●二院制をテーマに参考人質疑
183-参-憲法審査会-3号 平成25年05月22日
○井上哲士君 共産党の井上哲士です。
今日は、参考人の方、ありがとうございます。
まず、大山参考人にお聞きいたしますが、政権選択の民意によって国民の信任を得た内閣の政策を参議院が拒否してよいんだろうかというような提起がございました。今、特に小選挙区が導入をされて、大変、非常にこの民意が極端に出てくるという問題と、それから、この間の選挙でいいますと、シングルイシューで、それによって非常に大勝するということが何回か続きました。
そうしますと、衆議院と比べれば相対的に多様な民意を今反映をしている、選挙制度上もあった参議院が、それ以外の課題についてやはり国民の立場でしっかりチェックをし、場合によっては拒否をするということは私は重要なことではないかと思うんですが、そういう今の実態に合わせてその辺をどうお考えになるかというのが一点です。
それから、二つ目、拒否権以外に存在感を発揮する方法はないのかというお話がございました。我々の実感からいえば、圧倒的多数の部分でいいますと賛成している、与野党全会派一致の法案であっても、参考人質疑も含めて随分様々な議論をし、そして行政への注文も付け、場合によっては附帯決議なんかも付けておるんですが、マスコミは本当に対決した部分しか報道しないということで、そういうのがなかなか国民に見えないというのは大変いろんな思いがあるわけなんです。
大山参考人は、国立国会図書館にもおられて、国会に近いところもおられたわけで、そういう実際のいろんな充実した審議をしていることをアピールしていく上でどういうことが必要とお考えか、お考えあればお聞かせいただきたいと思います。
それから、只野参考人でございますが、憲法に合わせて運用を見直すことが必要ではないかというお話がございました。
穏健な多党制などを前提にした運用が必要ではないかというお話もあったと思うんですが、具体的にこの辺をもう少し詳しくお聞きしたいなと思っておりまして、例えば、両院協議会の在り方とか、今の与党の法案審査と国会質疑の在り方とか、この辺で見直すべき運用についてもう少し詳しくお伺いできればと思います。
以上です。
○会長(小坂憲次君) それでは、大山参考人からお願いいたします。
○参考人(大山礼子君) 最初の、衆議院の現在の選挙制度では民意がゆがんで伝わっているのではないかというような御指摘だったと思うんですけれども、それは私も、現在の衆議院の選挙制度にはいろいろ問題があると存じております。
先ほど申し上げましたのは、衆議院の選挙制度というのは本来そうではなくて、民意を正しく反映されるように設計されているべきものですので、もしそうであればということでお話ししたというふうに御理解いただければと思います。
それから、いろいろいい審議をしているのにどうしてなかなか伝わらないのかという、全くそのとおりで、私はマスメディアは困ったものだと思っておりますけれども、その点については全く同感でございます。
アピールの仕方なんですけれども、これも時々申し上げていることなんですけれども、日本の国会というのは情報発信が非常に弱いです。議事録はもう世界に冠たる議事録でございまして、第一回帝国議会から整備されているんですけれども、議事録以外の情報というのがほとんどございません。国会のホームページを見ても御挨拶とか紹介とかいうものばかりで、国民が本当に見たいのは、やはり法案をどういうふうに審議してどういう結論が出たかというところを委員会報告書などの形で知りたいと思います。そういうものがあればもうちょっと違ってくると思うんですけれども、要するに議事録しか情報がないものですから、そこが国会の非常に弱い点だと考えております。
○会長(小坂憲次君) それでは、只野参考人、お願いいたします。
○参考人(只野雅人君) 具体的に二点ほど御質問いただいたかと思います。
一つは両院協議会の在り方でありますけれども、これもかねてから議論のあるところでございまして、それぞれの議院から賛成会派の代表だけが出てくるということになりますと、なかなか妥協が得にくいだろうと。したがいまして、一つ考えられますのは、会派比例のような形で両院協議会を構成すると、こういうことに恐らくなるんだろうとは思います。
ただ、そうしましても、どうしても多数が優位になってしまうということになりますし、また、そこで成案を得ましても改めてこの両院で多数を得なければいけないということになりますので、なかなか難しい部分があるのかなというふうに感じているところではあります。特に、重要法案について、重要な修正案についての成案がそこから出てくるというのはなかなか難しいところがありますので、やっぱりある種補完的な役割というふうに考えていくことも必要かなと、そんな感じはしているところでございます。いずれにしましても、その構成の在り方については見直しが必要かなということになろうかと思います。
