対談・報道・論文

ホーム の中の 対談・報道・論文 の中の 論文 の中の イージス・アショア配備断念と「敵基地攻撃能力」保有許さぬたたかい(『議会と自治体』9月号掲載)

イージス・アショア配備断念と「敵基地攻撃能力」保有許さぬたたかい(『議会と自治体』9月号掲載)

住民の声と野党の論戦が断念に追い込んだ

 河野太郎防衛大臣は陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の秋田、山口両県への配備計画を停止することを、六月十五日の記者会見で発表しました。さらに二十四日に開かれた国家安全保障会議(NSC)で配備撤回が決定されました。周辺住民の怒りの声と国民的運動、野党の論戦の結果です。
 配備予定地の秋田市の自衛隊新屋演習場、山口県阿武町の自衛隊むつみ演習場はいずれも住宅地の周辺です。住民からは、攻撃目標になる恐れをはじめ強力なレーダーの電磁波による健康被害やドクターヘリへの影響、ブースター(推進装置)落下の危険などさまざまな不安の声があがり、立場の違いを越えた反対の運動が広がりました。
 秋田県では「イージス・アショアを考える県民の会」が結成され、配備予定地の地元十六町内会で構成する秋田市新屋勝平地区振興会が二〇一八年七月に配備反対の決議を上げ、さらに周辺地域の反対決議が続きました。
 山口県阿武町では自民党員である花田憲彦町長が、これまでIターン、Uターン政策に力を注いで魅力ある町づくりをすすめてきた成果を無視した配備強行は町の存亡にかかわる、として配備反対を表明しました。「むつみ演習場へのイージス・アショア配備に反対する阿武町民の会」の会員数は町の有権者の過半数に達しました。
 昨年の参院選挙前には、野党国対委員長らによる新屋演習場の現地調査と住民との懇談がおこなわれ、立憲、国民の議員とともに日本共産党から穀田恵二、高橋千鶴子両衆院議員が参加しています。直後の参院選挙秋田選挙区で、配備反対を掲げた野党統一候補の寺田静さんが自民党の現職を破って勝利したことは自民党に衝撃を与え、地元の秋田一区選出の衆院議員が防衛省に対し、「新屋はもう無理」と表明していました。
 このような地元での幅広い共同による反対運動、国会内外での野党共同のとりくみが、断念に追い込みました。
 河野氏は断念の理由として、迎撃ミサイルを打ち上げた際に切り離す「ブースター」を自衛隊演習場内や海上に確実に落とせないことが判明し、改修に相当の費用と期間がかかることを挙げました。しかし、ブースターが住宅地などに落下する危険は当初から指摘されていたことです。防衛省が秋田、山口への「配備ありき」の姿勢で、形だけの地元説明で強引に配備しようとしてきたことが厳しく問われます。

厳しく問われるずさんな対応の繰り返し


 河野防衛相は、配備計画の停止を発表した直後に山口、秋田両県を訪問し、陳謝しました。その際、山口県知事は「ブースター問題は周辺住民の命に直結する。最初の段階から、時間がかかってもしっかり精査してほしかった」とのべ、秋田県知事は「住民説明会でのさまざまなトラブルや二転三転する説明と、防衛省のこれまで二年以上の対応は大変ずさんだった」と苦言を呈しました。
 まさに、最初から驚くほどずさんな対応が続いてきました。
 二〇一七年十二月、山口、秋田を候補地とするイージス・アショア配備が閣議決定され、住民のなかには大きな不安と批判の声が広がりました。これに対し、防衛省は、「地元に丁寧に説明をしながら対応する」と繰り返してきました。実態はどうでしょうか。
 防衛省は配備候補地の地質測量調査や電波の環境影響調査をおこないました。ところがその地質測量調査の一般競争入札の公告がおこなわれたのは、二〇一八年六月に小野寺防衛相(当時)が秋田を訪れて県知事と会談する前日でした。これに対し佐竹知事は「地元軽視」と批判し、大臣は「公告時期の丁寧な説明がなかったことを申し訳なく思う」と謝罪しました。地元の秋田魁新報は辺野古新基地建設と並べて、「小野寺氏の来県も、地元の意向は聞いた、誠意を尽くしたとのアリバイづくりとの声がある」と書きました。
 それだけではありません。防衛省が秋田県での説明会で配布した資料では、新屋演習場以外十九カ所の候補地(すべて国有地)はすべて「不適」とされ、新屋のみが配備地に適しているとされていました。この資料で、いくつかの候補地は、レーダーを遮る山があることが「不適」の理由とされましたが、山頂を見上げる角度が実際より大きく記載される誤りがあったのです。グーグルアースを使い、断面の縦横の縮尺の違いを認識せずに定規で測って角度を出したというお粗末なやり方によるものでした。さらにその後に開いた資料の誤りについての住民説明会の最中に、出席した防衛省の職員が居眠りをしていたことは住民の怒りを倍増させました。

