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ミャンマー国軍支配を許さず民主体制への復帰を──日本政府はそのための役割を果たせ(『前衛』2021年7月号掲載)

国軍による軍事クーデターと市民の不服従運動

 ミャンマー国軍が二月一日に起こした軍事クーデターに市民の粘り強い抵抗と世界からの抗議が続いています。
 同国では、昨年一一月八日の総選挙でアウン・サン・スー・チー国家最高顧問が率いる国民民主連盟(NLD)が二〇一五年に続いて圧勝(上下両院で三九六議席、民選総議員の八三%を獲得)し、国軍系野党は前回以上の惨敗を喫しました。二月一日は新しく選ばれた国会議員のもとで最初の連邦議会の召集日であり、選挙結果に基づき二期目のNLD政権が発足するはずでした。
 国軍は、昨年の総選挙に不正があると主張してきましたが、選挙管理当局は受け入れず、日本も参加した国際監視団は選挙は公正だったと評価しています。にもかかわらず国軍はアウン・サン・スー・チー氏やウィン・ミン大統領ら政権幹部を拘束し、国軍出身の第一副大統領を大統領代行にして「非常事態」を宣言させ、全権をミン・アウン・フライン国軍総司令官が握りました。その後、国軍は、自由公正な総選挙を実施したうえで選挙で勝利した政党に国会の権限を委譲すると発表。二月二日には国軍司令官を議長とする「国家統治評議会」を設置しました。
 ミャンマーの現行憲法は、軍政期の二〇〇八年に国軍が中心となって作られたもので、軍の政治的権限を大幅に認めています。上下両院それぞれの議席の二五%があらかじめ軍人に割り当てられています。さらに国軍は、国防や国境担当のほか、内務を担当する閣僚の任命権を持ち、国防省は国の監査の対象外になっています。
 このような軍政時代の特権を残した憲法の改正をめざしているNLDが総選挙で国民に圧倒的に支持されたことで国軍は追い詰められていました。新政権の発足を暴力で阻み、国軍の特権を維持しようとする企てであり、決して許されません。

全土での抗議デモと不服従運動(CDM)の広がり

 軍事クーデターの数日後から看護師や医師による軍政に抵抗する不服従が展開され、これが不服従運動(Civil Disobedience Movement:CDM)という名称で一気に全土に広がり、連日、数万人規模のデモや公務員のボイコットなどが続きました。
 抗議デモに対して、治安当局が放水や催涙弾、ゴム弾による鎮圧を行い、死傷者が発生しましたが、二月二二日には、抗議デモは過去最大規模となり全土で数百万人が参加しました。こうしたデモに対し治安当局は実弾を含む発砲等での鎮圧へとエスカレートし、死亡者が増え続け、拘束中のNLDの党員の死亡等も相次ぎました。
 国軍記念日で軍事パレードが行われた三月二七日には国軍・警察が市民デモに対し実弾等による大規模な鎮圧を行い、少なくとも一一四人が死亡と報じられました。四月九日にはバゴー市での大規模鎮圧で少なくとも市民八二人が死亡しましたが、重火器も使用したといわれており、「まるでジェノサイドだ」という住民の声も報道されました。同日、軍事法廷は市民二三人に死刑判決を言い渡しており、「国家統治評議会」の報道官は、「機関銃や自動小銃を使えば、数時間で五百人を殺せる」と、これでも自重しているかのように述べ、「木が成長するためには、雑草を取り除かなければならない」としてデモ隊への弾圧を正当化し、市民の抗議運動を敵視し、一掃する構えを重ねて強調しました。

