質問第二二三号 在日米軍軍人軍属の刑事事件に係る裁判権と検察審査会の議決の効力に関する質問主意書
右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 平成二十三年七月六日
井上 哲士
参議院議長 西岡 武夫 殿
在日米軍軍人軍属の刑事事件に係る裁判権と検察審査会の議決の効力に関する質問主意書
検察審査会制度は司法制度改革の一環として、検察の起訴独占主義による従前の制度を改め、国民のチェックを反映させる観点から、検察当局が起訴を行わなかった刑事事件であっても、審査と議決を経て起訴議決にもとづく強制起訴が行われる制度に改められた。これに従って、検察審査会の起訴議決にもとづき実際に公訴が提起され、公判が行われる事案が生じているところである。
ところが、在日米軍軍人軍属の刑事事件のうち不起訴事案については、二〇一〇年四月二十二日の参議院外交防衛委員会における私の質問に対し法務副大臣(当時)が示した見解を踏まえても、検察審査会による議決の効力が果たして一般の日本人被疑者の事案の場合と同様に及びうるのかについて、重大な疑問をもたざるをえない。強制起訴制度は国民の権利であり、例外があってはならない。
そこで、在日米軍軍人軍属による刑事事件の取扱い等について質問する。
一 日米地位協定によれば、在日米軍軍人軍属の公務執行中の犯罪の第一次裁判権は米側がもつこととされている。一九七二年に法務省刑事局が作成した「合衆国軍隊構成員等に対する刑事裁判権関係実務資料」の解説によれば、米側が公務証明書を発行した場合、反証のない限り、「事実の充分な証拠資料」として扱われる。 また同資料によれば、検事正は反対の証拠があると思料されるときは、直ちに公務証明書を発行した指揮官にその旨を通知するとともに、十日以内に問題が日米合同委員会に提案されるかどうかについて通知されるものとされ、日米合同委員会への提案は急速になされるべきとされている。そこで、現在までに当該提案が行われたのは何件か。
二 法務副大臣は前記参議院外交防衛委員会において、在日米軍軍人軍属の「公務性」に関する検察当局の当初の判断の当否についても検察審査会による審査の対象となりうるとした上で、検察当局が在日米軍軍人軍属の刑事事件を不起訴としても、被害者等がこれを不服として検察審査会に審査を行うよう申立てができ、その後、検察審査会において起訴相当又は不起訴不当とされた場合には、「検察官(中略)はそれを参考にして事件を再検討するということになり(中略)改めて起訴、不起訴の処分をしなければならない」と答弁した。そこで、日本の検察当局が在日米軍軍人軍属の刑事事件を「裁判権なし」と判断した場合は、起訴、不起訴の「処分」をするために再捜査を行うことは可能なのか。政府の見解を示されたい。
三 日米間の合意及び取決めにおいて、二に記した日本の検察当局による再捜査の権限とそれに対する米側の協力はどのように保障されているか。
四 在日米軍軍人軍属の刑事事件について、当初日本の検察当局が米側の「公務」認定に反証を示さず、第一次裁判権がないものとして起訴しなかったとしても、日本の起訴制度上は、検察審査会において起訴議決が行われれば、それにもとづき強制起訴される。このことを踏まえれば、日本の検察当局が日米間の合意において米側に通知を行うべきとされる期限内に起訴の決定を行わない又は不起訴を決定した場合であっても、それ以後の検察審査会の起訴議決を経て起訴されれば、日本の裁判所において裁判が行われるべきではないか。政府の見解を示されたい。
五 日米の裁判権が競合し、第一次裁判権が米側にある在日米軍軍人軍属の刑事事件において、法務省及び検察当局は、米側の裁判権行使の有無をどのようなしくみにもとづき把握しているか。また、米側から日本に対して、すみやかに裁判権行使の状況の通知が行われることが確保されているか。
六 法務副大臣は前記参議院外交防衛委員会において、日本が第一次裁判権をもつ在日米軍軍人軍属の刑事事件に関し、日本の検察当局が不起訴とした後に検察審査会が行った起訴議決の効力について、「米軍当局が裁判権を行使をしていない場合につきましては(中略)大変大きな課題」との認識を示した。この課題について、法務省はどのように解決を図るつもりであるか。
七 在日米軍軍人軍属の刑事事件について、被害者等から検察審査会に不服申立てが行われた実績(件数)、そのうち起訴相当、不起訴不当の議決が行われた実績(件数)について、それぞれ年別に明らかにされたい。
右質問する。