ブースター落下問題は「要求性能」に無し


 このように異常なほどずさんなやり方が繰り返され、そのたびに防衛相が謝罪をしてきました。しかし、形だけにすぎなかったことが、ブースター落下問題で明らかになります。私は六月二十二日の参院決算委員会の閉会中審査でただしました。
 防衛省は、米側との協議を踏まえ、ブースターをむつみ演習場内に落下させ、新屋演習場の場合は海に落下する旨、説明してきました。配備停止の際、「その後引き続き米側との協議をおこない、検討をすすめてきた結果、本年五月下旬、SM-3の飛翔経路をコントロールし、演習場内または海上に確実に落下させるためには、ソフトウェアのみならず、ハードウェアを含めシステム全体の大幅な改修が必要となり、相当のコストと期間を要することが判明した」と説明しています。
 では、日米間でいつから、どのような協議がおこなわれてきたのか。
 イージス・アショアを構成する迎撃ミサイルSM3ブロックⅡAは、日米で共同開発してきたものです。防衛省は装備品の選定手続きの最初に、「運用要求書」と「要求性能書」を作成します。ところが、イージス・アショアの導入に際しては、ブースターの落下問題は議論になっておらず、防衛省は「要求性能といたしまして、演習場内に確実に落下させるということは書き込まれていたということではございません」と答弁で認めました。
 当初は問題にならず、導入決定後の一八年六月に山口県阿武町での住民説明会で、基地外の住宅地に落下する危険性を指摘され、それから米国と協議を始めたというのが経過です。
 防衛省は同年八月以降、演習場内に落下させるという説明をするようになります。翌一九年五月の地元説明会の資料では、「迎撃ミサイルの飛翔経路をコントロールし、ブースターを演習中内に落下させるための措置をしっかりと講じます」と明記し、六月の参院決算委員会での仁比聡平議員(当時)の質問に岩屋毅防衛相(当時)が、「演習場内に落ちるような運用をおこなってまいりたい」と答弁しています。

米国からの確証ないままに「安全」説明


 こうした説明や答弁が、日米協議を通じて確証を得たうえのものだったのか。
 そもそも米国はイージス・アショアを住宅地周辺に配備することなど想定していません。「秋田魁新報」一八年九月二九日付は、ルーマニアにあるアメリカのイージス・アショアの基地を訪問して司令官を取材したことを報道しています。それによれば、アメリカ軍はルーマニア政府に対して基地周辺にブースターが落下する危険性を説明しているとしています。司令官は、ブースターの落下位置を制御する難しさについて、「統計にもとづく落下予測はあるが、一〇〇%想定の範囲内に収まるとは言えない。最も確実な安全策は基地の周りに住宅を造らないことだ」と述べています。これが米側の認識です。
 こうした認識をもった米国が果たして日本との協議の中で、ソフトを改修すれば、むつみ演習場内に確実に落下させることができると明言したのでしょうか。私は、米側から、いつ、どのような見解が示されたのか明らかにせよと迫りましたが、河野防衛相は「日米協議の中でそういう認識に防衛省として至ったものでございます」としか答弁できませんでした。
 一方、イージス艦の導入にも関わった海上自衛隊の元海将香田洋二氏は、一九年五月二十八日のNHKニュースでこう述べています。「ブースターというのはミサイルを加速するためのロケットで、誘導する機能はないので、それを特定の場所に落とすということになると相当なシミュレーションを重ねて検証する必要がある」、「新型迎撃ミサイルは迎撃能力のテスト中で、ブースターがどこに落ちるかという検証の段階には至っていない」。
 つまり、米側からも確実に落とせるという認識は示されず、検証の段階にも至っていないにもかかわらず、防衛省は「確実に演習場内に落下させることができる」という説明、答弁を繰り返してきたのです。いっかんして住民をあざむいてきたものと言わなければなりません。
 河野防衛相は、配備撤回後の国会答弁で、撤回に至ったプロセスについて確認作業をしており、その内容を国会にどう報告するか検討したいと述べています。配備断念に至る経過の徹底検証が必要です。

