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2005年2月16日(水)

参院経済・産業・雇用に関する調査会
「成熟社会における経済活性化に向けた方策」について

  • 成熟社会における経済活性化に向けた方策について

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 臨時国会からこのテーマでいろんな御報告を聞いている中で、日本経済の今後の活性化のために物づくりの日本の持つ優位性をどう今後生かしていくのかということが政府の説明からも提起がありまして、大変興味深く聞きました。

 そこで矢野参考人と香西参考人にお聞きをするわけですが、この日本の物づくりの優位性という場合に、製造現場でのコミュニケーションとか、それからチームワークとかというものが非常に発揮をされている。それがこの言わば安定した雇用を一つの土台としてきたという指摘がありました。この部分が非常に今落ちてきているということだと思うんですね。それは連合の久保田参考人からのお話もありましたし、このお配りいただいた経労委報告の中でも現場力が落ちていると、これは例えば労働災害が増えていることも含めて提起があったかと思うんです。

 昨年のこの会のときに政府参考人にお聞きしますと、やはり効率化の中でのいわゆる行き過ぎたリストラがこういう物づくりの力の低下ということを招いているんじゃないかと、こういう考え方が経営者の中でもかなり増えてきているというお話がありました。現に、例えば非常に企業内教育のための予算が、それぞれの企業の予算が減っていたり、採用自身が減っているということがあるということだったんですね。ただ、今のお話を聞いておりますと、現場力が落ちている、物づくりの優位性を失われつつあるということの認識は一致だと思うんですけれども、その原因や方向としては少しいろいろ食い違いがあるなということでお聞きをいたしました。

 それで、久保田参考人からは、例えばやはり働くルールというものが何度も強調されたわけですけれども、そういうことよりも守りの攻め、リストラから攻めのリストラというお言葉もあったわけでありますけれども、こういう日本の持ってきた優位性が落ちてきたということの原因と併せて、むしろそういう優位性を発揮をしていく上でのやはり雇う側のルールというものを私はやっぱり確立するということは非常に大事な提起だと思っております。

 確かに個々の企業はいろんな国際的競争力にさらされているということで目先の問題を追い求めたいと思うんですが、そういうときだからこそ、私は、経済団体が中長期的な経済ということからいって、こういうことをもっとやるべきだということを呼び掛けられることも大事ではないかと思うんですけれども、そういう点で、矢野参考人とそれから香西参考人、それぞれから御意見をお聞きしたいと思います。

会長(広中和歌子君)

 それでは、香西参考人からでよろしいですか。

参考人(香西泰君)

 日本産業というのが物づくりというのについて非常に世界的な貢献をしてきたし、現在でも、例えば自動車産業などを例に取りますと世界的にも大きな比重をますます占めようとしているというわけでありまして、それはそれなりに非常に立派なことであったと思いますし、できれば今後も続けてほしいということは私も考えております。全く同感であります。

 しかし、一方で、なぜ物づくりということについてそれだけでうまくいかないかということを考えてみますと、一つはやっぱり技術的な変化というのが絶えず起こっている世界でありまして、特にデジタル技術といいますか、IT技術といったようなものがかなり発達しまして、実は私、エンジニアリングの、技術のことよく分からないんですけれども、いろいろの人の意見等あるいはお話などは若干、実感的にも考えられますが、例えば従来でありますと非常に日本なら日本の中だけでチームワークを組んでいくことが非常によかったわけですけれども、今の情報技術をもってすれば、むしろ国際的に、世界じゅうから、どこへ、どこと手を結ぶか、戦略的提携というわけですね。ストラテジックアライアンスをどうするかとか、アウトソーシングをどうするかとか、そういったような形で技術協力ができるということが、まあアメリカのモデル等々、ある国のモデル、アメリカだけではありませんが、各国もいずれもそういうふうにしていると。つまり、技術革新の中で新しい形の技術というのも生まれてきている。

 また、途上国と思っておりました周辺近隣諸国でも、やはりこれは一つには、日本の技術そのものが資本財の形になりまして、つまり機械、日本の造った製造設備というのは非常に優秀なものがあるわけですから、それを輸入すればかなりの程度彼らのその周辺諸国でも日本の技術を具体的に消化ができていると、こういう形になっている。つまり、グローバリゼーションが進む中で日本だけが独占していくということが客観的に言っても難しい点もあるという、そういうことは客観的な事実として私はやはり認めざるを得ないだろうと思います。

 一方では、日本でむしろ少ないと言われていたのは、プロフェッショナルといったような本当の意味のプロフェッショナル、つまり新しい、デザイナーとかそういったような形の専門家といったものがむしろ日本では製造業分野もあるいはサービス分野についても問題、少なかったと、こういう弱点もあったということが世界的な流れの中では感じられているということだと思います。

 したがいまして、私は、効率化というか、つまり不況になって非常に経済が萎縮するときというのは何をやっても悪いということは全くそのとおりなわけですが、過去に良かったことを守ろうということだけではなくて、新しい世界、新しい技術にどうやって従来のいいものを残していくか、それを、新しい技術はやっぱりそれを認めてチャレンジしていくかと、こういうことがどうしても必要になっているのではないだろうか。

 そういう意味では、例えば教育、先ほどの人材力という言葉が、お話がございましたけれども、やっぱりそういう技術面でも本当の人材というものを育成していくところからスタートしないと、簡単に日本は民族的に何か物づくりが非常にうまいんだというような考えだけでは将来の物づくりというものを、これは伝統を守ることはもちろん必要なんですけれども、それを新しい環境の中でどうやっていくかというチャレンジを含んだものでないと維持することは難しいというふうに認めて再出発をすることが物づくりを日本に定着させていく一番のポイントになるのではないかと、そういうふうに素人ながら考えております。

