・NPT再検討会議について質問。岡田外相は、日本共産党の訪米団に対し「志位委員長、井上議員も出席され、非常に有益な意見交換をされたことは、日本としての存在感を示すことにもつながったので感謝申し上げたい」と答弁した。
- 井上哲士君
-
五月の三日から始まりましたNPTの再検討会議に関連してお聞きいたします。
日本共産党は志位委員長を団長に訪米団を派遣をいたしまして、私もその一人として前回に続いて参加をしてまいりました。
私たちは、被爆国の党として二つの要請をしてまいりました。第一は、二〇〇〇年のNPT再検討会議で合意をされた自国核兵器の完全廃絶を達成するという全核保有国の明確な約束を再確認をするということ、もう一つは核兵器廃絶のための国際交渉を開始する合意をつくること、この二点についてNPTのカバクチュラン議長や第一委員会の委員長、国連のドゥアルテ上級代表、各国の大使、議員団とも会談をしてまいりました。全体として実感をしたことは、核兵器のない世界を築くという意思、そしてこの歴史的なチャンスを必ず生かしたいという皆さんの思いが国際社会の圧倒的多数になっているということでありました。
まず、核兵器国の明確な約束を含む二〇〇〇年会議での合意の再確認の問題についてお聞きいたします。
福山副大臣が出席をされ、ニューヨークでお会いいたしましたが、演説でも第一にこの再確認ということを挙げられました。このNPT体制というのは、五つの大国には核保有を認めると、その他は認めないというある意味の差別条約なわけですね。にもかかわらず、国際社会が受け入れたというのは、第六条で核兵器国が核廃絶への真剣な努力を行うということを約束していることに私はあると思いますけれども、この点でのまず基本的認識をお聞きいたします。
- 外務副大臣(福山哲郎君)
-
井上委員にお答えいたします。
井上委員にはニューヨークでお目にかからせていただきました。御苦労さまでございました。
今御指摘をいただいたように、NPT体制は、五か国を核兵器国と認めた上で、そしてその五か国に核軍縮交渉義務を課し、すべての締約国は核不拡散義務と原子力の平和的利用の権利を有するというグランドバーゲンの構造に立ったものだという認識をしておりまして、核兵器国と非核兵器国との、また先進国と途上国等による対立構造を乗り越えて国際社会全体が歩み寄ることでこのNPT体制の求心力を高めたいと。そして、我々としてはこのグランドバーゲンを再活性化することが重要だというふうに認識をしています。
その観点の中で、御案内のように我々は豪州との共同によってパッケージを提出をしておりまして、その中でも我々としては、今、井上委員の言われましたように、核兵器の完全廃絶に向けた明確な約束の再確認を強く求めているところでございます。
- 井上哲士君
-
問題は、核兵器国がこの約束を誠実に実行してきたのかということが問われるわけですね。
オバマ・アメリカ大統領は、昨年六月のカイロ演説でこう述べました。私は、ある兵器について、それを持つ国と持たない国があることに抗議する人々の意思を理解することができます、だからこそ私は核兵器保有国のない世界を追求するというアメリカの約束を改めて強く明言をしたのですと、こういうふうに述べました。ですから、条約の六条があるにもかかわらず新規の核保有国やそれを計画する国が増え続けているというのは、発効以来四十年間、核保有国の約束が果たされてこなかったと、そのことを私はオバマ演説というのは率直に認めているということでありまして、前回の会議は二〇〇〇年のこの約束をアメリカが主導してほごにした結果だったわけですから、非常に大きな変化だと思います。会議では、潘基文国連事務総長の演説や各国代表の一般討論演説も行われまして、三つの委員会の審議にも入っております。
現時点において、二〇〇〇年合意の再確認という点で、この会議の状況をどう評価をして、今後、日本としては成功のためにどういうふうな対応を考えていらっしゃるでしょうか。
- 外務副大臣(福山哲郎君)
-
まず、非常に象徴的だったのは、会議の第一週において、アメリカが核兵器保有数及び削減規模に関する情報公開措置を発表しました。御案内のように、クリントン国務長官の演説の後、本国の中で数が発表されたと。また、インドネシアがCTBT批准手続の開始を表明をされました。
