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2005年6月14日(火)

参院法務委員会
「会社法案」(第3回目質疑)

  • 合同会社について、もともと税制上の優遇措置を狙って日本経団連などが要求してきたことを指摘し、規制がゆるく大企業の子会社や共同事業にとって非常に便利な制度になっており、もっぱら大企業の税金逃れのための制度にならないかとただす。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 今日はまず、合同会社についてお聞きをいたします。

 最初に大臣に、今回、新たに合同会社を設立をした理由についてお聞きをいたします。

国務大臣(南野知惠子君)

 お尋ねの合同会社制度といいますのは、株式会社のように出資の比率に応じて配当等を決めるのではなく、例えば、高い技術を持っている社員に厚く配当をすることができるようにするなど、柔軟な経営が可能な有限責任の法人制度の創設が必要であるという近年のベンチャー企業等からの要請にこたえるために新設するものでございます。

 具体的には、合同会社は、創業段階のベンチャー企業、それから少数の出資者により異なる種類の財産を出資して創設されるジョイントベンチャー、また、資産を証券化、流動化するための特定目的会社、これはPSCと言うようでございますが、SPCと言うようでございますが、これに利用されるものと予想しております。

井上哲士君

 アメリカやイギリスなどのLLC、LLPの成功を見習ったものだと思うんですが、米英でこのLLCなどが非常に爆発的に普及をしたのは、パススルー課税という税制上の優遇措置が最大の理由だと言われております。

 日本経団連も二〇〇〇年の商法改正の提言の中で、このLLCの問題で、「設立された事業体の段階では所得課税を行わず、その損益を出資者の損益と通算する税制の導管としての利点を持つ。」と、こう述べて、このLLC制度の導入を求めております。

 先ほど説明もありましたけれども、実際には合同会社導入の最大の理由というのはパススルー課税であったんじゃないですか。

政府参考人(寺田逸郎君)

 おっしゃるとおり、外国におけるこの合同会社、類似のLLC等においては、課税において、今委員の御指摘のように、パススルー課税、つまり構成員自体に課税するということが取られているようでございます。その点を理由にしてこの合同会社、LLC、あるいは組合そのものでありますLLPを支持なさるお考えがあったことは、これは私どもも事実であると承知をいたしております。

 しかしながら、合同会社についての御要望というのはそれだけではございませんで、組合的な規律によって運営され、しかも、有限責任である会社というものについてそれなりのメリットをお感じになられるという御意向でございました。

 実際には、例えば株式会社との比較で申し上げますと、内部規律を定款によりまして非常に自由に設計することができるわけでございます。必ずしも出資額に応ずるということではなく利益の配当がされるというようなことでございます。それから、持ち分譲渡、入社組合員の加入、定款、組合契約の変更というのを全員一致という組合的な規律になるわけでございますので、その当初の出資者の権利というのが非常に強くここで守られるという、そういうメリットもあるわけでございます。

 それは株式会社との比較でございますけれども、他方、じゃ、この会社の制度にせずに、LLP、有限責任事業組合だけあればいいではないかというお考えもあったわけでございますけれども、それに対しては、やはり法人というものにそれなりのメリットはあるということでございまして、そういう様々な議論を経た上で、法制審議会でも、株式会社あるいは有限責任事業組合ではない一つの組織形態、会社形態として合同会社を認めるべきだというお考えにまとまったわけでございます。

井上哲士君

 今、法制審議会でまとまったというお話ですが、実は法制審議会の会社法部会長だった江頭東大教授が経済雑誌で非常に率直に語っておられるんですが、会社法改正の本当のねらいが税制だということが多いのは事実ですと。経済界はどうも財務省には直接物が言えないらしく、法務省に話を持ってくる。法務省に新しい法制をつくらせた上で、新制度ができたから税制もお願いしたいという形にするんですねと。LLCの件でも、経済界としては税制上のパススルーさえできればいいのであって、必ずしも新しい会社類型が必要だったわけではないというふうに江頭さん自身が述べられておるわけですね。

 しかも、先ほどベンチャー企業等の要請と言われましたけれども、それを聞きますと、いわゆる中小企業とかいうふうに類推をするわけですけれども、実際上言いますと、この合同会社、非常に規制が緩い。しかも、法人社員を認めることになっていますから、非常に大企業にとっては便利な制度になっておりまして、結局のところ、大企業同士の共同事業とか大企業が出資しての事業など、専ら大企業の税負担軽減のための制度になるんじゃないかと、こういう懸念があるんですが、いかがでしょうか。

政府参考人(寺田逸郎君)

 それは、一つの御懸念としてはそういうこともあり得るかもしれません。これはいろんな形態での利用があるわけでございまして、もちろんすべて正当な、経済にとって望ましい形態が一〇〇%実現できるかどうか分かりません。