軍政下の行政、経済、社会の大部分を機能不全に

 抗議デモに国軍が実弾を含む弾圧を広げる中、夜間、早朝のデモや短時間ですぐ解散するゲリラ的なデモなど工夫をしながら不服従運動は続けられており、若い世代の参加が目立つのも特徴です。ミャンマーで経済改革と民主化が進んできた中で成長してきた世代が、デモに積極的に参加し、人々の視覚に訴える様々な方法を編み出すと共に、SNSを活用して事態を国内外に発信しています。これに対して国軍は、国内のインターネットを制限しており、社会や経済の混乱を招いています。
 「しんぶん赤旗」がヤンゴン在住のミャンマー人ジャーナリストの協力を得て取材した「ミャンマー不服従運動 市民たちのたたかい」によれば、外国為替や貿易金融を専門にする国営ミャンマー外国貿易銀行は、約五〇〇人の行員のうち約二〇〇人が不服従運動に参加し、ストライキのため正常な業務ができなくなりました。さらに民間も含む多くの銀行で窓口業務が再開されておらず、送金や決済が停滞し、ビジネスに大きな影響を与えています。
 最初に不服従運動を始めた医療関係公務員たちは全国で三〇〇カ所と言われる公立病院・医療施設を閉鎖させています。鉄道や港湾は閉鎖され、電気エネルギー省では約半数の職員が職場を離れたといわれています。
 不服従運動には職場を離れた公務員に加え、税金不払いや国営・軍関連商品のボイコットなど全国で少なくとも数百万人が参加しているとみられています。参加者のほとんどは生活に不安を抱える普通の市民。不利益や危険を承知の上での一人ひとりの決断は、大きな国民的運動となり、軍政下の行政、経済、社会の大部分を機能不全に追い込んでいます。

弾圧・取り締まりを強める国軍

 これに対し国軍側は軍政下の行政や経済運営に打撃を与えている不服従運動の弾圧に躍起になっており、不服従運動が「行政機構を妨害」しているなどとして、不服従運動への参加自体が「テロ対策法に違反する」と宣言。公務員のストライキや消費者のボイコットを中心とする非暴力の不服従運動も「テロ対策」の名目で取り締まる姿勢を示しています。
 支持表明しただけの著名人らが扇動罪で訴追されるなどしており、軍事法廷では市民への死刑判決が相次いでいます。
 とくに医療・教育の二分野を狙って弾圧をさらに強化し、不服従運動に参加したとして、「扇動罪」容疑で指名手配された医師や看護師などの顔写真つきリストが国営英字新聞に連日掲載されています。大学教員全体の五四%にのぼる一万九〇〇〇人がストライキ継続を理由に停職処分を受けています。
 国軍は報道への統制も強めており、日本人ジャーナリストの北角裕樹さんも「虚偽報道をした」として一時拘束され、起訴されましたが解放されました。
 現地の人権団体「政治犯支援協会」によると五月一七日までに四一二〇人以上が反軍政活動に関連して拘束されており、一六九九人以上が指名手配中で、クーデター後の市民の犠牲者は計八〇〇人を超えています。

NLD所属議員らのたたかいと「国民統一政府(NUG)」の結成

 国軍によるクーデターと市民への弾圧に抗し、昨年の総選挙で当選したNLD所属国会議員らを中心に構成する「連邦議会代表委員会(CRPH)」が結成されました。さらに四月には、NLD、少数民族勢力と抵抗運動の市民らにより「国民統一政府(NUG)」が結成され、軍政に変わる民主連邦国家の樹立を目指しています。
 これに対し国軍は、五月九日に国営英字紙に掲載された「テロ対策委員会」の告知文で、具体的な事件に言及することなく、「NUGが不服従運動の参加者を暴力行為に扇動した」「爆破、放火、殺人が行われた」などと断定し、NUGと関連組織をテロ対策法に基づく「テロ組織」に指定しました。さらに五月二一日には国軍が任命した選挙管理委員会が「総選挙で不正を行った」としてNLDを解党処分にする方針を示しました。

