中国と日本の所得格差の問題の比較について、私の考え方を述べさせていただきます。
ある程度の格差はいいことなんですね。みんなやる気が出てくると。改革・開放前の計画経済の時代の中国は、いわゆる頑張っても頑張らなくても給料は一緒であったと。だから、みんな頑張らなかったんですね。経済発展も非常に低迷して、挫折した時期ありました。その後は、逆に効率を優先という形で、そのおかげで中国は毎年一〇%に近い成長を遂げてきたわけなんですね。ただ、格差もある程度を超えると、幾ら頑張ってもお金持ちにならない、この格差は小さくならないということになると、今度はあきらめが出てきていろいろな問題が発生すると。中国はもう既にこういう臨界点に来ているんじゃないのかなと思います。
日本と比べて、中国人はある意味では、こういう言い方にはちょっと語弊あるんですが、最も社会主義に似合わない人種なんですね。ある意味では、格差には非常に寛容度が高いと。日本は逆なんですね。実際、今、下流社会とか、日本の国内で格差の問題はいろいろ議論されているんですが、地域の観点から比較して、中国の一番豊かな上海と一番遅れている貴州省の一人当たりGDPは十対一です、十対一。日本の東京と沖縄と比較したら二対一なんですね。だから、まだけた外れるくらいほど中国の方が深刻な問題になっていると。
その意味で、胡錦濤、温家宝政権になってから、調和の取れた社会だとか、全面的な小康社会の建設とか、正にトウ小平が今まで提唱してきた先富論、先に豊かになれるところはどんどんなっていいような政策を改めて、公平をも重視するような形に変わってきています。
そのときに参考になる国はどこかといったら、私は間違いなく、まあ言い方またおかしいんですが、唯一成功した社会主義国である日本の経験ではないかと思います。
そのところは私は常に、地域格差という観点から、三つの政策が重要じゃないかと考えています。
一つ目は、国内版FTA、自由貿易協定。中国は国が大きいので、省と省の間にはまだ人、物、金の流れは十分ではないと。いろいろな制約を受けているんですね。特に戸籍の問題もあって、農村部で生まれたら自由に上海に出稼ぎに行けるわけではない。これを改めなければならない。これ調べてみると、日本は明治憲法の中では既にこの労働力の移動が保証されるということになっています。その辺は日本は中国より百年以上進んでいるということになります。
二番目は、国内版の雁行形態といって、雁行形態は本来、日本の古い産業を東南アジアの国々に持っていき、中国に持っていくというのが雁行形態なんですが、国内版という意味は、上海でやっていけなくなった産業は、できるだけベトナムとかインドネシアには持っていかないで中国の内陸部に持っていくべきではないかと。この産業の分散によって、しかも比較優位に沿った形の分散なんですが、工業化が全国規模に広がっていくと。
三番目は、国内版のODAといって、海外から援助をもらうんじゃなくて、豊かになった上海とか沿海地域から援助をもらうべきではないかと。これは正に日本の地方交付税という制度なんですね。この辺は中国にとって非常に参考になるんじゃないのかなと。
この格差の問題がもしうまく解決できなかったら何が問題が起こるかといったら、言うまでもなく、中国経済、中国社会、中国の政治全体が不安定化になるというリスクはあります。中国は日本にとって永遠の隣人ですので、中国が不安になれば日本にとってもマイナスの影響は出てくるでしょうと。
マクロ経済の面でいうと、地域格差が大きいゆえに、一部のぜいたく製品だけは非常に売れているんだけれども、全体で見ると中国の消費が農村部も含めて考えれば低迷しているんですね。低迷しているから、作ったものはどんどん海外に輸出しなければならない、いろいろな形で貿易摩擦が起こっていると。だから、外需依存型成長から内需依存型成長に切り替えるためには、この地域格差の是正がその前提条件になっていると。