米国いいなりで「配備ありき」の破綻

 なぜ、このようなずさんな説明がされてきたのか。そこには、米国に言いなりで、とにかく「配備ありき」という政府の姿勢がありました。
 イージス・アショアの配備は当時の中期防衛力整備計画(一四から一八年度)には盛り込まれておらず、ミサイル防衛はイージス艦の整備で対応するとしていました。それにもとづき、海上自衛隊のイージス艦は来春には八隻体制になります。にもかかわらず、一七年十一月のトランプ大統領との日米首脳会談の直後の十二月にイージス・アショアの導入を閣議決定し、概算要求にはなかったにもかかわらず一八年度予算案に計上されました。

日本防衛でなく米軍の負担減と米国防衛


 このように、イージス・アショアの導入が異例な形で決められたのは、米国からの二重の強い要求がありました。
 アメリカの議会では、日本のイージス・アショア導入が議論になってきました。
 アメリカ太平洋軍のハリス司令官は、二〇一八年二月二十四日の下院軍事委員会の公聴会で、日本のイージス・アショア導入による効果について問われ、「アメリカ海軍や太平洋艦隊がBMD(弾道ミサイル防衛)の任務において直面している負荷の一部を軽減することになるだろう、艦船を持ち場から離して他の場所へ投入することができるだろう」と証言し、米艦船を南シナ海、インド洋、フィリピン海など必要な場所に投入できるとのべています。
 しかも、秋田、山口の二つの候補地は北朝鮮のミサイル発射基地と米軍のハワイ、グアムの基地を結ぶ軌道の真下にあり、日本防衛のためではなく、両基地に飛ぶミサイルを迎撃する米国防衛のための適地だと指摘されてきました。
 そのことをアメリカのシンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)が昨年五月に発表した「太平洋の盾──巨大なイージス艦としての日本」という題名のレポートが述べています。同研究所には二〇一三年度から一八年度までの六年間の合計で、日本政府から二億九千九百万円の寄付がおこなわれており、安倍総理自身がシンポジウムであいさつするなど安倍政権と密接な関係があります。
 報告書の題名は、かつての米ソ対立時代に中曽根康弘元首相が日本列島を「不沈空母」と表現したこととイージス・アショア配備を重ね合わせたもの。配備の意義について「北朝鮮に対する強固なミサイル防衛の基礎となるだけでなく、中国を含む将来の脅威に適応する基礎を築く」としたうえで、「米国が本土を防衛するためにコストが高いレーダーを太平洋に展開する必要性を減じる」、「日米同盟をより強固にするだけでなく、レーダーを共有することで(米国が)十億ドル規模の大幅な節約を実現するだろう」、「(イージス・アショアの配備は)日米の協力関係をより強固なものにするだろう」とあけすけに述べています。
 米国の負担軽減と米国防衛のために必要なものとして日本に配備が求められてきたのです。

トランプ政権の米国製武器購入要求


 トランプ米大統領は、日米首脳会談のたびに、米国製兵器の大量購入を要求しています。二〇一七年十一月に日本でおこなわれた日米首脳会談での共同記者会見で、トランプ氏はこう述べました。
 「米国からのさらに多くの防衛装備品の購入が完了すれば、首相はミサイルを打ち落とすでしょう」、「とても重要なことですが、日本の首相が、必要な防衛装備品を大量に購入しようとしていることです。われわれは、他に類を見ない、最高の装備品を製造します。首相はそれを購入します。完全なステルス能力を持つ、世界最高のF35戦闘機や、さまざまな種類のミサイルです。米国にとっては多くの雇用につながり、日本や、同様に米国から多くの装備品を購入する他の国々にとつては、大きな安全につながります」
 会見の場で露骨に安倍総理に対し、米国製武器の購入を「念押し」したのです。この直後の十二月に、イージス・アショア導入の閣議決定がおこなわれます。
 さらに翌年一月の通常国会の参院での自民党議員の代表質問への答弁で総理は、「安全保障と経済は分けて考えるべきだが、結果として米国からの武器購入を通じて米国の経済や雇用に貢献するものと考えている」と述べました。米国武器の購入が米国経済や雇用に貢献するなどという答弁は前代未聞です。
 イージス・アショアは当初、取得費は一基八百億円と小さく説明をされ、その後、二基で約二千五百億円と膨らみ、さらに三十年間の維持運営費を含めて約四千五百億円と公表されました。一発が約五十億円とされるミサイル購入費などを含めれば約一兆円という試算もされています。
 トランプ大統領の要求にこたえるために、住民の安全や費用など十分な検討もなく、とにかく「配備ありき」でずさんなやり方ですすめてきたことが破綻したのです。

