2005年6月7日(火)
法務委員会
「会社法案」(参考人質疑)
- 最低資本金制度の持っている教育的機能、またそれが失われることによる影響について質問。
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- 井上哲士君
日本共産党の井上哲士です。
今日は両参考人、本当にありがとうございます。
最初に、成宮参考人にお伺いをします。
会社法のユーザーとしての中小企業が使いやすいものにという観点から陳述をいただきました。一方、坂本参考人の陳述では、債権者保護、株主保護と、商法の重要な柱だということが何度かお話があったわけですが、この債権者・株主保護という観点で、今回の会社法改正案について成宮参考人、どのような評価をお持ちか、まずお願いします。
- 参考人(成宮治君)
今回の会社法の改正に当たりまして、中小企業が使いやすい、使いこなせる法案に、法律にという観点から大胆な規制緩和を求め、定款自治にゆだねる部分の拡大ということを求めてまいりましたということを申し上げました。多くの点について、その方向を体した形での法律案になっているということを大変感謝し、評価申し上げるというふうに申しました。
この際、会社法の体系の中で、株式譲渡制限を置いた会社であるかそうでないかということが、こういった定款自治にゆだねるある意味では範囲についてもこれが一つの大きなメルクマールになっていると、全体の体系がそういうふうに組まれているというふうに感じております。
株式譲渡制限が置かれている会社というのは、ある意味で株主というのは非常に限定をされて余り変動をしないというのが前提になっておりますので、そういった意味では一般の公開会社あるいは大会社といったところと多少その会社の運営の在り方も違ってきていいのではないかと、こういう観点でございます。
したがって、今回の会社法改正がすべて規制を緩めるということだけを志向しているわけではなくって、現実の中小企業の実態に即した活用の仕方が中小企業にとってできるような部分について、そういった工夫をしていただいているということであろうというふうに思っております。
- 井上哲士君
次に、今とも関連しまして、最低資本金制度について両参考人にお聞きをいたします。
いわゆる狭い意味での債権者保護ということにとどまらず、少し坂本参考人からもお話があったんですが、株主が有限責任という特権を享受する株式会社というものは、破綻時には大資産家の株主であっても投資額以上は責任を負わないと。一方で、取引先や債権者は一家路頭に迷っても仕方がないという、非常にある意味、非倫理性を含んだ制度なわけですね。
ですから、最低資本金制度というのは、この有限責任を享受する株式会社という制度を利用するという人に、そういう言わば責任と厳しさがあるんだよということを教える貴重な教育効果があると、こういう指摘があるわけですね。
言わば一定のショバ代なしにそういう有限責任の世界には入っちゃ駄目だよと、こういう効果があったと。これをなくすことがいわゆる経営者としてのモラルハザードなんかにもつながるんじゃないかと、こういう指摘もあります。坂本さんからもそういうようなお話が先ほどあったんですが、御紹介はあったんですけれども、特に評価がございませんでした。
それで、まず成宮参考人には、こういう言わば最低資本金制度が持っているそういう教育的機能というんでしょうか、そういうものが失われるということをどうお考えかということ。それから坂本参考人には、実際この間の特例を使いまして随分多く起業が行われているのは事実ですが、そういうところで起業したところがどうなったかというのは、これはなかなか私たち、統計上も出てこないという問題がありまして、ここで先ほど述べたような言わばモラルハザードのような問題が現実として起きていないのかどうか、そしてそういう懸念があるとすればどういう手当てが必要なのか。それぞれからお願いをしたいと思います。
- 参考人(成宮治君)
その教育的な効果ということに関しましては余りよく考えてみたことがなかったわけでございますけれども、ただ、会社のその信用というのが設立時の資本金を取りあえずそろえるということだけに担保されているものではないというのも事実でございますし、特に、最近のIT関連等で当初の資本金、元手が比較的少額でも取りあえず企業を起こして事業活動を開始できるという状況であるにもかかわらず、制約、規制によってそれができないということによって開業が阻害をされてきているということのデメリット、社会的なデメリットというのも考えなければいけないということから、今回、一律にどのような業種、業態であってもこういう最低資本金を設立時に用意しなければいけないという規制をなくすということに関して評価をしているということでございます。
- 参考人(坂本孝司君)
