2012年3月28日(水)
法務委員会
- 裁判員裁判の評議で公判の速記録が必要だという裁判員経験者や弁護士会の声を紹介し、速記官のみなさんが開発してこられた電子速記のシステムの活用を求めました
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- 井上哲士君
日本共産党の井上哲士です。
裁判における逐語録と裁判所速記官の問題について最高裁にお聞きいたします。
横浜地裁で、先月、刑事事件の訴訟記録の写しとともに法廷で録音された供述や証言などの録音データを記録したDVDが反訳業者への発送の途中で所在不明になったという事件がありました。まず、この経緯そして対応について、いかがでしょうか。
- 最高裁判所長官代理者(戸倉三郎君)
お答えいたします。
三月八日、横浜地方裁判所の刑事事件におけます証言等の音声データが入りましたDVD及び反訳の参考となる起訴状、冒頭陳述の写し等の関係書類入れた封筒を、これは収納容器に入れまして運送業者に託したわけでございます。この運送容器は口をファスナーで開閉する仕組みでございますが、これが翌日、反訳業者に届いた際には、その中身である関係書類あるいはDVD等が見当たらないと、こういった連絡を受けたところから、在中の書類等の所在が不明となったということが判明したところでございます。
これが、途中のどの段階でどのようにしてこれが不明になったかということは現在調査中でございまして、今時点ではまだ明らかになっていないわけでございますが、ただ、この収納袋で発送する際には、本来ファスナーを閉めまして、そのファスナーの引き手の穴とその収納袋に固定されたリングとを南京錠で連結して施錠し、ファスナーを開くことができない状態にした上で発送する、こういったことになっておりますが、これは反訳業者からの報告によりますと、本件では収納袋のファスナーは開いた状態であり、また南京錠は収納袋のリングにのみ掛かり、ファスナーの引き手とは連結されない状態であったということでございます。
こういった状態からいたしますと、この書類等の発送時に収納袋の施錠が適切に行われていなかった可能性が高いわけでございまして、横浜地方裁判所といたしましては、職員に対し、改めて確実な施錠の実施など、情報の厳重な管理につき指導を徹底したところでございます。
また、最高裁判所といたしましても、引き続きこの録音、反訳資料の厳重な管理については、今後とも事あるごとに周知してまいりたいというふうに考えているところでございます。
- 井上哲士君
あってはならないことでありまして、そもそも外部の反訳業者に外注しなければ起きないことでもあるわけですね。
参議院でも、前はいた速記の方がいらっしゃらなくなりましたが、これは別室で画像と音声を聞いて今もやっていらっしゃると思うんですが、パソコンに取り込んで、音声速度が調整できるソフトを使用して速記を作っていらっしゃるわけで、いずれにしても、これは外注は国会はしておりません。ですから、逐語録作成の在り方というものはもう一回見直されるべきだと私は思うんですね。
その関係で、二〇〇四年の裁判所法改正の際に、政府及び最高裁判所は、本法の施行に当たり、裁判員制度導入も展望しつつ、逐語録に対する需要に的確にこたえられる態勢を整備するとともに、裁判所速記官が将来の執務態勢及び執務環境について不安感を抱くことのないよう十分な配慮をすべきであるという附帯決議を私ども付けました。
この裁判員制度の評議における逐語録というのはどういう取扱いになっているでしょうか。
- 最高裁判所長官代理者(戸倉三郎君)
お答えいたします。
裁判員裁判は、原則として連日開廷されるわけでございます。その裁判員裁判の審理は、法廷におきまして裁判員が理解していただけるよう目で見て耳で聞いてすぐ分かる審理が行われる。その上で、記憶が鮮明なうちに審理が進められまして、結審後、速やかに評議が行われ、判決が宣告されると、こういった審理、評議の進め方が予定されておるところでございます。
したがいまして、この評議の過程におきまして、逐語録という紙ベースの情報ということに関しましては、こういった逐語録の供述調書を用いて証人等の供述内容を確認する必要性は低いものと考えられております。また、裁判員に大部な紙ベースの調書を読んでいただくということは、またこれは非常に過大な負担でございまして、必ずしも現実的な方策ではないというふうに考えるところでございます。