問われる日本の立場─最大の経済援助国として明確な姿勢を示すべき

暴力の停止、非拘束者の解放、民主体制回復を求めた外相談話

 日本政府はクーデター当日、茂木敏充外相の談話を発表して事態への「重大な懸念」を表明し、拘束された関係者の解放や民主的政治体制の早期の回復を強く求めました。その後、事態が悪化するなか、二月二一日の外務報道官談話に続き、三月二八日に再び外相談話を発表して国軍・警察による実力行使で多数の死傷者が発生していることを「強く非難」し、「ミャンマー国軍が、市民に対する暴力をただちに停止し、アウン・サン・スー・チー国家最高顧問をはじめとする被拘束者を速やかに解放し、民主的な政体を早期に回復することを改めて強く求めます」としました。
 一方、欧米諸国はクーデターを認めない立場から制裁を課していますが、日本政府は、「制裁をすればいい、それが全てだという考え方は私は違うと思います、ミャンマーの民主化の回復のために何をしていくことが一番効果的なのかという観点から考える必要がある」(茂木外相)としています。
 政府は、「日本はミャンマーに様々なチャネルというものをもっている」(茂木外相)と国軍との独自のパイプがあることも強調し、「世界からどう見られているか、真正面からミャンマー軍に説明し、今のような行動を即時やめることを強く言う国として役割を果たす」(菅総理)などとしてきましたが、国軍は残虐な武力弾圧や取り締まりを強めており、その効果は見えていません。
 今必要なことは、ミャンマーに対する最大の経済援助国として、国軍を認めず、ミャンマー市民の立場に立つという明確な姿勢を示すことです。

国際社会の一致した取り組みを呼びかけた、日本共産党の志位委員長の声明

 日本共産党は軍事クーデター発生後、直ちに抗議の声を上げると共に三月一六日、「ミャンマー国軍は武力弾圧をただちに中止せよ──国際社会の一致した取り組みを呼びかける」と題した志位和夫委員長の声明を発表しました。
 その中で、「日本共産党は、平和的な抗議行動を武力で踏みにじる残虐な行為を強く糾弾する。ミャンマー国軍は弾圧を直ちに中止し、拘束した全ての人々を直ちに解放し、総選挙をへて民主的に成立した国民民主連盟(NLD)政権への原状復帰を行うよう、あらためて強く要求する」「国軍の暴挙に抗議してたたかうミャンマー国民との連帯を表明する」「民主的に選ばれた政権を軍事クーデターで倒すことは重大な国際問題であり、国際社会はこの暴挙を容認することがあってはならない」「日本政府は、ミャンマー国民の意思に応え、軍政の正統性を認めないという立場を明確にし、国際社会の取り組みのために積極的な役割を果たすべきである」と述べています。

超党派の議員連盟とミャンマー民主派議員との共同声明

 三月三一日には、超党派の「ミャンマーの民主化を支援する議員連盟」として、ミャンマーのCRPHの国会議員と「ミャンマーの民主化に向けた国際会議」をオンラインで開催し、私も小池晃書記局長と共に参加しました。与野党から約二五人が参加し、在京の外国大使館や日本在住のミャンマー人の参加もありました。
 CRPHの議員は、それぞれ国軍から避難した場所から参加されており、安全の確保のために、会議についての外部への発進は一九時まで控えるように呼びかけられ、緊張のなかでの会議となりました。
 CRPHの議員からは、国軍による国民弾圧の実態が生々しく報告され、「国軍を政府として認めないこと、国軍に利益になるような経済支援を行わないこと、国民に選ばれている私たちによる政府を認めること」との強い訴えがありました。この国際会議の結果を踏まえ、共同声明文に合意し、今後、相互に連携・協力して、合意事項の実現に向けた活動を展開していくことを確認しました。
 共同声明文では、国軍による軍事クーデターと市民への暴力を強く糾弾したうえで、日本政府と国際社会に対し、①即刻、市民に対する武力・暴力行使を停止させること②アウン・サン・スー・チー国家最高顧問らNLD幹部や関係者、及び不当に拘束されている市民らを即時かつ無条件で解放させること③昨年一一月の選挙で国民によってえらばれた民主体制へ速やかに全権を返還することを求めています。
 さらに日本政府に対し、国際社会と連携しつつ、政府開発援助(ODA)や開発投融資などを含め、直接間接を問わず、ミャンマーの国軍を利する一切の支援や協力をただちに中止/停止し、上記要求の達成までの間は、その再開を行わないことなどを求めています。
 議員連盟として四月九日、この共同声明を外務副大臣に渡しその実行を要請しました。

