国会質問議事録

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外交防衛委員会

○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。  在外公館に関わる法案については、海外での生活の実態に合わせた改正と言えますので賛成であります。  そこで、今日はODAについてお聞きをいたします。  ODAの分野には、教育や健康、上下水道などの社会インフラ、それから輸送、通信、電力などの経済インフラ、農業分野、工業、その他、緊急援助等々ありますが、日本のODAは、二〇一一年の統計を見ますと経済インフラの比率が四〇・六%。アメリカは六・三%、イギリス九・〇%、フランス一一・四%と比べますと非常に高い、経済インフラに言わば偏った中身になっておりますが、なぜこういうことになっているんでしょうか。

○国務大臣(外務大臣 岸田文雄君) 我が国としましては、貧困を削減し、そして開発の成果を確実なものにするためにも、持続的な成長、これが不可欠であると考えております。ODA大綱におきましてもこの持続的成長を重点課題の一つに挙げ、人づくりへの協力等とともに経済社会基盤の整備を重視する、こうした方針を掲げております。  これは経済インフラの整備等により持続的成長を実現してきた我が国自身の経験に基づくものであり、アジア等においてこれ実際成果を上げてきたものと認識をしております。輸送、通信、電力等の経済インフラは、技術協力や社会インフラ整備に比べ一件当たりの事業規模が大きいということもあり、金額ベースで我が国の二国間ODAの約四〇%という大きな割合を占めるということになっているという現実も存在いたします。  なお、我が国としても、人間の安全保障の観点から、開発途上国の貧困削減ですとか、人間開発ですとか、社会開発への支援、こういった面につきましても積極的に取り組んでいる次第であります。

○井上哲士君 経済インフラの比率はかつての三〇%台から更に高まった状況になっておりまして、やはり日本の援助がプロジェクト中心にずっとなってきているということを示していると思うんですね。  今、国連のミレニアム開発目標では、貧困や飢餓の撲滅、それから普遍的な初等教育の達成やジェンダーと女性の地位向上などが強調されまして、そういう点での支援が求められているわけであります。その中で、今ODA大綱の見直しも進められておりますが、報道によりますと、安倍政権が柱に掲げる成長戦略とか積極的平和主義を反映させると。具体的な見直し策としては、民間投資とODAをパッケージとしてアフリカ諸国などに供与する方針を打ち出すというふうにされております。  私は、このミレニアム開発目標にも掲げられた途上国の開発や貧困削除、つまり、相手国の本当に住民のためということから、日本の経済成長を強調するということはやはり本末転倒ではないかと、こう思いますが、いかがでしょうか。

○国務大臣(岸田文雄君) 我が国のODAの目的ですが、国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することとされています。我が国は、貧困削減を始めとする人間の安全保障の推進をODA三本柱の一つとして重視をしております。ただ、現実、経済のグローバル化が進むにつれて、多くの途上国においてODAを上回る民間資金が流入するようになってきました。そして、この結果、アフリカ等の途上国からも、単なる援助ではなくして現地に雇用ですとか技術移転をもたらすような投資を呼び込む支援、こういった形の支援を要望する、こういった傾向が強まってまいりました。  昨年六月のTICADⅤにおきましても、アフリカ諸国から、こういった現地に雇用やあるいは技術移転をもたらす投資、こういったものにつながる支援を求める、こういった声が随分と出されたのを記憶しております。  こうした中ですので、やはり日本企業が有する優れた技術、ノウハウ、これを途上国に提供することによって途上国の持続的成長も支援する、こういったことは貧困削減の観点としましてもこれは有意義なことではないかと考えております。仮にODA大綱を改定するという場合にも、こういった点を考慮して検討していきたいと考えております。

○井上哲士君 日本の経済成長を強調するというのは、やはり今言われたこととは少し違うのではないかと思うんですね。やっぱり日本側企業の投資先利益確保ということが前面に出てまいりますと、これは現地の住民の利益にもなっていかないと思うんです。  農業支援でもその傾向が様々あると思うんですが、モザンビークのプロサバンナ事業について具体的にお聞きしますが、まずこの概要を説明してください。

○政府参考人(外務省国際協力局審議官 和田充広君) お答え申し上げます。  プロサバンナ事業は、モザンビーク政府が我が国とブラジルの支援を得て、同国北部のナカラ回廊において持続可能な農業開発を通じ、小規模農家を中心とした地域住民の生計向上を目指す事業でございます。具体的には、作物、品種及び栽培技術の研究開発、農業開発マスタープランの策定、コミュニティーレベルの開発モデルの普及事業などのプロジェクトを実施しているところでございます。  他方、農業開発マスタープランの策定事業につきましては、地元の農民などから、大資本による土地の収奪が行われるといった懸念が寄せられておりまして、モザンビーク政府は、農民組織、市民社会団体との対話を強化しているところでございます。  我が国といたしましても、農民、地域住民の理解を得ながら事業を進めていくということを重視し、こうしたモザンビーク政府の対話の取組を支持しているところでございます。

