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女性の権利を国際基準に──女性差別撤廃条約選択議定書の批准を(『前衛』10月号掲載)

 

女性差別撤廃条約批准から三五年

 今年は日本が女性差別撤廃条約を批准してから三五年目となります。同条約は一九七九年に国連で採択され、女性に対するあらゆる差別を撤廃するための必要な措置をとる決意をうたい、各国政府に迅速な取り組みを義務付けた画期的な条約です。

 女性団体や労働組合をはじめとする世論と運動の広がりの中で、日本も一九八五年に同条約を批准しました。批准の際の外務大臣は安倍総理の父である安倍晋太郎氏でした。当時、国会答弁で、日本共産党の立木洋参院議員の質問に対し決意をのべています。

「今お話のように......条約は男女について母性保護以外はすべて平等であるという立場に立っており、これまでにない極めて画期的な考え方ではないかと思っている。いわゆる基本的人権というか、人間の尊重、尊厳をうたった包括的な条約であって、日本もこれに加入することによって条約の趣旨を生かして、今後まだ日本に残っている問題を解決し、条約の趣旨が完全に履行されるよう努力していかなければならない」(一九八五年六月四日参院外務委員会)

 しかし現状はどうか。関係者の様々な取り組みで一定の前進はありましたが、解決すべき問題は多く残され、条約の「完全履行」には程遠いものです。

 同条約の実効性の強化のために「個人通報制度」と「調査制度」をもりこんだ選択議定書が九九年に採択されています。日本がいまだにこれを批准していないことが、問題解決を遅らせる要因の一つとなっています。

 

女性差別撤廃条約実現アクションの結成と懇談

 そうした中、昨年三月に選択議定書の批准をめざして結成されたのが、「女性差別撤廃条約実現アクション(OP CEDAW ACTION!)です。「女性の権利を国際基準に」を掲げ、NGOによって結成され現在五二団体が参加しています。請願署名活動や地方議会の意見書の働きかけ、国会での院内集会、政府や各党ヘの要請活動に取り組んでこられました。

 同「アクション」とは昨年、日本共産党国会議員団外務部会(部会長:穀田恵二衆院議員)として懇談。さらに私は、今年三月に再び懇談し、三月一八日と二六日の参院外交防衛委員会で選択議定書の批准を求めて質問しました。

 本稿では、一刻も早い選択議定書の批准に向けた世論と運動の前進を願い、この質問でのやり取りを紹介しながら、この間の国会における論戦の到達点と課題を明らかにするものです。

 選択議定書批准でジェンダー平等の世界の進歩に参加を

 今年三月の懇談の際、「アクション」の皆さんから二つの問題での「危機感」が出されました。

 一つは、昨年一二月に発表されたジェンダーギャップ指数(世界男女格差指数)が前年から一一位下がって一五三カ国中一二一位となったこと。公表が始まった二〇〇六年の一一五カ国中八〇位から大きく後退しています。

 もう一つは、順位に加え、外務省も姿勢を後退させているという問題です。政府の男女共同参画第五次総合計画の策定の議論の中で、第四次総合計画にある、選択議定書の「早期締結について真剣に検討を進める」という文言から「早期に」という言葉を削るという立場を示したのです。「アクション」の皆さんからは、ぜひ、こうした問題で政府をただし、選択議定書の早期批准を求めてほしいと強い要請を受けました。

 早期批准の焦点は個人通報制度。私は、法務委員会に所属していた時に国連の自由権規約に関わって個人通報制度の受け入れを求めて質問したことがありますが、その後も遅々として政府の取り組みが進んでいないという思いがあり、加えて、ジェンダー平等の流れが広がる中での一二一位への後退ということへの私自身の危機感もあり、二度の質問となりました。

 