日本の経済援助の前提は民主化の支援

 私は三月二六日の外交防衛委員会でこの問題を取り上げました。
 日本は実態が不明な中国を除くとミャンマーに対する世界最大の経済援助国です。二〇一九年の日本の経済協力は約七億五六九三万ドルで二位の米国一億四八七七ドルを大きく引き離しています(表①)。【前衛2107表①.pdf
 最大のミャンマー支援国として日本の責任は重く、その対応の影響は非常に大きいものがあります。一方、日本は過去、ミャンマーの国軍が民主化運動を弾圧している最中に軍事政権を承認して、ODAの供与などで軍政に支援の手を差し伸べたという歴史があります。この誤りを繰り返してはなりません。
 日本が経済協力を強めたのは二〇一一年に当時の軍政が民主化を約束して以降で、ミャンマーを「最後のフロンティア」と称し、ODAを通じて積極的に支援すると共に、財政投融資からの公的資金を呼び水として日本企業の投資を促進しました。二〇一五年のNLD政権の発足はこれらをさらに進めるものとなりました。過去五年の対ミャンマーODAは表②の通りですが、累計は二〇一九年度までに、有償資金協力(円借款)が約一兆三〇五六億円、無償資金協力が約三三七九億円、技術協力が約一〇五〇億円となっています。【前衛2107表②.pdf】日本企業の進出は二〇一一年の約五〇社から昨年までに四〇〇社を超えるなど大きく進みました。
 これらを進めてきた政府の「対ミャンマー経済協力の概要」には、基本方針として「ミャンマーの民主化、国民和解、持続的発展に向けて急速に進む同国の幅広い分野における改革勢力を後押しするために支援を実施する」と明記しています。
 私は、「基本方針の一つ目である民主化が失われて軍政が台頭し、深刻な弾圧、人権侵害が続く中で、この経済支援だけが続けるということではないと思う。改革勢力を後押しするのでないような支援は行わないという基本的立場だということでよいか」とただしました。
 茂木外相は、国際機関を通じた人道上の必要性が高い案件は続けるとしつつ、それ以外はクーデター以降、新たに決定したODA案件はないとしましたが、その理由は「早急に判断すべき案件がない」というもの。今後についても「ミャンマーにおける事態の鎮静化や民主的な体制の回復に向けてどのような対応が効果的か、総合的に検討していきたい」「どのような対応が効果的か検討していきたい」ということにとどまるものです。
 そこで私は、政府の開発協力大綱の中には「開発協力の適正確保のための原則」というのがあり「開発途上国の民主化の定着、法の支配及び基本的人権の尊重を促進する観点から、当該国における民主化、法の支配及び基本的人権の保障をめぐる状況に十分注意を払う」としていることを指摘しました。
 今後、新規案件を決定する際には、政府間の交換公文に署名をすることが必要ですが、この原則からすれば、国軍を相手に署名をすることはあり得ないはずです。この点でも茂木外相の答弁は、「民主的な体制の回復に向けて取組を進めるという方向でどうやっていくかにつきましては、今後の状況を見定めて考えていきたいと思っております」ということにとどまりました。