会長(広中和歌子君)

 どうもありがとうございました。

 矢野参考人、よろしくお願いします。

参考人(矢野弘典君)

 失われた十年とか失われた十五年ということが言われてまいりましたけれども、確かに低迷した経済としては、あるいは企業業績も低迷したそういう期間だったとは思います。一面では正しい指摘かもしれませんが、同時に、この間に物すごい勢いでビジネスモデルの作り替えが行われてきたと私は思っているんですね。

 つまり、三つの過剰と言われているものを整理する中で、やはりこれから伸びていく分野に対してどう力を付けていくかということをやってきたことだったと思います。その過程では、冒頭も言いましたように、守りのリストラ的なこともあって決して好ましいことではないことも行われたということは、企業存立上やむを得なかったにしてもあったわけであります。

 私は、じゃ、物づくり能力が落ちたと言われますけれども、それは見方だと私は思っておりまして、必ずしも私は落ちていないと思っているんですね。つまり、物づくり技術の一番の基本は何かと。私も民間企業におりまして見聞したわけでありますが、組み立てる、完成品を組み立てる能力というのは結構どこでもやれるんですね。問題は、部品、材料の技術なんです。これがまねできないんですね。ここをがっちり押さえておけば、物づくりというのは大丈夫なんですね。例えば、自動車でいえばエンジンとか、鉄鋼であれば特殊鋼ですね、そういったところの基本の技術、これが卓越していれば大丈夫なんですね。

 そういう点で、私は日本は優れたものを十分今も持っていると思います。ですから、これからやはり先端技術の面で日本が常に半歩、一歩前を歩くと、こういう気概でいけば、物づくり技術という、物づくりの力というのはこれもますます伸びていくだろうと思います。

 割とだれでもできるような仕事、技術的にいえば中程度以下のものについては、必ずしも日本でやるのがいいのかということになってきますとそうではないだろうと思うわけで、これは国際分業が進んでいくと思うんですね。そういうふうにして変わっていくんじゃないだろうかと思います。

 そうしたものを実現する上でも、やっぱり一番大事なのは人材力と私どもが呼んでいるものでありまして、本当は最初、人間力と書いたんですけれども、政府が使っている言葉なんですが、どうも民間企業では余りこなれていないなと。人材という言葉はどこの会社でも日常用語で使うんで人材力としたわけです。

 人材力の中身は何かというと、一つは経営のリーダーシップですね。これは先ほど申し上げました。それから、あと現場力と言われる、本当の職場の中での、中間管理層も含めた、それから一般従業員のやはり能力だというふうに思うんです。これをやっぱり高める努力をしなくちゃいけない。教育投資というのはやっぱりし続ける必要があるんですね。

 この不況の時代で人の採用ができなかったんですけれども、これまあおいおい良くなってくるだろうと思っております。何しろ日本の国は、これから労働力が減ってきて、少子化の時代になるわけですから、日本の経済が今のような調子でいけば必ず人手不足の時代になるんですね。ですから、魅力のある会社に優秀な人が集まるという構図を作らないと会社は生き伸びていけないと、こう思うんです。ですから、やっぱりこれから各社は私は賢明に教育をしていくだろうと思います。

 ただし、先ほど雇用の多様化という中で申し上げたわけでありますが、長期雇用の従業員の比率はやはり雇用の多様化の中で少しずつ減っていくかもしれませんけれども、それは核となる従業員でありまして、企業はそれを、それに教育投資をして、能力を上げて結果を出すということでないと先の発展がないわけですね。ですから、そういうコアの従業員はこれからもずっと中核の戦力として育っていくだろうというふうに思っております。

 それに加えて、専門能力を持った人たち、例えば三年とか五年とか、一つの会社にいるよりも、自分の能力を生かしていろんなところで頑張りたいというタイプの人がこれからますます増えてくるわけであります。そういう人はあるいは長期雇用の人よりも高い給料を取るかもしれないですね。それでいいと思います。

 そういうふうにして、既にもう高い能力を持っている人たちも入ってくる。学校あるいは修士、大学院を出て、これからという人たちが企業の中の切磋琢磨の中で成長していくということもあるでしょう。いずれにいたしましても、人材の育成ということがこれからの日本の企業の競争を左右する、結果を左右する私はかぎになるだろうと思っております。

 現場力を考えるときに大事なことがありまして、先ほどもちょっと申し上げたんですが、暗黙知という世界ですね。アナログ的な知識なんて言ったりしますが、要するに紙になかなか書けない能力、これが非常に大事なんですね。これはやはり職場で順番に伝承していかなくちゃいけない。

 まあ、割と定年、六十歳定年がこれからどっと出る時代になってきますと、本当に大丈夫かなというのがあります。この不況の中で本当にやむを得ず人減らしをしたところも、そういうところでダメージが出てきているかもしれない。そういう職場の中の暗黙知の伝承ですね。これが大事なことなんです。

 外国に行って工場を建てる場合には、暗黙知では伝わらないんですね。ですから、できるだけそれを形式知にしてマニュアル化して、こんなマニュアル化にして徹底的に教えるんです。そうすると、あっという間にみんな、特に中国なんかはすごい勉強しますからね、日本の工場に負けない能力が出るんです。

 しかし、物づくりの原点というのは常に進歩があって、書かれざる知識ですね、暗黙知が増えていくということが進歩なんですね。それをまたちょっと落ち着いたら形式知に変えるというふうなプロセスをこれから踏んでいくわけですが、そういうことをやるためにも、やはり現場力というのが大事だと。現場力は、一般従業員と中間管理層、監督層を含めた人材の能力ですね。そんなふうに思います。


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