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2011年5月19日(木)

法務委員会

  • 民法等改正案の参考人質疑。中田氏が家族法の研究者の立場から、才村氏は児童福祉の研究者の立場から、青葉氏は里親としての子育ての現場からそれぞれ意見をうかがう。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 三人の参考人の方、本当に貴重な御意見ありがとうございます。

 まず、中田参考人にお聞きいたします。

 今回、親権に子の利益のためにということが書き込まれましたけど、一方で懲戒権が残ったということもありました。法制審などではなくせという声がもう圧倒的に多かったわけでありますけれども、これをなくすと必要なしつけもできなくなるというような誤解も生じるというようなことも言われて残ったわけですね。

 まず、監護、教育という言葉で十分にしつけが全部私は含まれると思うんですが、そこに監護、教育の概念に入らないようなしつけがあるのかどうか、その辺、学界の動向も含めてお教えいただきたいのが一つと、それから、少なくとも私の周りには、親には懲戒権というものがあって、それでしつけしているんだなんて考えているような人には私は直接会ったことないんですね。保育園の保護者会運動とかいろいろやりましたけど、ないんです。

 ですから、これをなくせばしつけができなくなるという懸念という言葉がよくあるんですけど、そういうことが何か具体的に示されているような統計であるとか調査とかそういうものがあるのかどうか、それも教えていただきたいと思います。

委員長(浜田昌良君)

 中田参考人でよろしいですか。

井上哲士君

 中田参考人です。

参考人(東京大学大学院法学政治学研究科教授 中田裕康君)

 懲戒については、先ほども申し上げたこととも関連するのですけれども、学界の一般的な見方というのは、懲戒権というのをなくしても監護、教育の中で必要な部分は読み込むことができるからわざわざなくてもいいのではないかというのが多分多いのだろうと思います。

 親に懲戒権があると思ってしつけているわけではないというのも、それもおっしゃるとおりでして、ただ、具体的な統計などについては私は持ち合わせておりませんけれども、ただやはり伝統的に、さっき申しましたとおり、親権という概念が親の権力であるというイメージがかつてはあったわけでして、そうすると懲戒権というのはごく自然に出てくることではないかと思います。それは、旧民法の前の草案の段階から懲戒権というのはもう高らかにうたわれていたわけです。

 それが、親権の概念が変わってきた今において、親権の中で懲戒権というのがわざわざ強調するようなことではなくて、監護、教育の一環として位置付けるだけで足りる、むしろ体罰をしてはならないと、子供は暴力によらずに教育される権利を有するというように、ドイツのように書く方がいいんじゃないかというのが私たちの研究会で出た案ですし、私もそれがいいなというふうには思っております。

 ただ、今回の改正について申しますと、しかしいろんな御懸念もあるでしょうから、その懸念を今後解決していく課題として残しながら、しかし今回やはり大きな一歩であったと評価したいということでございます。

井上哲士君

 ありがとうございます。

 先ほどの意見陳述の中で親権の一時停止について触れられたときに、再審判とのつなぎ方が大事だというふうに言われたんですけれども、このつなぎ方というのは具体的にはどういうことを言われているのか、もう少し詳しくお願いしたいと思います。

参考人(中田裕康君)

 今回は更新制度を取らなくて、新たな請求をし、新たな審判をするということになっていると思います。そうすると、例えば二年が過ぎる辺りのところで、一体どのタイミングでその申立てをすればいいのか、それについての審理期間がどのぐらい掛かるのか、もしすき間が空いたらそのすき間の部分をどういうふうにして埋めたらいいのかというようなことがもう実際には問題になってくるのではないかと思います。

 あるいは、その前の審判の資料などは、新しい審判になったらば別のものになるとは思うんですけれども、どうやってそれを活用できるのか、あるいはできないのか。それから、その二年間の期間中の実態というのをどうやって反映しているのかというのが、特に再度の請求のときにはいろいろ考えておくべきものがあるかなというふうに思った次第です。

井上哲士君

 ありがとうございました。

 次に、才村参考人にお聞きいたします。

 児童相談所におられたこともあって、大変現場の生々しいお話も聞かせていただきました。全体として人手不足ですけど、やっぱり児童相談所に一番の矛盾が集中していると思うんですね。先ほどの資料の中で、非常に消耗感が高いというのも出ていましたけど、割と福祉現場の人は、そういうことはあっても達成感があるから何とか頑張っていらっしゃるということが多いんですが、児相の場合に達成感が低いというのが七二%というのも、やっぱり大変深刻だなということを改めて今思いました。

 その一つは、やはり、青葉参考人が先ほど城壁と言われました。才村参考人もあるテレビで鬼になるというようなことを言われたこともあると思うんですが、やはり親の同意なくとも相談所長の権限、判断で一時保護もできるという大変大きな権限もあるわけですね。常日ごろ敵対的な場面もあると。今回、それが更にその権限が強化をされたわけですから、私はやはり適正手続というのが非常に大事になってくると思うんです。

 従来から、こういう一時保護等に司法が関与するべきだという議論があります。ただ一方で、今の体制ではなかなかできないという現状もあると思うんですが、方向としてはこういうことが必要というふうに思われるかというのが一つ。

 それから、今回、二か月以上、もう一度二か月を超えて一時保護する場合には児童福祉審議会の意見を聴くということになりましたけれども、これの評価、それからこれをうまく機能する上でどういう運用などが必要とお考えか、この点をお願いいたします。

参考人(関西学院大学人間福祉学部教授 才村純君)