日本の公的資金が国軍の利益に

 この質問後、ミャンマー国軍による市民の弾圧はさらにエスカレートしていきます。私は再度、四月一五日の外交防衛委員会で取り上げ、ここまで事態が深刻化し、国軍がそれを正当化しさらに強めようとしている時、「検討」をくりかえすのではなく、国軍の利益につながることは一切行わないこと、ミャンマーの市民の立場にたつことをより明確に示す時だと迫りました。
 まずODAについてです。三月の質疑で茂木外相はクーデター後に決めた新規案件はないと答弁しましが、実施中の案件についてはふれませんでした。改めてただすと、外務省は、円借款は三四件七三九六億円、無償資金協力は二六件五八五億円で、二二件の技術協力を実施中であることを明らかにしました(表③)。【前衛2107表③.pdf
 三月三一日の加藤勝信官房長官の会見では、実施中の案件についても「目的、内容、性質、現地情勢などを総合的に勘案し、具体的な対応を考える」と述べていますが、どういう立場で対応するか問われています。
 ミャンマー国軍は、国家予算とともに自らが所有・経営する企業のビジネスを資金としています。その中心が、ミャンマー・エコノミック・ホールディングス・リミテッド(MEHL)と、ミャンマー経済公社の(MEC)の二つです。
 国連人権理事会ミャンマーに関する事実調査団が二〇一九年に公表した「ミャンマー国軍の経済的利益についての報告書」によれば、
──両社が所有する多数の子会社が、同国で文民が所有するどの企業よりも大きな収入を生み出している。
──MEHLは国軍幹部が経営に深く関与しており、株もすべて現役および退役の将校、連隊や部隊、退役軍人が所有している。またMECは防衛省が全面的に所有、支配しているとされる。
──MEHLやMECと両社の子会社が生み出す莫大な収入の大半は政府の公式予算に取り込まれず、人道に対する罪を犯している可能性が高いとされる国軍の資金となっている。
としています(メコン河開発メールニュース二〇二一年五月一三日)。
 具体的に日本の公的資金が国軍に流れる恐れが指摘されている事業のいくつかをあげます。
ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業
 ヤンゴン中心地から南東約二三㎞にある千代田区の約二倍の面積があるティラワ地区を製造業用地域、商業地域などを総合的に開発する二〇一四年度からの事業で、日本の官民が出資する合弁企業がすすめてきました。JICA(国際協力機構)が海外投融資案件として一〇%を出資、さらに周辺のインフラ整備もODAとして実施しており日本企業五六社が進出しています。
 同事業には、ミャンマー政府(ティラワSEZ管理委員会)も一〇%を出資しているため、文民統治下の状況とは異なり、合弁企業における配当金の一部が国軍の支配下に置かれたティラワSEZ管理委員会に入ることが予想されます。
ヤンゴン市内複合不動産開発・運営事業(Yコンプレックス)
 ヤンゴンの一等地である軍事博物館の跡地にホテルやオフィスなどの大規模複合不動産を建設・運営する二〇一七年度からの開発事業です。総事業費は約三七七億円の予定で、うち約八割を国際協力銀行(JBIC)など日本の公的資金や民間が出資し、二〇%を軍と関係の深い企業の子会社が出資するとされています。
 この事業地は国軍が所有しており、土地使用料の年間二二〇万ドルは国防省に支払われることになります。
バゴー橋建設事業
 ティラワ経済特別区の開発に伴い、交通量の増大が予想されているヤンゴン市ティラワSEZを含むタンリン地区間を結ぶバゴー川に橋梁を整備する事業です。
 ODAとして三一〇・五一億円の円借款が供与されるこの事業は株式会社横河ブリッジホールディングスの子会社である横河ブリッジと三井住友建設の共同企業体(JV)が事業を受注しています。現地の報道では、横川ブリッジはMECの子会社と橋梁用の鉄骨の製造を行っており、この橋の三分の二の鉄骨を提供することで、MECは膨大な利益をあげることになるとしています。

ODAを総点検し、国軍への資金流入を断て

 私は、継続中のODAについて、JICAの北岡伸一理事長が、「二月一日以前の明らかに支払い義務があるものは支払うが、それ以降は何も決めていない」と決算委員会で答弁したことを上げ、「二月一日以前のものでも、支払いの凍結や国軍企業を通さないやり方など、国軍に資金が流れないようにすべき」と迫りました。
 茂木外相は、主契約者が検討中だとした上で「適切に処理されるよう政府やJICAとして相談に応じたい」と答弁にとどまりました。
 三月四日には、メコンウォッチをはじめとした日本の三二のNGOが連名で政府に「日本の対ミャンマー公的資金における国軍ビジネスとの関連を早急に調査し、クーデターを起こした国軍の資金源を断つよう求めます」との要望書を提出しています。
 その中で、対ミャンマーのODAやJBIC等の融資・出資について「人道目的のものを除く全ての支援を一旦停止し、国軍との関連が指摘された企業が事業に関与していないか、または、事業の実施が国軍に経済的利益をもたらしていないか、早急に調査」し、「明らかとなった事実を公表し、国軍を裨益する事業に関しては、直ちに中止、または支援を取りやめる措置をとってください」と求めています。
 茂木外相は五月二一日の会見で、「このまま事態が続けばODAを見直さざるを得ない」としてODAの全面停止の可能性に言及し、そのことを実際に伝達してあることを明らかにしました。
 クーデターを非難しても援助を続けたのでは無法を容認しているとみられても仕方ありません。しかもODAの原資は日本の国民の税金です。それが市民を虐殺している国軍に流れ資金源となることは許されません。日本の公的資金で国軍が利益を得ることを断つという立場で、継続中のODA等に対応することが必要です。