なぜ一二一位に──女性差別撤廃条約発効後の世界の流れに取り残された

 質問でまず明らかにしたのは、なぜ、日本のジェンダーギャップ指数が一二一位にまで後退したのかということです。

 この指数は、スイスに本部を置く国際機関「世界経済フォーラム」が毎年一二月に発表しており、各国の男女間の格差を〇が完全不平等、一が完全平等として数値化しランクづけしたものです。政治参画、経済参画、教育の到達度、健康と生存率の四つの分野でのデータから算出されます(表zenei2010表①.pdf)。

 二〇〇六年と二〇一九年の指数を分野ごとに比較すると、日本は、「教育」や「健康」は一貫して一に近いものの、政治は〇・〇六七〇・〇四九、経済は〇・五四五〇・五九八、総合では〇・六四五〇・六五二です。政治と経済の分野の指針が低いままである中、総合指数は微増するものの順位は大きく落ちています。

 四つの分野のなかで、さらに項目があり、政治参画では、「国会議員の男女比」「閣僚の男女比」、経済参画では、「同一の労働における賃金格差」や「役員・管理職の男女比」があります。

 政治、経済の分野で特に低いのが、これら「指導的地位にいる人の女性の割合」です。安倍総理は二〇一四年、「世界経済フォーラム」の総会である「ダボス会議」で演説し、「二〇二〇年までに指導的地位にいる人の三割を女性にします」と「国際公約」しました。しかし、女性の管理職の割合はいまだに三割にはほど遠く、総務省の労働力調査では、一四・八%(一九年)にとどまっています。

 政治参画の分野は一八年から一九位下がって一四四位となり、世界ワースト一〇に入りました。国会議員の男女比の指数は、〇六年と一九年で〇・一〇〇・一一二とこれまた微増にとどまっています。

 グラフは各国の国会議員の女性比率を比較したものです。zenei2010グラフ①.pdf(二院制の国の場合は下院の女性議員の割合)。一番下で低迷しているのが日本であるのは一目瞭然です。一九七〇年代はヨーロッパの国々と日本は女性比率にあまり違いはありません。ところが、その後、日本は微増にとどまるなか、他国と大きな差が出ています。

 日本は、七〇年は一・六%で、一六年で九・三%、参議院を含めても現在一四・三%です。一方、各国は女性差別撤廃条約の発効後、特に九〇年代から急速に増えています。七〇年と一六年で比較すると、フランスは一・七%から二六・二%、イギリスは四・一%から二九・六%へと急増しています。

 これらを示し、「女性差別撤廃条約採択後のジェンダーギャップ克服の世界の大きな進化と比べて、日本の進化が遅々としている、これが順位が下がっている理由ではないか」と指摘すると、茂木敏充外務大臣は「基本的な部分で、共有したい」と述べました。

 ところが、七月二一日に開かれた政府の男女共同参画会議の専門調査会でまとめられた第五次男女共同参画基本計画策定にあたっての「基本的考え方」の素案では、「指導的地位に占める女性の割合を三〇%程度とする」という政府目標の達成年限について、現計画の「二〇二〇年」を断念し、「二〇年代の可能な限りの早期」に先送りする方針が明記されました。この目標は二〇〇三年の小泉政権下で設定され、第二次安倍政権が「女性活躍」を「政府の最重要課題」(第四次計画)として看板政策に掲げるもと、安倍総理自身が国際公約したもの。一七年かけてなぜ達成できなかったのか責任ある検証もないままの目標先送りによって、日本はますます世界の流れに取り残されることになります。

 

世界の進歩のテコは選択議定書の批准

 ではなぜ、世界ではジェンダーギャップ克服の流れが急速にすすんでいるのか。

 そのテコとなっているのが、個人通報制度を定めた女性差別撤廃条約選択議定書の批准です。

 現在、女性差別撤廃条約の締約国一八九カ国のうち、選択議定書の批准国は三月にチリが批准して一一四カ国になりました。自由権規約など八つの条約やその選択議定書に個人通報制度が定められていますが、批准が一〇〇カ国を超えているのは自由権規約と女性差別撤廃条約だけです。しかも、自由権規約は三〇年かかりましたが、女性差別撤廃条約は一〇年で一〇〇カ国を超えました。