先ほど井上委員が御指摘をいただいたように、私自身もニューヨークに行かせていただいて、全体のモメンタムとしては、合意に向けて努力をしたいというモメンタムが働いているというふうに思いますし、P5も、つい先日、P5のメッセージを発表されたというふうに承っているところでございます。
また、我々としては、現地でNAM、NACのリーダー国とそれぞれ会談をいたしました。彼らの非常に象徴的な表現は、今度のNPT会議、いわゆる今やっているNPT会議は、二〇〇五年とは異なって、違いを強調するよりも共有できることをそれぞれが確認をし合うことが合意に向けて重要だというような表現がありました。私としては、非常にそこは評価をしているところでございます。
しかしながら、そういったモメンタムが形成されつつある一方で、イランの核問題等の要因と併せ、だからといって、このNPTの運用検討会議の約一月後の先行きが楽観できるとは私は限らないというふうに思っておりまして、我が政府としては、合意に向けて一つ一つ各国と交渉を積み上げて、岡田大臣が中心になってまとめ上げられた日豪のパッケージの提案について各国としっかりと詰めてまいりたいというふうに思っております。
- 井上哲士君
-
再確認への思いが大きな流れである一方、楽観できない問題もあるという、まさに私もそのことは感じてきたわけでありますが、そういう点で被爆国日本の役割は非常に大きいと思います。
ただ、ニューヨークでは、被爆者の代表からも、なぜ日本から首相や外務大臣が来ないんだと、こういう率直な声も出されました。
福山副大臣、大奮闘されてきたわけでありますが、鳩山総理自身が被爆国としての道義的責任ということを言われてきたということを考えますと、より高い位置付けをされるべきではなかったかという思いをしておりますけれども、この点、岡田大臣、いかがでしょうか。
- 外務大臣(岡田克也君)
-
まず、今回のこのNPT運用検討会議、共産党の志位委員長、そして委員御自身も御出席されて、そして非常に有益な意見交換をされたこと、日本としての存在感を示すことにもつながりましたので、感謝申し上げたいというふうに思います。
その上で、今回のこの会議、総理がというのは、実は首脳、国のトップが出ているというのは一か国だけ、イランのアフマディネジャド大統領が出席をしたということでございます。それ以外に首脳級ということですと、ルクセンブルクの副首相が出たと。それ以外に、外務大臣クラスは三十一名。
なぜおまえが出なかったのかと言われますと、私はアフリカに行っていたわけで、いずれも重要な会議であったことは間違いございません。ここは役割分担して、福山副大臣に出ていただきました。
ただ、委員も御指摘のように、この会議が最終的にまとまるかどうかというのは、これは非常に予断を許さない、イランの問題とか様々ございます。そういう中で、もし大臣クラスが集まって何らかの合意を、そのことによって何らかの合意ができるという、そういう場面が仮にあるとすれば、私は後半に、これ長い会議でございますので、後半にニューヨークに行くことについて、それをちゅうちょしているわけではございません。
- 井上哲士君
-
これは五年に一度の会議で、被爆国日本としてはやっぱり特別な位置付けのある会議だと思うんですね。
唯一首脳で参加をしたイランの大統領が初日に演説をし、アメリカのクリントン国務長官も初日に演説をし、さらには非同盟諸国を代表してインドネシアの外務大臣も演説をされました。やっぱり初めの段階で基調になるいろんな意見が出ることを考えますと、初日にきちっと被爆国の外務大臣が演説をされる、まあ中身はともかく、五年前はそうだったわけですね。そういうことから言いますと、やはり最初の段階から高い位置付けをするべきだったんではないかということは申し上げておきたいと思うんです。
