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日米地位協定をめぐる情勢と抜本改定の課題(2020年11月21日 日本平和大会 特別集会②での報告)

日本共産党の参院国対委員長で外交防衛委員会に所属している井上哲士です。 

●異常な「米軍基地国家」の進行 

 この間の日米地位協定をめぐる情勢の土台には、在日米軍が兵員の数が増加し、基地も増強され日本が異常な「米軍基地国家」ともいうべき状況へと進んでいることがあります。

まず、兵員の数です。海外の米軍兵員数全体は10年間で36万人から16万人へと6割減った。しかし、2005年以降の米軍再編のもとで、在日米軍兵員数は逆に、4.2万人から5.5万人へと3割増で、その結果、海外の米軍兵員数に占める日本の割合は11.1%から33.7%に

 また、日米新ガイドラインと安保法制の下で、もともと国際的に異常な在日米軍基地がさらに増強されています。在日米軍の異常性は、唯一の原子力空母の海外母港、「殴り込み部隊」である海兵隊の唯一の海外基地、首都への基地配備も唯一だということです。

 その米軍基地がこの間、海外への出撃基地として大増強されています。

横田基地へ米空軍CV22オスプレイが配置されました。海兵隊のAV22と違い、CV22は特殊作戦部隊を敵地に送り込んだり脱出させたりすることを任務としています。首都東京が、米特殊作戦部隊の出撃基地になるという異常な事態です。

 それから、岩国基地には2017年に米海兵隊のF35B、16機が配備されました。それに続き、米軍厚木基地の空母艦載機60機が移駐され、所属機約120機と東アジア最大の航空基地となりました。さらにF35B追加配備されます。

横須賀基地には2015 年の原子力空母「ロナルドレーガン」配備後、新型イージス艦3隻が次々と配備されました。20年以上11隻体制が続いてきましたが14隻体制に。民間船との衝突事故も起きています。 

 「沖縄の負担軽減」の名による全国への訓練移転が行われ、各地での訓練へのオスプレイの参加が広がっています。一方沖縄では、本土に訓練に行っている間に、外来機の飛来が大幅に増え、負担軽減どころか激化しています。

 そして、増強された在日米軍と自衛隊との軍事一体化も大きく進んでいます。10月26日から11月5日に行われた日米共同統合実働演習「キーンソード21」には自衛隊約3万7千人、米軍約9千人が参加しました。日本全土を使い、水陸両用、陸上、海上、航空の各作戦、統合後方補給、サイバー攻撃等対処、統合電子戦、宇宙状況監視など、米軍のインド太平洋地域での中国に対抗する戦略に基づく全面的な大規模演習だったことがわかります。 

●深刻な被害の広がりといっそう浮き彫りになる日米地位協定抜本改定の必要性と課題 

このような中で、在日米軍による深刻な被害が激化し、かつ全国に広がっています。そのことが日米地位協定抜本改定の必要性と課題をいっそう浮き彫りにしていることが今の特徴です。 

◇国内法の適用を......沖縄でも全国でも傍若無人な訓練/新型コロナ対策でも 

まず、在日米軍に国内法の適用をという課題です。沖縄でも全国でも傍若無人な訓練が激しくなっています。

横田基地配備のCV22オスプレイ、C130輸送機の訓練が激化しています。同基地では昨年度の離発着回数は14089回で、イラク戦争開始直後の2003年度を超え21世紀で最多になりました。CV22が周辺自治体上空で飛行旋回を繰り返し、市街地上空で機関銃をむき出しにした飛行も常態化しています。基地内でのホバリングやつりさげ訓練は騒音をまき散らしています。初めての人員降下訓練が今年6月に行われ、7月にはフィン・あしひれを街中に落とす事故が起きました。

全国での低空飛行訓練被害が広がっています。横田基地のCV22の訓練は関東一円から富士山周辺で日常的に行われ、実践的な内容に変化しています。静岡県の東富士演習場では周辺市街地上を旋回しての離着陸訓練が当たり前になっています。