 個人通報制度とは、人権侵害をうけた個人が、国内での訴訟などの救済措置を尽くしたうえで、国連に救済を求めて通報できる制度。通報を受けた国連の委員会はこれを検討の上、見解や勧告を各締約国等に通知します。見解や勧告には法的拘束力はありませんが、締約国はフォローアップを求められます。これを通じ、通報した個々の女性の人権を救済するだけではなくて、行政や国会、司法など、ジェンダー平等の国際水準を生かしていくという役割を果たしています。これがテコになって、各国のジェンダー平等が大きく進化しているのです。

 そこで、選択議定書の批准国数と日本のジェンダーギャップ指数(GGGI)の順位を一つのグラフにして比べてみました(グラフzenei2010グラフ②.pdf)。批准国が急速に増える一方で、未批准のままの日本が順位をどんどん落としていることがくっきりと浮かび上がりました。国連女性差別撤廃委員会の委員で、個人通報作業部会長のパトリシア・シュルツさんが二〇一八年に来日された際の講演で、「選択議定書の批准によって日本はこの数十年の間に見られた人権に関する重要な進化に加わることになる」と述べられました。逆にいえば、日本は未批准の中でこういう世界の重要な変化に加われていない──そのことをこのグラフは表しています。

 私はこのグラフを示して、「ジェンダーギャップ指数がいまや一二一位にまで下がっていることを見れば、日本が世界の進化に加わる上で選択議定書の批准がどうしても必要だ」と迫りました。

 これに対し、茂木外務大臣は選択議定書と個人通報制度について「条約の実施の効果的な担保を図る......注目すべき制度」「関係省庁と連携をして...早期締結に向けて真剣に検討を進めている」と述べました。

 

第五次男女共同参画基本計画策定会議のなかでの「早期」削除の動き

 一方、閣議決定される政府の第五次男女共同参画基本計画に向けての議論で外務省から示されたのが、この大臣の答弁とは逆行する姿勢です。

 女性差別撤廃条約選択議定書の批准について、第二次計画では「検討を行う」とされ、第三次計画以降は「早期締結について真剣に検討を進める」と書き込まれています。

 ところが、現在、第五次基本計画策定に向けて男女共同参画会議の専門調査会が行われていますが、昨年一一月の第一回調査会の会議の資料として外務省が配布した個票の中に、「早期締結について真剣に検討を進める」という文言から「早期という文言を削除すべき」と書いてあったのです。これについて外務省は、調査会の席上で質問に対し、「早期締結に向けてというふうに書くのは、外務省としては厳しいのではないだろうかということで個票に記載している。早期を外した方がいいというのが今の外務省の現状認識だ」と発言しました。

 これに対し、これまでの閣議決定から重大な後退だとして各方面から驚きと批判の声が上がりました。委員会でこうした批判の声を示して質すと、外務省は、「早期締結について真剣に検討を進めるとの立場はこれまでと変わっていない。早期の文言を削除することで政府の取り組みが後退したとの印象を与えることは本意ではない」として「早期」の文言を維持すると表明しました。

 

「早期」削除でなく、「検討の加速が正しい方法」

 そこで、外相に対し、長い間検討を続けているという実態と「早期」という文言が合わないというのであれば、「早期」を削るのではなく検討を加速化させるのが当然だろうと指摘し、さらに、「検討を進めるというのは、受け入れるかどうかではなくて、早期締結に向けて解決すべき課題は何かということを検討するということでよいか」と答弁を求めました。

 これに対し茂木外相は、「早期という文言を削るよりも検討の加速が正しい方法だ」「おっしゃるように、早期に締結するために障害になっている、また課題になっているものを早期に解決することであります」と明確に述べました。「アクション」をはじめとした様々な皆さんの声が、「早期」の文言の削除をやめさせ、逆に「検討の加速」「課題、障害の早期解決」という答弁を引き出したのです。