もう一つ、この十三項目の合意の再確認の上に更に前進をさせたいというのが多くの国々の思いなわけですね。我々は、もう一点、この核兵器廃絶のための国際交渉を開始をする合意をつくるということについても提起をいたしましたけれども、世界の大勢がその方向に向かっているなというのは実感でありました。潘基文事務総長も五月一日のNGOの集会で、核兵器の禁止条約を含む核軍縮交渉を呼びかけられました。この点、日本政府はこれまで、前政権来、国連総会でマレーシア政府が提案をした核兵器の禁止・廃絶条約の早期締結のための交渉開始を求める決議にはずっと棄権をされてきておりますし、今回の演説にもこの問題の提起はなかったわけですね。
私はやはり核兵器廃絶をめぐる世界の新しい情勢を見たときに、被爆国としての役割を果たす上でも、この廃絶のための国際交渉開始の合意をつくるということに積極的に推進をするという立場に転ずるべきではないかと思いますけれども、その点いかがでしょうか。
- 外務大臣(岡田克也君)
-
ここは率直に言って、なかなか難しいところだと思います。
核を廃絶するということになりますと、やはり今、核を持っている国はなかなか、それは将来の核なき世界を目指すということはよくても、直ちにということについては簡単にはそれは合意できないと。もちろん、このマレーシア案に対して、中国はこれは賛成をしていたと記憶をいたしますが、ほかの核保有国は反対に回っている。G8外相会談でも私、核の問題を随分取り上げたんですが、核を持っている国、これはアメリカではありませんが、ほかの核を持っている国からは、やっぱりそのこと自身が特別のことであるということで、簡単に手放せないというそういう雰囲気というのは非常に伝わってまいりました。
ですから、核を持っている国、持っていない国の対立の構図にするのではなくて、やはりそれ全体を取り込みながらどうやって核なき世界を目指していくかということを考えるべきではないか。そういう観点から考えると、まず核兵器の数を減らすことと核兵器の役割を減ずること、そのことの具体的なやはりステップを示しながらきちんと前に向いて実現をしていく、そういうことが重要なのではないかというふうに考えているところでございます。
- 井上哲士君
-
大臣自身が、北東アジアの非核地帯条約の問題など、いろんな部分的措置に対しても取り組んでいらっしゃるわけですが、CTBTの批准にしてもカットオフ条約にしても、それから核兵器の先制不使用という問題についても、部分的措置を広げていくということは非常に重要だと思っているんですが、それを積み重ねるだけでは核兵器のない世界には到達できないというのは戦後の長い核兵器をめぐる外交交渉で私はもう明らかだと思うんですね。もちろん、直ちに核兵器国がすべて廃絶しますという合意に到達するというのは様々な困難があると思いますが、私たちが求めているのは、国際交渉を開始すると、この合意をまずつくるということが必要ではないかということなんですね。
ですから、開始から、交渉をし、合意をし、実行というまでには時間掛かるかもしれませんけれども、始めるということは核保有国の意思があればできることなわけです。マレーシアの決議には、核保有国でいいますと、中国に加えてインド、パキスタンも賛成をしているわけですね。もちろん、核廃絶に至るいろんなプロセスもあるでしょう。どういうプロセスでやるかということも検討をするという国際交渉を始めるということはこれは戦後一度も行われていないわけで、これを今踏み出すということが全体のやっぱり前進を図るという点でも大事で、部分的措置とこういう交渉を同時並行に進めることが大事だと考えますけれども、いかがでしょうか。
- 外務大臣(岡田克也君)
-
部分的措置といっても、例えば非核地帯条約、残念ながらこの北東アジアにおいては北朝鮮がありますので、北朝鮮が完全に核を放棄をするということがないと北東アジア非核地帯条約というのは前に進めないわけでありますが、しかし、この非核地帯条約というのはアメリカも大分変わってまいりました。オバマ政権になって非常に積極的な、つまり、今ある非核地帯条約に対する態度というのは、アメリカはかなり今変わりつつあるというふうに認識をしております。
非核地帯条約、もう今も既にかなりありますので、これが更に広がっていきますと、最終的には核を持っている国以外は全部非核地帯条約ということも決して夢物語ではない。そうしますと、あとはもう核を持っている国がいかにそれをなくすかという、そういうことになるわけで、私は、様々な役割を減らす、数を減らすという、あるいは非核地帯条約、いろんなことを使いながら、核なき世界を一歩一歩目指していくということが重要ではないかと思います。