最近つくられた一円企業とか、そういうところがどうなっているんだろうと、実務上ですね、実際上。で、それが債権者保護と株主保護にどういう悪影響を及ぼしたりしているかということでございます。
そういう形でできた会社が、地元でもございます、静岡でも。問題を起こしたということはありません。そういう意味では、比較的順調に、希望どおり、当初の希望どおりやっていると思われます。
要は、債権者保護とか株主保護というのは一体何が保護なんだろうと突き詰めて考えますと、実務家として、倒産させないことだと、我が社を、それが債権者保護、株主保護なんだと僕は思っているんですね。倒産させない会社づくりをどう立法的に手当てするのかというところが必要だろうと思います。
そこで、歴史的にひもといてみますと、先ほど申し上げました一六七三年、国家的規模で商法典ができたのはフランス、ルイ十四世のころですよね。そのときに、帳簿を書き、二年に一回決算を組めというのが最初の義務規定なんです。それがドイツ、日本に渡ってきたわけです。そのときに、当時の経済状況は悪かったらしいですね、フランスは。そこで、破産、倒産防止するため、債権者を保護するために帳簿を書き決算を組めというふうな規定をやった。もし、その商人が破産した場合に、速やかに最寄りの裁判所に帳簿を持っていけと、持っていけなかった場合には即刻死刑だという死刑担保付きの記帳義務だったというところが歴史のスタートでございます。
その名残が我が日本にもございまして、当時は商法と破産法は合体していましたが、今では破産法と商法は分離しております。その現行我が国の破産法を見ていただきたいんですけれども、詐欺破産した場合で帳簿がいい加減だった場合には殺人罪とほぼ同格の懲役刑が科せられています。さらに、だらしなくて破産、詐欺じゃない破産、懈怠破産という場合も懲役、多分五年か三年だと思いますけれども、相当厳しい懲役刑なんですよ。その法律が今でも残っているのに、それが発動された経緯がありません。そんなことをやっているから中小企業者の中でだらしない人が出てしまうと思うんです。
ですから、どんどん自由にいろいろな機関設計もできました、どうぞ自由に商売やってください、ただし、いい加減なことをして債権者や何かを裏切った場合には、破産法が今あるんですから、ちゃんと適用するというのが首尾一貫した法律適用だと思いますが、先生方は立法なんで、言わば行政の運用ができてないというのが、多分この中でも司法関係出身の先生方がいらっしゃると思いますけれども、破産法の刑事罰を受けたケースは一度もないはずですよ、帳簿に関して。そんなざる法を作っているから駄目だと。済みません。
以上でございます。
- 井上哲士君
ありがとうございました。
次に、有限会社の問題について両参考人にお聞きをするんですが、会社の名前を見たらおおむねどんな会社か分かるというような機能であるとか、それから、公開を想定することなく、それこそ相続のときにしか経営者が替わらないというような家族経営の中小企業に特化した制度として有限会社はそれはそれとして機能してきたと思うんですね。そういうこれまでの有限会社という制度に対しての評価という問題と、それから、先ほども例えば取締役などの任期について一方で十年というのは今よりも規制になるというお話もありましたけれども、制度としては有限会社という選択も残しておくという考え方もあったかと思うんですが、この点についてどうお考えか。それぞれからお願いします。
- 委員長(渡辺孝男君)
坂本参考人、よろしいですか。
- 参考人(坂本孝司君)
はい、分かりました。
有限会社法あるいは有限会社制度は、日本の中で相当機能を果たしてまいりましたし、今も果たしております。非常に無駄がない、非常に機動的な法というか組織制度でございまして、私どもも会社つくりたいんだということを依頼されて、私も顧問に収まるわけですけれども、その場合にできれば有限会社の方がよろしいですよということはやっぱり申し上げてきましたし、ですから日本に会社の半分くらいは有限会社があるんじゃないでしょうか。
なぜかといいますと、やっぱり維持設計にお金が余り掛からないですね。やはり株式会社ですと、当時は二年に一回役員が替わっても替わらなくても登記代を払い登記し直すというのが非常に苦痛で、コストが掛かります。そういう意味では、有限会社はそういうことがないものですから非常に楽だったと。だから、言わば子供に大人の服を着せた形なのが従来の商法の株式会社規定だったわけでして、今回株式会社という名の下に子供も中学校も高校生も、あるいは大人も着れる服を多分用意したというのは非常にすばらしいと思います。
それから、今ある有限会社も、大分そのままの形で残っていくだろうと思われます。何といいますか、何の不都合もないというのが状況なんで、何らかのインセンティブを与えない限り、今の有限会社の半分以上がとか、一挙に株式会社に移行するというのは考えにくいと思います。不都合がないからだということと思います。
