渉を行って労働条件を決めていくと、これがルールになっているところでございますので、こういう形で整理されるのではないかというふうに考えているところでございます。

井上哲士君

 それぞれが別々に行われたんではないんですね。分割があって、五日後に譲渡がある、実際、一体としてこれが行われているんです。ですから、さっきも言いましたように、譲渡の際の意見表明をしようと思っても実際の労働条件というのは、失礼しました、分割の際の意見表明をしようと思っても、実際の問題は譲渡後になる。ですから、言わば私はこれは法律の、まあ脱法的なやり方を会社側がやってきているというときに、これやっぱり労働者保護をするという仕組みがないということがこういう問題を生んでいると思うんですね。

 企業分割、合併と経済的には同等の効果をもたらすとされる営業譲渡とか会社譲渡ですけれども、この譲渡時の雇用契約の承継については何の保護もないという状況になっております。

 今回の法案で簡易再編行為の要件は非常に緩和をされます。これは企業分割、合併と営業譲渡、企業譲渡というのは経済的には同一性があると、そうであれば手続も同一にしようと、こういう考えで会社法案自身はなっているわけですね。そうであれば、分割、合併と営業譲渡、会社譲渡、これは経済的同一性があるということであれば、労働者保護も同一性を持たすべきだと思うんですけれども、そういう方向に踏み込むべきじゃないでしょうか。いかがでしょうか。

政府参考人(太田俊明君)

 経済的な取引の問題と労働者保護との関係でございますけれども、営業譲渡において、分割及び合併と同様に、同様に労働契約についても当然承継したらどうかというようなお考えではないかと思いますけれども、この点につきましては、一つは、営業譲渡における権利義務の承継の法的性格がこれは包括承継ではなく特定承継であるということでございますので、そういう性格を持っているということ。それからもう一つは、営業譲渡契約の成立に重大な支障を及ぼし、かつ消費者の裁量の自由とか営業譲渡後の企業活動にも大きな制約になると。こういうことを総合勘案すると、現時点では適当ではないんではないかと考えているところでございます。

 ただ、当然ながら、営業譲渡の場合には、労働者を承継しようとする場合には譲渡会社と譲受け会社との間の合意を必要とするとか、あるいは民法第六百二十五条によって労働者本人の同意が必要であるということで、労働者の権利は守られているのではないかというふうに考えているところでございます。

井上哲士君

 実態としては守られていない状況があるわけです。

 今のお話は、譲渡をしたり受けたりするやっぱり会社の側からの見方だと思うんですね。現実に労働者が様々なやっぱり不利益を被っているという実態に合わせて、どんどんどんどんこういう企業再編について法改正で要件を緩和していくんなら、それにふさわしい保護というのをやっぱり厚労省としては考えていただかないと私はまずいと思うんですね。

 もう一点、NTTの子会社再編の過程で問題になりました企業グループの再編行為についてお聞きをしますが、この再編行為で、東西会社はそのものについては当事者能力はないと、一方、当事者能力のある持ち株会社の方は交渉に応じないと、こういう態度でありました。労働者は、自らの労働条件を実質的に交渉したいと思いますと、この再編を決めた持ち株会社と交渉せざるを得ないわけでありまして、こういう純粋持ち株会社も含めて支配親会社との交渉権というものを子会社労働者に認めるべきだと思うんですけれども、この点はいかがでしょうか。

政府参考人(太田俊明君)

 今の御指摘の案件は係争中の案件でもございますので、一般論としてまず申し上げたいと思いますけれども、まず、労働組合法上の団体交渉の当事者となる使用者とは労働契約上の雇用主をいうというふうにされているところでございます。

 今の持ち株会社を始めとして、親会社、子会社の関係をどう考えるかということでございますけれども、まず学説におきましては、親会社が株式所有、役員派遣、下請関係などによって子会社の経営を支配下に置き、その従業員の労働条件について現実かつ具体的な支配力を有している場合には、親会社は子企業従業員の労働条件について子企業と並んで団体交渉上の使用者たる地位にあるというのが通説でございまして、最高裁判決も同様の考え方を示しているところでございます。

 したがいまして、親会社なりが、あるいは子会社が、どちらが現実かつ具体的な支配力を従業員の労働条件に有しているかということで決まってくるということでございますので、純粋持ち株会社がその子会社の労働組合との団体交渉等に応ずる義務があるかどうかにつきましても、今申し上げたような考え方に従って個別具体的に判断されるということと考えておるところでございます。

井上哲士君

 現実的、具体的な支配基準によって使用者性を認められる場合があると、こういうことのわけですけれども、これは企業の方もそういう認識があるんですね。

 日経連が「企業組織再編とグループ経営における人事管理」という文書を出していますけれども、使用者と認められた場合、子会社労働組合との団体交渉応諾義務が発生することにより、グループ全体の経営の迅速性が損なわれてしまい、純粋持ち株会社のメリットが生かされないと言った上で、純粋持ち株会社が実際に子会社との団体交渉に反復して参加すること、労働条件の決定につき反復して純粋持ち株会社の同意を要することになると使用者性が認められてしまうおそれがある、こう言って注意を喚起しているんです。要するに、使用者性が認められないように振る舞いなさいよということを言っているわけですね。

 ですから、実際上、この持ち株会社と子会社との関係というのは非常に第三者から見ますと密室性が極めて強くて、その支配・被支配関係の実態を知ることができないという下で、しかも会社がこういうことを注意してやっているということであって、この立証を労働者に求めるというのは非常に困難というのが実態なんです。

 ですから、表面的な取り繕いで使用者性を逃れることができるということになりますと、結局、やっぱり労働者の権利は守れないわけでありまして、やはり支配力を有するというのみでこの企業再編においては使用者性を認めるということを一層明確にするべきだと思うんですけれども、もう一回いかがでしょうか。

政府参考人(太田俊明君)

 先ほど申し上げましたとおり、最高裁判決、学説におきましても、その親会社が株式所有あるいは役員派遣等によって実際に子会社の経営を支配下に置いていると、で、その従業員の労働条件につきまして現実かつ具体的な支配力を有している場合には当然親会社の方も使用者たる地位にあるというのが通説あるいは判例ということでございますので、実際、最高裁でもそういう形で認められた例もございますし、また労働委員会でも認められておりますので、こういう通説、判例の考え方に従って判断がなされるものというふうに考えているところでございます。

井上哲士君

 先ほど言いましたように、それが非常に大変やはり労働者側に困難をもたらしているということであります。

 いずれにしましても、やはり企業再編について様々な緩和をしていく以上、株主やそして労働者の地位をしっかり守っていくという点での法改正が併せて行われるべきだということを申し上げまして、質問を終わります。


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