○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。 集団的自衛権についてお聞きいたします。 最近の世論調査を見ますと、いずれも行使容認反対が多数を占め、賛成の倍近くなっております。例えば、三月二十四日の共同の世論調査は、反対五七・七%、二月と比べても六・七ポイント反対が増え、むしろ議論をすればするほど反対論が増えている、世論が増えているというのが実情だと思います。 安倍総理は、九十六条の改正の必要性を論じるときに、国民の多数は改正を望んでいるのに、たったの三分の一の国会議員が反対したら発議もできないのはおかしいと、こういう議論を随分されました。そういうことから言えば、国民の過半数が反対しているのに、僅かな閣議で解釈を覆して容認をするなどということはおよそ許されないと思いますが、まず防衛大臣の見解をお伺いいたします。
○国務大臣(防衛大臣 小野寺五典君) 集団的自衛権については、様々な意見があることは承知をしております。 その上で申し上げれば、懇談会では我が国の平和と安全を維持するためにどのように考えるべきかについて個別具体的な事例を念頭に議論をしていただいていると承知をしており、この問題について、どういう議論が行われていて、何が課題であり、何を目指しているのかを個別具体的な事例に即して分かりやすく説明し、国民的理解が更に進んでいくことが重要だと思っております。 いずれにしても、懇談会からの報告書が提出された後に、与党とも相談するなどして政府としての方針を出す過程で防衛省としても対応を検討していくことになるものと認識をしております。
○井上哲士君 個別具体の四類型とかいろいろ出されました。そういうのが議論をされたけれども、国民は一層反対の声を強めているという状況にあるわけですね。 私は、九十六条のお話もいたしましたけど、世論を御都合主義的に使うべきでないと思います。御都合主義という点では、今日も午前中議論になりました総理や自民党の高村副総裁がこの集団的自衛権行使容認の論拠と使おうとされている最高裁の砂川判決についても同じだと思います。この判決は、駐留米軍の合憲性が争われた裁判でありますが、今朝の質疑では、政府の自衛権に関する見解の基盤になっていると、こういう答弁でありました。 しかし、この裁判が果たして司法の独立が保障される下で出されたのかどうかと、こういう重大な問題がこの間明らかになってまいりました。第一審は、この在日米軍については違憲だという判決が下りました。いわゆる伊達判決であります。この判決を僅か九か月後に取り消したのがこの最高裁判決だったわけですね。 お手元に資料を配っておりますが、二〇〇八年と昨年、この裁判の経緯に関してアメリカの国立公文書館で解禁をされた文章が明らかにされ、大きな問題となってまいりました。この裁判で検察は、高裁に上告するんじゃなくて直接最高裁に上告するという、跳躍上告という極めて異例の対応をいたしました。その経緯が、お手元の資料一の一番上にありますマッカーサー二世、当時の駐日米国大使からアメリカの国務省に対して発信された電報であります。 この中で、これは伊達判決の翌日の朝八時なんです。大使が藤山外務大臣に会って、日本政府が迅速な行動を取って地裁判決を正すことの重要性を強調し、直接最高裁に上告することが非常に重要だと、米国大使が外務大臣に述べております。これに対して藤山外務大臣も、全面的に同意すると述べ、今朝九時に開催される閣議でこの行為を承認するよう勧めたいと語ったということが報告をされているわけですね。実際、伊達判決は跳躍上告がされました。 外務大臣にお聞きしますが、日本のこういう個々の裁判の対応方針について外務大臣と駐日米国大使が会談をすると、こういう例はほかにあるんでしょうか。
○国務大臣(害も大臣 岸田文雄君) 日米両国の間におきましては、平素から二国間の様々な課題につきまして緊密な意思疎通を図っております。戦後六十年以上にわたりまして両国の間においては、様々な意見交換が行われ、意思疎通が図られておりますし、様々なレベルでのやり取りがありました。 その御指摘のような内容に関する日米間のやり取りがあったかどうかということについて、一つ一つお答えするのは事実上これ困難であると認識をしております。