日本の航空法は最低安全高度として住宅密集地は300m、それ以外は150mを定めていますが「特例法」により米軍機は適用除外されています。1999年の「日米合意」で米国は日本の航空法の最低高度基準を用いているとし、「人口密集地」や「学校、病院に妥当な考慮を払う」としていますが、日本の規制は受けず、アメリカの「考慮」次第です。

ヨーロッパの各国の地位協定では米軍に国内法適用が適用されています。

長野県佐久市で昨年五月、横田基地所属のC130輸送機二機が公共施設が密集する市街地上空を低空で飛行し旋回しました。この低空飛行の様子は市民が動画で撮影しており、防衛省として解析し日米「合意」違反を米軍に抗議すべきと質問しました。防衛相は、「日米合意を米側も順守し、適切に運用しているものと思います」との無責任な答弁でした。

その後、党市議団が低空飛行解析センターに依頼すると、一機は地表から215から230mの高さで、もう一機は290mの高さから一気に230mまで降下して飛行したということが明らかになりました。合意違反は明らかです。

また、増強された岩国基地では周辺はもとより、広島や島根にまたがる訓練空域など米軍機の訓練が激化し騒音被害が広がっています。

 コロナ感染対策でも、国内法適用除外の問題が明らかになりました。米軍人は旅券法や出入国管理法から除外されています。従来からいったい何人の米兵が入国し、どこに居住しているかもわかりません。米軍人のコロナ感染や対策の実態は明らかにされず。この点でも、国内法の適用の必要性は明らかです。 

◇訓練への規制を......在日米軍の深刻な実態と野放しの訓練 

次に、訓練への規制をという課題です。

18年12月に高知沖で夜間空中給油訓練をしていた岩国基地所属のFA18戦闘機とKC130空中給油機が衝突、墜落し6人が死亡、不明となった事故についての米軍による報告書が昨年9月に公表されました。驚くべき内容です。

戦闘機内で手放しの操縦や読書、髭剃りをしている姿を自撮りしていた。そもそも夜間給油訓練をやる資格を持っていなかった。規律違反が常態化し、相次ぐ事故の背景とし「薬物乱用、アルコールの過剰摂取、不倫、指示違反といった職業倫理にもとる実例が存在した」と指摘しています。

さらに米軍による事故の再検証により、訓練成績が平均以下の未熟操縦士が米本土より岩国に集中配属されていることも明らかになっています。

こんな実態の米軍機が日本の空で訓練している。ぞっとする実態です。

訓練の日時、経路など地方自治体が事前情報を求めても提供されないことも重大です。政府に問い合わせても「米軍の運用の問題」であり承知していない。連絡があれば知らせるという態度です。

米国は、安保条約による提供施設・区域、訓練空域以外でも勝手に日本上空に訓練ルートを設定するなど、全国どこでも訓練飛行を行っています。なぜできるのかと外防委で質すと、「在日米軍が施設・区域でない場所の上空で飛行訓練を行うことが認められているのは、地位協定の特定の条項に明記されているからではなく」「安保条約の目的達成のため我が国に駐留することを米軍に認めていることから導き出されるもの」との答弁。どこでも自由放題ということになります。どこの国の政府の答弁かと思いました。

一方、米国内では、低空飛行訓練は限定した区域でしかできず、住宅地上空での訓練は規制されています。地方自治体へ事前に訓練計画を示すことが必要です。沖縄県の調査でも、ドイツ、イタリア、ベルギー、イギリスなど、いずれも自由勝手な訓練を認めておらず、当該国の軍の承認の必要や内容の規制、飛行禁止措置など定められています。当然のこと。

米国内でできないような過酷な訓練を外国で行う、日本はそれを規制できない。国内法の適用もない。まるで殖民地なみ。主権国家としてあってはならないことです。 

◇自治体の立ち入り調査権を......PFOS汚染で浮き彫りに 

次に、自治体の立ち入り調査権をという課題です。

この間沖縄で、米軍基地内で使用されている泡消火剤に含まれている有害な有機フッ素化合物PFOSによる汚染問題で浮き彫りになりました

PFOSは基地周辺の土壌や河川から高い濃度が検出され、2016年以来、県は立入調査を求めてきましたが米国は認めませんでした。政府は環境補足協定によって運用が変わるとしていましたが変わりませんでした。昨年12月にも格納庫からの流出事故がありましたが、米国は、「外部に流出はない」として報告していませんでしたが、実は、外部流出していたことが明らかになっています。