 しかし、多くの者はこれを利用して、かなりいい事業形態だという評価もあり得るわけでありまして、例えば少数の出資者によって異なる種類の財産を出資して創設されるジョイントベンチャーというのも先ほども申し上げたわけでございますけれども、そのほかにも大臣も申し上げました資産流動化のSPCにも利用されると。

 こういうときに、上場企業はほかの企業とジョイントベンチャーするかも分からないし、通常の子会社にする場合ももちろんあり得るわけではありますけれども、それ自体として直ちに弊害だとは言えない。まあ、それもいろいろなその事業形態の一つとして有用である場合ももちろん多いわけであります。

 ただ、合同会社を子会社とするということになりますと、おっしゃるとおり、子会社としてのこの合同会社が非常に組織形態としては言わば緩いものでございますので、親会社の監査役がこの子会社である合同会社に対して調査権を有するでありますとか、あるいは合同会社の制度の悪用によって損害を被った者が業務執行者に対して責任を追及することができるでありますとか、あるいは、これは一番極端なケースでありますけれども、債権者からの追及を免れるためにそもそも合同会社をつくって法人格を利用するというようなことがあり得るわけでありますが、それに対しては、社員の債権者に対しまして設立取消しの訴えの提起権を与える、提訴権を与えるという手当てをいたしておりますので、まあ全体といたしましてはこの合同会社の有用性について目配りができ、かつ、問題が生じ得るところについても手当てはされているというように私どもとしては考えているところでございます。

井上哲士君

 この点でも、江頭教授は同じ雑誌の中で、規制が緩いということでむしろ大企業が子会社をつくるのに使われるのではないかという気もします、そういうことのために規制を緩くしたわけではないので困るのですがと、こういうふうに非常に率直に述べられております。

 これまでも、例えば民事再生法などもそうでしたけれども、中小企業向けの制度だということでの説明があったけれども、実際には違う使われ方をしたということはあったわけでありますから、この点は指摘をしておきたいと思うんですね。

 今回の会社法で言いますと、この有限責任の享受を理由に、有限会社相当の会社の透明性を高めるための公告義務を課しております。ところが、この合同会社は有限責任だけれども公告義務がない、最低資本金もない。それから、法務省は、この最低資本金なくしても配当規制があるので債権者保護は図れるという説明をされているわけですが、この配当規制もこの合同会社はないわけですね。

 その有限責任を同様に享受をする株式会社とこれだけの差が生じる理由は一体どこにあるのかと。透明性の高さとか債権者保護のための仕組みが不十分だということであれば社員の責任を株式会社よりも重くすると、こういうことも必要だったと思うんですけれども、この点いかがでしょうか。

政府参考人(寺田逸郎君)

 おっしゃるとおり、合同会社には純資産額三百万円という配当規制も掛かっておりませんし、計算書類の公告の制度も義務付けとしてはございません。

 もちろん、合同会社も債権者の保護は必要でございますので、資本金の額をベースとした配当規制というものはございますし、計算書類の開示制度というのはございますが、おっしゃるような先ほどのような規定の適用はないわけであります。この点についても、まあいろいろな議論はあり得るところであろうかと思います。

 しかしながら、株式会社というのは、基本的に多くの者から資金を集めて事業を行うということが前提になっているのに対しまして、この合同会社というのは特定少数の者が資金を出し合って会社を運営する、会社を設立して運営するということでございますので、必ずしも同じような規制でなくても構わないんじゃないかというところからその二つの規制を外しているところでございます。むしろ、この合同会社を御利用いただくためにはそのような規制というのはやや過度になり過ぎるというような意見でございました。

 ただ、こういたしますと、株式会社に対しましてこの合同会社が、特に外部から、債権者等から見ますと少し信用のない会社だということにならざるを得ないわけでございます。その点は確かに否定できないところであります。

 もちろん、こういうことについて、実際には、おっしゃるような合同会社というのを想定されるような利用ではなくて、言わば株式会社にすべきところを合同会社の形態を悪用するというようなケースが目立ちましたら、また私どももこの点については再検討せざるを得ないのではないかというふうにも思うわけでございますが、基本的に念頭に置いている形態からいたしますと、今のような規制ということで必要かつ十分ではないかというふうに思っているところでございます。

井上哲士君

 悪用もあり得るということで答弁になりましたけれども、これは本当に厳しく見ていただきたいと思うんですね。

 先ほど、特定少数のみの資金であるので公告義務等を課してないということが言われたんですが、そうであれば、先日私、質問をいたしましたけれども、今の有限会社程度の規模の会社が今後株式会社を選択した場合に、実際にはごく少数のところから資金を集めてない場合があるわけですから、そういうところにまで公告義務を一律に課すのがいいのかどうかということにもつながっていくわけでありまして、どうも整合性が取れてないような気がいたします。

 次に、最低資本金制度の問題お聞きをしますが、今回廃止をされますが、そうなりますと、有限責任制度を取る株式会社でも資本金一円でもよいとなります。債権者保護が後退をするのではないかという懸念についてはいかがでしょうか。