 まず、一時保護の司法関与の問題でございます。

 ただ、まず児童相談所、おびただしいケースを抱えていますので、なかなかこの手続が極めて膨大になるだろうという懸念はございます。

 子どもの権利条約につきましては、やはりこの親権者の同意なしの分離というのは認められない、そういう場合、司法関与させなければいけないということで、本来は司法関与が必要だという考え方もできるとは思います。しかし、今申し上げたように、現実問題、今の児相の体制で業務量が膨大になるだろうということと、やはり緊急保護、しかも原則二か月という短期保護というところであれば、今はやはり司法関与をするというのは時期尚早ではないのかなと。これはちょっと将来にわたる検討課題になってこようかなというふうに思います。

 それと、今回の改正案で、二か月を超える場合の一時保護について、これは児童福祉審議会等の意見を聴かなければいけないという仕組みが盛り込まれています。これも、二か月を超える事案というのは、それこそいろいろとありますので、なかなか一概には言えないと思うんですが、ただ、その先の見通しがない中で、いつまでも宙ぶらりんな状態で一時保護がなされるというのは、その子供の利益を考えた場合にやはり問題であろうかと。だから、そういう意味で、この二十八条申立てを除く一時保護については、そういう第三者機関である児童福祉審議会の意見を聴くというふうにされたことは非常に妥当ではないかというふうに思います。

 ただ、適正な実施を図るにはということなんですが、これも専門委員会の中で議論があったんですが、今の児童福祉審議会にどこまでそういう専門性とか実質的な中身が期待できるのかと、そういう議論もありました。確かにそういった面も否定できなくはありませんので、やはりこの児童福祉審議会の運営の在り方について今こそ問われているんではないか、そういう問題意識が必要ではないかというふうに考えております。

井上哲士君

 ありがとうございました。

 才村参考人と青葉参考人に更に聞くんですが、いろんな問題を抱えたときに対して家族の再統合ということが大変大事だと思うんですが、最近の月報司法書士に才村参考人が書かれたのを読んでみますと、家族再統合に向けて援助が行われているのは児童養護施設では八・九%と極めて低調であるというふうなことが書かれておりました。体制の問題が非常に大きいんだろうと思うんですが、先ほどあったように、児童相談所が一方で家族に対しては鬼の顔を見せながら、一方で援助をするという根本的矛盾があると思うんですね。例えば、担当するところのライン、部署を全く分けてしまうというやり方もあれば、全く違う機関をつくるということもあろうかと思うんですが、そういうことについて才村参考人どうお考えかということと、それから、この問題で厚労省が数年前にガイドラインを作ったということがあるんですが、その実効性というんでしょうか、まだまだこれは研究途上だと思うんですけれども、その辺をどのように評価をされているかということです。

 青葉参考人にも同じように、このガイドラインの評価も含めまして、家族の再統合という点でどういうことが今課題で求められているのか、それぞれお願いしたいと思います。

委員長(浜田昌良君)

 まず、才村参考人、お願いします。

参考人(才村純君)

 今委員御指摘のように、家族再統合に向けた援助というのは極めて低調で、そういう状況の中で、子供たちは家庭復帰の見通しがない中で長期の施設生活を余儀なくされているというのは事実でございます。

 その要因として三つ考えられるのではないか。一つは、御指摘のように体制の問題であります。これは先ほど申し上げてきたところです。二つ目は、やはり技術的な要因ですね。つまり、家族再統合の必要性は重々承知しつつも、じゃどうすれば家族再統合に至るのか。これはなかなか簡単なわけではございません。技術論として確立されていないというのが二つ目の要因です。三つ目が、いわゆる児童相談所は鬼の面と仏の面があって、非常に相矛盾する機能を担っている。したがって、最初の時点で職権で保護して親と熾烈な対立関係を引き起こせば、その後なかなか援助に持っていきにくいという問題があります。そういう意味で、やはり強権の部分と援助の部分、それぞれ機関を分けたらいいんではないかという議論があることも事実です。

 ただ、そうはいいましても、これはもう現場の方から最近よく言われるのは、やはり雨降って地固まるじゃないですけど、最初は熾烈な対立関係があるけれども、一歩も揺るがない、そういう中に児童相談所の職員の誠意を見てかえって強い信頼関係ができる、そういうケースがむしろ多いんではないか。これは、我々も実際そういう調査をしたんですが、データの面でもある程度裏付けられているんですね。したがって、その権能を機関によって分離させるということについては、かなり慎重な議論も一方で要るのかなと。

 ただ、いずれにしましても、今回、親権の一時停止制度、これが導入されたことによってその部分はかなり突破できる、そういう期待もできるのかなというふうに思います。つまり、その二年の中で何をすべきなのか、いろんな約束を課す。そのことで、もちろんそれが達成されなければまた更に再度親権停止ということになるわけですから、それを圧力にしながら親を説得していく、そのことで一つは期待もしたいなというふうに考えております。

委員長(浜田昌良君)

 青葉参考人、お願いします。

参考人(財団法人全国里親会運営委員会委員 青葉紘宇君)

 親子の再統合の問題ですけれども、私の生活経験の中で見ている限り、親子というのは切れないなという印象です。どれほどけんかしても、どれほど対立していても、ある程度のところで一瞬にして氷が解けるといいますか、恨みつらみが恩讐のかなたに消え去るときが大体ありますね。そういうことで、だから、再統合を諦めてはいけないと思っています。

 これが、ただ、いつどういうふうに現れるかというのは人間の力を超えているような感じがしておりまして、我々大人としては準備はしておくけれども、どこでそれが現れるか、これはもう十年、二十年というスパンで、三十、四十になって親子関係が解けるかも分からないし、そこは期待していきたいと思っております。

 まあ、そんなところでございます。

井上哲士君

 ありがとうございました。


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