  今年4月に普天間基地から大量の流出があり、河川に流れ込み、基地周辺の市街地に大きな泡が舞うという事態になり、初めて補足協定に基づく調査がおこなわれましたが、当初、県の求めた除去土の提供を認めなかった。

9月にこの事故の米軍報告書が出されましたた。信じられないような内容です。格納庫周辺で士気高揚のためにBBQをしたために消火システムが作動したことが原因だったのです。システムの止め方がわからず、格納庫の扉もメンテナンスの不備で閉められず、20万ℓ以上が格納庫外に流れ出たというのです。

こんなことは当日にもわかっていたはずなのに明らかにせず、基地の外の泡の除去は地元自治体にまかせ、米軍は見ているだけでした。さらに、2014年にもBBQが原因の泡消火剤漏れがあったことも報道されている。

 今回は、大量の泡など基地から流出したことが明らかだったので調査に応じざるを得なませんでしたが、補足協定の下でも、調査につながる通報を日本側にするかどうか判断は米軍です。欧州では地方自治体の立ち入り調査権を認めています。日本でも必要です。 

◇航空機事故の際の捜査権を......現場に警察も入れない沖縄の一連の事態 

 捜査権の問題も重要です。沖縄で、オスプレイが墜落し、CH53ヘリが民間の牧草地で炎上し、あるいは保育園の小学校に部品を落下させる事故が相次ぎました。事故現場で日本の警察がもっている権限は住民を現場に近づけないようにすることだけです。駆けつけた赤嶺議員に、地域の警察署長が怒りをこめて「われわれだって事故の様子は何も知らされていない。アメリカさんのいいなりです」と言われたそうです。 

●全国に広がる抜本改定の要求。市民と野党の共闘の旗印に 

これまで基地被害については、基地を抱える渉外知事会が毎年、様々な要望を出していましたが、このように在日米軍の訓練による被害が激化し全国に広がる中、2018年7月に初めて全国知事会が提言を決議しました。沖縄の翁長前知事が提案して研究会が作られ、沖縄県によるヨーロッパ調査の成果も力になりました。

政府はこれまで、条文の文言だけを比較するのではなく、各々の地位協定の実際の運用のあり方等も考慮する必要があり、そもそも一概に論ずることが適当ではない、日米地位協定が他に比べて不利になっているということはないとしていました。

ところが沖縄の調査で明らかに不利であることが明確になると、河野外相(当時)は、「相互防衛義務を負っているNATO加盟国と日本は違う、地位協定の中身は違って当たり前と言い出しました。

しかし、ドイツやイタリアで1990年代に地位協定を改定し、訓練への規制など盛り込んだのは条約の性格によるものではありません。米軍機の事故が起き、国民的な大闘争のもとで政府が交渉したからです。運動を広げ、政府を変えることが必要です。

日本共産党は安保廃棄と共に地位協定抜本改定をいっかんして掲げてきました)。さらに市民と野党の共闘の発展の中で、日米地位協定改定が共通政策になりました。16年参院選、17年総選挙の際に市民連合と野党が調印した共通政策には盛り込まれていませんでしたが、19年参院選で日米地位協定改定がもりこまれ、次の衆院選に向けた要望にも引き続き盛り込まれました。

その転機は2018年1月に衆院安保委員会の野党メンバーによる沖縄で起きた小学校や保育園へのヘリ部品落下、不時着問題の野党合同調査団でした。

警察が現場に立ち入りできない状況など目の当たりにし、当時、希望の党の議員が「自分は改憲派だが、改憲よりも先に日米地位協定の改正だ」と発言しました。その年の衆院代表質問でも取り上げられ、その後も野党各党は地位協定改定を要求しています。沖縄の現実とたたかいが野党共闘を発展させてきました。

 さらに世論と運動、共同を広げ抜本改定を実現しましょう。

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