2010年11月11日(木)
法務委員会
- 検察の問題の4回目。「検察の在り方検討会議」と検察官の倫理規定の問題で大臣の姿勢を問うた。
「検討会議」の公開や冤罪犠牲者からのヒアリング、取調べの経験についてのアンケートをとることなどを提案。また、欧州諸国にありながら日本にはない検察官の倫理規定について「法的拘束力のある倫理規定が必要だ」と迫る。
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- 井上哲士君
日本共産党の井上哲士です。
昨日初会合が行われた検察の在り方検討会議に関連してまずお聞きいたします。
かつて、名古屋の刑務所で刑務官による暴行事件が起き、当委員会でも随分議論をいたしました。そのときに、やはり大臣の下に行刑改革会議がつくられ、提言も出され、百年ぶりの監獄法の改正も行われたということがあったわけですね。そのときの議論などが今の行刑行政にどう生かされているかというのはまた議論をしたいんですが、私はあの行刑改革会議自体は大変重要だったと、そのときの経験をしっかり生かす必要があると思っております。まず会議の公開でありまして、今回、密室における取調べにおける自白の強要等が問題になっているときに、それを正すべき会議が密室で行われたら、これは全く国民の信頼回復にはならないわけですね。
昨日の会議では、基本的に公開にする方向が確認をされたということで、先ほども答弁があったわけですが、具体的に、例えばあの行刑改革会議のときは、別室にモニターで会議そのものが聞けましたし、顕名の議事録も出され、ホームページに掲載もされました。こういうことはきちっとする、資料の提供も含めて、こういうことの方向でよろしいでしょうか。
- 国務大臣(柳田稔君)
公開の在り方については、検討会議の皆様でいろいろ今議論をされておりますので、私としては検討会議の結論を尊重したいと思いますけれども、昨日も申し上げましたように、公開を基本的にしてほしいということは申し上げております。
そういった中でも、先ほども触れましたけど、個人のプライバシーとか、捜査、公判中の資料とか、そう言われた場合はどうするかという御議論もありますので、最終的には検討会議がお決めになりますが、公開という基本は取っていただけるものだと私は思っております。
- 井上哲士君
そこで、議論する中身の問題なんですが、あらかじめこの現行法の枠内にとどめるということではなくて、法改正が必要になる場合は、それも視野に入れて議論も行われると、こういうことでよろしいんでしょうか。
- 国務大臣(柳田稔君)
今回の事件を受けまして、いろいろなことを議論、検討しなければならないかと私は思っていますし、昨日の一回目の会合の皆さんの御意見も大方そのようなことだったと私は承知いたしております。
そういう意味では、広い範囲にいろんな議論が及ぶかと思いますので、答えは答えとして承りたいと思います。場合によっては法律改正も要るのかもしれませんが、そういう束縛はしないで、自由に広い範囲、議論してもらいたいと、そう思っております。
- 井上哲士君
そうすると、法改正も必要だというような一定の提言というものが出てきた場合にはどういう対応をされるんでしょうか。
- 国務大臣(柳田稔君)
どうなるか分かりませんけれども、皆さんの御意見を賜りながら最終的には判断をしたいと思っております。
- 井上哲士君
議論をすべき中身というのは当委員会でもこの間繰り返し議論になってきたわけですね。なぜ証拠の改ざんが行われたのかということもありますし、同時に、その検察のストーリーに合わせて自白を強要したと、こういう問題がある、そういう取調べの問題がありますね。
村木さんの無罪事件の場合は、大阪地裁は検察側の四十三通の供述調書の任意性を疑って三十四通を証拠として採用しなかったという事態になったわけですね。ですから、こういう、もう大半が却下をされるような自白捜査というのはどういうことだったのかと。この事件だけでもそうですし、それから同様のことはいろいろ指摘をされているわけですね。
そういう取調べの在り方、このことは当然議論の対象になるべきだと思いますが、その点はいかがでしょうか。
- 国務大臣(柳田稔君)
井上議員からもいろいろと以前この委員会で御指摘をいただいております。そういう項目なり議事録なりは我々の方でまとめて検討会議のメンバーの方にお渡しをしたいと思っております。それですので、今日も井上議員のお考えあれば、こういうのもあるんじゃないかと、これもということがあれば、御指摘をしていただければ幸いに思います。
- 井上哲士君
国会のこの間の議事録は資料として配付をするという答弁でしたので、それも確認をしておきます。