全体に網をかぶせるべきだという委員の御指摘は、先ほど言いましたような難点というか問題があるということでありますが、私は、核を使用することが、これが違法であると、あるいは、少なくとも広い意味でこれは人類にとって許されないことなんだと、そういう一つの規範というものを築き上げていくということが非常に重要なことじゃないかというふうに思っております。
- 井上哲士君
-
一歩一歩というお話が今ありました。これは世界のNGOの中でもそういう意見はかなり強かったんですけど、今回、二百五十のNGOが一緒になってこういう国際交渉を始めようということでニューヨークでの集会も行われました。
それから、NATO諸国の中でもいろんな変化は起きているんですね。オランダ、ドイツの国会議員の皆さんとの懇談をしましたけれども、議会では、あちらに配備されているアメリカの戦術核兵器の撤去を求める国会決議を上げております。
それから、ドイツの国会の軍縮・軍備管理の委員長だと思いますが、これまでは、部分的措置の積み重ねによっていずれ核廃絶をと、ステップ・バイ・ステップという立場だったけれども、国際世論とかNGOとの交流の中で、マレーシアやコスタリカが出しているモデル条約の重要性が深まったと。ああいうモデル条約によって、NPTが持っている核兵器国と非核兵器国の差別をなくしていくということにもなるじゃないかということで、議会としては、ドイツ政府に対してこういうモデル条約へ賛成するように転換するように求めることが多数になっているということが言われました。
政府はまだ立場は変えていないようでありますが、こういう大きな変化が国際的にNGOの中でも、NATOの諸国の議会の中でも変わってきているということになりますと、私は、やっぱりそういう機運は前進をさせていくという上で、部分的な問題と同時に、この一歩一歩の積み重ねに加えて、きちっとこの廃絶ということを目標に据えた交渉を開始をしていくということをもっと推進をするという立場は、被爆国日本の政府としてのリーダーシップになると思うんですけれども、改めていかがでしょうか。
- 外務大臣(岡田克也君)
-
何といいますか、委員のおっしゃることも分からないわけではないんですが、ただ、例えばEUについて言及されたわけですが、EUで今議論をされているのは、確かにアメリカのEUにある戦術核の撤去ということはかなり議論されております。私が話し合ったドイツのウェスターウェレ外相もそのことを一時は非常に強く言っておられた。しかし、これはEU全体で話し合うべき問題だということで、これから真剣な話合いが行われていくんだというふうには思います。
しかし、その際にも、それはEUにあるアメリカの戦術核の撤去の話であって、EUの中にはイギリスとフランスの核もあります。そのことにまで話が必ずしも及んでいるわけではありません。あるいは、EUをカバーしているアメリカ大陸にある戦略核について、その核の拡大抑止というものが要らないと、そういう議論までは私は行っていないというふうに思うんですね。
ですから、いろんな地域、国で、核について、オバマ大統領のプラハ演説以来、核なき世界を目指すいろんな動きが出てきて、それは本当に歓迎すべきことではありますけれども、一遍に核なき世界というところまで行くのか、それとも、それはステップを踏みながら行くのかと、そういう戦術面といいますか、やり方の違いといいますか、そういうものはやっぱり残るんだというふうに思っております。
- 井上哲士君
-
いろんなところと懇談をして、被爆国日本のリーダーシップに対するやっぱり期待というのは非常に強いわけですね。
繰り返し申し上げますが、私たちは、直ちにあしたなくせということが実現するとは、そう簡単なものでないと思っています。そのことを目標にした交渉を始めるということが様々な措置の前進にもつながっていく、そのためのリーダーシップを取れるように、日本が国連での決議への対応も含めて変えていただきたいということを改めて申し上げまして、時間ですので終わります。