・黒田東彦・日銀総裁候補に対する聴聞で今後の金融、経済政策についての考え等を質した。(委員外発言)
- 委員長(岩城光英君)
次に、井上君に発言を許します。井上哲士君。
- 委員以外の議員(井上哲士君)
日本共産党の井上哲士です。
重要な人事に関する質疑におきまして、委員外発言の機会をいただいたことに、まず御礼を申し上げます。
金融緩和と雇用、賃金の関係についてお聞きいたします。
日銀自身が行った生活意識に関するアンケート調査によりますと、八割の国民が物価上昇に否定的な意見を述べております。雇用や賃金の改善なしに物価だけ上がるのではないかという不安が示されているわけですが、日銀が大胆な金融緩和を進めますと、雇用、賃金はどうなっていくのか、賃金が実際上がっていくのか、まずお聞きいたします。
- 参考人(日本銀行総裁候補者・アジア開発銀行総裁=黒田東彦君)
過去十五年間のデフレの状況を見ますと、物価も下がり、賃金も下がり、雇用も本格的に改善しなかったということでございまして、そういったことも踏まえて、二%の物価安定目標を決め、これをできるだけ早期に実現するということを日本銀行としてコミットしたわけでございまして、当然、二%の物価安定目標を達成する中で賃金や雇用も改善していくというふうに思います。
ただ、時期的なずれとかそういうものがあり得ますので、そこは政府が十分財政政策その他で対応する必要があると思いますし、既にいろいろな対応をしておられるというふうに理解しております。
- 委員以外の議員(井上哲士君)
物価は上がるけれども賃金が改善をしないという、そういう時期的なずれがあるであろうと、こういうお話でありました。
これは国民生活にとっては非常に大きな打撃になるわけで、しかもそれに政府は消費税の増税ということもかぶせようとしているわけですから、国民生活にとっては非常に大きな打撃が連続をするということになってまいります。
そういうずれについて、衆議院の議論では、雇用、賃金と物価の上昇率が平仄が合った形でという言い方をされておりました。ただ、平仄が合った形などと言わずに、むしろ先に賃金を上げるということが必要ではないかと思っておるんですね。賃上げをして消費拡大をし物価が上がっていくということがやはり国民が一番望む姿だと思います。
先ほどもありましたように、大企業は今多くの内部留保を持っておりますから、その一部を活用して自社の賃金を上げていくということは十分に可能なわけでありまして、まず賃上げを進めるということが可能でもあるし、必要ではないかと思うんですが、その点、いかがでしょうか。
- 参考人(黒田東彦君)
確かに、政府は、そういったことも考慮し、経済界に働きかけて賃金を上げるように慫慂しているというふうに思います。
ただ、賃金と物価の関係は、それぞれの国あるいは景気循環の過程でいろいろな動きをするということは事実でございますので、十分注視していく、中央銀行としてよく見ていくという必要はありますけれども、あくまでも中央銀行の使命、役割というのは物価の安定でございまして、物価の安定を通じて、当然賃金や雇用も含めて国民経済全体の健全な発展に資するようにするということは間違いないと思いますけれども、もう中央銀行としてはあくまでも物価の安定ということが最大の使命であると。当面、日本銀行の決めた二%の物価安定目標をできるだけ早期に実現するということが最大の使命であるというふうに認識しております。
- 委員以外の議員(井上哲士君)
衆議院での議論の際に、賃金を上げるのは政府だけでなく日銀の課題でもあると、こういうふうに言われております。かつ、賃金を上げるために政府と緊密に連携する、それから連絡を取るとも述べられておりますし、先ほどは配慮が必要だと、こういうふうに言われておりました。
そうしますと、日銀としては何をするのかと。政府と連携をする、例えば政府にそういう賃上げの施策を求めていくのかと、いろいろあると思うんですけれども、日銀としてはそのために何をされるんでしょうか。
- 参考人(黒田東彦君)
先ほどから申し上げておりますように、日本銀行としては物価の安定が最大の使命であり、それを通じて国民経済の健全な発展に資するということを期待しておるわけでございます。