そのため、評議におきますいわゆる証言等の確認の方法ということにつきましては、これは裁判所で開発いたしました音声認識システムを用いまして、証人の供述等を録音、録画いたしまして、評議が必要がありますと、その認識した文字データを言わばインデックスとして利用することで証人の供述等を効率的に検索し、速やかに映像及び音声で供述内容を再現できると、そうして確認していただくと、こういった体制を取っているところでございます。
- 井上哲士君
私たちも、国会のいわゆる分かりにくい官僚答弁を聞きまして、幾ら音で聞いても分からないけれども、速記録で読むと分かるというケースは随分あるんですね。
裁判員制度でも、やはり速記官の立会いによる正確、迅速な速記録で目で見たいという要望は随分聞いております。例えば、法律関係の雑誌に裁判員を務めた法律事務所職員の方の経験談が掲載されておりましたけど、尋問中心の証拠調べはメモが全てで、メモを取らない人は記憶のみだと。当然、誰もが同じ情報量なわけではないので、調書が今すぐにでも上がればなと、こういう感想を持ったと、正直思ったということが書かれておりますし、裁判員制度導入に前後して、いろんな弁護士会からも声が上がっております。手元、私持っているだけでも、埼玉、大阪、兵庫、奈良、和歌山、大分などで会長声明等が出されております。
例えば、兵庫の総会の決議、弁護士会の総会決議は、録音反訳方式については、正確性やプライバシー保護などについて懸念があり、調書の完成までに日数が掛かることや、誤字、脱字、訂正漏れ、意味不明箇所が目立つなどの問題も指摘され、審理にも少なくない影響を与えていると思われる。また、裁判員裁判については、今言われた音声認識システムは誤変換も多く正確な記録にならないことや、DVDでは一覧性や速読性がなく、審理や訴訟準備に利用しにくいなどの問題が報告されている。裁判所が正確で迅速な文字化された供述記録を作成しないため、裁判員は自分の記憶と自分の作成するメモにしか頼れない状況になっていると、こういう指摘もされております。
私は、こういういろんな当事者の声にしっかり耳を傾けるべきだと思いますが、いかがでしょうか。
- 最高裁判所長官代理者(植村稔君)
お答えをいたします。
先ほどの総務局長の答弁と一部重なるところがあることは御勘弁ください。
裁判員裁判では、裁判員の方々に法廷で直接証言を聞いていただいたり、あるいは被告人の供述を聞いていただいたりして、その場で心証を取っていただくということでやってまいっております。そのために、証人尋問について言えば、検察官あるいは弁護人に争点に即した分かりやすい尋問をお願いしているというところでございまして、当事者の皆さんもそのように尽力していただいていると思っております。
そして、裁判員は、単に証人が答えた内容そのものだけではなくて、その口調でございますとか表情でございますとか、あるいは質問に対して口ごもったことがあればその様子とか、そういった現に法廷で起きたいろんなこと、これも総合いたしまして、その証人の証言が信用できるのかどうなのかというのを判断していただいているということでございます。
ということでございますので、私どもとしては、先ほども申し上げましたけれども、そういう証拠調べに続きまして裁判員の記憶が比較的鮮明なうちに審理が進められて、結審後、速やかに評議が行われておりますので、評議の過程におきまして改めて文字情報としての調書を用いて供述内容を確認する必要性というのは低いと思っております。
万が一確認する必要がある場合には、先ほど申しましたように音声認識システムの検索機能で十分対応ができているというふうに考えております。
- 井上哲士君
見て、聞いて、分かる裁判をすることと正確、迅速な記録に基づいて評議をしたいという要望にこたえることは決して矛盾しないんですね。現に先ほど挙げましたようにこういう声が出ているわけですから、必要性が低いと決め付けるのではなくて、きちっとこれにやっぱりこたえていただく必要が私はあると思うんですね。結局、速記官養成をやめたという、そういう決定にどうもしがみつかれて、その辺の有用性を正確に見ていらっしゃらないんじゃないかという気が私はしてなりません。
速記官の養成停止の理由の一つは速記タイプの製造中止がありました。しかし、その後、速記官の皆さんがアメリカにも行かれまして、ステノグラフ社に電子速記タイプライター、いわゆるステンチュラの製造依頼をされ、一九九九年から個人輸入を開始して、今もう九割以上の速記官の方が使っていると聞いております。もう多くの皆さん御存じのように、これはコンピューターを内蔵しておりまして、速記符号を電子化をする、それをパソコンに取り込んで直ちに日本語に反訳できるという「はやとくん」というソフトと結合をして日本語の調書を作成をしております。
