日本共産党の井上哲士です。
日本社会と経済は、今様々な事態に直面をしています。その中で、初めての事態として格差の拡大と、もう一つは人口減少という問題があります。この新しい事態が何を必要としているのか、意見を述べます。
格差の拡大について、重要な研究結果が発表をされたと今週の月曜日に一斉に報道されました。二〇〇二年までの十五年間で、所得の格差の度合いを示すジニ係数が三十代から四十代の男女で最大三〇%上昇したというもので、国立社会保障・人口問題研究所が厚生労働省の所得再分配調査のデータを再集計した結果であります。政府は、これまで所得格差を表すジニ係数の拡大について、主に高齢者世帯の増加などによる見掛け上のもので、実質的な所得格差は統計データからは確認できないとしてきましたが、見掛け上だけではなく、現役世代での実質的な所得格差が拡大していることが明らかになりました。
同研究所では、現役世代での格差の拡大は非正規雇用の増加や成果主義への移行が背景だと分析をし、現役世代の格差は今後も拡大する可能性を指摘をしています。実際、この間、中高年へのリストラや新規採用の抑制によって正社員を減らし、派遣やパート、アルバイトなど非正規雇用への置き換えが進められました。この五年間で正社員は二百七十万人減少し、非正規雇用は二百八十七万人増加をしています。全労働者の三人に一人、若者や女性では二人に一人が不安定雇用の下に置かれています。多くの場合、派遣、請負やパートなどの年収は正社員の半分か三分の一程度で、雇用保険や健康保険にも入れてもらえないなど、権利の侵害も横行をしています。そこには、大企業などが正社員を徹底削減し、安上がりで使い捨てやすい非正社員に置き換え、人件費の削減で利益の極大化を図るという戦略があります。
また、政府による労働法制の改悪がこうした事態を加速してきたことも重大です。
参考人からは、こうした職業の不安定化で生活の将来見通しが立たなくなり、幾ら努力しても報われないと思う人が増える希望格差社会だという重大な指摘もありました。
もう一つの新しい事態は、人口減少社会への突入であります。不安定雇用の下にある若者が結婚できないことや、子育て支援の遅れなどの問題など、少子化自体の問題の解決を早急に図ることが必要です。同時に、今後、団塊世代が大量に定年期を迎えることと併せ、労働力が減少し技術力の継承が困難になっていることへの対応が必要です。
以上のような状況の下で、今後の日本経済の活性化にとっては、格差を拡大してきた雇用政策の見直しと、高齢者や女性も能力や経験を生かして働き続けることができる社会の実現が必要であり、そのための法整備を含めた働くルールの確立が求められています。
一つは、人間らしく働くルールの問題です。サービス残業の根絶を含め、長時間労働を是正し人間らしい働き方を確立することは、過労死の横行などの日本社会の異常を正す上でも、新たな雇用を創出する上でも重要です。同時に、派遣やパート、契約などで働く労働者への差別格差をなくし、均等待遇のルールを確立することが求められています。
OECDの雇用アウトルックでは、日本の特徴は、正社員と非正社員の間に大きな格差が存在することにある、有期雇用や派遣労働への規制が過去二十年間にわたり徐々に緩められてきた、その結果、日本はこうした形態の就業への規則がOECDの平均をかなり下回っていると指摘されています。例えば派遣労働者の待遇でも、フランスやドイツでは正社員と同一にするという原則が確立しています。フランスでは、雇用が不安定だからという理由で、正社員よりも一〇%賃金を上乗せすることで均等待遇を確保しています。ドイツでも、派遣労働者と正規労働者の時間当たり賃金を同一にしており、そうすれば派遣会社への手数料を含めれば正社員より派遣社員を雇った方が企業にとって割高となるため、安定雇用の拡大にもつながっております。ヨーロッパにできることが日本にできないはずはないと思います。
日本共産党は、これまでにパート・有期労働者雇用待遇法案も提出をしてまいりました。この中で、賃金、休暇、教育訓練、福利厚生、解雇、退職その他の労働条件で差別扱いしない、均等待遇を保障することを提案をしてきました。派遣についても、均等待遇の確保と派遣先企業での正規雇用への道を広げること、違法行為が横行する業務請負を厳しく監督し、この分野でも均等待遇を図ることが必要です。
もう一つは、高齢者雇用の問題です。
高齢者雇用に関しては、厚生年金の支給開始年齢の引上げに伴い、生計維持のための収入確保、社会保障制度の支え手の確保、経済社会の活力の維持という三つの観点から、六十五歳までの雇用継続をすべての企業に義務付ける改正高年齢者雇用安定法が施行されました。ところが、これに逆行する五十五歳定年制を導入したり、安定した生活ができない低賃金を押し付けるケースがあり、希望者全員の雇用や生計維持という法律の趣旨に背くことがないよう、企業への指導監督の徹底などが必要となっています。
最後に、女性雇用の問題です。
男女雇用機会均等法の施行から二十年、均等法制定当時に千五百四十八万人だった働く女性は二千二百万人を超え、全雇用者の四割を占めています。大学新卒者の就職状況も、ここ二年連続で女性の方が男性を上回っています。新入社員の意識では、役職に就きたいと考える女性の割合も増え、そして子供ができてもずっと仕事を続ける方がよいとした女性も、均等法十年前の世代は一三・三%でしたが、均等法十年後の世代では三七・五%に増加をしています。
問題は、職場の現実がこうした女性の意欲にこたえるものになっていないことです。女性の賃金が正社員でも男性の六八%、管理職の女性比率も約一割にすぎません。仕事と子育ての両立支援も不十分であり、第一子の出産を機に三人のうち二人が職場を辞めています。また、相次ぐ規制緩和の下で既に女性の半数以上が非正社員となり、賃金や労働条件で深刻な格差が新たに生まれています。
先日可決した均等法改正案は、妊娠、出産による不利益取扱いの禁止などで一定の改善もありますが、雇用管理区分を用いた間接差別が温存され、差別を禁止する範囲や対象を限定しているなど、是正のための実効性の点で大変不十分なものと言わざるを得ません。均等法の基本理念に仕事と生活の調和を加え、条件を付けない間接差別の禁止の明記、一定規模以上の企業にポジティブアクションの義務付け、企業に差別の立証責任や権限ある救済機関の設置など、差別の禁止、差別是正を実効あるものにし、女性労働者の均等待遇や平等な雇用をという願いにこたえる一層の法改正こそ求められていると思います。
以上、日本社会が新しく直面している問題に対応した法整備等の問題について意見を申し述べました。
終わります。