参院選で4選を目指す日本共産党の井上さとし参院議員・参院国会対策委員長(比例代表)と「市民連合」呼びかけ人の広渡清吾・東京大学名誉教授が対談。参院選での市民と野党の共闘で、自民・公明などの改憲勢力を少数に追い込むとともに、安倍政権を打ち倒して新しい社会を切り開くための展望について語り合いました。
歴史的深刻さ生む安倍改憲
井上 あけましておめでとうございます。
広渡 おめでとうございます。
井上 先生は京都大学法学部出身で、私の大先輩にあたります。
広渡 ちなみに法律相談部で、吉田神楽岡で下宿していました。東大教職員組合から杉村敏正先生の府知事選の応援にも行きました。
井上 そうでしたか。先生には2015年の戦争法案審議の際の横浜市での地方公聴会に公述人で来ていただきました。「安倍政権のやり方をどう思いますか」と聞いたら、「反知性主義」と即答されました。
まさにそうで、歴史的事実や学者が積み上げた見解を無視する。その姿勢で戦争法を強行したことが、その後、行政の私物化や、隠蔽(いんぺい)、改ざんが政権全体に蔓延していくことにつながったと思っています。
広渡 最近の安倍首相は、相手を言いくるめたり、自分が語る内容の上だけでつじつまを合わせればいいという国会答弁を行っており、誠意がない。つまり、誠意と知性がない。
井上 安倍政権の政治モラルの劣化は底なしで、憲法も私物のように扱っています。
広渡 昨年は明治150年でした。明治から現在までを考えると、現憲法の制定前後では違う社会だといえます。
安倍改憲が強行されると、戦後の時代も2つに分かれてしまうような重大な事態だと思っています。この歴史的な深刻さをもっと訴えなければと思います。
野党が新しい社会像を/広渡さん
野党連合政権へ本気の決意
井上 昨年の臨時国会は、かつてないひどさでした。ごく短い審議で次々と悪法を強行する。憲法審査会も与野党の合意のないまま職権で強行しました。しかし、自民党改憲案の提示はできなかった。やっぱり3000万署名の力は大きくて、国民の声を背景に野党が「安倍改憲は許さない」と結束しました。
広渡 安倍政治を倒すために、市民と野党の共闘に取り組んでいるわけですが、昨年11月28日に市民連合と野党のシンポジウムが開かれました。
野党は、国民生活をいかに守るかを中心に話されたと思いますが、同時に安倍政権では絶対に実現できない新しい社会をつくるという話をもっとすべきです。それが無いと展望が見えてきません。新しい社会の中には政府が絶対しないという核兵器禁止条約の批准があります。
井上 私は被曝2世で、国連での核兵器禁止条約の成立に立ち会いました。条約批准を立憲民主党は外交・安全保障政策に盛り込んでおり、他党も批准に前向きな発言をしているので、ぜひ野党の共通政策にしたい。
広渡 原発問題でも原発依存からの転換の展望を示した上でエネルギー政策を論じるべきです。消費税増税も話題となりました。
井上 消費税も、将来については立場が違っていても、今の経済状況で上げるべきでないという新しい一致点ができています。原発でいうと4党で原発ゼロ基本法案を提出しています。
17年の総選挙では市民連合と野党の共通政策に沖縄の基地問題はありませんでしたが、昨年9月の沖縄知事選では立憲野党がそろって玉城デニーさんを推しました。
16年参院選のときには、個人の尊厳を擁護する政治の実現を市民連合が強調し、5野党全体の認識になりました。これは憲法の「きも」で、LGBTの人権保障を求める動きも広がっています。
広渡 その通りで、憲法の核心の一つは、社会契約論的人民主権で、つまり、一人ひとりの人民の自由と権利を擁護するために国家をつくり、その国家を運営するために憲法をつくるということです。自民党改憲案と安倍政治は反対で、まず国家ありきで、国家を守ることが何より重要とされています。
井上 この問題は、強行した入管法改定でも表れましたね。
広渡 結局、経済界のニーズに応えるためだけで外国人労働者の個人の尊厳は全く無視されています。政策を論ずるときに個人の尊厳は根本にあるべきで、これを具体化する政策が安倍政治に変わる新しい社会のイメージですね。
井上 本当にそう思います。
広渡 昨年のシンポでは、夏の参院選の全1人区での候補者1本化をあらためて確認しました。これは最低条件で、安倍政治を終わらせるには、党首がそろって「ぜひ応援して下さい、絶対に倒します」と迫力をもって、本気の決意を示していただきたい。
井上 参院で自公と補完勢力を過半数割れにしてねじれを生じさせ、解散に追い込んでいきたい。そのために、魅力ある共通政策、相互に応援する本気の共闘、政権構想の前向きの合意の3つが必要で、
さらに、比例、複数区では互いに競い合って自民党に立ち向かう。
自公と対決 少数に追い込む/井上さん
共闘の推進力共産党に期待
広渡 それを、市民と野党の共闘でつくりだすことが必要です。共産党は様々な場で一貫して市民と野党の共闘を進める立場で行動してくれ、とても感謝しています。共闘の一番の推進力です。
井上 地方でもブレずに自公と対決し、市民と共同しています。昨年10月の大山崎町長選では、政党では共産党だけが支持する前川光さんが、公立保育所の存続を求める保護者らと共同し、自公など4党がついた現職をやぶり、勝利しました。府知事選も府民との共同が広がり、蜷川民主府政が終わって以降で一番の得票率でした。
広渡 各立憲野党が大きくなることは重要ですが、とりわけ共産党には前進してもらいたいと思っています。
井上 ありがとうございます。
広渡 頑張って下さい。期待しています。
ひろわたり・せいご 1945年生まれ。京都大学法学部卒業。専門は、ドイツ法、比較法、法社会学。東京大学社会科学研究所教授、同大学副学長、日本学術会議会長など歴任。「安全保障関連法に反対する学者の会」「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」呼びかけ人。東京大学名誉教授。