日本企業と国軍との関係の解消を

 前述した「国連のミャンマーに関する事実調査団」の報告書は、一四の外国企業がミャンマー国軍関連企業とジョイントベンチャーを組んでおり、少なくとも四四の外国企業がその他の形でミャンマー国軍関連企業と商業関係を持っていると指摘し、「ミャンマー国軍とその所有会社であるMEHLやMECが参加する外国企業の活動はすべて、国際人権法や国際人道法の違反の一因となる、またはそれらの違反と関連づけられる危険性が高い」と述べています。
 そうした外国企業の一つとして日本のキリンホールディングスがあげられています。同社はクーデター直後に、「ミャンマーにおいて国軍が武力で国家権力を掌握した先般の行動について大変遺憾に思っています。今回の事態は、当社のビジネス規範や人権方針に根底から反するものです」とし、国軍と取引関係のある企業との合弁事業の提携の解消を発表しました。重要な動きです。
 同社にとどまらず、国軍と関係を持つ日本の他の民間企業に政府として働きかけることも必要です。NGOの要請書では、国軍との関係を断つための支援を政府に求めています。

ミャンマー国軍との協力・交流は中止を

 ミャンマー国軍との協力・交流も問題です。日本と国軍とのハイレベル交流は、大臣級で二〇〇七年以降で計五回、副大臣・政務官・次官級で二〇一一年以降計一五回、幕僚長級で二〇一四年以降計八回、防衛当局間協議は二〇一三年以降計二回に及んでいます。
 クーデターを行ったミン・アウン・フライン国軍司令官は二〇一四年九月には、ミャンマー国軍総司令官として初めて公式訪日し、当時の菅義偉官房長官、岩崎茂統合幕僚長と会見しました。最近では二〇一九年一〇月にも来日して茂木外相と会談すると共に安倍晋三総理(当時)にも表敬訪問し、ティラワ経済特区への日本からの投資の拡大や基礎インフラ整備等への協力を求めています。
 また防衛省はミャンマー国軍への能力構築支援事業として一四年度から、潜水医学、航空気象、人道支援・災害救援、国際航空法及び日本語教育環境整備の各事業を実施しています。そのために日本からミャンマーへ延べ九二人を派遣し、ミャンマーからの招聘者数は延べ五〇人でその予算額は全体で約二・一億円となっています。
 さらに、二〇一五年以降、防衛大学校などにおいて延べ二六人の留学生を受け入れ、現在は防衛大学校に六人が在学中です。開発途上国からの留学生に対して、学習・生活費用の不足を補うための給付金を支給していますが、このうちミャンマーからの留学生を対象とした予算額は二〇一五年度以降で合計約五八〇〇万円となっています。
 岸信夫防衛大臣は、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、能力構築支援事業としては日本語教育環境整備支援のみだとしたうえで「今後の防衛協力・交流については今後の事態をさらなる推移を注意して検討したい」とのべているのに対し、私は、「国軍は弾圧・殺害を合理化しており、およそ交流・協力の対象ではない。もはや検討の段階でない。明確に中止すべきだ」と迫りました。
 岸大臣は、日本語教育環境整備について「ミャンマー国軍の能力を向上させるための支援ではない」とし、留学生についても「相互理解と信頼関係を増進する等の意義がある」として今後も続ける考えを変えていません。

日本は国際社会の結束に役割はたせ

 何よりも必要なことは国際社会が一致して弾圧の停止、NLD政権の現状復帰を迫っていくことです。東南アジア諸国連合(ASEAN)は首脳会議で暴力の即時停止や特使受け入れをミャンマー国軍に要求しました。国連安全保障理事会はデモ隊への暴力を非難し、民主的政権移行を支持する議長声明を出しましたが、国軍に強い態度を打ち出すことに中国が反対しているため、安保理決議は採択できていません。
 ミャンマーと強い関係を持ってきた日本が、国軍を利するような支援は中止し、国際社会の結束に貢献していく立場に転換していくことが求められています。
(いのうえ・さとし)

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