もはや批准の基本的な障害はない
──
決断し、女性の人権を国際基準に

 では、選択議定書を批准し個人通報制度を受け入れる上で、検討を加速すべき「課題、障害」とは何なのか。

 個人通報制度は、一九七六年に発効した国際人権規約の自由権規約の選択議定書に定められました。その後、同制度は日本が批准している人権に関する国連の八つの条約(自由権規約、社会権規約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約、人種差別撤廃条約、拷問等禁止条約、障害者権利条約、強制失踪条約)の本体やその選択議定書に定められていますが、日本は個人通報制度に関してはいずれも未批准のままです。

 

「実効性、有効性への疑問」から「人権保障のための注目すべき制度」へ

 政府は自由権規約の選択議定書を批准しない理由について、「選択議定書は個人の出訴権を前提とした議定書でございまして、......個人の救済制度として果たして実際に機能いたしますかどうか、相当疑問な点がある」(政府委員一九七九・三・二三衆院外務委員会)と答弁しています。

 以来、個人通報制度に関しては同様の答弁が続き、一九八六年の衆院本会議では中曽根康弘総理が「個人の通報に基づく国際的な検討制度が有効に機能するかどうかは疑問な点もございます」とのべています。

 しかし、この答弁はその後変化します。一九九一年に中山太郎外相は「B規約 (自由権規約) 議定書は人権の国際的な保障のための制度として注目すべき制度であると認識をいたしておりまして、この運用状況も踏まえて関係省庁との間で鋭意検討をいたしております」(一九九一年四月一日参院予算委員会)と答弁しました。

 女性差別撤廃条約についても、高村正彦法務大臣が、「女子差別撤廃条約選択議定書に規定されている個人通報制度については、条約の実施の効果的担保を図るとの趣旨から注目すべき制度であると考えております」(二〇〇一・三・一六衆院法務委員会)と答弁し、今日まで様々な条約の個人通報制度について「注目すべき制度」との答弁が繰り返されてきました。

 しかし、どのような検討の結果、「有効に機能するか疑問」から「人権の国際的な保障のための注目すべき制度」に見解が変わったのかは必ずしも大臣の答弁で明確にされてきませんでした。そこで今回、その点で大臣の答弁を求めました。

 茂木外相は「当時、締約国が二〇カ国程度にとどまっており、多くの国が慎重論であると、また、加入については今後の運用を見て検討したい等の見解、これを示したものと理解をしております。その後、女子差別撤廃条約等についても個人通報制度が導入をされ、同制度を受け入れる国も増加をし、また同制度が機能した例もあるとの実態を踏まえて、現在は、条約の実施の効果的な担保を図るとの趣旨から注目すべき制度である、こういった見解を示しているところであります」と答弁しました。

 国際的に個人通報制度を受け入れる国が増加し、実際に機能している実態を踏まえて「注目すべき制度」という見解に至ったと認めたことは重要です。実際、OECD加盟国のうち、女性差別撤廃条約の選択議定書を締結していないのは、本体の条約を締結していないアメリカ以外では、日本とイスラエル、エストニア、ラトビアの四カ国だけとなっています。

 

「司法権の独立」への懸念から「司法制度と相いれないものではない」

 個人通報制度の有効性への疑問が解決し「注目すべき制度」とされる一方で、強調されるようになったのが「司法権の独立との関係」です。

 佐藤恵法務大臣は九一年に、「司法制度との関係で、裁判が継続中または確定した具体的な事件についても個人からの通報にもとづいて規約人権委員会で審理され、またその委員会から見解が示されることもあると思われるので、司法権の独立、三審制度など司法制度との関係を慎重に検討すべきである」(九一・四・一 衆院予算委)と答弁しています。以来、同様の答弁が繰り返されてきました。 

 しかし、個人通報制度は、裁判所の事実認定には介入せず、勧告に法的拘束力はありません。司法権の独立を理由として個人通報制度を受け入れない国は日本以外に存在しないと指摘されています。