○井上哲士君 このプロサバンナ事業、日本とモザンビークとブラジルの三か国なわけですが、ブラジルのセラード地域の経験を生かすということが強調されております。  私、二〇〇九年に参議院のODAの海外派遣でブラジルのセラード地域も見てまいりました。サバンナ地域における土壌の改良とか適切な品種の選定など、農業技術という点では共通する点は多いと思うんですね。しかし、社会的条件というのは全く違うわけです。セラードというのは閉ざされた地という意味でありまして、もう入植者による開拓から始めた地域です。日本とブラジルのODAの事業で七百十七戸が移植して、東京都の面積の一・六倍に当たる三十四・五万ヘクタールを開発をしたわけですね。  一方、このナカラ回廊の場合は、既にもう四百万人以上の農民とその家族が現に居住し、自給自足に近い農業が行われております。セラード全体は大体一戸当たりの耕地面積が八百から二千ヘクタールと言われておりますが、このナカラ回廊の場合は九九・九%が小規模農家で、一戸当たりの耕地面積が一・二から一・四ヘクタールと、全く違うわけですね。  ここにセラードのような輸出作物中心の大規模農業が導入をされるということになれば、やはり地域の農民の自立が失われるおそれがあると。事実、様々な問題が既に発生しているわけですが、このセラードとはこういう点で全く違うんだということを前提にした事業が必要だと思いますが、そこの認識はいかがでしょうか。

○政府参考人(和田充広君) 御指摘のとおり、ブラジルのセラード地域は人口密度が低く大規模な農業生産が中心であるのに対しまして、モザンビーク北部では移動式耕作を中心とする伝統的で小規模な農業が行われてきたことなど、農業形態及び社会的な面において大きな違いがあると認識しております。  したがって、ブラジル・セラードの開発モデルをそのまま適用するということではなく、モザンビークの現地の状況に合った適切な開発モデルを構築することが必要と考えておるところでございます。

○井上哲士君 日本のODA事業の地域では、現在の雇用が直接雇用で八百人、間接雇用で千六百人ということでありました。三十四・五万ヘクタールのところでそれだけの雇用なわけですね。全然違うわけです。そして、生産物の大半はカーギルなどの穀物メジャーに出荷をしているというふうに言われておりました。  ですから、そういう超大規模農業による穀物メジャーと一体の輸出中心の農業というものが行われ、その下で環境問題などもお聞きをしているわけです。こういうものがまさにこのプロサバンナで行われるならば、これは全く重大な問題になる。そうしないというお話でありました。しかし、もう既に現地の農民などから様々な声が上がっております。  先ほどの答弁にもありましたけれども、昨年六月のTICADⅤの際に、モザンビークの全国農民連合、UNACなど二十三団体から、この事業によって農民は土地と自立した生活を奪われるとして、緊急停止を求める三か国の首脳宛ての公開書簡も手渡されております。  ODAを受け入れている国から、こういう事業は停止をしてくれと、こういう要望を直接受けたケースというのは、これまでどれぐらいあったんでしょうか。

○政府参考人(和田充広君) 今回のプロサバンナのケースは、モザンビーク政府からは事業を進めてくれというふうに言われているものでございますが、他方で、現地の住民からいろいろな問題提起がされているケースでございます。  いずれにしましても、本件、今回のプロサバンナのケースのような形で日本のトップに対して、ハイレベルな首脳に対してこういう停止の要請といったようなことが行われたほかの事例というのは、我々はちょっと承知をしてございません。  他方で、ODAの事業を実施するに当たりまして、いろいろな規模、一定規模の事業を実施する場合には、現地の住民、関係者から様々な意見や要請が寄せられる場合はございます。例えば、インフラ建設に伴って住民の移転が生じるような場合、それを円滑に行ってほしいとか、それから環境の保全、生態系の保護等にいろいろな影響が出る場合にそれに注意してほしいというような要望、意見が出ることは多々ございます。そういった意見や要望が出る場合には、JICAの方で設定をしております環境社会配慮ガイドライン、これに基づきまして、事業の影響を受ける地域住民を始めとした現地関係者との間で対話を行いながら事業を進めるということでやっておるところでございます。

○井上哲士君 書簡を受け取ってもう十か月になりますし、昨年十月段階の日本の外務省の説明ではモザンビーク政府が返書について検討中としておりますけれども、いまだに返書は出されていないわけですね。ところが、その間に総理が訪問をしてこの事業への支援を進める共同声明を出すなど、回答はないまま事業が進行しているということにまた不信の声も高まっているわけですね。  一月にモザンビークに総理も訪問された際に、大統領や、そしてまた相手国政府と、この中身について、書簡の、そして回答をどうするのかということについては、もう相当たっているわけですから、具体的に何か協議して詰めたんですかね、いかがでしょうか。

