2006年5月9日(火)
文教科学委員会
「研究交流促進法及び特定放射光施設の共用の促進に関する法律の一部改正案」について(質疑・採決)
- 民間企業などが国の研究機関を利用する際に廉価使用できる条件を緩和することについて質問。
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- 井上哲士君
日本共産党の井上哲士です。
国と民間との研究交流が研究の自主性を守りながらその成果が国民に共有をされ、科学技術の振興に資する形で進むのは重要であります。その際に、国民の共有財産を使用する以上きちんとした原則が貫かれる必要があると思います。今回の特例措置の全国化にかかわって、まずSPring8についてお聞きをいたします。
SPring8については、研究者が研究内容を正式な論文を通して公表するなど成果を専有しないと、こういう場合については外国研究者も含めて無料としておりますけれども、その理由はどういうことなんでしょうか。
- 副大臣(河本三郎君)
井上先生、SPring8は供用開始になりましたのが平成九年の十月であります。それに先立って当時の航空・電子技術審議会等でその利用や運営について研究をしてきました。その結果、正確に申し上げます。国内外の研究者に広く開かれた施設として最大限に活用されること。成果については知的公共財として積極的に公開されるべきであること。さらに、欧米の同様の施設が公開する研究について使用料が無料とされていること。こういうことを整理をして、可能な限り運用の整合性が図られたところであります。
こういう考え方を踏まえて、先生が今言われたように、SPring8を利用する者を、その成果を公表するのであれば、公開するのであれば無料とするということにしたところであります。
- 井上哲士君
つまり、研究成果が提供されるというものは、その利用者個人の利益ではなくて広く人類共通の利益になるととらえる、だからそれは無料にするべきだと、こういう原則が国際的にも言われていることなんだと思うんですね。そうしますと、今回の改正案によるこの廉価使用の緩和ということは、この基本的な考え方、原則から逆行しているのではないかと、こう思うわけです。
本来、国民の税金でつくっている試験研究機関での研究成果というのは、データも含めてすべての国民が共有、利用できるものだと思います。だからこそ、従来は、この試験研究機関の廉価使用を認める場合は、施設の場合、国の研究に密接に関係し、その推進に特に有益な研究に限り、しかも、その研究結果を国に提供するということが条件でありました。つまり、営利を目的とする企業が行う研究であっても、その研究結果が国民全体の共有の財産になる、そういう場合には施設等の廉価使用を認めるというものだったと思うんですね。今回の措置は、研究内容は国の研究と特に密接でなくても、単に関連すれば足りると。それから、研究データの結果も国に提供しなくても論文程度の結果報告で足りると。二重の緩和をするわけです。
国民の共有の財産にしていくという点では大きな後退だと思うんですが、民間企業等が研究データ等を企業秘密にしたいということで使うのであれば、当然、応分の負担をするということは私は当然だと思うんですけれども、この点いかがでしょうか。
- 政府参考人(清水潔君)
まずSPring8についてでございますけれども、先生御案内のように、SPring8自体は、広範な科学技術の分野に関して基礎研究から産業利用に至るまで幅広い研究者に共用が可能な最先端の設備として整備すると、こういうふうな考え方でございます。
そういう意味で、御指摘の成果を非公開とする場合については、施設の建設コストについては負担は求めませんが、運営に関する経費についてはそれぞれ経費を負担していただく、こういう意味でそういう費用負担の考え方を取っております。これは、ある意味で欧米の同種の施設と共通の考え方でございます。
さて、一方、御指摘のございました研究施設等の廉価使用でございますけれども、これは国が自ら研究を行うために設置した試験研究機関の研究施設について、その本来の目的を妨げない限度において産学官連携、あるいはそういう意味での幅広い地域のそういう企業、我が国のそういう基盤をつくっていくという観点から、近接した環境で円滑な研究の交流を行っていこうということで使用料について一定の減免を可能にする、こんなふうなことでございます。言わば、この使用料の考え方は時価、いわゆる近隣の言わば賃貸料等をベースにした時価主義というものをベースにしております。
そこで、今回の改正でございますけれども、実際上、こういう廉価使用についていろんなあれがございました。実際上なかなか進まないという問題でございます。
例えば、そこでは、研究機関が生み出した成果というものを例えばベンチャー企業が利用するような場合にも、例えばそういうことは行えていいのではないかと、こういうことが一つの特区の考え方として、また、言わば企業等は研究内容がデータも、生データも含めて公表されるということについてはどうしてもいろんな消極的な思いがあるわけでございまして、そういう場合に、いずれにしても要件を緩和いたしまして、研究の成果として論文等の報告を求めるということで廉価使用の要件を緩和したわけでございます。
ちょっとくどくど申し上げましたが、廉価使用の条件の緩和は、言わば研究施設を介した研究交流、産学官の研究交流がより一層促進することを期待しているものでありまして、元々、共用を前提に言わば大型の設備として整備されたSPring8とは、多少比較は難しい面があることを御理解いただければというふうに思います。
- 井上哲士君
SPring8が共用を前提にしたものであり、しかも基礎研究中心のものであるという、そこの違いは十分に分かった上で申し上げているわけでありまして、例えば、これは日本学術会議が「先端的大型研究施設での全国共同利用のあり方」という提言を平成十七年に出しておりますけれども、こう言っていますよね。企業内研究者による研究は、ほとんどの場合、広い意味での新製品の開発や生産技術の創出、改造など企業の実績を上げる活動の一環であると。こういうところからは相応の対価を求めるのは当然だと。これはSPring8についての話でありますけれども、私は、ここにある基本的な、原則的な考え方というものは、国の財産を使う、しかも安く使うのであれば、それはやっぱり研究のデータも含めて提供していただくと。それが企業の都合でできないというんであれば、あえて廉価使用ということを広げるということは、これはやっぱりこういう基本的な考えの逆行だと思うんです。