この間、議論をされてきた取調べの全過程の可視化とか検察官手持ち証拠の全面開示の問題、それから取調べメモの廃棄にかかわる補足説明文書の作成経緯や内容、それから人事の在り方等々、随分出されているわけでありますから、これは是非、国民を代表して国会でこういう指摘をされているということは是非在り方の会議の中で生かしていただきたいと、しっかり議事録も配付をしていただきたいと、重ねて求めておきますが。
特に、この取調べの在り方などを検証する上で、これもやはり行刑改革会議の経験を生かす必要があると思うんですね。あのときも、たしかメンバーの方の提案もあって、いろんなことが行われております。学者や市民団体はもちろん、受刑者そのもの、それから元受刑者ですね、それから刑務官の方も直接会議に来てヒアリングをされているわけですね。あの自白強要の取調べの実態をつかむという点でこれは私必須だと思っておりまして、是非、冤罪の犠牲者や支援者、弁護団、こういうところからのヒアリングも是非行っていただきたいと思っておりますが、この点はいかがでしょうか。
- 国務大臣(柳田稔君)
議事録をそのまま出すか、もうこういうことだったと書いて出すかは、これは後々判断させてもらいたいんですが、膨大な資料を作っても読んでいただけなければしようがないのでそれは御理解賜りたいと思いますけれども、冤罪の被害者、いろいろと千葉座長とも意見交換をしていますが、多分前向きにお考えになるんだろうと私は思っていますけれども、いずれにしても、これも検討会議のメンバーの御相談の上だと、そう思っております。
- 井上哲士君
議事録の件は、項目だけですとあれで、やっぱりなぜそういう問題意識が出ているのか、そしてどういう答弁を大臣がされたのかということも含めて幅広に分かるものを是非メンバーの方に示していただきたいと思っております。
ヒアリングは千葉座長も前向きだというお答えでありました。是非お願いをしたいんですが、更に広く実情をつかむことも大事だと思うんですね。行刑改革会議は、受刑者をそのまま呼ぶわけにいきませんから元受刑者の方をたしか二人呼ばれたと思うんですね。同時に、現に刑務所にいる受刑者から広くアンケートを取っています。これは二千五百六十二人取っていますね。それから刑務官の方からも、これ多分匿名だったと思うんですけれども、アンケートを取っております。かなりそれでいろんな実態が出てきたわけで、こういう幅広いアンケートということも必要だと思うんですが、この点はいかがでしょうか。
- 国務大臣(柳田稔君)
そのこともお伝えをさせていただきます。
- 井上哲士君
是非徹底した、そういう調査も含めた議論をしていただきたいと強く求めておきます。
この問題を通じて浮かび上がったことの一つに、諸外国には存在する検察官の独自の倫理規程というものが日本にはないということが指摘をされております。まずお聞きしますのは、今現行の検察官の倫理規程というものはどういう現状になっているでしょうか。
- 政府参考人(西川克行君)
委員御指摘のとおり、我が国には検察官のみを対象とした倫理に関する規程等はございません。一般職の国家公務員に該当する検察官には国家公務員法の服務に関する規定が適用されるとともに、国家公務員倫理法、国家公務員倫理規程が適用されるということになっております。
- 井上哲士君
国家公務員法の倫理法、それから倫理規程、それから法務省の職員の倫理規程というのもいただきました。これは、いわゆる利害関係者との不適切な関係を禁じるということが中心なんですね。
検察官というのは、そういう一般公務員とは違いまして、逮捕も取調べも起訴も強大な権限を持つわけですから、それに応じた法的拘束力を持った倫理規程が私は必要だと思うんですね。これがどういう検討をされてきたのかと。
一九九〇年に国連の第八回国連犯罪防止会議というのが開かれておりまして、ここで検察官の役割に関する指針というものが採択をされておりますけれども、まず、この会議には検察や法務省からはだれが参加をされていますでしょうか。
- 政府参考人(西川克行君)
法務・検察からは、当時の根岸重治東京高検検事長が首席代表として参加をしております。
- 井上哲士君
東京高検検事長という大変高いレベルの方が首席代表になり、法務省からは敷田稔法務総合研究所長も代表として参加をされているわけですね。
この検察官の役割に関する指針について、日本はどういう評価をして、この作成、採択に当たってはどういうような対応をされたんでしょうか。
- 政府参考人(西川克行君)