断念に乗じた「敵基地攻撃能力」保有は許されない

 ところが、政府・自民党では、引き続きミサイル防衛システムを強化しつつ、イージス・アショアの断念に乗じて、敵のミサイル発射拠点などを直接たたく「敵基地攻撃能力の保有」を議論してきました。
 自民党は六月末に「ミサイル防衛に関する検討チーム」(座長・小野寺五典元防衛相)を立ち上げて提言をまとめ、国防部会などの了承をえて、八月四日に政府に提出しました。提言では、「憲法の範囲内で国際法を順守しつつ、専守防衛の考えの下で」検討を行うとしつつ、「相手領域内でも弾道ミサイルを阻止する能力の保有」を求めています。また、イージス・アショアの代替策について「早急に検討を行い、具体案を示すべきだ」と求めています。
 自民党はすでに二〇一三年に「策源地攻撃能力」の保有の検討を求める提言をまとめ、一七年、一八年にも「敵基地反撃能力」の保有を求める提言を政府に提出しています。一八年十二月に決定された新たな防衛大綱と中期防には、この文言は採用されなかったものの、長距離巡航ミサイルの導入など敵基地攻撃能力の保有につながる装備が盛り込まれました。今回の提言は与党内の慎重意見に配慮し、直接の表現は使いませんでしたが、言葉を変えて敵基地攻撃能力の保有を求めたものです。
 提言を受け取った安倍総理は「しっかりと新しい方向性を打ち出し、速やかに実行していく考えだ」と強調し、当日、国家安全保障会議(NSC)の四大臣会合を開きました。政府は今後NSCで議論し、九月末までに方向性をまとめ、来年度予算に盛り込もうとしています。国家安全保障戦略(NSS)や中期防衛力整備計画(中期防)を改定することも検討されています。
 私はこうした政府・与党の動きについて、七月九日の参院外交防衛委員会の閉会中審査でただしました。

ミサイル防衛への固執は軍拡の悪循環の道


 イージス・アショアは弾道ミサイル防衛(BMD)の一環です。BMDについては「ミサイル防衛の層をいくら厚くしても、やはり飽和攻撃とかロフテッドに対しては限界があるのも周知の事実」(佐藤正久元防衛政務官、一七年五月十五日、参院決算委員会)と指摘されてきました。「飽和攻撃」とは、多数の弾道ミサイルを短時間に一斉に発射させること、「ロフテッド軌道」とは弾道ミサイルを高高度で打ち上げ、落下速度を高速にするもので、いずれも迎撃が困難だとしているのです。
 その後、北朝鮮はミサイル技術をさらに向上させ、軌道を変えるイスカンダル型や極超音速滑空弾などレーダーが捕捉できないような飛び方をしたりするものなどを開発しています。断念発表後には、中谷元・元防衛相も「イージス・アショアを導入しても守り切れないのはわかっていた」(ダイヤモンドオンライン七月二十日付「経済・政治DOL特別レポート」)と述べています。
 相手のミサイルの性能の向上に応じて迎撃システムを強化すれば、相手もそれを上回る性能のミサイルを配備することにより、軍拡の悪循環となり、地域の緊張激化につながるとともに、莫大な軍事費の増大にもなります。