したがいまして、当然のことながら、消費者物価指数だけでなく経済活動の様々な指標、そして、賃金や失業の状況というものも当然十分見ていき、配慮し、必要に応じて政府と十分な意見の疎通を図って対応策を考えていかなければならないと思いますが、何度も申し上げていますように、中央銀行の使命というのは物価の安定でございまして、雇用の確保といったようなことは、現行日銀法では日本銀行の使命ではなくて、むしろ政府の役割であるというふうに認識しております。
- 委員以外の議員(井上哲士君)
日本銀行法は確かに使命となっておりますが、衆議院の答弁では日銀の課題であると、こう言われたわけですね。つまり、課題としてどのように進めていくのかということで重ねてお聞きしますが、どうでしょうか。
- 参考人(黒田東彦君)
当然、国民経済の健全な発展というのは賃金や雇用が改善していくということを含んでいるわけでございまして、物価は安定しているけれども賃金が下がっていくとか雇用が減っていくというようなことでは国民経済の健全な発展とは言えないと思いますので、物価の安定を図るというのが最大の課題であり、使命であり、目標であると思いますけれども、その際に、経済の実態、特に賃金や雇用の状況を十分勘案し、配慮し、金融政策の運営に努めていくと。それから、特に政府との協調、協力、政府の経済政策全体との整合性というものも十分勘案していきますので、必要に応じていろいろな機会に政府に対して注文を出すということもあろうかと思います。
ただ、何度も申し上げますが、中央銀行の使命というのは、どこの国でも基本的に物価の安定と金融システムの安定と、それをまず果たさなければ中央銀行としての使命を果たしたことにならないというふうに思っております。
- 委員以外の議員(井上哲士君)
やはり、物価だけが上がってなかなか賃上げがされないんじゃないかという非常に疑問が払拭ができません。
もう一点、金融緩和の弊害について、FRBとかECBなどの世界的な金融緩和とも相まって、投機マネーとして世界経済を攪乱をしているという問題があります。この点、総裁候補は、衆議院の議論のときには、日本の資金が外に流れて海外のバブルをあおったということはないと述べられました。しかし、例えば円キャリートレードということが言われましたけれども、日本のこの金利の低い資金が投機の資金として通貨や株式、債券、食料、エネルギーなどの商品などに流れ込んだという事実はあったわけですね。
先ほどのような理屈でいいますと、日銀は、幾ら金融緩和しても、海外に流れて投機マネー化するリスクの管理は必要ないということにもなっていくかと思うんですが、この点はいかがでしょうか。
- 参考人(黒田東彦君)
私が申し上げていますのは、金融緩和をしたときに、他の事情にして等しければ為替に影響、為替を下落させる傾向があるということは事実でございまして、そのことは、裏返して言えば、資金が外に出ていく傾向があるということは事実でございます。
ただ、今回のリーマン・ショック後の欧米の金融危機を見ましても、そこに様々な、仕組み債とかモーゲージ担保証券とかその他様々な、デリバティブも含めて投資をして大損をしたというのは欧米の金融機関でありまして、日本の金融機関が大幅な、一部の金融機関はもちろん損をしたところもありますけれども、欧米の金融機関のように破綻したとか、破綻に近いような状況になったというところはないわけでございまして、その意味では、確かに資金が流出する傾向はあったかもしれませんが、それが世界の、特に欧米のいろいろなマネーゲームを物すごくあおり、そうしたとしたら恐らく損をしていたと思うんですけれども、そういう損をしたということは見られませんので、資金が流出する傾向はあったとは思いますけれども、日本の金融緩和が欧米のああいう金融危機を、その前の金融のバブルがあって、それが崩壊して金融危機を招いた原因になったと、主たる要因だったとは思えないと思いますが、確かに他の事情にして等しければ金融緩和した場合に資金が流出する傾向というのはありますので、その影響というものも十分考慮していく必要はあると思います。
- 委員以外の議員(井上哲士君)
ありがとうございました。
- 委員長(岩城光英君)
次に、亀井君に発言を許します。亀井亜紀子さん。