○井上哲士君 この判決について、高裁を吹っ飛ばして直接跳躍上告しろというようなことをアメリカ側から言われ、そのようにやるというのは、まさに主権と司法の独立が問われるわけであります。 更に重大なのは最高裁長官であります。二枚目の資料は、同年の四月二十四日、やはりマッカーサー大使から国務長官宛ての公電であります。この中では、大使は、直接当時の田中耕太郎最高裁長官と会って密談をしております。電文の下から五行目にありますように、内密な話合いをして、担当裁判官である最高裁の長官である田中氏が大使に対して判決の日程の見通しを語っております。 そしてさらに、今日はお出ししておりませんが、ほかにも電報がありまして、田中長官はその後、首席公使に対して、まだ最高裁がこの公判の期日を決める前であるにもかかわらず、判決の期日の見通しを明らかにしております。そして、その公電の中では、裁判長は評議において実質的な全員一致を生み出して、世論を揺さぶるもとになる少数意見を回避するやり方で運ばれることを願っていると、こういう評議をしたいということを裁判長がアメリカ側に言っているという公電もあるわけであります。 実際、判決は全員一致でありました。そして、田中長官、裁判官は、判決後の記者会見で、十五人の裁判官が結論や理由の極めて重要な点について根本的に一致したのは大変喜ばしいことだとわざわざ会見で述べたわけですね。 私は、昨年五月に法務委員会でこの問題を質問いたしました。最高裁長官が駐米大使と個別に会うということも、それから一方の当事者のみに期日を明らかにすることも、それから判決の後に記者会見をしてそれの評価を述べるということも、いずれもほかには承知していないと、極めて異例のことが行われたわけですね。 そして、これを受けて、資料の四枚目に、マッカーサー氏からやはり国務長官宛ての電報もありますが、全員一致の最高裁判決が出たことは、田中裁判長の手腕と政治力に負うことがすこぶる大きいと、この裁判における裁判長の功績は、日本国憲法の発展のみならず、日本を世界の自由陣営に組むことによっても金字塔を打ち立てるものであると、こう言って天まで持ち上げたわけですね。 ですから、高裁を吹っ飛ばした跳躍上告をするという出発点からこの裁判の実際の訴訟指揮までアメリカとの密談の下で進んだということが、アメリカ側の開示文書で如実に明らかになったわけであります。 私は、司法の独立が脅かされている極めて重大な事態だと思います。アメリカ側が日本の司法の独立をどういうふうに脅かしたのか、様々な密約というものをこの間、ただしてまいりましたけれども、この問題も事実が明らかにされるべきだと考えますが、外務大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(岸田文雄君) 司法の独立について御質問がありましたが、お尋ねの件も含めまして、司法府と米国とのやり取りについて行政府としてコメントする立場にはないと存じますが、二〇一三年の五月のこの法務委員会におきまして、最高裁判所はこの本件について、この田中最高裁長官と駐日米国大使のこの会談記録等は、調査の結果、存在しないことが判明したと、こういった答弁をしているものと承知をしております。
○井上哲士君 五十年以上前のことでありますから資料が残っていないというのが最高裁のことでありますが、これはアメリカの公文書館で明らかにされたものでありまして、まさか駐日アメリカ大使が本国に虚偽の電報を送っていたとは外務大臣は言われないと思います。まさにそういうものだということなんですね。 ですから、この政府の自衛権の憲法解釈の基盤だと言われるこの判決がこういう事態の下で出されているものだということは、私は極めて重大なものだと思います。 昨年、この公電が改めて明らかになったときに、マスコミも様々書きました。戦後史を貫く司法の正統性の問題だ、最高裁と政府は疑念に応えなくてはならないと、こういう社説も上がったわけでありまして、こういう判決を国の形、集団的自衛権の行使容認に利用するようなこと自体が間違いでありますし、ましてや中身を御都合主義でねじ曲げることは許されないと思います。 そこで、中身に入っていきますが、総理は、二月二十日の予算委員会で、この砂川裁判最高裁判決によって言わば自衛隊は合憲になったと答弁をされましたけれども、この判決のどこに自衛隊は合憲と書かれているんでしょうか。防衛大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(小野寺五典君) 昭和三十四年のいわゆる砂川事件に関する最高裁判決は、憲法第九条の規定によって、我が国が主権国家として持つ固有の自衛権は何ら否定されたものではなく、我が国が自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとり得ることは、国家固有の権能の行使として当然であるということを明白に認めたものであります。 このように、同判決は、自衛隊が合憲であるという判断の前提を明確に示したものと考えており、政府としても、このような見解を従来から取ってきているところであります。
○井上哲士君 前半は最高裁判決でありましたが、後半はつまり政府の判断の前提だということなんですね。判決そのものに自衛隊は合憲だということは言われているんですか。
