2008年 6 月 19 日
質問第一七九号
イラクにおける航空自衛隊派遣部隊の活動及びその地位等に関する質問主意書
右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。
平成二十年六月十九日
井上 哲士
参議院議長 江田 五月 殿
米ブッシュ政権が戦争の大義を偽って開始したイラク戦争の開戦から五年以上が経過したが、この間イラクでは、駐留米軍及び有志連合軍が事実上の占領支配を敷き、「テロとのたたかい」の名のもとに多数の無辜のイラク国民の生命を奪い、その生活に甚大な被害をもたらした掃討作戦をはじめとする軍事作戦をイラク全土で繰り広げてきた。わが国も航空自衛隊部隊(以下「空自部隊」という。)を派遣しイラク駐留米軍(以下「米軍」という。)への輸送協力をおこない、これに加担している。こうした外国軍隊による占領支配は内外で激しい反発を呼び、わが国でも先般、名古屋高裁がこうした作戦による被害の実態を認定したうえで、空自部隊の派遣を違憲とする司法判断を下した。それにもかかわらず、日本政府が空自部隊の派遣を継続し米軍への空輸支援を続け、さらにその実態を国民に隠し続けていることは、憲法九条の平和原則を真っ向から無視する態度であり、言語道断であると言うほかない。
イラクでの外国軍隊の駐留は、国連安全保障理事会決議一七九〇号(以下「安保理決議一七九〇号」という。)による委任の失効を前に、新たな状況を迎えている。米国政府はすでに米軍及び有志連合軍による来年一月以降の駐留・活動の継続の必要性を公に言明し、そのために二国間の取り決めを結ぶべくイラク政府との交渉にのりだしたものの、マリキ首相自身が「米側の要求が…イラクに対する著しい主権侵害であることを確認した」と述べ、国内でも占領の永続化につながるとして激しい反発が広がっていることが報じられるなど、米国政府の駐留継続をめざした動きは早くもゆきづまりを見せている。
こうした状況のなか、空自部隊を派遣し米軍に協力する作戦を実施している日本政府の対応も問われている。
そこで、以下、具体的に質問する。
一 空自部隊による米軍への輸送支援及びイラク駐留多国籍軍の状況について
- 空自部隊はイラク特措法にもとづき多国籍軍の兵士及び物資を空輸する活動をおこなってきたと承知しているが、活動開始から現在までの輸送実績について、輸送回数、輸送した兵士の数、物資の総量を明らかにされたい。
- 多国籍軍に対する兵士・物資の輸送協力実績のうち、米兵及び米軍物資が占める割合をそれぞれ明らかにされたい。
- 国連に対しても人員及び物資を空輸する活動をおこなってきたと承知しているが、活動開始から現在までの輸送実績について、輸送回数、輸送した人員の数、物資の総量を明らかにされたい。
- 輸送協力において、米軍が契約した民間警備会社の傭兵の輸送をおこなったことはあるか。また、イラク特措法上それは可能であるか、見解を示されたい。
- イラク駐留多国籍軍の現在の構成について、軍隊を派遣している国の国名、各国部隊ごとの兵力数を明らかにされたい。
- 多国籍軍に参加し、現在までに撤退した国及び今後における撤退又は兵力削減の計画を表明した国の国名を明らかにされたい。
二 空自部隊の現在の地位、特権免除、及び安保理決議一七九〇号との関係について
- イラク特措法にもとづき実施している航空自衛隊の空輸活動に関し、イラク政府が日本政府に対し当該活動の実施、及びそのための領域・空域の使用について、同意を与えていることを確認できる文書は何か。具体的に示されたい。
- 安保理決議一七九〇号はイラクにおける多国籍軍の活動の委任に言及し、その期限を二〇〇八年十二月三十一日と定めていると解されるところ、現在イラク特措法に基づき米軍への輸送協力をおこなっている空自部隊は、この決議により活動の委任を受けているか。また、この決議でいう「多国籍軍」の一員であるか。
- 二〇〇四年一月二十一日衆議院本会議での小泉総理大臣(当時)の答弁によれば、イラクに派遣される自衛隊部隊は連合暫定当局施政当局命令十七号(以下「CPA命令十七号」という。)のもと、日本の排他的管轄権に服し、イラクにおいて裁判権免除等の特権免除を享受するとされる。CPA命令十七号にもとづく空自部隊に対する特権免除は、現在も有効であるか。
- この特権免除は、多国籍軍に対して適用されるものと解されるところ、空自部隊を含む外国軍隊は、安保理決議一七九〇号による委任が失効した場合であっても、その適用の延長についてイラク政府と新たな合意をすることなく、この特権免除を継続的に享受できるか。
三 安保理決議の委任の必要性及び来年以降における活動継続の必要性の認識について
- イラク政府の要請にもとづき安保理が決定した委任の期限は本年末までである。空自部隊は安保理の委任が失効したもとであっても、米軍への空輸支援活動を継続することは可能であるか。決議による委任が失効すれば、日本政府はこれに代わって、イラク政府より空自部隊による同国内における活動、領域の使用、駐留について新たな同意を得る必要が生じるのか。見解を示されたい。
なお、本質問は、政府が現に実施してきている空自の活動にとって、安保理による委任の存在が不可欠であるかについて政策上の見解を問うものであって、安保理による委任の延長の可能性について見解を問うものでないことに十分留意され、明確に答弁されたい。
- 二〇〇八年四月十日の米上院外交委員会公聴会における米国政府高官の証言によれば、米国政府の認識として、安保理決議が失効した以降もイラクにおける米軍の活動が引き続き必要であり、強力な有志連合軍を駐留させることに強い関心をもっていると言明しているが、日本政府は、来年一月以降も空自の対米軍空輸支援を継続する必要があると考えているか。また、その理由についても明らかにされたい。
- 現在までに米国政府より、空自部隊による米軍への空輸支援の来年以降における継続を求める要望が伝えられているか。また、今後、派遣継続の必要性を判断するにあたっては、空輸支援先であるところの米軍の活動状況と米国政府の要望も判断の要素に含めるか。
- 前記議会証言によれば、米国政府は安保理決議の委任失効後におけるイラク駐留米軍の活動のために、イラク政府との二国間地位協定及び戦略枠組みの取り決めを結ぶための交渉に入っている。日本政府は、来年一月以降空自の活動を継続するために、イラクとの二国間において空自部隊の地位に関する取り決めを検討する必要があると考えるか。また、その取り決めについて、国会承認を得る必要があると考えるか。それぞれ理由についても明らかにされたい。
- 国会審議における累次の政府答弁によれば、空自部隊がイラク特措法にもとづき輸送支援をおこなう支援先であるところの米軍部隊は、安保理決議にもとづき活動する米軍部隊であると解される。イラク特措法は、安保理の委任によらず、米国政府とイラク政府との二国間の取り決めにもとづき駐留し活動する米軍部隊であっても空輸支援の対象とすることを認めているか。
なお、本質問はイラク特措法にもとづく空輸支援の対象となりうる外国軍隊の地位について問うものであり、安保理決議による委任の延長及び米・イラク間の協定締結の可能性について見解を問うものでないことに十分留意され、明確に答弁されたい。
右質問する。
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