 この問題についても政府答弁は変化します。二〇一一年の私の質問に、黒岩宇洋法務大臣政務官が、「個人通報制度の導入自体が我が国の司法制度と相入れないという意味ではございません」(二〇一一・三・二四参院法務委員会)と明確に答弁しました。民主党政権時代の答弁ですが、自民党政権に戻っても維持され、今日まで同様の答弁が維持されています。私の三月二六日の質問にも法務省は、「必ずしも相いれないものとは考えておりません」と答弁しました。

 このように、「実効性、有効性への疑問」「司法権の独立との関係」という選択議定書を批准するにあたっての基本的な障害はこれまでの国会での議論を通じて基本的にクリアされてきたのです。

批准を決断し、具体的な障害、課題の早期解決こそ

 そこで検討が急がれるのが、個人通報制度受け入れにあたっての具体的な課題です。

 政府は、具体的検討課題として、国内の確定判決とは異なる内容の見解が出された場合に、我が国の司法制度との関係でどのように対応するのか通報者に対する損害賠償や補償を要請する見解、さらに法改正を求める見解が出された場合の対応受け入れる場合の実施体制等を挙げてきました。

 政府はこうした課題について、「締結に向けて真剣に検討している」といいますが、「注目すべき」という答弁を行ってから二八年もずっと検討が続けられており、果たして「真剣に検討」しているのか疑問がわいてきます。

 政府は一九九九年以来、外務省と法務省で四〇回の研究会を開き、二〇〇五年一二月からは関係省庁に広げて「個人通報制度関係省庁研究会」を設置し、以来、昨年四月までに外部講師も出席して様々なテーマで二〇回開催しています(表zenei2010表②.pdf)。

 しかし、二〇〇五年から一〇年までに一七回開催されたのちに、一四年一月まで開かれず、以来、一六年、一九年に一回ずつ開かれたのみです。一九年の研究会は、外務省の他、内閣府、警察庁、法務省、財務省、国税庁、文部科学省、厚生労働省の関係者が出席して開かれています。三月の時点では、「今年は六月に開催めざして調整中」としていましたが、いまだに開かれていません。

 条約第一八条の国家報告制度により、四年ごとに条約の実施状況レポートを国連に提出します。日本は過去、第八次まで提出してきました。レポートの審議の結果は委員会から「総括所見」として発表され、次の四年間の取り組みを要請されてきました。二〇〇九年以降は、フォローアップ項目が指定され、二年以内の実施が要請されるようになりました。

 国家報告制度では、NGOの皆さんが委員会にレポートを提出し、会期前作業部会や報告書審議でもロビイングや傍聴をするなど重要な役割を果たしてきました。それでも、日本政府の報告は極めて不十分で、選択議定書の批准については委員会の指摘にまともに回答せず、「検討中」を繰り返してきました。

 しかも、政府は次回のレポート審議から「簡易手続き」を採用しました。これでは、事前のNGOヒアリングもなく、いきなり委員会の会期前作業から始まることになります。日本のように総括所見の実施が不十分な国が簡易手続きを申請すべきではないと批判の声が上がっています。

 国連女性差別撤廃委員会は三月九日、二五項目の「第九回日本定期報告前の質問事項」を示しました。選択議定書については、批准に向けた検討状況、批准への障害、国会の批准承認に向けた計画などの報告を求めています。政府は一年以内に回答をすることになっていますが、これまでのように「検討中」とするのではなく、大臣答弁通り検討を加速し、承認のための計画を明確に示すべきです。

 

最高裁に対する四審ではない。対応は国、勧告内容で様々

 具体的検討課題に関して、女性差別撤廃委員会委員長(当時)の林陽子弁護士が二〇一六年八月の第一九回個人通報制度関係省庁研究会に出席し、質問に対し、フィリピンに出した勧告を示しながら、こう答えています。