○国務大臣(小野寺五典君) この判決の中にありますのは、我が国が主権国家として持つ固有の自衛権は何ら否定されたものではなく、我が国が自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとり得ることは、国家固有の権能の行使として当然であるということを明白に認めたものであるということ、そして、政府としては従前から、同判決は自衛隊が合憲であるという判断の前提を明確に示したものと考えておるということであります。
○井上哲士君 つまり、政府がそう判断したということであって、判決には明確には書いていないんです。自衛のための措置というのはいろいろあるわけで、警察力の動員も含めていろいろあるわけなんですね。判決は、憲法九条二項について、いわゆる自衛のための戦力の保持を禁じたものであるかは別として、同条項がその保持を禁止した戦力とは、我が国自体の戦力を指して、外国の軍隊は、たとえそれが我が国に駐留するとしても、ここに言う戦力とは該当しないと、こう言って、駐留米軍の合憲性について判断をしたんです。 ですから、自衛のための戦力の保持を禁じたものであるかは別としてとわざわざ述べて、自衛隊が合憲か否かの判断をしなかったと、これが砂川最高裁判決なんです。憲法学の間では常識な話でありますが、この判決を含めて自衛隊を直接合憲とした最高裁の判例はないということで確認してよろしいでしょうか。
○委員長(末松信介君) どなたに。
○井上哲士君 防衛大臣。
○国務大臣(小野寺五典君) 繰り返しお話をさせていただきますが、私どもとして、政府としては、砂川判決は自衛隊が合憲であるという判断の前提を明確に示したものであるということは、これは累次、今までこの議論が行われている中で継続した判断だと思っております。
○井上哲士君 それは政府の判断の問題なんですね。私は判決そのものについて述べております。 これは実は十三年前に、小泉総理が、砂川判決で自衛隊が合憲にされたと、ちょうどテロ特措法の頃でありますが、答弁をされて、大きな問題になりました。そして、この参議院の外交防衛委員会で、当時の津野内閣法制局長官が、自衛隊そのものの憲法適合性を直接的に判断した最高裁判例はないものと承知しておりますと明確に答弁されているんですよ。事実上、総理答弁を修正して政府見解は明確になっているんです。その後、およそこの問題の最高裁判決はないわけで、この津野内閣法制局長官の答弁が維持されていると思いますが、それでよろしいでしょうか。
○国務大臣(小野寺五典君) 繰り返しになりますが、いずれにしても、この砂川事件の判決、最高裁の判決というのは自衛隊が合憲であるという判断の前提を明確に示したものと考えて政府はおります。
○井上哲士君 いや、繰り返しになりますが、政府判断がそうだというのは繰り返し言われました。しかし、この判決そのものにはないんです。先ほど安倍総理の答弁を引きましたけれども、この判決によって言わば自衛隊は合憲となったと、小泉総理も答弁をされて大きな問題になったように、これは違うんです。ですから、御都合主義でそういうふうに使わないでいただきたいと。 そして、司法の独立を脅かすようなアメリカとの密議をやりながら出された判決であっても、駐留米軍の合憲性のみを判断をして、自衛のための戦力の保持を禁じたものであるかは別としてとわざわざ述べて、日本独自の自衛力の保持については判断していないわけですね。ですから、自衛隊の合憲性について直接の判断もしていない判決を、その自衛隊が、日本が武力攻撃受けていなくても海外で武力を使うという集団的自衛権行使容認のお墨付きに使うのはおよそ間違っていると思いますが、大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(小野寺五典君) 委員のされている議論というのは、恐らく国会において相当長い時間議論されてきていることだと思っておりますし、政府は一貫して、砂川事件の最高裁判決は自衛隊が合憲であるという判断の前提を明確に示したものというふうに理解をしております。
○井上哲士君 私、聞いていますのは、この判決を、今日も午前中議論になりましたけれども、自衛隊の合憲性の直接の判断をしていない判決を自衛隊が集団的自衛権を行使する根拠に使うのは、これはおよそ筋違い、御都合主義ではございませんかとお聞きしておるんです。
○国務大臣(小野寺五典君) 集団的自衛権の議論につきましては、今専門家による安保法制懇等で議論されているというふうに承知をしております。