御指摘の検察官の役割に関するガイドラインは、検察官としての必要な資格、その職務上の地位、刑事手続において果たすべき役割、その訴追裁量権などを国連の準則、ガイドラインとして定めたものでありますが、我が国も同会議において、コンセンサスによる採択と、これは全会一致による採択ということで、我が国もこれに参加して賛成をしているということでございます。
- 井上哲士君
これは議論をされた小委員会の議長を敷田氏が務められているということですが、それでよろしいですかね。
- 政府参考人(西川克行君)
そのとおりでございます。
- 井上哲士君
そういう点では、この指針に対して日本がしっかり遵守をし、そして国内的に具体化をするということが求められたと思うんですけれども、この指針、ガイドラインが採択されたことを受け、その後、法務省は国内における具体化についてどういう検討、どういう対応をされてきたんでしょうか。
- 政府参考人(西川克行君)
このガイドラインの内容については、当時、同会議の出席者により法曹向けの公刊物において紹介するなどして検察官等への周知が図られたものと承知をしております。
なお、検察当局においては、公益の代表者として厳正、公平を旨として誠実に執務を行わなければならないこと、予断を排して、積極、消極を問わず、あらゆる証拠を吟味して事案の真相を明らかにすべきこと、刑事手続の適正確保に特段の意を用いるべきことなど、基本的な心構え等について研修や日常の執務等のあらゆる機会を通じて教育指導を行っているものと承知をしております。
- 井上哲士君
当時どういうことを法務省の中で検討したり報告があったかという資料が二十年前だということで出されなかったので、当時の雑誌に出た論文、報告論文は見せていただきましたけれども。
私、この間、この問題で説明にも法務省から来ていただきましたけれども、そもそもこういうガイドラインというものが国連で採択されているということを御存じないと。当時、何か本に書いて紹介したかもしれませんけれども、およそ、法務省の中にはそういう国際水準における検察官の在り方の指針というものがあるということ自身が、少なくとも現在、私の聞いた検察官の方は御存じなかったと、検事の方は御存じなかったというのが実態なんですね。これを具体化をするという議論も今全く出されませんでした。
これ、九〇年といいますと、三つの死刑事件が再審無罪になって、最高検はそれを受けて検証会議もやった後ですよね。ですから、本来、大きな社会問題になって、日本の検察こそこのことを正面から受け止めるということが私は必要だったと思うんですが、およそ、雑誌にちょろっと書いたけれどもその後徹底もしていない、そして何らかの倫理規程などを作るなどの具体化もされていないと、私はそこに今回の一つの大きな根の深さがあると思いますけれども、その点いかがお考えですか。
- 政府参考人(西川克行君)
検察官のガイドライン、知らない職員がいるとしたら非常に不徹底だったというふうに思いますので、研修等で更に徹底させる必要があるというふうに考えております。
- 井上哲士君
欧州各国の検察組織には検察官倫理規程というのがあります。
例えばイギリスでは、検察官の倫理原則についての声明というのが制定されておりまして、その中で、被告にとって有利であるか又は訴追事案の土台を壊す証拠は、法律、開示に関する法務長官指針及び公正な裁判要件に従って合理的に可及的速やかな開示が確保されるよう努めなければならないと。証拠の、ちゃんと開示しなさいと、被告にとって有利であるようなものについても。これちゃんと指針で定められております。
このイギリスのステートメントというのは随時改定をされておりまして、この九〇年の国連の指針もこれも基づいているというふうにちゃんと明記をされているわけですね。
そういうような姿勢が私は日本の検察にも求められていると思いますけれども、なぜ日本はこういう独自の検察官の倫理規程というものについて検討もされていないんでしょうか。
- 政府参考人(西川克行君)
従前の、先ほど御紹介のあった検察官のガイドラインというものの内容については、我が国の法律制度と大きな食い違いはなかったということで、そのガイドラインを特段意識しない日常の指導の中でその中身が盛り込まれていたという実情があるというふうに考えております。
- 井上哲士君
特段意識しない、まさに意識しない実態が今起きているわけですね。
この国連の検察官の役割に関する指針では、捜査で容疑事実が発見されない場合について、訴追の提起及び継続を行ってはならず、法的手続を停止するあらゆる努力をするものとすると、こうなっているんですね。これ検察官に求めているんです。ですから、今回の村木さんの無罪事件における前田元検事の行動というのは全くこの指針に反したことになるわけですね。