○国務大臣(岸田文雄君) まず、御指摘の書簡については、これは真摯に受け止めております。  そして、御指摘のように、返書についてですが、この事業自体がモザンビークが中心となり三か国で進めている事業であり、モザンビーク政府において返書についても検討中という状況が続いております。返書につきましてもできるだけ早く発出しなければならないとは認識しておりますが、この事業自体、これは是非、引き続きまして丁寧に進めなければならないということで、現在、現地の農民の方々との対話を積み重ねております。現地の三つの州におきましても、そのうちの二つの州におきまして、現地の農民の方々の了解を得る、こういった結果に至っていると承知をしております。残りの対話につきましても、丁寧に進めながら事業を進めていく、こうした方針を続けていきたいと考えています。

○井上哲士君 現地住民との対話が行われているというお話がありました。総理も本会議で、モザンビーク政府による市民社会や農業組織との対話の努力を評価しているという御発言があったわけですが、四百万の農民と農家がいるわけですね。この間、現地で行われたこの対話は何回行われて、参加者はどの程度だったのでしょうか。

○政府参考人(和田充広君) これまでモザンビーク政府は、対象地域三州の当事者である現地市民、農民団体等との対話を計五十三回実施をしておりまして、延べ二千五百二十三名がこの対話に参加したというふうに承知をしております。  我が国としては、引き続きこの対話プロセスを丁寧に進めていくことを、その方向でモザンビーク政府と協議をしていきたいと考えております。

○井上哲士君 本当に農民の社会に劇的な変化をもたらすような事業であるにもかかわらず、四百万の地域で今延べ参加者が二千五百人程度ということが言われたわけで、およそ私はこれで住民の皆さんの合意が得られているような状況ではないと思いますし、事業の中身自身がよく知られていないというようなこともかなりいろんなNGOからも指摘があるわけですね。ですから、こういうような状況のままで期限だけ決めてマスタープランが策定されるようなことはあってはならないと思いますけれども、この点はいかがでしょうか。

○国務大臣(岸田文雄君) まず、対話プロセスにつきましても、これまだ現在終了しているわけではありません。引き続きまして対話プロセス、丁寧に続けていかなければならないと認識をしております。  そして、このマスタープラン策定につきましては、この策定完了時期については、モザンビーク政府と調整の上、現在期限を決めることなく延期をしております。是非、この期限を区切ることなく丁寧に作業を続けていきたいと考えています。

○井上哲士君 この事業に関わって日本の民間企業は現地にどのぐらい進出しているのか、またこれからの予定はどうでしょうか。

○政府参考人(和田充広君) 現在のところ、プロサバンナ事業に関係して現地に進出している日本企業はないというふうに承知をしております。  他方、幾つかの企業は、将来的に大豆やゴマなどを生産して日本に輸出するということなどを検討しているところがあるようで、いろいろ現地に出張で行ってみたりとか、そういうような研究は行われているというふうに承知をしております。

○井上哲士君 既に各国からこのプロサバンナ事業を見込んだいろんな企業が進出をして、もう土地収奪などが行われているということが指摘をされておりますが、日本政府としては実態をどのように把握をされているでしょうか。

○国務大臣(岸田文雄君) このマスタープラン、調査の過程におきまして、ナカラ回廊地域において用地の取得を伴う農業投資事業があること、こういったことについては把握をしております。また、NGO等の報告により、一部事業において土地をめぐる問題が指摘をされている、こうしたことについても承知をしております。  その中で、今後ですが、現地市民あるいは農民団体との十分な対話を経てマスタープランが作成されることになるわけですが、その際に、事業化の段階での不当な土地収奪を防ぐ観点から、責任ある農業投資のガイドラインの策定、さらにはそのモニタリング体制の整備についてもこのマスタープランの中で取り上げるべきであると考えており、こういった点につきましてモザンビーク政府と話合いをしているという現状でございます。

○井上哲士君 NGOの調査によりますと、プロサバンナとは別に進出した外国企業によって土地収奪が少なくとも五件確認をされたと、資源とか農業開発の目的で既に農地約二百十七万ヘクタールが海外企業に渡っているという指摘もあります。  モザンビーク政府の事業だからということではなくて、日本がやっぱり資金を出して、そして民間投資で一体ということでやっている中でこういうことが起きているわけでありますから、私は、これはしっかり、放置をするようなことなく、結果として土地収奪が起こらないようなきちっとした対応をする必要があると思います。住民がよく理解できず、合意がないまま、土地収奪と大規模化だけが進行するというようなことは絶対あってはならないわけでありまして、私は、現地の書簡も受け止めて、事業を一旦凍結もしながら、本当に農民にとって必要な援助は何なのかということを真剣に検討し直すことが必要だと、こう考えております。  そのことを強調しまして、質問を終わります。

 

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