すでに予算は約三倍。さらに増大の恐れ


 政府はイージス・アショアを断念しましたが、同システムで使用が予定されていたレーダーや迎撃ミサイルなど、個々の装備の扱いは不透明なままです。ローキッド・マーチン社は、「しんぶん赤旗」の取材にイージス・アショアのシステムについて「予定通りの日程と予算で導入するよう作業している」と表明しています。米側の損失補てんのためにイージス・アショアを上回る出費を強いられる危険もあります。
 実際、イージス・アショアで使用する予定だったSPY7レーダーは、昨年十月に契約が結ばれていますが、まだ解除されていません。そのもとで、自民党の「提言」では、SPY7の契約を継続して転用する三つの案が示されています。
 一つ目がイージス艦を二隻ないし四隻増やす案で、実現すれば最大十二隻になります。しかし、防衛省はこれまでイージス艦よりイージス・アショアの方が「費用対効果の面で優れている」と説明してきました。秋田・山口両県への説明資料では、運用維持費を含む総額(ライフサイクルコスト)はイージス・アショア二隻の約四千四百億円にたいし、イージス艦は二隻で約七千億円になると明記しています。さらに、一隻当たり約三百人の乗組員が必要で、人員不足に悩む海上自衛隊にとってハードルは高いと指摘されています。
 二つ目が、人工浮島のような洋上施設に、レーダーと発射装置を一体に設置する案。悪天候や魚雷に弱いとされています。
 三つ目が、SPY7レーダーは地上に配備し、残るミサイル発射装置などは海上自衛隊の護衛艦を改修して搭載するという案です。レーダーと護衛艦を無線でつなぐ場合、敵国の電磁波攻撃で妨害される弱点があると指摘されています。
 いずれも、いっそうの財政負担につながるもの。だいたい、ミサイル防衛システムの導入を決めた当初、政府は、整備費は全体で八千億から一兆円程度を要するとしていました。ところがその後膨れ上がり、私の質問に防衛省は、二〇〇四年度から今年度予算までで、BMDシステムの整備に累計約二兆五千二百九十六億円を計上したことを認めました。三倍近くになっています。
 しかもSPY7レーダーは開発中のものであり、試験用の施設のために追加負担を求められています。その額は約五百五十億円と報じられています。際限なき費用拡大につながります。

どさくさ紛れの論理の飛躍


 安倍総理が、イージス・アショア断念後の記者会見で、敵基地攻撃能力保有を求めてきたこれまでの自民党の提言について「受け止めていかなくてはならない」としたうえで、「政府においても新たな議論をしていきたい」と述べ、保有を検討する姿勢を示したことは重大です。
 総理は、一八年二月の衆議院予算委員会で、「(専守防衛について)相手からの第一撃を事実上甘受し、かつ国土が戦場になりかねないもの」、「そのうえ、今日においては、防衛装備は精密誘導により命中精度が極めて高くなっている、一たび攻撃を受ければこれを回避することは難しく、この結果、先に攻撃した方が圧倒的に有利になっているのが現実だ」と述べています。総理の姿勢は、イージス・アショア断念に乗じて持論の実現を果たそうとするものです。
 これらの議論に対し、「議論が飛躍しすぎている」(「毎日」七月八日付社説)、「乱暴な論理の飛躍だ」(「朝日」七月二十一日付社説)などの指摘が相次いでいます。
 自民党内からも慎重論が出され、岩屋毅前防衛大臣は、「自衛隊を攻撃型に変え、それをもって抑止力とするのは、憲法では認められず、専守防衛から大きく逸脱する」、「敵の基地を攻撃する体制をとると宣言することは極東地域の安保環境を極めて緊張させてしまう。軍拡をさらに促すことになりかねない」(「朝日」七月二十八日付)と述べています。