 「委員会の審査は最高裁に対する四審ではない、確定判決は尊重するが、裁判所の条約解釈が間違っているという結論になって、裁判官のジェンダーバイアスをなくすよう研修を強化すべき旨の勧告を行った例はある」。

 つまり、裁判官のジェンダーバイアスを放置したことが条約の義務違反だと勧告することはあっても、最高裁に対する四審ではないし、確定判決を覆すものではないということは明確です。

 コロンビアなどごく少数の国では、国内法で委員会の見解を実施することを定めた法を制定していますが、日本ではこういう議論はありません。この点について法務省は「個人通報制度の受入れに伴って司法制度を変えるということが必ずしも必要となるとも考えているものではありません」と改めて認めました。

 損害賠償について、林さんは同じ研究会で、「勧告の内容については、申立て個人に対してとるべき措置や一般的措置がある。金額の明示はないが、被害者に補償するための金銭を支払うよう国家に勧告が出た場合もある」とし、「この委員会からの勧告を受け入れない国もある、勧告を守っていないにもかかわらずフォローアップが終了したケースもある」と述べておられます。つまり対応は、国により、また勧告内容によって様々だということです。

 これについても外務省は「女子差別撤廃委員会には様々な通報がなされており、したがいまして、各国に出されている見解、勧告やそれに対する各国の対応も画一的なものではなく様々なものがあると承知しております。例えば、女子差別撤廃委員会から勧告を受けた国が通報者に対して補償を行った例もありますし、通報者に対して補償を行うよう勧告したが現時点で当該補償は行われていない例もあると承知しております」と認めました。

 

司法を強固にし、女性の人権を国際水準から審査

 もちろん、勧告が出ても法的拘束力なく無視してもいいのだから、とにかく個人通報制度を受け入れろと言っているわけではありません。

 そもそも女性差別撤廃条約第二条で日本は条約の履行義務を負っています。これまでも、定期的報告に基づく撤廃委員会からの様々な勧告も受け、フォローアップもしてきました。さらにこの個人通報制度を受けいれれば、国内的な司法救済を終えた上での個々の訴えに対して国際社会から審査を受けることになります。

 先に紹介した女性差別撤廃委員会の委員で、個人通報部会長のパトリシア・シュルツ氏の講演では、「そもそも司法権の独立が問題になるなら選択議定書自体が成り立たなくなる」と指摘し、「外部機関の審査を受けることで司法制度はより強固になる。選択議定書の批准は、その国が法による支配を本当の意味で尊重していることを示すものだ」とのべています。

 個人通報制度は、政府も認めている「条約の実効性の担保」につながり、さらには、日本における女性の人権を国際基準に高めることにつながることになるのです。

 

批准を決断してこそ課題の具体的解決に

 各国の事例も、対応も様々という中で、その全てを検討してから批准するということになると、永遠に批准しないことになります。批准することを決断し、対応方針は事案の内容にそって個別に決めるしかありません。

 この点を質すと茂木外相は、「我が国の司法制度や立法制度との関係でどう対応するのかということでありまして、論点というのは明らかなわけでありますから、これを関係省庁との間でずるずる引っ張るということではなくて、しっかりと議論をして、どこかで結論を出さなきゃならない問題だと、考えております」と答弁しました。

 さらに政府は、諸外国における個人通報制度の導入前の準備や運用の実態等についても調査等を行っているとしています。委員会では、「実施体制に関しましては、そもそも、その国連の見解の窓口をどこの省庁で受けるか、それを関係の省庁にどのように割り振って、どのようにこれを回答として女子差別撤廃委員会の方に回答するかと、こういったことが実施体制の検討の中で解決をしていかなければいけない問題だと認識しております」(山中修・外務省総合外交政策局参事官)との答弁でした。

 そもそも、どういう実施体制を取るかは、女性差別撤廃委員会から求められておらず、組織を設けるかどうかは締約国に任されています。どの省庁を窓口にするかなどは、政府が批准するという決断をすれば解決できる問題であっておよそ障害ではありません。