それから、さらに指針は次のように定めておりまして、何人に対しても、証拠として採用しないか、あるいは裁判所に相応に通知しなくてはならないと。また、そのような方法を用いたことにつき責任を有する者が裁きにかけられるようにあらゆる措置をとらなくてはならないと。ですから、不正を知りながら半年も放置した同僚検事とか特捜の上司もこういう規定に私は反するに等しいと思うんですよ。ですから、村木さんのこの無罪事件で、こういう検察官の行為が、まさに国連の指針に反するものが行われたと、こういうことはお認めになりますか。
- 政府参考人(西川克行君)
村木事件について、どの時点でどういう後戻りが可能であったかというのは今まさに検証している最中ということでございますので、検証の中にその答えが出てくるものと考えております。
- 井上哲士君
ここで、容疑事実が発見されない場合について法的手続を停止するあらゆる努力をするものとすると、こういうことを求められております。これに全く私は反するものだと思いますが、仮に前田検事が、元検事がフロッピーディスクを改ざんをせず、証拠としても開示をしないということになりますと、偽証明書の発行日と村木さんの指示した日の矛盾というのは表ざたにならなかった、結果としておとがめなしという事態もあり得たわけですね。私は、一般論として、その検察官の、先ほど幾つか言われましたけれども、そういうことではなくて、しっかりこの法的拘束力を持って、求めるということが必要だと思うんですね。
例えばアメリカの場合はどうかといいますと、各州の最高裁判所が検察官を含む法曹全体に対する倫理規程というのを定めております。この中にはこういう規定がありまして、被告人の有罪を否定し、又はその犯罪の程度を軽減する傾向を持つことが検察官に知られているすべての証拠又は情報を弁護側に適時に開示しなくてはならないと、こういう規定ですね。
例えば、二〇〇六年にノースカロライナ州でナイフォング事件というのがありました。この検事が、強姦事件で被告に有利な証拠があったにもかかわらず、その証拠を弁護士に開示しなかったと。このことが発覚をして、この検事は、懲戒手続の結果、法曹資格も剥奪になっているんですね。
日本がどうかといいますと、例えば志布志事件で、検察官は警察などが調べた取調べ小票から被疑者のアリバイ成立の可能性を認識したはずなのに、この取調べ小票の証拠開示にすら応じずに有罪の立証を進めたわけですね。ところが、にもかかわらず懲戒処分にすら付されていないわけです。
ですから、アメリカの場合は、被告に有利な証拠を隠したら、これは場合によっては法曹資格の剥奪まで行くのに、これ全く日本の場合は、こういうこと、この事件では懲戒処分にすらされていないという事件になっているわけですね。
この志布志事件を見ても、そしてあの富山の冤罪事件、今回の改ざん事件など連続していることを見れば、やはり我が国にも警察官の行為規範となるような、法的拘束力を持った検察官の倫理規程というものを、これまではなくてもよかったと局長は言われましたけど、これだけ相次いでいるわけでありますから、これは私は絶対必要だと思いますけれども、これ、大臣のお考えをお聞きしたいと思います。
- 国務大臣(柳田稔君)
井上先生の御議論を聞いていまして、なるほどなと思う点もございます。検討会議の方にお伝えをして、議論をしていただけるようになろうかと思っております。
- 井上哲士君
この問題に限らず、日本の刑事司法は、国際会議などでも自白偏重とか人質司法とか批判をされてきました。
二〇〇八年の自由権規約委員会の総括所見でも、取調べの全面可視化とか、それから代用監獄の廃止というのが勧告されておりますし、代用監獄の廃止については、これが自白強要の温床になっているということで国連の拷問禁止委員会からも勧告を受けているわけですが、監獄法の抜本改正のときにも結局この代用監獄は残ったというのが実態なわけですね。
私は、やっぱり、今までは日本と諸外国の法制度が違うとか、刑事司法の在り方が違うとかといって、なかなかこういう国際的な指摘を正面から受け止めてこなかったと思います。こういうことを今やっぱり直視をして、全体として検察の在り方を見直す。これはもちろん在り方検討会議でも議論をしていただきたいし、これはやっぱり大臣自身が、法務省自身がこういう国際的な指摘を改めて受け止めて検討すべきだと思います。その点での御決意も最後にお聞きをしたいと思います。
- 国務大臣(柳田稔君)
私だけではなくて、ここに座っています三人でいろいろと議論をさせていただきたいと思います。
- 井上哲士君
終わります。
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