- 参考人(成宮治君)
現行の商法の株式会社は、多くの出資者から多額の資金を集めて大規模な事業を展開をするとともに、リスクを分散をするという物的有限責任の会社形態で、想定としては公開の大企業を念頭に置いたような種類の各種の規制が置かれてきたと。一方、有限会社については、同族あるいは親しい仲間を募って、規模はそれほど大きくはないけれども、会社に見知らぬ人が入ってくることは好まないということで、人的な非公開会社でありながら物的有限会社の有限責任の会社形態ということで、非公開、中小企業を想定した比較的緩やかな規制というのが置かれてきた。こういう二つの会社の体系があったわけでございますけれども、今回の会社法の改正に当たって、一方で株式会社の方をかなりその規制を緩和して、大会社、小会社、いろんな実態に合わせたいろんな制度、制度というか機関設計を取れるようにということでやってきた結果、別個のものとして有限会社法という現行の法律をそのまま残しておく必要性というか独自性が相当程度に弱まったということで、多分、一本にした上で有限会社法というのは廃止をするということになったんだろうと思います。
ただ、確かに、現行の有限会社には非常に簡便な規制ということに基づくメリットは確かにありますので、現在有限会社である人は望まない限り有限会社という形を続けられるように、期限を定めていない経過措置を置いていただくことになったんだということを評価をしております。
- 井上哲士君
やっぱりメリットがあってうまくいっているものなら、選択肢としても引き続き残してもいいんじゃないかなと私は思うんですが。
会計参与の問題で坂本参考人にお聞きしますが、会計参与になりますと、税理士が内部から公正な計算書類の作成義務を負うと同時に、独立、公正という税理士法に定められた立場から企業の代理人としての税金の申告納税代理を行うということになるわけですね。内部機関として会計書類の作成義務を負うということと、公正、独立な立場ということで言わば会計監査的な役割を期待されるということがどう両立していくんだろうかと。
公認会計士の場合は、取締役等として会計書類作成に関与すれば会計監査を行えないというルールになっているわけですけど、こういうこととの関係でもこの二つのことがどう両立するんだろうかという点でお願いします。
- 参考人(坂本孝司君)
非常に有り難い、先生、質問でございます。
会計参与になる税理士は、従来と同じように会計参与になっても独立性は要求されますというのがまず結論でございます。
というのも、会計参与には計算書類の正確性を高めるという責任が課せられておりまして、計算書類の作成に関しまして取締役と意見が一致しない場合には計算書類を作成できないとされております。さらに、取締役に不正な行為又は法令又は定款に反するような行為があった場合には、それを発見した場合には株主に報告するという義務も課せられております。このために、会計に係る重要なことにつきまして、法務省令で定めるところにより会計参与報告書を作成しなければならないというふうに規定されております。また、会計参与は、会社又は子会社の取締役とか執行役とか監査役とか会計監査人又は支配人との兼任はできないというふうになっております。
ポイントは、この意味は、会計参与は、会社の内部機関ではあるものの、会社の内部者ではないというところでございます。会社の内部者ではなく、独立した第三者を想定しているということなんですね。
ちょっとこの辺になると分かりにくいと思います。というのは、先生も御承知のように、会計監査業務を行う公認会計士あるいは会計人には独立性が要求されておりまして、二つあります、独立性には。言わば精神的な独立性と形式的独立性ですね。今回、エンロン等々の事件で形式的独立性の強化がされております。ところが、私が思うには、精神的な独立性が我々職業会計人に一番大事だと思います。
税理士法でも、第一条で税理士に独立性と公正性を要求しております。元々税理士には独立性の要求があるわけですが、この場合のポイントは精神的な独立性を要求しているというのが私どもの考え方でございまして、たとえクライアントからお金をいただいて計算書類の作成をサポートしたり税務申告書を作ろうとも、不正な税務申告や違法な決算書は絶対作らない、その場合には辞退をすると、説得した上で、納得してくれなければ。
それが精神的独立性でございまして、そういう意味では、今回、内部機関であっても内部者ではないと、精神的な独立性を要求されているというところを重く受け止めまして、これからも業務遂行を進めていきたいというふうに思っております。
- 井上哲士君
ありがとうございました。
終わります。
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