「攻撃的脅威を与える武器」の保有は「憲法の趣旨ではない」

 政府はこれまで、敵基地攻撃について、「誘導弾などによる攻撃がおこなわれた場合、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、例えば誘導弾などによる攻撃を防御するのに他の手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、憲法上、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である」(鳩山一郎総理大臣〔船田中防衛庁長官代読〕、一九五六年二月二十九日、衆院内閣委員会)という見解を述べてきました。
 さらに、政府は「相手国が武力行使に着手していれば相手国の基地などをたたくことは法理的には自衛の範囲であり、可能だ」と答弁してきました。ただし、「どの時点で武力攻撃の着手があったと見るべきかについては、その時点の国際情勢、相手方の明示された意図、攻撃の手段、対応などによるものであり、個別具体的な状況に即して判断すべきもの」とのべるのみで、「武力行使の着手」の定義は明確でなく、正確な判断は極めて困難です。結果として日本が国際法違反の先制攻撃を行うことにつながり、日本に対する反撃を招き甚大な被害を国民と国土にもたらすことになります。
 一方、敵基地攻撃能力保有についての政府見解はあくまで、「法理的には可能」というもので、政府は、「平生から他国を攻撃するような、攻撃的な脅威を与えるような兵器を持っているということは、憲法の趣旨とするところではない」(伊能防衛庁長官、一九五九年三月十九日衆院内閣委)と答弁しています。
 イージス・アショア導入を決めた際に小野寺防衛相(当時)は、「弾道ミサイルを迎撃することを目的としたシステムであり、他国を攻撃する能力はなく、国民の生命、財産を守るために必要な純粋に防御的なシステムであることから、周辺国に脅威を与えるものではない」と答弁しました(二〇一八年二月十四日、衆院予算委員会)。この答弁に照らしても、「純粋に防御的なシステム」ではない、「敵基地攻撃能力」を持つことは、周辺国に「脅威を与える」ものであり、憲法に反することは明白です。

名称を変えても憲法違反の本質変わらず


 政府・自民党から「敵基地攻撃能力」という名称では、「先制攻撃」との誤解を与えるとして、「自衛反撃能力」や「打撃力」などの言葉を使った方がいいとの議論が出され、「提言」でも「敵基地攻撃能力」という名称は使いませんでした。
 こうした議論について日本共産党の小池晃書記局長は七月十四日の記者会見で、「国際的にも『敵基地攻撃』は『Preemptive Strike(先制攻撃)』と表現されており、国内的に呼び方を変えても通用するものではありません。かつて、『戦争』を『事変』に、『撤退』を『転進』と表現して国際的に批判されたが、そんなことを繰り返すべきではないし、名称変更で本質は変わらない」と強調しました。
 「打撃力」との名称についても「これまで日米同盟で日本が専守防衛の『盾』で、打撃力を担う米国が『矛』としてきた従来の建前上の役割分担からも一歩踏み出し、日本も『矛』の役割を担うべきとの主張であって、これは『敵基地攻撃』の名称変更にとどまらない危険な議論であると厳しく批判しなければいけない」と述べました。

軍事費の大幅増大と軍事緊張の激化に


 しかも敵基地攻撃能力の保有は、これまでまがりなりにも「専守防衛」を建前としてきた自衛隊の装備体系を根本から変えることになり、安倍政権の下で過去最高を毎年更新してきた軍事費の大幅な増額は必至です。
 政府はすでにこの間、射程の長いスタンドオフミサイルの導入や、護衛艦「いずも」にF35B戦闘機を搭載する空母化などをすすめてきました。これらは敵基地攻撃能力の保有につながると指摘すると、こうした装備の保有だけでは敵基地攻撃はできない、一連のオペレーションが必要だとの答弁がされてきました。
 河野防衛相は私の質問に、敵基地攻撃能力について、①他国の領域において移動式ミサイル発射機の位置をリアルタイムに把握し、地下に隠蔽されたミサイル基地の正確な位置を把握する、②防空用のレーダーや対空ミサイルを攻撃して無力化し、相手国の領空における制空権を一時的に確保する、③移動式ミサイル発射機や堅固な地下施設となっているミサイル基地を破壊してミサイル発射能力を無力化する、④攻撃の効果を把握した上で更なる攻撃を行うといった一連のオペレーションをおこなうことが必要である、と答弁しました。
 これらを可能にするためには、レーダー網や偵察衛星、長射程のミサイル、爆撃機、電子戦機などの膨大な装備が必要になります。私は「兆単位での大軍拡になる」と厳しく批判しました。

武力行使を未然に防ぐ外交努力こそ


 「秋田魁新報」は社説で、イージス・アショアの断念に関わって「日本を取り巻く緊張関係を緩和し、武力行使を未然に防ぐ外交努力が何よりも重要だ」(六月二十七日付)と述べました。軍事的悪循環で地域の緊張を激化させる軍事的対応から脱却し、憲法九条を生かした外交努力への転換こそ求められています。いっそうの軍事拡大と敵基地攻撃能力の保有は許さないとの声を地域のすみずみから広げましょう。
(いのうえ・さとし)

ページ最上部へ戻る