最高裁が認めないということで、四十万ぐらいする機械を個人輸入をされてきているわけですが、二〇〇一年には法廷への持込みを認められ、二〇〇四年にはこの「はやとくん」のパソコンへのインストールも認められております。速記官の皆さんの大変な努力や研修によって大体もう九八%ぐらいの反訳の精度でありますし、リアルタイムの速記もできる。非常に正確で、しかも、記録作成の効率化、裁判の迅速化に非常に大きな貢献をしていると私は思いますが、最高裁としては、この有用性についてはどういう評価をされているんでしょうか。
- 最高裁判所長官代理者(戸倉三郎君)
お答えいたします。
今委員が御指摘のように、現在の速記官の多くの者がステンチュラというコンピューター内蔵の速記タイプを使用し、あとは反訳ソフトである「はやとくん」を利用した反訳を行ってきておるところでございます。
裁判所といたしましては、速記事務につきましては、従来長年使用されており、その性能が確認されております速記タイプにより問題なく速記事務を行うことができるという認識ではございますけれども、速記層から私費で購入したステンチュラを是非とも使いたい、あるいは「はやとくん」を使用した反訳を行いたいということの強い要望がございましたので、そういった要望を受けまして、私どもといたしましては、法廷での通常の使用に支障がないか、あるいは、ソフトにつきましては裁判所システム環境に悪影響を与えないかといった観点に限った検証を行った上で、法廷での使用あるいは裁判所のパソコンへのインストールを認めたと、こういう経緯でございます。
そういったところで見ますと、少なくとも速記官の立会い状況あるいは速記録の作成状況を見ますと、これらステンチュラや「はやとくん」による速記事務の内容あるいは速度につきましては、これは十分適正に行われてきておるものだとは認識しておるところでございます。
しかしながら、先ほど申し上げましたように、更にどの程度効率化できるかといったところになりましては、先ほど申し上げました検証では行っていないところでございまして、しかも、事務の効率化ということになりますと、速記官の立会い時間の問題といった勤務条件といった問題にも絡んでまいります。こういった面では、かつて速記官には書痙症等の障害が頻発したということもございまして、職員の健康管理の面からも綿密な検証は行う必要があるところでありまして、現時点ではこういった検証が行われておりませんので、このステンチュラ等が速記事務にどの程度の効率化の効果を上げ得るものかということはちょっとお答えするのが困難であるということでございます。
- 井上哲士君
検証してくださいよ。ずっと、してくださいと言い続けているんですから。
そして、今、頸肩腕症候群のことなど言われましたけれども、ステンチュラという機械は非常にタッチも軽くて、その防止のためにも有用だというのもはっきりしているんですね。
これもう個人輸入の開始から十年たちまして、買い換えるということが必要になってきております。是非最高裁として官費で買ってほしいと、こういう要望が出ておりますが、在庫がたくさんあるというような理由でどうも断られているということをお聞きをいたしました。これは一番新しいものでももう十一年前のものなんですね。昭和時代の製造というものもありますけれども。財務省の省令を見ますと、これ最高裁も一つの目安とされておりますが、パソコン四年、コピー機、デジタル印刷機が五年、大体事務機器で最高でも十年というのが耐用年数となっていますが、なぜ速記タイプについてはそういう古いものを使えということになるんですか。
- 最高裁判所長官代理者(林道晴君)
お答えいたします。
今委員から御指摘いただきましたのは、減価償却資産の耐用年数に関する省令というものを前提に御質問いただいたと思っております。
裁判所では、速記タイプに限らず、パソコンやコピー機といった事務機器一般についての一律の耐用年数というのは定めておりません。ただ、今委員から御指摘いただきました省令の耐用年数を一つの目安にして運用しているという面があるのはおっしゃるとおりだと思いますが、速記タイプに限らず既存の備品については、個々の機器の状態あるいは稼働状況等に基づきまして、使用に耐え得るものかどうかということを個別に判断した上で更新しておるということで、その点は速記タイプも同様だと思っております。
- 井上哲士君
電子機器と比べて機械壊れにくいんですよ。使用に耐え得るということでいいますと、例えばそろばんなんていうのはうんと長いこと使えるんですね。しかし世の中、事務機器は進歩しているんです。アナログからデジタルの時代になっています。最高裁はIT予算、大体年間五十億円ぐらい使っているわけですね。壊れていないから古いタイプライター使いなさいというのは、そろばんの在庫があるから電卓が普及していても使いなさいと、こう言っているようなものだと思うんですね。