○井上哲士君 結局、それでまともに答えずにやっているわけですが。 総理が一昨日のBSの番組で、この判決について集団的自衛権を否定していないことははっきりしていると、こう述べております。とんでもない私はねじ曲げだと思うんですが、そもそも当時、検察も弁護団も裁判官も、自衛権というのは日本が侵略された場合の個別自衛権であることを当然の前提にしておりましたし、そういう判決ですから触れておりません。そして、そもそもその裁判の中でそのことが語られていないから、ないわけですよ。だから、この集団的自衛権が入っているというような議論はおよそ私は通用しないと思いますが、そのことは今日も午前中議論ありました。 その後の政府の憲法解釈がこの砂川判決以降も集団的自衛権は憲法上認められないと繰り返しされていることからいっても、私はこれを行使容認の解釈に使うことはおよそ違うと思いますが、外務大臣はいかがお考えでしょうか。
○国務大臣(岸田文雄君) まず、一昨日の総理のBSの番組における発言については、安保法制懇において行われている議論の一つを紹介されたものだと認識をしております。 そして、砂川事件の判決が集団的自衛権を念頭に置いたものであるかどうかにつきましては、今、与野党を始め様々な立場の関係者が様々な議論を行っておられると承知をしております。政府としましては、今後、安保法制懇の議論の結論を待って、政府・与党としてしっかり議論を行い、政府の方針を確定する段取りを想定しております。こうした様々な議論を丁寧に進めながら、国民から理解されるしっかりとした結論を出すべく努力をしたいと考えています。
○井上哲士君 私、地元の京都新聞は社説で、自説に都合のよい部分だけを過去の文章から切り出しては混迷を深くするばかりだという社説を掲げました。朝日の社説は、学説としてまともに取り上げられていない解釈を、あたかも最高裁の権威に裏付けられたかのように振りかざすのは国民に誤った判断を与えることになりかねないと厳しく指摘をしております。 こういうことを論拠にした、こういう集団的自衛権の行使容認のような検討は中止をすべきだということを改めて申し上げておきたいと思います。 残された時間、若干、武器輸出三原則に関して聞きます。 先日の本会議で、従来の三原則の基本理念にあった日本国憲法に基づくというのが消えて、国連憲法遵守に入れ替わっているということを指摘いたしました。すると、総理は、従来の三原則等は国連憲章を遵守するとの平和国家としての理念に基づくものと答弁をされました。しかし、従来の政府見解は、明確に憲法の精神にのっとるということで憲法を挙げているわけであります。国連憲章遵守というのは国連加盟国は当然のことでありまして、日本国憲法はそれ以上の、より高い水準である、それが武器輸出、禁輸、武器の禁輸政策だったと思うんですね。 政府は、国連憲章と憲法九条は平和という点で同じレベルにあると、こういうお考えなんでしょうか。外務大臣、いかがでしょう。
○国務大臣(岸田文雄君) まず、国連憲章におきましては、第二条第三項におきまして、「すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によつて国際の平和及び安全並びに正義を危くしないように解決しなければならない。」、このように定めております。そして、第二条四項におきまして、武力による威嚇又は武力の行使を禁止しております。そして、日本国憲法におきましては、第九条第一項において、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」、このように定めております。 このように、日本国憲法の掲げる平和主義の理念は、国際の平和と安全の維持を目的とする国連憲章等の考え方と理念的に軌を一にするものであると考えています。
○井上哲士君 今、九条一項しか言われなかったんですね。 国連憲章というのは、不戦条約の流れを受け継いで、戦争違法化ということが明記されました。これはまさに今世界のルールですね。憲法九条一項はそのことを定めた上で、二項で戦力の不保持や交戦権の否認まで言っていると。ここに、日本国憲法が国連憲章よりも高いレベルであるということが私は当然の前提だと思いますが、そういうお考えではないんでしょうか。
○国務大臣(岸田文雄君) 過去の国会における政府の答弁を見ましても、平成五年の一月二十六日、これは宮澤総理の衆議院本会議における答弁でありますが、その中で、我が国の憲法の掲げる平和主義の理念についてお尋ねがありましたが、国際の平和と安全の維持を目的とする国連憲章等の考え方と理念的に軌を一にするものと存じますという答弁をしております。今申し上げました考え方は、この過去の政府の答弁と同じ答弁であると認識をしております。
○井上哲士君 日本は単に国連憲章を守るだけではなくて、憲法九条、とりわけ二項で、高いレベルで国際平和を、平和国家としての理念を掲げてきたからでありまして、それをないがしろにするようなことは絶対許されないということを改めて申し上げまして、質問を終わります。