政府参考人(寺田逸郎君)

 度々この点についてはお尋ねをいただいているところでございます。

 それで、そもそも平成二年に最低資本金制度をつくりました際には、確かにこの点については、有限責任の株式会社においてある程度の規模の資本金というものの言わば外枠を設定しないということになりますと本来の株式会社らしくないという、そういう概念があったことは確かでございます。しかしながら、資本金そのもの、つまりこれはあくまで外枠でありまして、実際にその会社に財産が留保されているかどうかというと、これは別のことでございますので、その点において直ちに債権者保護が図られているということはなかなか現実の問題としても言い難いところがございました。

 そのほかにも、経済産業省のおつくりになりました特例の運用状況等も見まして今度このようにしたわけでございますが、実際に債権者保護というのの重要性というのはもちろん無視できないところであります。むしろ、その点は株式会社の財産状況を外部に対して適切に開示していくということによって担保すべきだというのが今後の方向性だという理解の下に、会計帳簿の作成の適時性、正確性というものを明文化したこと、会計参与を創設したこと、会計監査人の設置範囲というものを今までのように大会社に限定せずに拡大したこと、あるいは先ほど申し上げました計算書類の公告の義務付け、こういう措置で会社の実態というものを知っていただく、それによって債権者の保護を図るというのを基本に据えております。

 また、財産の不当な流出というものを防止するために、先ほどもこれもお話になられました、会社財産の流出、払戻しについては統一的な財源規制を掛けております。この点については、資本金というものに一部意義を認めているところでございます。

 したがいまして、どちらかといいますと、債権者保護については形式面よりも実質面を重視したというように御理解をいただきたいところでございます。

井上哲士君

 平成二年の商法改正のときに、この三百万、一千万という最低資本金制度導入について私どもは反対をいたしました。当時、会社の倒産と会社の資本金との間には具体的な因果関係や関連性はないということも申し上げましたし、最低資本金を一千万円にアップしたところで、それは会社設立時において出資者から払い込まれた金額を示すだけであり、その後引き続いていつもそれだけの資本が会社に留保されているという保証は何もないということを当時私たちは言ったわけですね。

 それに対して法務省の方が、最低資本金の一般的な機能は要するに純資産の維持基準であると、会社債権者の担保となるべき財産を少なくともこれだけは会社に維持していただきたいという意味で債権者保護の制度であると言われて、会社債権者に対する最終的な引き当てであるという見地からは、最低資本金は高ければ高いほどよろしいということまで当時言われていたわけですね。

 百八十度今と私は説明が逆だと思うんですけれども、当時の説明が間違っていた、そういうことを認められるんですか。

政府参考人(寺田逸郎君)

 もちろん、会社債権者から見て、資本金の額というのは、それは低いよりは高い方が自分にとってはいい環境だということは一般的には言えるだろうというふうに思います。

 しかし、委員のおっしゃったように、それを設立時に言わば会社をつくる者に対する規制として掛けるということは、当時はそれで、会社というのは、基本的にサイズというのは資本というのがそれを表していたと、事業については非常に大きな資本が要るのが当然だという前提でそういうお考えをお示ししていたところでございますけれども、現在の状況を見ますと、ベンチャー企業を中心といたしまして、あるいはソフトの産業などに見られますように、必ずしも最初に出資する額は大きくなくてもいい、いろんな形で会社が大きくなっていけるというところもあるわけでございますので、そういう現実における事業の形態の変化というのが一つあるわけでございます。

 それからもう一つは、これはもう正直に認めざるを得ないところでございますけれども、やはり考え方の変化というのがあるわけでございまして、委員がおっしゃるように、そういう最低資本金規制的なものを参入規制としてではなくて配当規制という機能に絞り込んだというのは、先ほどの委員の御指摘がむしろ正しかったというように認めるところでございます。

井上哲士君

 やってみて違っていたじゃなくて、当時から、私どもだけじゃありませんで、中小企業団体からも様々な声があったわけですね。この最低資本金制度の猶予期間というのは九五年まで続きました。当時、この猶予期間については延長を求めた、私どもは求めたわけですが、相当程度手当てをしているとか、最低資本金を満たすために努力をした会社とのバランスを考慮する必要があるというような理由で延長は拒否をされたわけですね。やはり、今回説明を百八十度変えてこの制度を廃止するのであれば、それこそ当時、最低資本金を確保するために大変な努力をされた中小企業の皆さんに納得のいく説明がやっぱりないと、これは正にバランスを欠くことになると思います。

 そういう点で、一番最初の質問のときに私、この間の会社法改正というのが大変、言わば付け焼き刃といいましょうか、継ぎはぎ的改正だったということを指摘をしたことがありますけれども、この点でもこの問題が大変浮き彫りになっているということを最後申し上げまして、質問を終わります。


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