しかも、このソクタイプの場合というのは、速記記録がテープで出てきます、そのテープを見ながらもう一回日本語を打ち直すという二度手間になるわけですよね。ステンチュラと「はやとくん」は皆さんが努力をされて、キーを打てば自動的に日本語になると、こういうシステムを確立をしてこられたわけですよ。ですから、ステンチュラからソクタイプに戻れというのは、電卓からそろばんどころか、もうエクセルからそろばんに戻れみたいなものなんですよ。
私は、こういうことを速記官の方に言われるということは、この間ずっと努力してきたことを否定されるような思いを持たれるかもしれません。本当に働く人々の誇りを奪って、意欲を失いかねないことだと思うんですね。
先ほど附帯決議を読み上げましたけれども、そういう不安感を抱くことのないよう十分な配慮をすべきという附帯決議にも私は反すると思いますし、元々、この養成停止をしたときの事務総長談話では、今後とも働きがいのある職場づくり、環境づくりを進めていきたいので、速記官の方々には安心して職務に精励してもらいたいと、こう述べておるわけですね。やっぱりこの立場に、私は、そういう古い機械でやれというのは反すると思いますけれども、いかがでしょうか。
- 最高裁判所長官代理者(戸倉三郎君)
速記官としてその職務を全うすることを希望している方々につきましては、最高裁判所としても、その能力を十分発揮して速記官としてやりがいを持って執務に臨んでいただくと、そういう必要があるということは我々も重々に認識しておるところでございます。その関係で、現時点でも希望される方には十分な速記業務に関与していただきまして、現時点でも全ての逐語録のうち三割は速記官によって担っていただいておると、そういう状況にございます。
ただ、先ほどのステンチュラの問題につきましては、これは私ども先ほど申し上げたとおり、その導入を認めた経緯ということからいたしましても、決して私どもが、そろばんでやれという意味ではございませんけれども、現時点におきましても速記タイプによって速記事務を行うことが十分可能であると、その執務時間あるいは立会い時間も速記タイプによって行うことを前提にしたところはステンチュラを使うことになった段階においても変えていないわけでございます。
そういう意味で、じゃ、立会い時間の効率化を行いながらステンチュラを導入できるかということになりますと、先ほど古い機械がまだあると、古いが使える機械がありながら高価なステンチュラを買うことが予算の執行として適正かという問題があるほか、やはり効率化に応じた立会い時間の増加を図ることが健康管理上問題がないかといった様々な検討課題があるところから、現時点では総合的な政策としてステンチュラを買うということにはなっていないわけでございます。
ただ、この附帯決議もございましたし、速記官のやりがいということに我々も十分配慮をいたしておりまして、これまでも速記官との間で様々な機会に速記事務全般に関する意見交換などを行ってきておりまして、速記官の要望等も踏まえつつ、他の備品の整備であるとか研修の充実などは十分配慮してきております。こういった努力につきましては、今後とも引き続き継続してまいりたいと考えておるところでございます。
- 井上哲士君
私どものところにたくさんの速記官の皆さんから手紙が来ていること自体が、やはり不安を広げているという証左なわけですね。
結果としては、消耗品からメンテナンス代、そしてこの個人輸入したステンチュラのお金で、大体この間で約一億一千五百万円、速記官の皆さんが自分たちでやっていらっしゃると。これをこれからまたずっと続けていくことになるんですよ、もう一回自分たちで買えというのは。私は、これはやはり附帯決議にも事務総長談話にも反すると思います。
今お話ありましたけれども、もう一回確認しますけど、やっぱりこういう皆さんの声にしっかりこたえて、十分に声を聞き、真摯な話合いを更に行うと、そのことは是非約束をしていただきたいと思います。
- 最高裁判所長官代理者(戸倉三郎君)
委員御指摘のとおり、これまでもやってきたと同様に、速記官とは十分な意見交換を行いながら、その執務環境を整備するといったことに努めてまいりたいというふうに考えております。
- 井上哲士君
終わります。
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