それからもう一つは、法案の審議の在り方ということでございますけれども、これは先ほど来の御議論ともかかわってまいりますけれども、私もやはり法案自体を審議するということに非常に重要な意味があるんだろうというふうに思います。先ほどは修正のお話をいたしました。両院で法案が行き来する中で修正が行われていくというのは、それだけいろんな意味での民意が反映されると、こういうことだというふうにとらえることもできるかと思います。
それから、その法文自体は変わらなくても、例えば質疑の中である一定の答弁を与党なり政府の方から引き出してくる、そうしますとその答弁が後々の法律の運用を縛ることになるわけです。公開の国会の場で行われた解釈なり限定というのはやはり非常な意味がございますので、そういった意味でも、そのアピールの仕方はもちろんございますけれども、法案の審議それ自体にやはり大きな意味があるということは確認しておく必要があるのではないかと、そんな感じがいたします。
○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。今回の二院制に関する議論は、九十六条改正論議の中で行われたのが一つの特徴でありました。憲法とはそもそも何々なのか、日本国憲法がどのような理念の下に制定されたかに立ち返って二院制を考えたいと思います。
憲法は、国民が権力を縛るものであります。それは王政の時代の古い議論だという声も政府の一部からもありましたが、議会制民主主義の時代でも多数党で構成された政府の暴走があり得るわけで、それを国民が憲法で縛ることは近代立憲主義の基本中の基本だと思います。その角度から二院制の位置付けをどう見るのかと。
当審査会では、国家緊急権の議論も行いました。戦前の緊急勅令につながるような国家緊急権の規定を置かなかった理由として、憲法制定議会での憲法担当大臣が、行政当局にとっては緊急権は重宝だが、国民の意思をある期間有力に無視し得る制度であり、民主政治の根本原則を尊重するかの分かれ目だと答弁をしております。
憲法は、大震災によって、大災害によって衆議院選挙ができずに任期が切れた場合も、参議院での緊急集会によって国会が機能できるように定めております。つまり、国会の縛りなく政府の暴走を可能にすることを認めておりません。
さらに、憲法が二院制を取ることによって、一院の多数派とそれに基づく政府の暴走を抑制する仕組みを取り入れていることも重要であります。そして、その上で、衆参の多数派の議決であってもこれは決して侵してはならないということを定め、縛りを掛けているのが憲法でありまして、二重三重に主権者国民を離れての権力の暴走に縛りを掛けております。二院制についてこの角度から論ずる必要があると思います。
時の政府の提案を効率よく速やかに成立させることこそが国会の役割とする角度からの議論は日本国憲法の基本とは相入れませんし、決めればよいということではなくて、間違ったことは決めてはなりません。その点で、二院制の憲法価値をどう考えるか。
まず、選挙そのものです。参議院には解散がありません。三年ごとに必ず選挙があります。国民の側から見れば、三年ごとに参議院選挙を通じて政権の政治のありように異議申立てが可能になっております。しかも、内閣が政治的に利用し得る解散権が参議院には及びません。今、時の政権が有利な時期に解散をし、特に最近は、特定の政治課題だけに絞った争点を設定をし、それが小選挙区制の害悪と結び付いて極端に選挙結果が偏るという事態が起きております。それに対して、参議院には解散権が及びませんので、言わば定点観測的な幅広い国民世論の反映が可能になっております。
そして、審議そのものの重要性です。二重の意味での再考の府の役割があると思います。異なった時期と異なった選挙制度で選挙される議員を持つ衆参両院で同じ議案を二度審議することを通じて、国民の意思をより正確に、より積極的に国会に反映をできます。そして、解散がなく、六年の長期的な展望を持った審議が可能であって、一院だけの審議による不十分さや欠陥を補い、誤りがあれば正すことができます。実際、衆議院の審議を通じて国民が問題を知って、その後に世論が大きく広がって、その声が参議院段階の審議で反映をされ異なった議決をした場合もありますし、様々な附帯決議を参議院で新たに付けたという場合もあります。議論を通じて法案の問題点をより深め、議事録は法案を執行する場合の重要な指針となるわけでありまして、大変重要な立法政策上の課題を示すこともありました。
問題は、こういう二院制の存在意義にふさわしい運営や審議になっているのかということだと思います。国民の民意を正確に反映をする選挙制度への早急な改革であるとか、少数会派の議論の確保や議員提出議案の審議の促進など、国民の多様な民意をより反映をする議会運営などが課題だと考えております。
以上です。