 これまで、ずるずると引っ張って、批准を先送りしてきたことを転換し、一刻も早い批准の決断が求められています。

さらに声と運動を広げ、一刻も早い批准へ

 私は質問の最後に、国会が果たすべき役割について強調しました。

 参院外交防衛委員会では、二〇〇一年に女性差別撤廃条約選択議定書の批准を求める請願を全会一致で採択し、以来、二〇一六年まで一八回にわたって採択してきました。ところが二〇一六年参院選で維新の会が議席を得て、翌二〇一七年の通常国会の際に請願審査に当たり、「サンフランシスコ市で問題になっている『慰安婦』像の設置を応援することになりかねない」として採択に同意せず、保留の態度をとりました。請願採択は全会一致が原則ですので、この結果、採択されず保留ということになってしまい女性団体などから失望と批判の声が上がりました。

 翌年の請願審査では維新は採択を表明しましたが、今度は自民党が党内に様々な意見があるとして保留にまわり、以来、保留が続いています。

 最初に採択した翌年の〇二年にも採択した際の外交防衛委員長は自民党の武見敬三議員でしたが、採択の後に、「国民の請願権の最大限尊重の立場から、条約の国会提出に時間が掛かり過ぎる」という委員会の指摘も紹介して、外務省に、「批准に向けた検討終了の目途や、国会提出時期について説明を求める」という発言をされています。

 このように、政府がずるずると検討を続けていることに対し、国会が早期提出を促してきた経緯があります。私は、女性差別撤廃条約選択議定書の早期批准を求める声が広がり、外相も「検討の加速」を述べている時だからこそ、改めて委員会として全会一致で請願を採択し批准の流れを進めようと各党に呼びかけて質問を終えました。

 その後、通常国会の最終日の六月一七日外交防衛委員会理事会で請願の扱いを議論しました。選択議定書の早期批准を求める請願について、立憲、国民、社民の共同会派や「沖縄の風」からは批准が必要だという発言がありましたが、自民党が保留を表明したために、残念ながら今国会も採択できませんでした。

 しかし、今回は、自民党からも武見議員が紹介議員になられ、自民党理事からは「委員会で井上議員に丁寧な議論をしていただいたが、党内でさらに議論が必要なので保留としたい」との発言があり、一定の変化を見せました。

 「アクション」の皆さんは、私の二回の質問も紹介しながら、早期批准を目指して各党の議員に働きかけを強めておられます。

 立憲民主党の大河原雅子衆院議員は五月二七日の衆院内閣委員会で、橋本聖子男女共同参画担当大臣に女性差別撤廃条約選択議定書の早期批准を求めています。橋本大臣が「外務省の検討状況を注視していきたい」と答えたのに対し、私の質問に対する茂木外相の、「関係省庁の間でずるずる引っ張るということではなく、結論を出さなくてはならない」という答弁を紹介し、「その答えはまずいですよ......橋本大臣は、政府全体を見渡して、男女平等、ジェンダー平等を推進する方ですよ」と迫ると、橋本大臣は「しっかりとリーダーシップを持って、外務省とともに取り組んでいきたい」と答弁しました。

 五月二八日、コロナ禍の下で実に久しぶりに国会議員会館で開かれた、「アクション」の参加団体の一つである婦人団体連合会の「ジェンダー四署名提出行動」に参加し、女性差別撤廃条約選択議定書の批准をはじめ四種類の署名約一六万人分を受け取りました。参加者の発言からはコロナ禍の困難な中でも署名を集めた経験やジェンダー平等を推進したい思いが溢れました。

 六月二〇日には、「アクション」主催の「オンライン集会 コロナ危機の今こそ、女性の権利を国際基準に!選択議定書の批准を!」にzoomで参加。この間の取り組みの報告や参加した野党の国会議員からの発言や各団体からの発言で盛り上がりました。

 「女性の人権を国際基準に」を掲げ、一刻も早い選択議定書の批准へ、さらに取り組みを強めましょう。

(いのうえ・さとし)

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