それで、現実になかなかこの廉価使用が実際には行われていない。衆議院の答弁でも、今回の法案でも対象機関は二十機関だし、これまでに具体的廉価使用の実績はないし、今後もその具体的計画はないということもありました。
やはり、そこにある問題を一つ一つ解決していくことが大事だと思うんですが、情報提供の問題で、現に今、国立大学法人や独立行政法人、国の試験研究機関について、ホームページ等でこの外部利用に関する情報を積極的に公開している機関がどれだけあるのか、そして今回の法改正によって情報提供が行われるわけですが、これがどういう効果が見込まれているのか、いかがでしょうか。
- 政府参考人(清水潔君)
私ども、三月から四月にかけて、国立大学、独立行政法人あるいは国の試験研究機関について施設設備の共用の状況についてアンケートを実施いたしました。
外部利用に供する施設設備を有している機関は、国立大学については九十一機関中三十三機関、独立行政法人等については五十二機関中二十五機関というふうな状況でございまして、共用に、外部利用に供するものとしては、例えばCO分析計でございますとか超高圧電子顕微鏡、あるいは風洞でございますとか超強磁場施設というようなものが挙げられておるわけでございます。
また、これらの機関のうち、ホームページ等で発信しているのは三十三機関中の、国立大学でございますけれども、三十機関、独立行政法人等では二十五機関中二十機関との回答を得ているところでございます。
このことで、私どもとしては、こういうふうな状況でございますけれども、今回の法改正につきまして、全体としてごらんいただきますと、外部利用を行っている機関の割合は、百四十三機関中五十八機関、全体の四割というふうな状況でございます。
そういうことでもございまして、また情報発信については、個々の機関で対応しているために実は一覧性がございません。ホームページ上で提供される情報も統一されておらないということから、利用者にとって使いやすいものではないというふうな状況がございます。
私どもとしては、このような法整備等によりまして、基本的にはそれぞれの機関が、更に自分のところにおける設備の状況等を十分よく踏まえながら共用をどう促進していくかという観点ということも当然いろんなことでお考えいただくことができるのではないかというふうに思っておりますし、また情報提供、利用者が求めている情報としては、私も、アンケート調査では、利用者のサイドからいうと、情報がばらばらで分からない、どこにあるのか、どうやったら使えるのか、どういうふうなことに使えるのかよく分からないというような声がそういう意味での共用を阻害している要因ではないかというふうなデータもございます。そういうものに向けての改善を是非図ってまいりたいというふうに思っておるところでございます。
- 井上哲士君
利用者側から見て分かりやすくなっていく、これによっての共用の促進が図られるということでありますが、一方、受入れ側の問題というのがあるわけですね。
総務省の行政評価局が廉価使用の特例措置を全国化した場合の支障や実績を調査をしておりますけれども、利用が少ない原因としては、空き状況等から見て民間企業等が利用する余地がない、外部開放を想定していないなど、受入れ条件がなかなか整っていないという問題があります。こういうところに無理に押し付けますと、いろんなやはり問題が生じてくる。
一方で、運用面で懸念される事項としては、民間企業等の研究者が施設設備等の操作に不慣れだと、それによって故障するなどした場合とか、それから民間企業等の研究者に対する施設設備等の操作方法の指導等に時間を要して、本来の研究に係る職員の負担になって支障が生じると、こういうようなことが出されております。
やはり、こういった受入れ条件が整ってないということに対する配慮が必要だと思いますし、そして、具体的にはやはりそういう操作の指導にかかわる人的な体制も整えなければこれは促進されないと思うんですけれども、この点はいかがお考えでしょうか。
- 政府参考人(清水潔君)
御指摘のように、受入れに当たっての支援体制の問題は一つの問題、課題であるというふうに認識しております。
ただ、現実の問題として、正にこういう共用で様々な分野の研究者が、産業界の方も含めて受け入れるということ自体が、ある部分でいえばいろんな知的な新たな基盤、新しい分野の創出も含めて、いろんな意味での融合の場面でもあるという中で、どのように戦略的にそれぞれの大学、研究機関が取り組んでいくかという課題でもあろうと思っております。
もう一つ、私ども、サポート体制の問題としては、是非こういう、ある意味では正に国レベルでの基盤として必要なものというものについては、財政的な支援も含めて、サポート体制の充実のための施策というものも是非検討してまいりたい、このように考えております。
- 井上哲士君
終わります。
- 委員長(中島啓雄君)
他に御発言もないようですから、質疑は終局したものと認めます。
これより討論に入ります。
御意見のある方は賛否を明らかにしてお述べ願います。
- 井上哲士君
私は、日本共産党を代表して、研究交流促進法及び特定放射光施設の共用に関する法律の一部改正案に対する反対の討論を行います。
今回の改正は、これまで構造改革特区内で実施されてきた研究施設、土地の廉価使用条件の規制緩和措置の全国展開であります。
本来、国の研究機関の施設と成果は、我が国及び社会の将来の発展のための基盤であり、科学技術にかかわる知識の集積は国民にとっての知的資産であり、広く社会へ還元されるべきものであります。
今回の廉価使用条件の緩和によって、現行の国の研究と密接に関係し、その推進に特に有益な研究から国の研究と関連する研究へ、また研究結果の還元についても現行の研究の結果や記録を国に提供から研究成果を国に報告へと大幅に後退するものです。
国の研究推進、発展よりも民間企業の使い勝手が優先されており、研究施設や土地の廉価使用によって、本来共有されるべき国の研究成果が民間企業によって独占されたり、国民的な共有の阻害になることになりかねない内容であり、本案に対し反対するものであります。
以上、討論といたします。
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